学術変革領域(A)尊厳学の確立(科研費番号:23A103)
A02班
現代の「被造物の尊厳」などの新たな尊厳概念を踏まえた欧米圏の尊厳概念史の再構築(科研費番号:23H04850)
学術変革領域(A)尊厳学の確立(科研費番号:23A103)
現代の「被造物の尊厳」などの新たな尊厳概念を踏まえた欧米圏の尊厳概念史の再構築(科研費番号:23H04850)
本領域では、尊厳概念について概念史の立場から解明を進めます。ヨーロッパではスイス基本法に見られる「被造物の尊厳」といった新たな尊厳概念が登場し、これまでの尊厳概念史では、歴史的な整合性が不明になっています。これを踏まえ、本領域は、「現代の「被造物の尊厳」などの新たな尊厳概念を踏まえた、欧米圏の尊厳概念史の再構築は可能か」を主導的な問いとします。この問いに答えるため、本領域の研究は、新たな概念史モデルを構築・提案することにあります。主に独仏語の概念史においてその源泉となりうる水脈を調査しつつ、他方で尊厳概念不要論の根拠となる隣接概念を、比較概念史的に調査検討することで、この目的の達成を目指します。 (詳しくはこちらをご覧ください:KAKEN — 研究課題をさがす | 現代の「被造物の尊厳」などの新たな尊厳概念を踏まえた欧米圏の尊厳概念史の再構築 (KAKENHI-PLANNED-23H04850)
宇佐美公生(岩手大学、主に英語圏における尊厳概念不要論の検討)
津田栞里(東洋大学、主にドイツ語圏におけるカント以前の尊厳概念史の検討)
馬場智一(長野県立大学、班長、主にフランス語圏における被造物の尊厳につながる概念史の検討)
1. フォーラムのタイトル:ワークショップ尊厳概念史の再構築に向けて(2)中世・近世
2. 主催:A02班
3. 日時:2025年6月27日(金)
4. 場所:東洋⼤学⽩⼭キャンパス第三会議室(6号館1階)
5. 形態:ハイブリッド
6. プログラム:
14:00~14:15 これまでの振り返り 津⽥栞⾥(東洋⼤学,A02班)
14:15~14:45 クザーヌスにおける尊厳概念 川崎えり(上智⼤学)
14:45~15:15 デカルトにおける尊厳概念 筒井⼀穂(東洋⼤学)
15:15~15:30 休憩
15:30~17:00 全体討論
A02班(馬場、宇佐美、津田)からのコメントと発表者によるリプライ
会場からの質疑応答
7. 参加人数:約20名(対面10, オンライン10)
8. 概要と振り返り
A02班は「現代の『被造物の尊厳』などの新たな尊厳概念を踏まえた欧米圏の尊厳概念史の再構築」を課題としており、「尊厳概念史の再構築に向けて」と題するリレーワークショップを開催してきたが、今回は2025年1月25日の開催に続く二回目で、中世後半から近世の時期の神学者・哲学者による「尊厳およびその周辺概念」をめぐる思想について、若手の研究者からご報告をいただいた。
はじめにA02班の津田より、このリレーワークショップの基本的考え方、すなわち各思想家の尊厳概念に限らずその周辺概念を考察の対象とし、尊厳の毀損についても配視する旨の考察方針を説明し、これまでの報告の振り返りを行った。その後、上智大学の川崎えり氏の「クザーヌスにおける尊厳概念」と題する発表と東洋大学の筒井一穂氏の「デカルトと尊厳の問題」と題するご発表をいただいた。お二方の報告に共通に見られたのは、「尊厳dignitas」という語自体は、クザーヌスでもデカルトでも伝統的な意味以上の使われ方をしていないが、しかしその周辺概念の考察の中で、それぞれ神学的観点や形而上学的観点から、後の人間の尊厳概念、ひいては被造物の尊厳という考えにも繋がる価値概念への胎動を指摘しておられた点である。川崎氏の報告では、dignitasの周辺概念としてのimago dei概念の使用例から、人間精神に特権的な地位を認めながら、神の現われとして被造物全体に尊厳を見いだす素地が確認でき、クザーヌスの思想の特徴として、自然物を含む他者への敬いと寛容の精神が確認されるが、その源泉は、神の完全性に比して不完全で有限な被造物としての人間の知的謙虚さなどの、imago dei概念が内包する豊かな意味に求められることが示された。次いで筒井氏の報告では、デカルトと同時代の思想家に見られた諸学の共通概念や第一原理などをdignitasと位置づける考え方をデカルトの思想に適用することで、共通概念としての「意志の自由」が人間の尊厳との関わりで注目され、その意志の自由を「完全性」に関する形而上学と、それに基づく道徳哲学の両面から考察することで、(神の似像として)知性と意志の善用による人間的完全性が明らかとなり、それが「高邁」の徳に繋がっていることが示された。しかもこの高邁の徳は外的に毀損できない「絶対的で内的な価値」の特性を有することで、カントの尊厳概念と類比的性格を有することが示唆されていた。
お二方の発表を承けて、参加者と報告者との間で質疑応答、意見交換がなされた。参加人数は多くなかったが、A02班の班員以外にA01班、A03班、そして総括班のメンバーから予定の時間を大幅に超えて様々な質疑、意見交換がなされ、改めて伝統的な尊厳観とは異なり、後のカントや現代の尊厳観にも繋がる、人間及び被造物の価値に関する多面的展開の思想史的豊穣さを確認することができた。
(文責:A02班 宇佐美)
1. フォーラムのタイトル:領域横断交流会ー西洋・東洋・現場の対話ー
2. 主催:A02(共催: A03)
3. 日時:2025年3月17日(月)~18日(火)
4. 場所:東洋大学
5. 形態:ハイブリッド
6. プログラム:
3/17(月) 各班の成果報告と意見交換
13:00~13:05 企画趣旨(馬場智一/長野県立大学, A02班長)
13:05~13:40 各班成果報告 A班:岩佐宣明(A01)馬場智一(A02) 小島毅(A03)
13:40~13:55 休憩
13:55~15:00 各班成果報告 B班:建石真公子(B01オンライン) 川眞田嘉壽子(B02オンライン)後藤玲子(B03オンライン)本田康二郎(B04) 田坂さつき(B05) C班 柳橋晃(C01オンライン)
15:00~15:15 休憩
15:15~16:45 意見交換
16:45~17:00 休憩
17:00~17:40 『尊厳概念の転移』の紹介(著者による論文の紹介ビデオ:エディ・デュフルモン「中江兆民思想における尊厳と自由・平等観ーーフランス共和主義の導入を中心として」、商兆琦「自由と徳性ーー丸山眞男の尊厳認識」)
18:00~ 交流会
3/18(火)『尊厳概念の転移』(法政大学出版局,2024)書評会
10:00~10:40 小島毅「唐君毅の「自作主宰」--人格尊厳の根拠として」(評者:A01班 青田麻未)
10:40~11:20 前川健一「近代仏教における縁起と尊厳」(評者:B02班 芝崎厚士)
11:20~11:35 休憩
11:35~12:15 牧角悦子「周作人「人間の文学」に見る中国近代知識人の「人間」観」(評者:A01班 岩佐宣明)
12:15~12:55 金光来「人間と動物の本性は同じか異なるか―挑戦朱子学の人物性同異論争」(評者:C01班 石井礼花)
7. 参加人数:約30
8. 概要と振り返り
2年目を迎えた本研究研課題に関して、全十個の研究班相互の学術交流から今後の研究方針を見直すとともに、次年度以降の活発な合同ワークショップやシンポジウムの企画に繋げることを狙いとして「領域横断交流会~西洋・東洋・現場の対話~」を開催した。
一日目は各班の代表者からこれまでの研究成果と現状の課題に関する報告が行われた。A班からは尊厳概念の問題構制を問い直すための理論的視座が提示され、B班からは法・政治・経済・先端科学技術・先端医療の各分野における尊厳研究の現在地が共有された。例えばA02班による「尊厳」の理念的性格に関する議論が、B01班による実定法と「尊厳」の関係を問う議論と対応する可能性が示されるなど、次年度以降の建設的な合同研究の方途がいくつも見出された。また、両班の成果を踏まえて社会実装のあり方を検討・提案するC班の報告では活発な議論が交わされた。
二日目は昨年末に刊行されたA03班の研究成果論集『尊厳概念の転移』(小島毅・加藤泰史編、法政大学出版局、2024年)の書評会を実施した。まず小島毅「唐君毅の「自作主宰」──人格尊厳の根拠として」に対しては、A01班の青田麻未氏から尊厳概念や自由の問題に留まらず、美学研究者の視点を用いて「為人の学」を最高位に置く学問の階層や論考における「芸術」の内実が問われた。続く前川健一「近代仏教における縁起と尊厳」に対しては、B02班の芝崎厚士氏が「尊厳」や「人格」の受容の問題を文化触発論の図式で再構成する見方を提示し、さらに同論考が有する広がりを明示した。牧角悦子「周作人「人間の文学」に見る中国近代知識人の「人間」観」については、A01班岩佐宣明氏が西洋近代哲学の立場から人類共同体に根差した周作人の個人主義を再考するための論点を提出し、評者が与する自然主義の立場からの評価が展開された。そして金光来「人間と動物の本性は同じか異なるか──朝鮮朱子学の人物性同異論争」に対しては、C01班石井礼花氏が人間の内面の本質をめぐる概念論争を生物学的な知見を踏まえて整理し、人物性同異論争の人間中心主義とそこに起因する議論の問題点への批判がなされた。
以上、二日間にわたって開催された本交流会では、多くの触発的な論点が提起され、豊かな議論が交わされるなど、今後の研究の展開が大いに期待された。(文責:A02班 津田)
フォーラムのタイトル:A02班成果報告とワークショップ「尊厳概念史の再構築に向けて(1):古代・中世哲学」
主催:A02班
日時:2025年1月24日(金)14:00~18:00
場所:東洋大学第三会議室(6号館1階)
形態:ハイブリッド
プログラム:
前半(90分)14:00~15:30
14:00~14:05 馬場智一(長野県立大学, A02班長)企画趣旨
14:05~14:25 宇佐美公正(岩手大学, A02班)尊厳概念の理念的正確-尊厳不要論と自律の検討
14:25~14:35 馬場コメント
14:35~14:55 馬場 ジャック・マリタンのカント批判
14:55~15:05 宇佐美コメント
15:05~15:40 全体討論
15:40~15:50 休憩
後半(110分)(15:50~18:00)
15:50-17:00 リレー企画「近代ドイツ哲学を中心とした尊厳概念史に対するネガティブ・アプローチ」
15:50-16:05 津田栞里 なぜ尊厳概念史のネガティブ・アプローチなのか(本企画の構想)
16:05-16:25 石川知輝(東京大学)アウグスティヌスにおける尊厳概念
16:25-16:50 内山真莉子(法政大学)トマス・アクィナスにおける尊厳概念
16:50-17:00 休憩
17:00-18:00 全体討論
参加人数:約10名
概要と振り返り
2025年1月24月に「現代の「被造物の尊厳」などの新たな尊厳概念を踏まえた欧米圏の尊厳概念史の再構築 を課題とするA02班の研究成果報告会と、リレー企画「尊厳概念史の再構築に向けて(1):古代・中世哲学 」を、対面(東洋大学/東京)とオンライン(Zoom)によるハイブリッド形式で開催した。本会の目的は、領域内および本研究課題に関心をもつ哲学・思想研究に従事する研究者に対してA02班の研究成果を共有することすること、また、西洋の尊厳概念史に大きく寄与した思想家の研究者から知見を得ることである。
まず、A02班の成果報告について簡単に振り返りたい。宇佐美氏は「尊厳概念の理念的性格――尊厳不要論と自律の検討」というタイトルのもと、カントに代表される内在的で比較不可能な絶対的価値としての尊厳を詳解し、そこに向けられる批判(不要論にまで至る)から態度適合分析(FA理論)によって尊厳を擁護する可能性について検討した。参加者からはカント本来の尊厳概念と現代的なカント主義的な尊厳概念の違いががいかにして生じたのか、また、本議論がカントにおける法論・徳論へと展開する可能性について質問や指摘があった。馬場氏による報告「ジャック・マリタンのカント批判」では、スイス連邦憲法に導入された「被造物の尊厳」がカントの尊厳とは異なるという概念史研究上の課題と、同概念が連邦憲法に導入された経緯を宗教社会史の観点から検討するという社会史研究上の課題が指摘された。マリタンによるカント批判の検討からは、尊厳と自然法の関係にに両者の違いがあるという見通しが示された。
リレー企画「尊厳概念史の再構築に向けて(1):古代・中世哲学」では、冒頭A02班の津田から、尊厳の毀損に注目すること(ネガティブアプローチの採用)によって、共同体における尊厳の役割や尊厳によって語り得る議論の限界付けをするという本企画の狙いで説明された。石川氏は尊厳と訳出されてきた「dignitas」という語と現代的な尊厳が意味する事柄に当時対応していたと考えられる概念「sanctitas」の両者を、特に後者に関してはキリスト教の迫害の歴史に注目してアウグスティヌスのうちに析出した。参加者からは両概念の関係や「sanctitas」によって尊厳を捉えることで主体性や能動性の尊重に契機を見出すことは可能かといった質問が提起された。続く内山氏はトマス・アクィナス『神学大全』における「dignitas」の用例を①自然本性的・能力的なもの、②社会的・法的なもの、③ペルソナという三つに分類したうえで、③ペルソナとしてのdignitasのうちに個人としての区別に関わるdignitasの機能を指摘した。この点に関しては、後の「このもの性」とどのように異なるのか、尊厳は固有性の問題にどのように関わるのかといった活発な議論が展開された。
本会より始まったリレー企画では、カントの功績を尊厳概念の脱魔術化に置く従来の尊厳概念史とは異なるアプローチを採用することによって、欧米圏の概念史を再編することだけでなく、非欧米圏の尊厳概念史(A03班)との対話の可能性を開くことが将来的に期待される。次回は次年度5月に「尊厳概念史の再構築に向けて(2):中世・近世哲学」を開催予定である。
(文責:津田栞里)
1. フォーラムのタイトル:「尊厳学フォーラムWCP」
2. 主催:総括班・日本哲学会
3. 日時:2024年8月8日(木)13:00-15:00
4. 場所:ローマ・ラ・サピエンツァ大学(イタリア)
5. 形態:対面
6. プログラム:
Yasushi Kato, “Research Project on Dignity Studies”
Mathias Kettner, “Towards an Agenda for Dignity Studies”
Wu Xingdong, “Marx’s thought of dignity in Contemporary China”
Q&A
7. 参加人数:約20人
8. 概要と振り返り:
国際哲学会連盟(FISP)が主催する世界哲学会議(WCP)は、5年に一度開催される世界最大規模の哲学の学術会議である。前回の北京大会(2018年)では4~5000人、今大会は5~6000人規模の参加者があったと推測される。今大会会期中のFISPの会議で、次回大会(2028年)の開催地が東京に決定した。こうした今後の動きに竿挿しつつ、尊厳学を国際規模に拡大し、国際尊厳学協会の設立の足がかりとするため、日本哲学会と協力する形で、また海外の研究者を二人招く形で、尊厳学という研究領域を世界に向けリーチアウトするため、このフォーラムが開催された。
まず領域代表者の加藤泰史氏から、本領域「尊厳学の確立」の紹介が行われ、世界各国から来た参加者に向けて、尊厳についての国際的な研究ネットワークの形成が呼び掛けられた。続いてMatthias Kettner氏(Witten/Herdecke University)から、尊厳研究を学問分野として確立するための基本的な方向性が示された。尊厳概念は、文化、法律、政治、道徳、宗教といった幅広い分野で使われるが、本来国連人権宣言のような人権の文化と密接な繋がりがある。したがって、単なる理論的な研究ではなく、洗練され(refined)、現実的で(realistic)、関連性があり(relevant)、道理に適った(reasonable)ものでなければならない。こうした青写真に呼応するように、会場からは、人間的生の始まりと終わりにおける尊厳についての質問、国連の「人間開発指標」が人間の尊厳に呼応するものであるかについての質問、動物の権利なども視野に入れた、「人間の」尊厳の意味の広がりについての質問がなされた。続いて、Wu Xiandong氏(北京師範大学)からマルクスにおける尊厳概念と現代中国における関連研究についての発表があった。中国ではマルクス研究が盛んだが、労働の尊厳についてのマルクスの思想については、日本のマルクス研究(岩崎允胤氏)の影響があったという。国際的な研究ネットワークの呼びかけの場にふさわしく、東アジアにおける研究状況がそれ以外の地域へと発信された。
会場との質疑応答のち、A04班(世界哲学史構想班)の納富信留氏から、次回の世界哲学会議(東京大会)の告知がなされた。会議終了後も、加藤氏への質問が続き、会場に持参した国際尊厳学協会設立のチラシは大部分が持ち帰られ、その後問い合わせも一件あった。領域内の複数班で協力することで、世界に向けて尊厳学の確立をアピールできた。本領域は2028年3月に終了し、同年8月に世界哲学会議東京大会が開催される。この東京大会で国際尊厳学協会として、世界にその研究成果を問うことができるよう、今後の研究の進展を計らねばならない。また国際尊厳学協会の機関誌の発刊を通じ、各国の尊厳研究の現状をシェアできるようにしていかなければならない。
(文責:馬場智一, A02班長)
1. フォーラムのタイトル:「『問いとしての尊厳概念』合評会」
2. 主催:A02班
3. 日時:2024年7月12日(金)、13日(土)
4. 場所:椙山女学園大学
5. 形態:ハイフレックス
6. プログラム
1 日目:7 月 12 日(金)
14:00 開催趣旨説明(馬場智一/A02班班長)【対面】
14:10 第I部 原理的考察
14:10 第I部 第1章 看護倫理学と「高齢者の尊厳」の問題・序説(加藤泰史総括班)
書評1 岸見太一(福島大学B02班)(15分)
書評2 田坂さつき(立正大学B05班)【対面】波多野真弓(埼玉県立大学)【オンライン】(15分) 著者からの応答(20 分)
全体質疑(20 分)
15:20 休憩
15:35 第I部 第 5 章 「尊厳」概念の不確定性をめぐって(宇佐美公生 A02 班)
書評1 芝崎厚士(駒澤大学B02班)【対面】(15分) 書評2 杉本俊介(慶應大学B04班)【オンライン】(15分) 著者からの応答(20 分)
全体質疑(20 分)
16:45 休憩
17:00 全体討論(30分)司会 津田栞里(東洋大学A02班)【対面】 17:30 閉会
2 日目:7 月 13 日(土)
10:00 第I部 第6章 被造物の尊厳──比較衡量可能な内在的価値の可能性(岩佐宣明)【オンライン】
書評1 馬場智一(長野県立大学A02班)【対面】(15分) 書評2 菊池了(上智大学博士課程)【対面】(15分) 著者からの応答(20 分)
全体質疑(20 分)
11:10 休憩
11:25 第II部 第 1 章 プラトンにおける「魂の尊厳」(齊藤安潔 総括班)【対面】
書評 1 田坂さつき(立正大学 B05 班)【対面】桑原司(法政大学大学院 B05 班 RA)【オンライン】(15 分)
書評 2 小倉康寛(椙山女学園大学 総括班・B05 班)【対面】(15 分) 著者からの応答(20 分)
全体質疑(20 分)
12:35 休憩
12:50 全体討論(30分)司会 馬場智一(A02班) 13:20 閉会
7. 参加人数:12日(金)19名, 13日(土)15名
8. 概要と振り返り
『問いとしての尊厳概念』は、本領域の前身となる研究課題「尊厳概念のグローバルスタンダードの構築に向けた理論的・概念史的・比較文化論的研究」(基盤研究(S)18H05218)の成果である。報告者も含めて、本領域の現メンバーが、前身となる研究課題に全員参加しているわけではない。本領域の研究を進めるにあたり、基盤研究(S)での成果を共有し、共通の議論の土台を作っておくことが必要である。特に、本領域のように分担者数が多く、対象領域も極めて幅広い場合はなおさらである。また、領域内の若手研究者と中堅ベテラン研究者の交流も意図してプログラムを組んだ。例えば、加藤論文と宇佐美論文の評者は、若手中堅を中心に担当していただき、岩佐論文には若手の菊地氏、齋藤論文にはベテランの田坂氏に加わっていただいた。
「看護倫理学と「高齢者の尊厳」の問題・序説」は、ナチス時代における「生きるに値しない生命」に死を与える発想にまで遡り、「尊厳のある死」が持ちうる両価性から出発した刺激的な論考だが、若手研究者からの熱心なコメント、質問が続いた。尊厳概念の不確定性をむしろ肯定的に捉え直す宇佐美論文に対しては、論述の手続きをめぐる精緻で白熱した議論が取り交わされた。岩佐論文は比較衡量可能な内在的価値の可能性を、象徴的価値の位置付けをめぐり検討する。コメントはむしろ、被造物の尊厳の基盤になるトマスの存在の類比や、生命への畏敬(シュヴァイツァー)といった思想史的な論点を投げかけるものであった。齋藤論文は、そもそも近代的な尊厳概念が存在しない古代においてプラトンの中にどのようにのちに続く発想を見出すかを検討した野心的な試みである。その試みの射程を可能な限り掬い上げるコメントや、プラトン研究の専門的見地から問題の精査を促すコメントが続いた。専門家と非専門家両方からのコメントが飛び交うことで、基盤研究(S)の成果に新たな光を当てつつ、現在の領域の課題に接続する機会になったのではないかと思う。
分厚い論集にはまだ多くの論考がある。機会があれば、今回のような相互レビューの機会を再び設けたい。
(文責:馬場智一, A02班班長)
1.フォーラムのタイトル「4th International Colloquium in Contemporary Philosophy and Culture: Nature, Spirituality and Culture」
2. 主催:A02班
3. 日時: 2024年5月31日(金)~6月2日(日)
4. 場所:長野県立大学三輪キャンパスラーニングホール
5. 形態:ハイフレックス
6. プログラム:
5/31(金)
Ionut Untea (Southeast University, Nanjing), “Topological Existential Engagements: Modern Local Identity and Postmodern Performativity”
Sikong Zhao (Institute of Philosophy, Shanghai Academy of Social Sciences), “The Metaphor of Messiah’s Chair from the Perspective of Modernity”
Felix S. H. Yeung (University of Essex), “Enlightenment’s ‘Good Mourning’: A Psychoanalytic Interpretation of the Dialectic of Enlightenment”
【Art Session ONLINE】Antoine de Mena, “Life is savage”,
Fernando Gerheim (Federal University of Rio De Janeiro【ONLINE】), ” Reflections on Art-Research Group Poéticas em Campo Experimental – PAX (Poetics in Experimental Field) in dialogue with Walter Benjamin’s philosophy of language regarding the articulation between Nature, Spirituality, and Culture”
Motohiro Kumasaka (Tokushima University), “Creating Little Deities To Be a Prayer to Nature and to Be a Player with Nature”
Ryo KIKUCHI (Sophia University), “Can We Love an Extraterrestrial? ‒ A Reflection on Love and Human Nature”
【Art Session ONLINE】Akiko Nakayama, “Hemispherical Portrait”
Kunimasa SATO (Ibaraki University), “Doxastic Transformation and Transformative Experiences That Cause Epistemic Conversions”
Stavroula Tsirogianni (Chinese University of Hong Kong), “Slowing Down in the Age of Involution: A Case Study of the Black Box Space”
Ryan Adams (University of Memphis), “Association Comes Before Assent: Reconsidering Religious Epistemology in Social Terms”
6/1(土)
Songqi Han (the University of Tokyo), Haoguang Li (Keio University), “Body as Line of Flight: A Deleuzian Account on Merleau-Ponty’s Phenomenology”
Ve-Yin Tee (Nanzan University), “Home Away from Home: Migrant Culture and Allochthonous Nature”
Huang Lu (TOHOKU University), “Speculative Realism, Phenomenology and the Truth in Empirical Science: A Defence of Husserlian Phenomenology against the Critique from Ancestrality in Meillassoux”
【Art Session ONLINE】Aly Roshdy Aly Shalby (Helwan university – Cairo – Egypt), “Calm Canvas: A Visual Odyssey of Tranquility”, Chair Rossen Roussev
Lucas Scripter (The Hong Kong Polytechnic University), “Environmentalism and the Sublime”
Nicolaas Buitendag (North-West University, South Africa), “Between Nature and Society: The Anthropocene’s Challenge to Environmental Law”
Vaiva Daraškevičiūtė (Vilnius University), “(An)Aesthetics of the Anthropocene and the Problem of Landscape”
【Art Session ONLINE】Hannes Schumacher (Chaosmos ∞) “Strange Visitors”, Chair Rossen Roussev
Beth Harper (The University of Hong Kong) , “Delightful leisure and spiritual freedom: the gardener in comparative perspective”
Christian Krägeloh (Auckland University of Technology), “Unitlessness and Pure Experience: Bridging Eastern Philosophy and Western Psychology in Mindfulness Studies”
6/2(日)
Keiko Ueda (Tokyo Metropolitan University), “Nature as ‘The Holy’ in Heidegger’s Interpretation of a Hölderlin’s Hymn ‘As if it is a Day of Festival…’ ――An Approach to the Fundamental Eco-logy Based on the Holiness of Nature”
Rossen Roussev (St. Cyril and St. Methodius University of Veliko Tarnovo), “Nature, Culture, and Deconstruction: Claude Lévi-Strauss and Jacques Derrida”
【Art Session ONLINE】Eugenia Gianno (Chaosmos ∞) “undergrass”
Tomokazu Baba (The University of Nagano), “Kaii Higashiyama and sympathy with landscape”
Roman PAȘCA (Akita University), “The Heart-mind as a Field: Cultivation, Spirituality and Nature in Japanese Philosophy”
Fiona Tomkinson (Nagoya University), “Ted Hughes and Nature: the Goddess of Complete Being and the Remains of Elmet”
7. 参加人数:約30名
8. 概要と振り返り
本ワークショップは、A02班班長の馬場とヴェリコ・タルノヴォ大学(ブルガリア)准教授Rossen Roussev氏(哲学)が中心となり、2018年から運営しているSociety for Global Conversationが企画する国際シンポジウムInternational Colloquium in Contemporary philosophy and Cultureである。これまでブルガリア、キルギス、ブラジルで開催し、今回が4回目となる。このシンポジウムおよびSocietyの目的は、学問上の専門分野、国や文化、学問とアートの間にある隔たりを超え、学術発表や作品発表を行い、広範囲で複眼的な視野で議論し、現代世界の課題を考えるための新たな発想を生み出すことにある。今回は、22組の研究者、5組のアーティストが、世界10カ国ほどから参加した。今回はA02班と共催とし、研究課題の一つである「被造物の尊厳」を考えるため、テーマを「Nature, Spirituality and Culture」とした。本シンポジウムでは、自然に精神を、あるいは精神に自然を見出してきた思想や文化を論じ、「被造物の尊厳」を論じるためのより広い問題設定の解明を目指した。近代は自然を人間が使用する資源と見做し、それ以前に人がそこに見出してきた霊性を排除し、自然を脱魔術化した。今や生命も技術開発の対象となり、自然がマクロにもミクロにも破壊されているからこそ、それに歯止めをかけるために「被造物の尊厳」といった発想も召喚されている。それゆえ、自然を「被造物」と捉えるかは置いておくとしても、人間が自然をどう捉えてきたのかを改めて検討する必要がある。
22本の学術発表は、①特定の思想家・哲学者における自然の問題を扱ったもの(6/1: Han&Li, Lu、6/2: Ueda, Roussev, PAȘCA)、②個人とそれを取り巻く環境の関わりに焦点を当てたもの(5/31:Kikuchi, Sato, Tsiroganni, Adams、 6/1: Krägeloh)③近代の再検討を目指すもの(5/31:Untea, Zhao, Yeung、 6/1: Buitendag)、③美学的な自然の捉え方を扱ったもの(5/31: Gerheim、 6/1: Scripter, Daraškevičiūtė、6/2: Baba)、④文化(史)や文学の視点から自然の問題を扱ったもの(5/31: Kumasaka、6/1: Tee, Harper、 6/2: Tomkinson)に分類できる。近代以降における自然の問題を再考しようとすると、オーソドックスには①のようなアプローチが求められる。しかし、自然を考える際には③や④のアプローチが①と相互補完的な関係になり、その中における個人のあり方に目を向けると②の視点が生かされてくる。こうしたことが全体を通して浮かび上がった。加えて、5組のアーティストによる作品発表とディスカッションは、全てのアプローチに示唆的だったが、議論にある種の遊びの空間を、思考に柔軟さを与えるものとなった。
哲学、文学、美学から心理学やマインドフルネスまで、さまざまな専門領域とする研究者が、昼食や休憩時間、懇親会も含めて、年代を超えて対面で濃密な議論を行う機会は大変貴重であった。とりわけ若手研究者の参加が多く、国や専門を超えた議論は互いに刺激になった。また、運営補助に、学部生や大学院生も加わった。彼らとの会話も参加者には親しみやすい雰囲気の形成に役立った。学生たちには良い経験となったし、留学を検討する大学院生はアドバイスをもらったり、ネットワーク形成に役立ち、国際研究会の設立参画に繋がったそうである。このようにして、議論を通じたフラットな関係性が参加者間で醸成され、新たな研究ネットワークが形成された。これを基盤に早速、5/31の発表者菊地氏には、7月に実施したA02班主催の書評会にも参加していただいた。被造物の尊厳をめぐる今後のワークショップにも今回のネットワークを活かして行きたい。
(文責:馬場智一, A02班班長)
2024.2.5
報告者:馬場(A02班班長)
概要
研究会タイトル:学術変革領域 A「尊厳学の確立:尊厳概念に基づく社会統合の学際的パラダイムの構築に向けて」尊厳学フォーラム:A02班研究会「尊厳と感情——集合的記憶の喪失と美的感情の観点から」
日時:2024年1月26日(金)17:00-19:30
会場:東洋大学(6号館4階 6406教室)およびオンライン
プログラム
17:00 馬場智一(A02班班長、長野県立大学)「開催趣旨」
17:15 中村美智太郎(静岡大学)「シラーにおける尊厳」
17:45 佐藤香織(神奈川大学)「集合的記憶と尊厳―東日本大震災の被災地の記録を通じて」
18:20 休憩
18:30 A02班メンバーからのコメント(馬場、宇佐美公生(岩手大学)、津田栞里(東洋大学))
19:00 全体討議
報告
開催趣旨
学術変革領域 A「尊厳学の確立:尊厳概念に基づく社会統合の学際的パラダイムの構築に向けて」において、A02班は、「現代の「被造物の尊厳」などの新たな尊厳概念を踏まえた欧米圏の尊厳概念史の再構築」を担当している。2023年度、本班は、7月に班内での研究打合せを実施し、9月にA03班(アジア・イスラムなどの非欧米圏における尊厳概念史の構築)とシンポジウム「尊厳概念史の諸問題―人間論の比較思想的検討」(東京大学、9月8日)を共催した。12月にはA04班(世界哲学史構想班)とヒルデスハイム大学との共催による国際ワークショップに、班長の馬場が参加した(ヒルデスハイム大学、ドイツ、12月14-16日)。今回の研究会は、A02班が主催の研究会である。
本班は、上述の通り、主に欧米圏における尊厳概念史の再構築を担当しているが、9月の合同シンポジウムでは、言語や伝統を欧米と共有していない非欧米圏における概念史の難しさが指摘されていた。報告者にはこの点をA02班としてどう考えるか、宿題となった。
実のところ、欧米における尊厳概念もまた、英米系とドイツ系ではその含意がかなり異なっており、それを「鍛え直す」ことが本研究には求められている。キケロからカント、そして現代に至る概念史を辿り直すのみならず、たとえば本班の研究計画に予定されているように、「被造物の尊厳」のような新たな概念との対話が必要である。さらに、言語や文化は異なれど、人間としての尊厳が毀損されるといった経験自体は、人間がそれを経験する以上、一定程度普遍的なものであり、厳密な概念史を超えて尊厳を考えることはけっして不可能ではない。実際、9月の合同シンポジウムは、諸言語・文化における人間論を比較することで、厳密な概念史的な一貫性に定位しない、より広い研究のプラットフォームの輪郭を指し示していたように思われた。それに倣い、A02班でもまた、厳密な概念史を超えた用法への目くばせが必要であると思われる。またそれは翻って、欧米圏の概念史に新たな光を当てる上でも不可欠ではないだろうか。
提題概要
9月シンポジウムで得た「宿題」からこのような事を考え、1/26に開催した研究会「尊厳と感情」では、①オーソドックスな概念史的研究と、②東日本大震災からの復興の文脈を踏まえた新たな概念使用に関連する研究との、一種の「対話」をもくろみ、二人の専門家をお招きした(報告者註:復興と尊厳に関しては例えば、内尾太一『復興と尊厳 震災後を生きる南三陸町の軌跡』がある)。①については、カントおよびシラーの研究から出発し、近年は道徳教育に関する研究でも知られる中村美智太郎氏から、「シラーにおける尊厳」についてご発表頂いた。②については、レヴィナスやローゼンツヴァイクなどユダヤ系哲学者の研究から出発し、近年ではフランスの美学者ミケル・デュフレンヌの研究、さらに被災地の経験に関する哲学的研究に着手されている佐藤香織氏から、「集合的記憶と尊厳―東日本大震災の被災地の記録を通じて」と題しお話頂いた。
中村氏からは、まずシラー(1759-1805)とカント(1724-1804)との思想的な連関、さらにはシラーの美的教育思想の概要が紹介された。それによれば、教育の機会を奪われている民衆(労働者)の状態は、回復されねばならないとされる。ただし、教育をうけるべき人々が理性の原理で行動するためには、哲学的修養のみならず「美的修養」が必要である。修養において目指される義務と傾向性の調和は、「美しき魂」において成される(「優美と尊厳について」1793)。このとき「美」は、人間に「社交的な性格」を与える(「美的教育書簡」1795、第27書簡)。また、美しき魂が有する優美さは、自然から与えられるのではなく、主体自身によって生み出される。それは道徳的な力による衝動の支配という「精神の自由」の現れであり、これが「尊厳」と呼ばれる。
カントにおいて尊厳はもっぱら道徳哲学の枠組みで語られるが、シラーでは道徳性を構成する要素として美が要請されている。尊厳とは、まさにその「現れ」(優美さ)に他ならない。これら二点においてシラーはカントの思想を引き受けつつも、異なった尊厳概念を打ち出していることが中村氏の明快なご発表から理解された。
佐藤氏は、東日本大震災の被災者による被災経験の証言を素材とし、その経験における尊厳の毀損の一端を、特に集合的記憶の喪失の観点から明らかにされた。災害から10年以上が経った被災地では、災害の記憶を「遺構」や「記念館」といった形で残す動きが活発になっている。災害の記憶は単に個人の記憶ではない。そもそも、個人の記憶というものは集合的な記憶に囲まれて成立している。物や出来事にまつわる個人的・集合的記憶は、人間のアイデンティティ形成にとって本質的である。佐藤氏は、こうした記憶の社会性やアイデンティティとの関わりを、フランスの社会学者アルヴァクス(1877-1945)の所論から呈示された。そのうえで、佐藤氏は、集合的記憶(およびそれを重要な要素に含むアイデンティティ)がカント的な尊厳のもつ「内的価値」に含まれるかどうかを問う。氏によれば、(精神的損害賠償が認められた)原発事故による長期避難の事例から、集合的記憶もまたそれ自体で価値あることが示唆される。
そのほかにも、尊厳を回復させようとする支援が却って、被災者に負債感情を与え、尊厳を毀損するという逆説的事態や、文化遺産化されることで集合的記憶が取捨選択され、却って忘却される記憶を生み出すという、これも同様に逆説的な事態が指摘された。尊厳やその構成要素である記憶に内在するパラドクスとして重要であり、今後も現代における尊厳概念を考えてゆく上で心に留めておくべき事柄であると報告者には感じられた。
質疑応答
その後A02班メンバーからのコメント、発表者相互によるコメント、フロアからの質問など、活発な議論が交わされた。
尊厳が優美さという「現れ」であるという論点(シラー)は、尊厳が毀損されて「現れる」という事態と、「現れかた」としてはある意味では正反対だが、両者ともに「現れ」であるという点は共通している。これは、カントにおいて内的価値と想定されている尊厳概念からは直接考慮しにくい、尊厳の(広い意味での)「感性的な」側面であるということができるだろう。
また、カント的な尊厳概念は個人に紐づけられるが、これが現実社会における尊厳の多様性を扱いにくくしている。他方アイデンティティと集合的記憶の結合は、尊厳概念を社会性につなげる可能性を開いている。シラーにおける美しき魂も、それぞれの個が、カフェに集う教養層の小さなサークルのような共同体において、美的に修養する。この点でも二つの提題は触れ合っていたように思われる。
その他、歴史記述を巡る当事者と媒介者の問題など、フロアからも興味深い質問が投げかけられ、充実した討論の時間となった。