研究内容

多結晶シンチレータの開発を中心に研究しています。

以下に多結晶シンチレータに関する簡単な説明を記します。

    X 線や γ 線等の電離放射線はそのままでは目に見えないため、その多くは固体検出器によって紫外~近赤外の低エネルギー光子に変換し、光電変換素子によって最終的に電気信号となって出力されます。ここで、シンチレータとはシンチレーション検出器(図1)に内蔵される蛍光体材料を指します。シンチレータを用いた放射線検出器はX線CTや陽電子断層撮像装置等の医用診断をはじめ、セキュリティ、環境計測等の幅広い分野で利用されています。

図1 シンチレーション検出器

    シンチレーション検出器の特性はシンチレータの性能に強く依存します。応用先によって求められる性能は多岐にわたり、例として高い発光量、短い蛍光寿命、高い検出効率等が挙げられます。計測対象とする放射線種(X, γ 線以外にα, β, 中性子線等)によって物質との相互作用の仕方が異なるため、用途に応じて最適なシンチレータが選択されています。

    従来使用されてきたシンチレータの材料形態には、光学的に高い透過率を有することを理由に "単結晶" が最も一般的でした。しかしながら単結晶シンチレータの多くは融液成長によって慎重に除熱する必要があるため、作製に長い時間とコストがかかることが課題とされています。このような課題を解決するため、私は "多結晶(セラミック)シンチレータ" に注目して研究を行っています。

    多結晶は固相反応で作製されるため、融液成長で育成される単結晶よりも短時間・低コストで作製が可能です。一方で多くの多結晶は不透明なために試料内部からのシンチレーション光の読み出しが難しく、シンチレータへの応用は難しいと考えられてきました。しかしながら近年、透光性を有する多結晶材料の開発により、多結晶シンチレータ研究が増加しています。加えて図2に示す Ce 添加 Y3Sl5O12 (Ce:YAG) [1]Ce添加 Lu3Al5O12 (Pr:LuAG) [2]等のいくつかの多結晶シンチレータは、同組成の単結晶シンチレータを上回るシンチレーション特性が報告されており、量産化と高性能化の両面で注目されています。

図2 Ce:YAG (左), Ce:LuAG (右)
多結晶シンチレータ[1, 2]

    図3–5に私がこれまでに作製した Yb 添加 SrCl2, Nd 添加 BaCl2, Eu 添加 BaFCl 多結晶シンチレータ試料を示しています。試料はいずれもサンプル裏のメッシュ縞が確認できる程度の高い透光性を有しており、特に図4に示した Nd 添加 BaCl2 多結晶は発光波長において80%程度の透過率が観測されました。この値は既報の単結晶シンチレータの透過率に匹敵する優れた特性です [3, 4]。また図5に示す Eu 添加 BaFCl 多結晶シンチレータに関しては、同組成の単結晶の発光量を凌駕する高いシンチレーション発光量を有することを明らかにしました(単結晶試料:900 phtons/MeV, 多結晶試料:16,000 photons/MeV)[5]。多結晶シンチレータの特性をさらに向上させることで、単結晶シンチレータに代わる新たな材料形態となることが期待されます。

    このように高性能なシンチレータの開発を目標に様々な組成の試料を作製し、それらの光学特性やシンチレーション特性の評価を行っています。

[1] T. Yanagida, et al., IEEE Trans. Nucl. Sci., 52, 1836 (2005).  [2] T. Yanagida, et al., Radiat. Meas., 46, 1503 (2011).  [3] K. Okazaki, et al., J. Mater. Sci: Materials in Electronics, 32, 21677 (2021).  [4] T. Yanagida, et al., Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. Sect. A:  Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment, 631, 54 (2011).   [5] B. Wiggins, et al., J. Cryst. Growth, 533, 125431 (2020).   

図3 Yb 添加 SrCl2 多結晶

図4 Nd 添加 BaCl2 多結晶 および

試料の拡散透過率

図5 Eu 添加 BaFCl 多結晶 および

試料のパルス波高値スペクトル

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