科研費シンポジウム 「ベイズ統計学の最前線: 理論から実践まで」(ハイブリッド開催)
日時:2024年1月19日(金) 10:30〜17:40
場所:明治大学駿河台キャンパス グローバルフロント1階 グローバルホール
参加登録: https://docs.google.com/forms/d/1Sax1F7oTD-t-092XjaumtrgX7SGnWYzMHfllz-ZBups
現地参加を希望される方は必ず参加登録をしてからご参加ください。現地参加には上限人数を設けております。上限に達した段階で現地参加の登録は締め切ります。
オンライン参加を希望される方もご登録ください。登録をした方に当日のzoomアドレスが自動送信されます。
開催責任者:菅澤 翔之助(慶應義塾大学)、入江 薫(東京大学)、橋本 真太郎 (広島大学)、小林弦矢 (明治大学)、中川智之 (明星大学)
*本シンポジウムは、以下のプロジェクトの支援を受けて開催されます。
科学研究費補助金 基盤研究(B) 21H00699
「大規模データに対するベイズモデリングの新展開」 (研究代表者: 菅澤翔之助)
プログラム
*講演時間: 30分 + 5分 (質疑応答)
10:30-12:20 理論セッション (座長: 入江 薫)
「Minimaxity under half-Cauchy type priors」
丸山 祐造 (神戸大学)
「相関係数縮小事前分布によるベイズ予測」
清 智也 (東京大学)
「ベイズ推測におけるクラメール・ラオ型不等式について」
小池 健一 (日本大学)
12:20-13:40 昼食休憩
13:40-15:30 モデリング・応用セッション (座長: 小林 弦矢)
「条件付き分布のモデリングによる離散データに対するベイズ分位点回帰」
山内 雄太(名古屋大学)
「臨床試験におけるdependent Dirichlet過程を用いた既存データの利用法」
大東 智洋 (筑波大学)
「二面性市場におけるコンテンツの生成と消費行動モデルの構築」
五十嵐 未来 (大阪大学)
15:30-15:50 休憩
15:50-17:40 実践セッション (座長: 菅澤 翔之助)
「資産運用におけるベイズ統計学の応用事例の紹介」
大西 裕子
「適切な担保物件評価に向けたベイズ統計学の利活用」
玉江 大将 (株式会社Nospare)
「広告・マーケティング分野におけるベイズ統計学の実務応用」
尾崎 隆
講演概要
「Minimaxity under half-Cauchy type priors」
丸山 祐造 (神戸大学)
Polson and Scott (2012, Bayesian Analysis) では, sampling と prior の両方に正規分布を想定するベイズモデルにおいて,尺度母数の hyper prior として,half-Cauchy prior の良さが主張されている。その傍証として,多変量正規分布の推定問題において half-Cauchy prior の下でのベイズ推定量の良さ(特にminimaxixty)が数値的に検討されている。この問題の理論的な取り扱いが講演者の専門分野の一つであるが,実はこの事前分布のもとでのベイズ推定量の minimaxity は十分に研究されてこなかった。尺度母数を変数変換したとき U 字型になり,continuous spike and slab prior と見なせるのが half-Cauchy prior の大きな特徴である。しかし,U字右側の発散が,minimaxityを理論的に証明する際の典型的な道具として用いられてきた部分積分を妨げるのである。本講演では,部分積分を工夫して,half-Cauchy prior を一般化したU字型事前分布の下でのベイズ推定量のminimaxityについて十分条件を与える。また,積分表現で与えられる推定量の計算に関して事後分布からのサンプリングについても時間があれば紹介する。この研究は東大・計数・松田孟留さんとの共同研究である。
「相関係数縮小事前分布によるベイズ予測」
清 智也 (東京大学)
多次元正規分布モデルは量的変数間の関連性を記述するモデルとして最も基本的なものである。このモデルのベイズ予測を考える。各変数が異なる単位を持つ場合、事前情報が特になければスケール不変な事前分布を選ぶのが一つの方法である。そのような性質を持つ事前分布のうち、相関係数を適度に縮小させるものを考えると予測性能が良くなることを紹介する。
「ベイズ推測におけるクラメール・ラオ型不等式について」
小池 健一 (日本大学)
頻度主義による統計的推測において,不偏推定量の分散に対する下界として,クラメール・ラオの不等式がよく知られている.ベイズ推測においても,2乗誤差の下でのベイズリスクの下界を与える不等式がいくつか知られている.本講演では,これらの不等式のうち,ベイズ推測におけるクラメール・ラオ型の不等式の有効性に関する結果について述べる.
「条件付き分布のモデリングによる離散データに対するベイズ分位点回帰」
山内 雄太(名古屋大学)
離散確率変数の条件付き累積分布に関する推論に基づいて,離散応答変数に対する分位点回帰モデルの係数を推定するための新しいベイズの枠組みを提示する.ここでのアプローチは,まず有限混合またはノンパラメトリックベイズを用いて共変量が与えられた離散応答の条件付き分布の事後分布を得る.そして離散確率分布を連続化させた分布に,推定された分布を対応させることで連続版の条件付き累積分布,つまり条件付き分位点の事後分布を得る.最後に分位点回帰予測量と連続版の条件付き分位点との間の距離を最小化することで分位点回帰係数の事後分布を得ることになる.提案するアプローチをいくつかの数値例によって例示する.
「臨床試験におけるdependent Dirichlet過程を用いた既存データの利用法」
大東 智洋 (筑波大学)
希少疾患や小児の臨床試験において,必要十分な被験者数を集めることが難しい,という問題がある.この問題を対処するために,過去の臨床試験データ(既存データ)を利用する手法が注目されている.試験群と対照群の有効性の比較を目的とした臨床試験を想定する.この試験の対照群の治療が過去の臨床試験の治療と同じ場合,新しい臨床試験の試験群と対照群の比較に既存データを加味することで,治療効果の推定精度の向上や被験者数の削減を期待できる.しかし,既存データと新規対照群データの間に,未測定因子の分布の差があることで,アウトカムの分布に差を生じることがある.本発表では,この両データの差を考慮するためにdependent Dirichlet過程を用いた手法を提案し,数値実験の結果を報告する.
「二面性市場におけるコンテンツの生成と消費行動モデルの構築」
五十嵐 未来 (大阪大学)
ユーザー生成コンテンツを提供するプラットフォームであるソーシャルメディアに代表されるような二面性市場(Two-sided market)では、ユーザーがコンテンツを生成する生産者であると同時にコンテンツを閲覧する消費者としての役割を担っている。本研究では、両市場でのユーザーの行動が互いに影響し合う構造に着目する。例えば、コンテンツを生成することで他のユーザーとのつながりが生まれ、コンテンツ消費のモチベーションが高まる、あるいはコンテンツを消費することで刺激を受け、コンテンツ生成のモチベーションが高まるといった構造が想定される。さらに、本研究ではこれらの両方向の構造に関して、先行研究であまり考慮されていない短期効果と長期効果について推定するモデルを提案する。本講演では、二面性市場における行動が互いに影響し合う構造をベイズモデリングによって表現した提案モデルを導入し、小説投稿サイトのデータセットを用いた実証分析の結果を議論する。
「資産運用におけるベイズ統計学の応用事例の紹介」
大西 裕子
近年、貯蓄から投資への流れが政府を主導に活発化している。本年1月からは、新しいNISA制度が開始し、資産運用への関心は高まっている。金融業界では、これまで投資信託や証券の売買における手数料を得ることがビジネスモデルの中心の一つであった。しかし、現在は顧客の資産運用へのアドバイスを行い、預かり資産額全体が成長するためのコンサルティング料を得るビジネスへの転換が進んでいる。アドバイザリー型ビジネスで重要な点は、これまでのように顧客に多数の個別証券を保有し頻繁に売買を推奨することではなく、少ないリバランスによって長期的な目線を持ち資産形成を考えていくことである。
これまでとは違った運用コンサルティングのニーズが高まっている中でより付加価値の高いリサーチを提供するために、証券会社ではインハウス内での定性的な調査とベイズ統計を始めとする統計手法の組み合わせを行い、他社との差別化を図っている。本発表では、証券会社での資産運用に関するリサーチ分野でのベイズ統計の活用事例を紹介する。
「適切な担保物件評価に向けたベイズ統計学の利活用」
玉江 大将 (株式会社Nospare)
現在我が国では、住宅ストックの質の向上や質の高い住宅の円滑な流通により、良質な住宅が資産として適正に評価され将来世代に承継される「住宅循環システム」の構築に向けた取り組みが国土交通省を中心として行われている。中古物件市場において質の悪い物件と良い物件に対して担保査定評価時に同一視される現象があるとみられており、リフォームやリノベーションの価値を踏まえた不動産成約価格予測モデルが求められている。Nospareは空間相関を考慮した状態空間モデルの構築を行うと共に、不動産事業・金融機関向けに当該モデルを通じた個別の不動産価格予測結果を提供する予測プラットフォームの提供に向けての開発を行っており、本セッションにおいては不動産担保評価における課題とそれらに対するベイズ統計学の利活用について触れる。
「広告・マーケティング分野におけるベイズ統計学の実務応用」
尾崎 隆
近年、広告・マーケティング分野では様々な社会情勢のもと個票データから集計済みデータへの回帰傾向が顕著であり、その結果としてエコノメトリックなアプローチが広く模索されるようになってきており、中にはベイズ統計学に拠るものも出てきている。本講演ではその代表例として、CausalImpact及びベイジアンMMMを取り上げる。CausalImpactは差分の差分法による実験データの分析に、ベイズ構造時系列モデリングを援用するものである。またベイジアンMMMは広告・マーケティング分野に固有の非線形効果を扱うために、MCMCベースのベイズ推定の特徴を取り入れたものである。これら二者を概観することで、今後の同分野におけるベイズ統計学の発展可能性を論じたい。