劇団員コラム
シーン246『『会話』と『対話』』 沢村 希利子
会話の対話の違いとは何でしょうか?
結婚してひとり暮らしから夫と2人の生活になり1年。
家庭でのコミュニケーション、家族の在り方について考えることが多くなりました。
辞書によれば、
会話:二人または数人が、互いに話したり聞いたりして、共通の話を進めること。また、その話。「―を交わす」
対話:双方向かい合って話をすること。また、その話。比喩的にも用いる。「―しようと努める」
劇作家・平田オリザ氏は、著書「演劇入門」の中で「会話と対話は違う」と述べています。
会話は内輪で行うおしゃべりであり、対話は価値観の違う他者と向き合うコミュニケーションである。
人はそれぞれ違い環境で生きてきて、違うものを見て、違うことを感じ、違うことを考えます。
演劇を作る時、まずそれを前提として戯曲が作られます。
価値観の違う者たちが何らかの宿命に出会い、意見がぶつかり合う。それがドラマです。
また、人それぞれ感性が違うのですから、同じ台本を読んで役者やスタッフ全員が同じイメージを持つということはまずありえません。
それぞれがそのまま演技をしてしまえば、観客にまとまったイメージを伝えることができず、作品として成り立たないわけです。
そうした違いをとことん話し合い、すり合わせていく。お互い分かり合えることを出発点とするのはすごく甘いと平田氏は言います。
シブパではこの作業をとても大切にして作品を作っています。
こうした作業・概念は、人と接する上でも重要なのではないでしょうか。
家庭は1番身近で小さいながらも、一つの社会です。
夫婦であれ、親子であれ、たとえ同じ屋根の下で毎日寝食を共にしていても、それぞれが違う人格 であり、違う思想、違う価値観を持って生きています。
その日何があってどう思ったのか。
今どんなことが起きていて何を抱えていてこれからどうしたいのか。
「そういった話を普段からすることが大切」というのは簡単ですし、多くの人がわかっていること だとは思います。
けれど本当に相手の言葉に耳を傾けているかどうか、時々振り返ってみる必要があるのではないでしょうか。
「おはよう」「おやすみなさい」「いってきます」「いってらっしゃい」「ありがとう」「ごめんなさい」
家族に挨拶はできていますか?
食事の時、いつもテレビがついていたりはしませんか?
外出時や食事などの団欒の場で、パソコンやスマートフォンばかり見てはいませんか?
家族と最近どんな話をして、家族がどんなことを考えていると言っていたか、覚えていますか?
家族それぞれがどんな夢を持っているか、知っていますか?
時には意見が対立することもあるでしょう。
時には相手が間違っていると感じることもあるでしょう。
しかし、犯罪に関わるような、よほどのことがない限り、人にはそれぞれの「真実」と「正しさ」が あるのです。
平田氏は言っています。
価値観はばらばらでいい。それをすり合わせて共同体を作っていく、そのためのコミュニケーション能力を 培うことが重要であると。
家庭はとても小さいながらも、人それぞれの生きていく基盤となる重要な共同体です。
そしてそこから人は毎日、社会という大きな共同体へと出ていくのです。
まずは自身の基盤となる共同体での対話を意識して、時には相手の、また時には自分の価値観が変わることさえ楽しめたら良いのではないでしょうか。
参考: 演劇入門(講談社現代新書)
大辞林 第三版
MAMMO TV(インターネットサイト)
イー・ウーマン(インターネットサイト)