11月24日のNHKの番組で,米食と腸内細菌の関係が話題になっていた.日本では,米が肥満の原因と見なされる傾向にあるが,米を大量に摂取する東南アジア諸国の状況と矛盾するのではないかという見解である.大量に摂取しても太らないのは,腸内細菌の違いによるという結論であった.そのことを理解するには反芻動物のエネルギー源である短鎖脂肪酸とその生成メカニズムを理解する必要がある.
短鎖脂肪酸は酢酸やプロピオ ン酸や酪酸 などのような炭素数が2から4の脂肪酸のことで あるが,ときには炭素数6までの脂肪酸を短鎖脂肪酸に含 めて考えることもある.
具体的には酢酸(1),プロピオン酸(2),イソ酪酸(3),酪酸(4),イソ吉草酸(5),吉草酸(6),カプロン酸(7),乳酸(8),コハク酸(9)を指す.但し,乳酸,コハク酸は短鎖脂肪酸に含めないとする見解もあるとWikipediaに記載されている,
それぞれの構造式は以下の通りである(記載順).
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3
4
5
6
7
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9
牛や羊などの反芻胃を持つ草食動物の場合,摂取した飼料は胃内で微生物の発酵を受ける.その際に生じる短鎖脂肪酸(主に酢酸、プロピオン酸、酪酸)が主なエネルギー源となる.胃内で生成する酪酸の多くは胃粘膜でβ-ヒドロキシ酪酸に変換される.生成されるβ–ヒドロキシ酪酸も反芻家畜にとってはエネルギー源となる.
また、プロピオン酸の多くは肝臓で糖新生に利用される.このことは,反芻動物における糖産生の多くはプロピオン酸からの糖新生に依存していることを示している.
反芻胃をもっていないヒトやブ タをはじ め, 哺乳動物一般 に大腸内で腸内細菌が食物繊維を発酵する際に短鎖脂肪酸を生み出し,大腸経由で体内へ吸収され,健康を維持するために重要な役割を担っていることが分かってきた.ヒトの場合,酢酸,プロピオン酸,酪酸の3種の短鎖脂肪酸が主要な役割を果たしていることが知られている.ヒトの場合,吸収された短鎖脂肪酸のうち,酪酸は大腸上皮細胞のエネルギー源として,酢酸とプロピオン酸は肝臓や筋肉で代謝され利用される.
注)吸収された酪酸は, 大部分が大腸上皮細胞のエネルギー源として消費 され,残りは肝臓で脂肪合成の基質 として利用される.また,大腸上皮細胞 に吸収されたプロ ピオン酸の約50%が上皮細胞のエネルギー基質として利用 される.残 りのプロピオン酸は肝臓で脂肪酸合成の基質,あ るいは糖新生の基質として消費 され る(参考資料3).
短鎖脂肪酸受容体は全身の様々な部位に存在し,これらの部位の生体調節機能に関与している.その中には,生活習慣病と密接な関係を有するものが多いことから,癌や肥満,糖尿病,免疫疾患を予防,治療する手段との関連で研究されているとのことである.
短鎖脂肪酸は酸性物質のため,短鎖脂肪酸が生成すると腸内環境が弱酸性に変化し,健康によい副次的効果が期待できる.
○腸内が弱酸性になると,悪玉菌の出す酵素の活性が抑えられる.そのため,発がん性物質である二次胆汁酸(デオキシコール酸, リトコール酸, ヒオデオキシコール酸, ウルソデオキシコール酸) や有害な腐敗産物が産生しにくくなり,健康な腸内環境が保持される.
○弱酸性の環境に変化することで,カルシウムやマグネシウムなどの重要なミネラルの水溶性が増すことにより,体内への吸収が容易になり,ミネラル不足を補うことが期待できると言われている.
以下の項目についての詳しい説明は参考資料を見てほしい.
ヒトの健康とのつながり
○有害物質からのバリア機能の強化
○発がん予防
○肥満の予防
○糖尿病の予防
○食欲の抑制
○免疫機能の調節
(2019.12.22)