第23
推論主義との付き合い方
島村修平

第23回 一橋大学哲学・社会思想セミナー

日時 2021年7月16日(金) 13時15分開始 終了時間未定(最大延長19時00分まで)

場所 Zoomによる開催 参加希望者は担当者(m.igashira[at]r.hit-u.ac.jp)までご連絡ください

講演者 島村修平(日本大学)

タイトル 推論主義との付き合い方 

要旨

 本講演の主題である推論主義とは、近年R.ブランダムによって展開された新しい意味の理論を指す。講演者の見立てでは、推論主義は、固有の乗り越えるべき課題を持つものの、意味や論理について標準的な諸理論の下では得られない新たな理解をもたらす豊かな可能性を秘めている。しかし他方で、ブランダムの独特の用語法や主著の型破りな厚さなどが相まって、推論主義にはとっつきにくい部分があることも否定できない。そこで講演者は、一推論主義ユーザーの視点から、推論主義の基本的な考え方・課題・潜在的な使い道を整理することで、推論主義をより多くの人に開かれた理論的選択肢とするよう試みたい。こうした試みはまた、(講演者自身を含め)推論主義をすでにある程度使っている人にとっても、推論主義との付き合い方を省みる手助けとなるはずである。本講演は、以下の三つのパートから成る。(各パートはおよそ60分で、それに質疑や休憩時間を加えて80分程で進行することを予定している。)

パート1:推論主義ってどんな立場?

 推論主義の基本的な考え方を説明する。具体的には、まず、推論主義が、主張に伴うコミットメントとエンタイトルメントという二種類の規範的性質を相互に関係づける種々の推論関係に基づいて、意味の様々な側面を説明する立場――規範的関係に着目する機能主義の一種――であることを説明する。次に、推論主義が、意味の表象的次元(言葉が何かを指示する機能)についても一定の説明を与える際に――これは他の類似した説に見られない推論主義独自の特徴である――、この規範的性格が本質的な役割を果たしていることを確認する。

パート2:推論主義とどう付き合うか?

 推論主義が直面する様々な課題と推論主義の潜在的な使い道について考える。まず、推論主義には、強い推論主義――意味に対して推論関係に基づく還元的説明を与えようとする立場――と弱い推論主義――還元的説明までは目指さない立場――の二つが区別できることを確認する。次に、強い推論主義にとっての様々な課題とその理論的意義について考える。最後に、弱い推論主義へと一歩後退した場合にも残る種々の課題と、弱い推論主義が依然としてもちうる意義を展望する。

パート3:推論主義と論理:論理表出主義というプログラム

弱い推論主義がもたらす実り豊かな視点の一例として、近年ブランダムが中心となって研究を進めている論理表出主義(logical expressivism)という研究プログラムについて説明する。論理表出主義は、論理とは何かという問いに対する推論主義に基づく応答の一つである。この応答は、一方で、非単調な推論をも扱う新しい一連の論理体系――表出主義的論理――の探究を可能にする。他方、そうした論理を研究することによって、推論主義にとっての課題のいくつかに解答を与えることができる。本パートでは、時間が許す限りで、推論主義と論理の間のこうした互恵的関係を展望する。