第二十五號

特集「劇」 2009年9月


表紙の言葉


 劇の演じられる場は、幕で仕切られる日常と非日常の世界に成立しており、そこへ集う人々の吐息が見えない空間です。



◇作品解説


山口は、既存の劇場の建築様式を否定的に捉えていました。そこで舞台と客席を仕切る幕は、作品と鑑賞者をあからさまに分断する極めてシンボリックな存在です。「環境芸術」を理想に掲げ、周囲の環境を巧みに取り込みながら作品づくりを行ってきた彼にとっての理想の劇場とは、「舞台と客席、演技者と観客、こうした区分を認めたうえで、それらの区分が行為の中に、連続的な関連性を見出して」*ゆくことだったのです。山口はこうした劇場建築の一つの理想形を、建築家フレデリック・キースラーのデザイン思想の中に見出しています。



*山口勝弘『環境芸術家キースラー』,美術出版社,1978年,p.76