スポーツファーマシスト

認定制度


薬剤師の社会貢献の一つにスポーツファーマシストというものがあるのをご存知だろうか?

コロナ禍の状況下,ワクチン接種の裏側で薬剤師がワクチンを管理,希釈,注射筒注入などで活躍している姿が映像として報道されることはないが,ワクチンへの異物混入発見では薬剤師が話題になっていた.オリンピック&パラリンピックのおけるアンチドーピング面で薬剤師が活躍しているのも表に出てこない典型的な事例である.

家内の大学時代の同級生(九大薬学部)がスポーツファーマシストの第一号(東京都)とのことである.彼は東京理科大学薬学部教授を定年退職した後,専門の有機化学の知識を生かす絶好の場としてドーピングの水際防止業務を選択したとのことである.日本薬学会ホームページの「薬学と私」(第48回「薬剤師の新たな職能:スポーツファーマシスト」)で以下のように書いている.

日本アンチ・ドーピング機構(JADA)学術委員会での活動

 次は、JADAの学術委員についてです。メンバーが医師や日本体育協会関係の方ばかりの中に、2015年、委員として参加しました。ドーピング違反には10の項目がありますが、一番多いのは禁止物質の使用です。世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が毎年発表する禁止表にはそれらの名前しか出ていません。それも一般名や慣用名、商品名であったり、時にIUPACの命名法に沿ったものであったりと一貫していません。なぜそれらが禁止されているかは医師のメンバーは良くお解りですが、その命名については正確には判らない場合が多いのです。ましてや同じ物質が違う名前で別々に載っている場合もあります。薬剤師は学生時代に有機化学を十分に学んでいますので、薬の化学構造とその命名に強いのが特徴です。毎年、WADAから提案される次年度の禁止表の改定案を検討する時には、全ての命名が適当か、同じものが記載されていないかチェックしているのです。

私も薬物の共通名は構造式しかないと思うので,薬品名のほかに極力一般名,構造式を示すようにしているが,6年制薬剤師教育ではそこまで徹底する必要はないという意見もある.禁止薬物の説明書や添付文書が英語ならともかく見慣れない外国語の場合,構造式しか頼るものがないのも事実である.禁止薬物データベースに登録がなければお手上げだが,最後の手段として高分解能質量分析装置(HRMS)を駆使することなども薬学を修めた者にとっては難題ではない.

スポーツファーマシスト認定までの流れを以下に示す. 認定に至るにはe-ラーニングによる講習と知識到達確認試験が必要とのことである

2020+1東京オリンピック&パラリンピックでは,ロシアは組織的ドーピング問題の制裁措置で2022年12月まで主要な国際大会から除外されており「ROC(ロシア・オリンピック委員会)」として違反歴や疑惑がない選手のみ,個人資格で五輪出場が認められている.このことが物語るように,オリンピックをはじめとする世界大会で,ドーピングの選手が続出し,アンチ・ドーピングの流れが世界中に広がったことをうけて,2005年日本でも国際アンチ・ドーピング条約が批准された

このような背景をうけて,最新のドーピング防止規則に関する正確な情報・知識を持ち競技者を含めたスポーツ愛好家などに対し 薬の正しい使い方の指導薬に関する教育などの普及・啓発を行える薬剤師の育成を目指す目的でスポーツファーマシスト認定制度が誕生した.2021年4月1日現在,11,489名のスポーツ薬剤師が誕生している.

日々変化する薬物情報に対応するため,資格の有効期限は4年間であり,以降は4年毎の更新が必要である.スポーツファーマシストが学ぶ内容は学校薬剤師として地域で活躍している薬剤師にも必要な知識であるこのは確実である.

2021.9.6