劇団員コラム

シーン405虚構の世界を生きる』 宮野 圭輔

3月に公開されたあるアニメ映画にはまり、3月から5月にかけて何度も見てきまた。最近気に入った映画があると、「映画館で見られるうちに見ておかなければ!」とリピートすることが多くなりました。

   

その映画の中「人間は虚構を信じることができる唯一の生命体だ」というセリフがあります。この言葉は恐らく人類史を書いたベストセラー「サピエンス全史」からの引用で、本の中では「虚構」とは国家や宗教や法律など、自然界にはないありとあらゆるものを指しているのですが、やはりアニメ映画の中でその言葉が使われると、「物語」という意味での「虚構」の印象が強くなります。(映画の中でも、もとの国家や宗教の例に触れつつ、物語としての虚構というのがテーマの一つになっていました。)


自分は、「虚構」の産物であるアニメや特撮を日々楽しみ、「虚構」の世界を作り出す演劇に携わることを趣味としているので、この「人は虚構を信じることができる」という言葉が強く心に残りました。自分の生活には直接関係ない、物語の中の登場人物が亡くなると本気で悲しくなったり、特撮ヒーローの活躍に胸を躍らせたり、寝る前に布団の中で空想に耽ってにやにやしたり、演劇の役を演じながら気持ちが引っ張られて舞台で泣いてしまったりといったことも、すべて、「虚構」を信じ、「虚構の世界」に生きている瞬間があるからなんだ、と思いました。

   

逆に、お話の内容によっては、虚構の世界に浸りきれず、「所詮作りものなんだな」と思って冷めてしまう、ということもあります。演劇という虚構の世界を作る身としては、いかに自分自身が虚構の世界に生きられるか、そして、いかに見ている人をその世界に引き込むのか、というのが大切になるな、と、改めて感じました。

   

映画の中の一つのフレーズから、自分の趣味のことをはじめとして色々なことを考えてしまった、そんな令和5年の春でした。