1.概要
2020年11月30日、町田市立町田第五小学校の6年生女子児童がいじめを訴える遺書を残し、自死した。女児は同級生の女児らから繰り返し「どっきり」と称する仲間外れや、学校が配布したタブレット端末のチャット上で暴言を受けるなどのいじめ被害を受けていた。女児は遺書の中で自死の主たる原因として同級生の名を挙げていた。
しかし当時、責任者として対応する立場だった五十嵐俊子校長(当時)は、女児の自死から約2か月後の2021年2月まで町田市教育委員会に「いじめ防止対策推進法」に基づく重大事態として報告せず、遺族が調査を要望しても「トラブルは9月に解決済み」との立場に終始した。五十嵐校長がいじめと自死の因果関係を一部認めたのは渋谷区教育委員会教育長に就任することが内定した後の2021年3月だった。
五十嵐教育長を任命した長谷部健渋谷区長は、2022年1月の会見で五十嵐氏の任命理由について、ICT教育の実績を挙げ、渋谷区立学校でのICT教育の推進がねらいだとした。
五十嵐校長は女児の自死直後にもICT教育に関するオンラインシンポジウムに登壇し、笑顔で自校のICT教育の実績を語っていたが、五十嵐氏の「ICT教育」は極めてずさんなものだった。町田市教育委員会の説明によれば、五十嵐校長は、いじめの場となったタブレット端末のチャット機能の存在を把握していなかったほか、児童のタブレット端末のパスワードを全員共通のものに設定させていたのだ。
長谷部区長は、2022年1月17日の記者会見の中で、「当時、校長として取るべき対応はとっていた」と述べ、五十嵐氏が教育長に適任であるという考えに変わりがないことを強調しているが、遺族の調査要望に対し「9月にトラブルは解決済み」と言ったり、町田市教委への報告を2か月放置し、タブレット端末のずさんな管理をした五十嵐氏が本当に適任なのか。
なお、五十嵐氏は町田市の第三者委員会が調査を行っていることを理由に現在まで説明を拒絶している。
2.五十嵐教育長の任命経緯と長谷部区長の暴挙
長谷部区長は、五十嵐校長(当時)を教育長に任命する以前、2021年1月に五十嵐氏と面接した際、五十嵐氏から女児の自死の件を報告を受け、知っていたにもかかわらず、区議会に五十嵐氏の教育長任命人事議案を提出する際、この情報を区議たちに一切伝えなかった。
いわば「問題隠し」ともいえる長谷部区長のこの対応が区議会で追及されると、長谷部区長は「区議会だより」の内容を書き換えるよう議会に要求し、税金約470万円を投じて印刷済みの「区議会だより」を刷りなおさせた。議会の広報物である「区議会だより」の内容に区長が公然と差し替えを要求するのは越権行為だ。しかも実際には言ってもいない内容を差し替え文にねじ込もうとした長谷部区長の対応は「隠蔽」と言われても致し方ないものだ。
さらに長谷部区長は、2022年1月、石阪丈一町田市長に対し、女児の遺書を請求。この遺書は遺族が町田市に提供したものではなく、町田市が遺族に無断で入手したものだった。女児は遺書の中で家族への不満も記しており、長谷部区長はこれを根拠に「必ずしもいじめが自死の原因ではない可能性」を主張し始めた。しかし前記の通り、女児は遺書の中で主たる自死の原因が同級生にあることを明確に示していることから、長谷部区長の主張は遺書の一部を都合良く切り取ったものであるとわかる。
3.区議会各会派の五十嵐氏に対する姿勢(2021年11月現在)
2021年9月に遺族が文部科学省で会見し、本件が明るみになった後、渋谷区議会の一部会派は五十嵐氏を教育長に任命する際に女児の自死に関して区長が情報を提供しなかったことを問題視し、追及したが、大半が「町田市の調査を待つ」という姿勢だった。詳細な各会派のコメントは次の通り。(各会派コメントは校民日報から引用。無所属・鈴木区議の発言は渋谷区議会会議録から引用。)
自民党(丸山高司区議)
「町田市と町田市教委の調査結果の報告を見て判断するべき」
「区長が当時それを聞いてたけれども、それについては問題ないということで私の責任において同意案件として出したと言ってますからそれで十分だと思いますよ。ですからそれに基づいてウチは賛成しましたし、ですからそれが隠蔽だのなんだのという話にはならない。」
シブヤを笑顔にする会(岡田麻理区議)
「現在町田市のほうで調査委員会が開かれているということですので、その結果を受けてですよね。」
公明党(久永薫区議)
「現在、町田市で調査中ですので、その結果を静観したい」
立憲民主党(治田学区議)
「町田の調査は待たざるを得ない」
「事件を知っていればというところは大きな問題であると思う」
共産党(田中正也区議)
「教育長が適任かどうかというのは、町田の件も調査ということもあって、私たちはまだ結論を会派の中で出していない」
「区長からこういう方を教育長にしたいと提案されて、私たちはそれを見る限りでは反対する要因・要素は見つからなかったので賛成した」
れいわ渋谷(堀切稔仁区議)
「不適任でしょ」
れいわ渋谷(金子快之区議)
「僕らは聞かされてなかった。長谷部さんは知ってた。知ってたなら最初から言えよ。いえば反対していたんだから。」
無所属(鈴木建邦区議)
「雑音に惑わされず全力を尽くして業務に邁進していただけるよう、お願いを申し上げます。」
4.日本自治委員会の対応
私たち日本自治委員会は、五十嵐氏が教育長の地位にとどまり続けていることは、同区の子どもたちが万が一いじめ被害を受けた際、いじめを隠蔽される恐れがあると判断し、渋谷区立学校のこどもと保護者たちに五十嵐氏の問題を伝え、こどもの人権の啓発を行うため、人権特別啓発行動「しぶやトリエンナーレ」を発動した。2021年9月30日以降、日本自治委員会は、渋谷区立小中学校前、渋谷区役所本庁舎前、五十嵐教育長の自宅前(八王子市南大沢5‐13‐3‐501)、長谷部区長の自宅前(渋谷区神宮前3‐17‐8)で活動を行った。(拡声機の使用は、訓令の改正により2022年2月19日をもって終了。)
その後、日本自治委員会は、2022年3月24日、すべての渋谷区立小中学校前での周知啓発を完了したため、2022年4月1日以降は、区内の各駅やスーパーマーケットなどの前に活動の場所を移して2022年11月15日まで「校民日報渋谷版」(校民日報社発行)を大規模に配布し、問題の周知に努めた。
2022年11月16日、日本自治委員会議長が渋谷地区自治委員会を認証したことに伴い、本件事案は、当自治委員会に移管された。