福島・放射能対策への宇宙農業からの提案
Quantum GIS (QGIS) による放射線量地図の作成
目的
除染の効果を除染を進めながら迅速に判定したり、地域の汚染状況の観測を、定点のみの測定・モニターではなく面的におこない、また経時的な変動を調べて記録することを目的とします。 このため、Global Positioning System (GPS)による高精度3次元測位と高感度な線量計測・核種判定をくみあわせ、広範囲の緻密な放射線計測をさほどの手間をかけずにおこないます。地域住民による測定を可能にし、放射能汚染のリスクの判断に活用します。
- GISによって電子的な地図上に放射線量値を表示する
- インターネットにつなぐ必要がなく、また、アップロードによる情報流出の心配がない手順を用いる(非公開用の情報も扱える)
- 安価で多くの人が使いやすい
オープンソースの地理情報システムQuantum GIS (QGIS) を利用して、地図に放射線量値を表示できるようにしました。 GPSデータ(経度、緯度)と線量値データを組み合わせて、csv形式のファイルにすれば、QGISに取り込めます。地図情報は国土地理院の基盤地図情報を使いました。
QGISはオープンソースなので、費用がかかりません。基盤地図情報も無料です。有料の数値地図や航空写真と組み合わせることもできます。一度地図情報を取得したら インターネットにつなぐ必要がありません。アップロードしないので、インターネットを通じて情報が流出する心配がありません。これは公道や公共施設ばかりでなく私有地での測定を進めていく上で重要な要素です。
サンプル:線量値地図 (東京都八王子市の街路での測定例をしめします)
データファイル(csv) GPSにより測定した緯度、経度、(高度)および放射線量測定値をひとつの CSVファイルにまとめ、GISに取り込みます。線量のカラーコードは GISにおいて設定します。
線量計の感度の高さ(時間応答性)は 自動車などで走行しながら細かなホットスポットを見つけたりするのに必要です。歩いたり ゆっくり移動して測定する場合にはさほどの高感度は必要ありません。
水に含まれる放射性セシウムの低減・除去および濃縮による分析の提案
生活用水とその線量測定
福島の農村部では 沢水や井戸水を生活用水に使っている地域が多くあります。また農業用水のなかに含まれるセシウムの濃度を判定することは重要です。生活に使っている沢水・井戸水、および農業用水の線量測定を、試料を濃縮あるいはろ過して測定することにより、測定感度の上昇、線量測定時間の短縮をはかります。
各自治体で水の検査を受け付けていますが、飲用水の基準10Bq/kgを適用して分析しようとすると、Ge半導体式測定機での長時間にわたる測定が必要です。実時間でその水を利用するかどうかの判定ができません。 簡易な水測定を可能にすることにより、大雨降った後の表層水が混入したらどうだ といった点を評価したり、継続的なモニターをおこなうこともできます。試料を濃縮すれば、簡易なシンチレータ式線量計や食品検査機で短時間に測定することができます。本提案では、家庭用のフィルターとして市販されている 1)簡易な浄水器、2)RO(逆浸透膜)式フィルターにより試料の水に含まれる懸濁微粒子をろ過して線量計測します。これにより沢水や井戸水を生活用水として用いる場合には
a) 汚染のモニターが簡易な検査機によりできるばかりでなく、
b) 浄水器あるいはROフィルターにより清浄とした水を生活に使うこともできます。
セシウムイオンは、細かい粘土粒子に吸着して水中に懸濁している部分と、水中にフリーな状態で溶存している部分にわけられます。
簡易な浄水器で使われているフィルターの孔径は0.1ミクロンであり、これより大きな粒子は濾し取られます。フリーなセシウムイオンや粘土鉱物のうちコロイド状の部分は通ってしまいます。ただしこれなら水の味は失わなわれません。
逆浸透膜(RO)式フィルターでは水中にフリーで溶存しているセシウムイオンも RO膜部分で濃縮されます。プレフィルターでトラップされる粘土鉱物に吸着したセシウムの線量計測と、RO膜あるいはRO膜で濃縮された液に含まれるフリーなセシウムの線量計測の2つにわければ、それぞれの量と比を推定することもできます。
ただし、ここで提案する方法は いずれにせよ簡易な分析方法であり、飲料水の分析について定められている既定の方法による分析結果と比較して 方法の妥当性について十分に検討する必要があります。
また簡易浄水器で放射性セシウムを確実に除去できると保証しようとするものではありません。飲用の安全性の確認は別途 確実な方法で検査する必要があります。
農業用水の線量計測 を簡便におこなうことができる能力を獲得できれば、系統的な分析を多数の地域で実施することができます。これは 農地をふくむ生態系のなかの放射性セシウムの動態を理解し、放射性セシウムの農業生産への影響の低減策をほどこすのに有効なてだてと思われます。
澄んでいる場合には生活用水の分析と同じ方法を用い、一定量の農業用水を加圧ポンプで加圧したうえでプレフィルターを介して簡易浄水器でろ過し 線量測定します。フリーの溶存放射性セシウムを分析する必要があれば逆浸透膜のユニットを用いて濃縮して分析します。
大雨などで粘土微粒子や有機質デブリが農業用水に懸濁している場合、そのままろ過するすると 目詰まりしてしまいます。
そこで、ろ過の前処理として 沈降促進薬剤をつかい懸濁物をフロックにして沈降・凝集して線量計測することができないかを検討しています。下の写真の左は粘土微粒子を懸濁させた液にフロック形成沈降促進剤の一つであるポリ塩化アルミニウムを微量添加してから およそ10分後の液です。右は添加しなかった液で対照として示しています。
フロック形成沈降促進剤の添加量は懸濁の状態に従って最適な量とします。添加量が多すぎると かえってフロックを形成しません。また懸濁液のpHがアルカリ性の場合には中性・弱酸性にpHを調整しなくてはなりません。上澄みをろ過して線量計測し、もとの液量より大きく減容したフロック部分の液について線量計測した結果とあわせて評価します。
放射性セシウムを吸着した土を懸濁させたモデル試料水について沈降促進剤を微量加えてフロックを形成させ、上澄み部分と沈降部分にわけてそれぞれの線量測定をすると、沈降部分にほとんどの放射性セシウムが含まれることを見出しています。
農業用水の次の分析のステップ
水中の無機質の微粒子に吸着しているセシウムと 有機質のデブリやプランクトンに吸着・含有されるセシウムを分けて分析することが求められるのであれば、沈降液やろ過したサンプルを高温高圧条件(水の臨界状態近く)にして酸素をいれて湿式酸化してから ろ過して、ろ液(分解した有機物にあったセシウム)と濾過物(粘土鉱物に吸着しているセシウム)のそれぞれの線量を計測したらよいのではないかというのがアイデアです。ただし、酸化処理しているあいだに無機微粒子へのセシウムの吸脱着がおこると このアイデアはつかえません。
腐植デブリと動物・植物プランクトンのセシウムを分画するアイデアはまだありません。動物・植物プランクトンがどれくらい含まれているかは、生かしたまま蛍光顕微鏡に運んで、クロロフィルの自家蛍光、Live-Deadの蛍光染色をしてカウントすればよいかもしれません。
セシウムを吸着した腐植をバクテリア・原生動物が分解してその体内に移行させ、その屍骸からフリーのセシウムが放出されるとすれば、有機質画分(腐植への吸着、プランクトン体内)のセシウムは すべてフリーのセシウムとなりえます。この仮説がただしければ、腐植とプランクトンのセシウムを分けて分析する重要度は低くなります。
宇宙農業研究の成果の高温好気堆肥菌システムによる放射能除染・減容化技術実証
日本原子力研究開発機構の平成23年度「除染技術実証試験事業」の1つとして、 JAXAから応募した「宇宙農業研究の成果の高温好気堆肥菌システムによる放射能除染・減容化技術実証」が採択されました。
宇宙農業研究の成果を活用する一つとして、高温好気堆肥菌処理システムにより放射性核種を含む植物体など、あるいはその遺体を生物的に燃焼して減容する。この概念の有効性を実証し、あわせて 汚染された植物体の収集・運搬から減容化処理、減容化された産物の貯蔵において、それぞれのプロセスを作業者や 住民にとり安全なものにするための方策、放射能の濃度濃縮についての対応を 小規模な実証実験により明らかにしました。
JAXA_Space_Agri_Report_2012_Feb-e.pdf
福島の放射能汚染に対抗する植物パワー ひまわり作戦の中間報告 2011年11月 Operation_Himawari_2011_November.pdf (PDF 3.6 MB)
ひまわり作戦 リーフレット 2011年9月Leaflet_Sept_2011.pdf
ひまわり作戦 宇宙農業研究の放射能汚染 除去への貢献 2011. 9.
植物に放射性セシウムを取り込む 原子力発電所の事故で放射性セシウムにより汚染された福島の大地を植物の力によって回復できるかを、宇宙農業研究の成果を大いに活用して調べています。
セシウムは植物の肥料の一つであるカリウムと化学的な性質が似ているので、植物は体の中にセシウムを取り込むのではないかと考えられます。
福島でヒマワリ栽培実験 土壌のなかにはカリウムやセシウムをつよく吸着してはなさない粘土鉱物もあります。土壌のなかの菌類(キノコ)や微生物はヒマワリの根によるセシウムのとりこみを助けるかもしれません。
福島の事故原発から20km圏外ではあっても放射能汚染のために避難地域となっている、伊達郡・川俣町、双葉郡・葛尾村、浪江町の何カ所かの田や畑で試験的にヒマワリ4品種を栽培して、どれほどセシウムがヒマワリに取り込まれるかを調べました。
試験地の空間線量率と放射性セシウムの含有量を整理してみると、種によって大きなちがいが見られます。キノコ(フウセンタケの一種)は高い 値を示しました。 試験したヒマワリの4品種は、根に多くセシウムが含まれていたものの、期待したほどではなく、イボクサなど他の植物種のほうが高い能力を示しました。イ ネの藁にも多くのセシウムが含まれています。収穫後の植物体を農地にすきこんだり、野焼きすることは避けなければなりません。
ひまわり作戦では、ヒマワリで高いセシウム取り込み能力が報告されている品種や、ヒマワリ以外の種の能力を調べ、栽培条件などの検討を続けます。
ヒマワリを安全にあつかい処理する ヒマワリ作戦にはリスクもあります。
第一に、ヒマワリを植えたり収穫する際の放射線被曝量を低く抑え、かつどれほど被曝したかを測定できるように、農業機械を工夫し、簡易個人線 量計をつくり 福島の皆さんに使ってもらおうとしています。今回のように放射線管理区域外に人工放射能があったり、その被曝に対応した法律がないので問題 でした。
第二は、植物の体にたくさんの放射性物質が取り込まれたときに、それを安全に処理することです。ひまわり作戦では放射性物質の処理は、事故の責任を負う事業体、公共の安全を確保する国が実行すべきだと訴えています。
焼却式の設備でヒマワリなどを処理するには低温燃焼・除煙設備が放射能を漏らさないために必要です。ひまわり作戦では生物的に「燃焼」する高温好気堆肥菌システムを提案しています。
山下雅道 プロフィール 連絡先: gadomy-at-gmail.com -at- 部分を@に変更して送信
宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所 名誉教授
東京大学 理学博士 (1976年)
研究歴
化学: 化学反応論(気相高速反応の素過程) 飛行機・自動車の公害ガス低減
分析化学(エレクトロスプレイによる液体クロマトグラフと質量分析計のインターフェース、生体物質の質量分析)(1980-83)
共同して研究した John B Fenn 博士に2002年ノーベル化学賞が授与された. 初出論文は Yamashita & Fenn (1984)
物理: 伝熱・流体物理(気体の凝縮素過程、反応性流体と伝熱)
宇宙工学:液体水素・酸素ロケットエンジンの開発(計測系) 宇宙実験・環境制御工学
生物学:重力生物学、宇宙における生物の行動学 宇宙基地MIRにおけるカエル実験 (1990)
スペースシャトル(IML-2)(1994), 宇宙プラットフォーム(SFU)(1995)でのイモリの発生実験
植物の重力適応
宇宙農業:高温好気堆肥菌による物質循環再利用、昆虫食、生態系での Na-K 挙動
アストロバイオロジー (火星生命探査計画)
略歴(PDF) 山下略歴2014-b.pdf