劇団員コラム

シーン229『落雷とまとわりつく湿気』 りょーじ

 先日、我が家のすぐ裏に雷が落ちました。停電が起こり、いくつかの家電が壊されてしまいました。改めて、自然の恐ろしさ、尊大さ、自然に対する自分の無力を感じました。衝撃的で、不安で…。でもそれ以上に不思議な高揚感が訪れました。未知のものに触れるドキドキ感。それは、人間にとってある種の性なのかもしれません。


 「雷に打たれる」という機会は、物理的にも、心理的にもあまりありませんね。もちろん物理的に何度も打たれるなんてことは、避雷針でもない限りは、ないに越したことはありませんが…。心理的に雷に打たれる(≒瞬間的に心に強烈な印象を受ける)ということも、人生にそう多くはないと思います。経験が少ない、という意味で年齢が若ければ若いほど、雷に打たれることは多いのでしょうが、30歳も過ぎて、初体験・未経験の出来事が減ってくれば、衝撃的な出来事もまた比例して減ってくるのも必然でしょう。


 自宅付近に雷が落ちた数日後、私の心にも雷が落ちました。ある方から、客演のお話をいただいたのです。演目は私の演劇人生が始まるきっかけとなった本。その場で快諾したい想いをぐっとこらえて、お話を一度持ち帰らせていただきました。2005年以来の客演。自分にできるのか。体力的に。精神的に。時間的に。自分を取り囲む環境的に…。衝撃的で、不安で…。でもそれ以上に不思議な高揚感が訪れて…。その瞬間、私は紛れもなく雷に打たれていました。

 6月中にお返事することをお約束し、その場での話は終わりました。


 雷と言えば、劇団ひとり氏の監督作品「青天の霹靂」が好調のようですね。今やすっかりもじゃもじゃの面白い人として定着した大泉洋氏が主演とあって間違いなく面白いのだろうなと。映画館に何とか足を運びたがっている今日この頃です。

 一方で、あるいは停電のように、あるいは壊れた家電のように、晴れない自分がここにいて…。現実の作品創りは、映画のようにうまくはいかない。どこかでそう思ってしまう現実のもどかしさが、今時分の湿気のようにまとわりつく今日この頃なのです。