2020年のブログで「生活臭の正体」が分子レベルで明らかにされ,その対策が進んでいることを紹介した(ニオイの正体).その際,当時話題になっていた「新素材トリポーラス」については,客観的な評価を待って別稿で紹介すると記した.2022年8月時点の状況を以下に示す.
トリポーラスについては,2020年度グッドデザイン賞受賞の際に以下のように説明されている.
概要
トリポーラスはソニーが米の籾殻を原料に開発した、天然由来の多孔質カーボン素材。有機分子、ウイルスやバクテリア等も吸着することから、水や空気の浄化など幅広い応用が期待されています。ソニーは本素材を提供し、様々な企業と製品を開発。余剰資源の再生活用で地球環境負荷を低減しながら、衛生環境向上や環境汚染の改善を目指します。
デザインのポイント
1.独特な多孔質構造によって優れた吸着機能を有し、消臭・抗菌、水・空気の浄化などに幅広く応用可能
2.世界中の人々がきれいな空気と水で暮らすというビジョンを発信し、他社との共創により幅広く価値創造を推進
3.世界中で年間1億トン以上廃棄される米の籾殻を原料にすることで、循環型社会の実現に貢献
従来の活性炭との違い
Triporous(トリポーラス)には,2nmのマイクロ孔,2〜50nmのメソ孔,1μmのマクロ孔が複合して多く存在する.一方,従来の活性炭は,マイクロ孔を主体とした細孔が多く存在する.そのため,トリポーラスは従来の活性炭で吸着しづらかった大きな有機分子やウイルスなどの大きな物質も容易に吸着する.さらに,活性炭に比べ,優れた吸着スピードや高い薬剤担持量などの特性も有している.細孔に薬剤や触媒を詰め, 保持する性能も従来の活性炭に比べて約2倍という.ガスを吸着する薬剤をトリポーラスに詰め,より長寿命なフィルターや空気清浄機用フィルターを作るといった応用も見込めるという.
従来の活性炭に比べ、分子量の大きな有機色素を2倍以上、タンパク質を3倍~8倍吸着できる。さらに、ウイルスや細菌を除去することも可能(出典 ソニーHP トリポーラスの基礎特性)
最近の話題
ソニーとスタイレム瀧定大阪は、ソニーが開発した籾殻由来の多孔質カーボン素材「Triporous™(トリポーラス)」を使用した提案「Triporous:Space QOL Series」が、国際宇宙ステーション(ISS)への搭載を目指す生活用品アイデアのひとつとして選定されたことを発表した。
中略
今回の提案は、両社がJAXAの「第2回宇宙生活/地上生活に共通する課題を解決する生活用品アイデア募集」に共同で行ったもの。「Triporous:Space QOL Series」は、リラクシングウエア・インナーウエア・タオル・ポーチの4つのアイテムで構成される。
今後、両社はアイデアのブラッシュアップ、宇宙飛行士によるプロトタイプ確認などを経ながら、トリポーラスを繊維に応用した衣類や生活用品等を開発する。安全性などの制約条件をクリアしながら、2023年以降のISSへの搭載を目指すとしている。
トリポーラスは,日本で年間約200万トン,世界中で約1億トン以上排出される余剰バイオマスである米の籾殻を原料にしたサスティナブル(持続可能)な新素材である.従来の活性炭では吸着しづらかった物質の吸着が可能で,吸着スピードも高いという,
用途に合わせて形状や粒度(メッシュ)を調製できるため,消臭繊維などのアパレル分野,浄水フィルターなどの水浄化分野,エアフィルターなどの空調産業分野,洗浄剤などのヘルスケア分野といった幅広い応用が可能とのことである.
現在,トリポーラス+製品で検索すると,繊維製品(靴下,シャツ,絨毯等)が圧倒的に多い.空気清浄機や工場用フィルターに使用した場合、活性炭の約2倍以上長寿命化と謳っているので探したが,まだ存在しないようである.具体的な製品の開発はこれからといった感が強い.