劇団員コラム

シーン388風に乗って』 森田 リョウジ

 気が付けば、3月がもうじき終わり、令和2年度が終わります。例年とは大きく変わった令和2年度。令和3年度は、溜まりに溜まった、積もりに積もった鬱憤を解消できる、発散できる、そんな1年にしたいものです。4月の風が、春の訪れを告げると共に、演劇の復活の狼煙を巻き上げてくれることを期待せずにはいられません。


 さて。コロナ禍にあって心身のパランスを整えるために、屋内ではヨガやゲーム、屋外ではソロキャンプなどを楽しむ人が増えたと聞きます。私もこれまで憧れをもってはいたのだけれどやれていなかったことを始めてみました。

 「バイク」です。

 密を避ける観点から、屋外で楽しめることをしたいと考えた私は、バイクに行き着きました。全くのにわかで知識はほとんどありません。ただ純粋に憧れだけで始めました。20年ちょっとぶりに教習所にも通いました。


 シブパの前回公演『今度は愛妻家』で、ある登場人物が言っていました。「四十になったとき、ふと考えちゃったのよね。人生残り半分。自分のことだましたまま死んでいくのかって思ったら、急に虚しくなってね……。それである日思いきって……」と。また、私が演じたある登場人物は、素直になれずに取らなかった行動で大切なものを失ってしまったことを、いつまでもいつまでも悔いていました。

 これらの演劇上の出来事は、確実に私の背中を後押ししてくれました。そりゃあ、演劇上のことは絵空事だし、登場人物が経験した事柄と私のチャレンジした事柄の大きさは違いますが、その時を懸命に生きて後悔しないようにしようという想いは、共通だったのかなと思います。

 だから私は演劇を続けるのです。演劇には、人の心を、人の身体を動かす力がある、と思うのです。観た人の、演じた人のその後の人生を豊かにする力がある、と。その意味では私は、コロナ禍という時勢に乗って、そして直前の演劇経験の流れに乗って、バイクを必然的に始めたのかな、とも思います。


 4月。これから春風が、そして薫風が心地よい時季になります。まだまだ思うように演劇活動はできないけれど、その間に私は、風に乗って、季節を楽しんできたいと思います。