シーン428『師走にふと立ち止まる』 沢村希利子
2025.12.12
早いもので今年も残りわずかとなりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
年末が近付くと、仕事も家庭も年末年始の準備が始まり、どことなく世の中全体がせわしなくなる気がしますね。
気持ち良く新年を迎えるために、「今年中に」「今のうちに」「まだ間に合う」と、人も街も駆け込みの早足になっているような、年末特有のあの空気感。
私の年末もまた、毎年日々の雑用に追われつつ年末年始の準備で手一杯になりながら、「今年何してたっけ? 今年も何もしないうちに1年が終わっちゃう…」などと思うわけです。
そんな12月のある日、1日を終えてクタクタになりながらなんとなくベランダに出ました。
切り付けるような冷たい空気が頬に触れ、吐く息が白く上がって一瞬で夜の色に溶けていくのを眺めながら思ったんです。
あ、静かだなぁ、って。
遠くの方で聞こえるトラックが走り抜ける音、どこかの家からかすかに聞こえるピアノの音、その合間を縫うように重なる犬の鳴き声。
とても小さな音なのに、ひとつひとつがくっきり聞こえてくるような。
世界の音がゆっくりになる、静けさの時間。
そんな時間にようやく、息と一緒に気持ちの焦りのようなものを吐き出しながら、今年も頑張ったなぁ、って思うことができるんですよね。
演劇などというものに身を置いていると、ともすれば精力的に活躍している仲間や、他の演劇人の方々が眩しく見えて、妬ましく思えることもあります。
特に子育てのためにお芝居からすっかり遠ざかってしまった私にとっては、「自分だけ何も特別なことをしていない」という気持ちにもなります。
けれど、別に特別な成功はなくても、1年ちゃんと生きたんじゃないかって、夜の静けさの中で、なんとなく思うんです。
イヤイヤ期に手を焼きながらも子供はそれなりに育って、家族揃って年越しできる。
そういえば昨年は年末に入院して、予定では病院で年越しのところ、ギリギリ年内に退院できたんだよなぁ。
それを思えば、今年は十分穏やかな年末だし、頑張った1年だったんじゃないか、なんて、しみじみ思います。
忙しい日々の中でもこうやってほんの少し立ち止まって自分の時間を作ることで、こういう「どうでもよさそうで実は大事な、小さなこと」が見えてきたりする気がします。
そういう小さくて案外大きなことを大事に積み重ねて、また1年頑張っていけたらなと思います。
それでは少し早いですが、皆様良いお年を。