ヘキサナール

ヘキサナール(Hexanal)は炭素数6個の直鎖状脂肪族アルデヒドの一種である. 野菜, 大豆などの青臭さの原因物質と言われてい. 大豆の場合, 脂肪酸のひとつであるリノール酸リポキシゲナーゼによってリノール酸13-ヒドロペルオキシドに変換され, 次いでヒドロペルオキシドリアーゼによってヘキサナールとなる. 酵素反応ではあるが, 有機化学的にはオレフィンとシングレット酸素とのエン反応とみなすことができる. ヘキサナールは最終的にはアルデヒドデヒドロゲナーゼによりカプロン酸へと酸化される.

ヘキサナール(青臭さの原因物質)

構造最適化した立体構造

リノール酸

リノレン酸

リノール酸13-ヒドロペルオキシド(過酸化物)

過酸化物の生成機構

畑の肉と言われる大豆は約20%が脂質であり, その脂肪酸組成はリノール酸が約 50%, オレイン酸が約20%, リノレン酸が約10%である. しかし, リノール酸やリノレン酸のような多価不飽和脂肪酸は, 上述したように酸素に対して不安定であ り, 人体に有害な過酸化物をの生成が認められる上に風味の低下が問題となっている. 一方, オレイン酸 オリーブ油などの主成分)は, リノール酸やリノレン酸に比べて酸化され難く, オレイン酸は血中の悪玉コレステロールを低下させるこ とや心臓病の予防に大変よい報告されている.

最近, 佐賀大学農学部の穴井らは, 遺伝子組み換えを行なわずに突然変異によってオレイン酸を約80%含有する高オレイン酸大豆の育種に成功した. 産学官の研究報告によると,X線照射によって脂肪酸含量が変化した突然変異 体を交配することで新規の高オレイン酸大豆品種の開発に成功したとのことである.

オレイン酸

突然変異技術を使って健康によい大豆を作る! (資料引用)

国立大学法人佐賀大学で育成された「佐大H01号」は、遺伝子組み換えを行わずに突然変異によって育成されたオレイン酸含有率が高い大豆の品種です。(通常の大豆の脂肪酸に60~70%含まれている多価不飽和脂肪酸含有を10%以下に抑え、オレイン酸含有を80%まで増加した品種が「佐大H01号」です)

リノール酸・リノレン酸 動脈硬化の原因になるリノール酸・リノレン酸含量が 通常の半分になった! オレイン酸含量が通常の2倍になった! 3_31852_8_08.pdf - 佐賀県 の資料を引用

オレイン酸の含有量が多い大豆を用いた食品の開発はもっと先の話だろうと思っていたら,最近,テレビのローカルニュースで人工肉が話題になっていた.どこの放送局だったか判然としないのでGoogleで検索したところ,以下の記事が見つかった.

大豆エナジー、大豆で「肉」 うまみ凝縮: 日本経済新聞

大豆エナジー、大豆で「肉」 うまみ凝縮: 日食品ベンチャーの大豆エナジー(熊本市)は大豆由来の人工肉を開発した。大豆の品種改良を研究している佐賀大学の穴井豊昭教授が開発した大豆を使い、発芽前に負荷をかけてうまみを増す独自技術を組み合わせた。大豆特有の臭みを除き、肉の食感やうまみを再現した。まずハンバーグ用として2020年春に食品メーカーや飲食店向けに製品化し、3年後に売上高5億円を目指す。

ひき肉のような形状にした大豆由来の食材を開発した。...本経済新聞

メーカーのホームページには.「お肉さながらの食感を再現!」と以下のように書かれている.

お肉のタンパク質は16%ですが、落合式発芽大豆は18%です。一般的な粒状大豆たんぱくは、脱脂大豆(搾油粕)に油やセルロースなどを加えて肉の食感に近づけていきますが、DAIZの植物肉(ミラクルミート)は落合式発芽大豆を原料としているので栄養バランスが整っています。特殊な機械(エクストルーダー)を使い高い圧力で発芽大豆を練りこんでお肉の筋繊維を再現します。

大豆に限らず, ジュースオイルなどの食品でもヘキサナールが不快臭原因となるため, その発生を抑えるための研究が続けられてきた. リポキシゲナーゼ欠失大豆を利用することに より, 青臭みがほとんどない豆乳, 豆腐など 大豆加工食品を製造する試みがなされている.

2021.6.1