摩擦力は物体が運動を始めようとしたとき、または運動しているときに発生する抵抗力(運動を妨げる力)のことです。この摩擦力がなければ人間は歩くことができませんし、タイヤのついた乗り物は前に動くことができません。また、一度動いた乗り物は永遠と動き続け、釘やボルトで組まれた建造物はそよ風で倒れ、鉛筆やチョークでは字が書けなくなり、弦楽器は音が出なくなります。そんな、日常生活において非常に重要な役割を担っているのが摩擦力なのです。
そんな摩擦力は2種類に分類ことができます。一つは静止摩擦力です。静止摩擦力は止まっている物体を動かそうとするときに発生する摩擦力であり、物体を動かそうとする力が大きくなるほど摩擦力も大きくなります。しかし、静止摩擦力には限界があります。この限界時の摩擦力を最大静止摩擦力といい、最大静止摩擦力より大きな力を加えれば物体は動き始めます。動き出す直前を図と式で表すと次のようになります。
このとき、F0は最大静止摩擦力 [N]、μは静止摩擦係数 [単位なし] です。
静止摩擦係数とは接触面の状態によって決まる定数です。また上式より、最大静止摩擦力は垂直抗力に比例し、接触面積の大きさに依存しないことが分かります。これらの法則はアモントンの法則と呼ばれ、まとめると次のようになります。
①摩擦力は見かけの接触面積に依存しない。
②摩擦力は垂直抗力に比例する。
アモントンの法則を最初に発見したのはイタリアの万能人レオナルド・ダ・ヴィンチでした。しかし、現在の研究成果では、アモントンの法則は成り立たないことが証明されています。それは、接触面積が大きいほど摩擦力が小さくなるからです。摩擦力がおよそ数%~数10%ほど変動するこの現象はスティック・スリップ現象と呼ばれており、ミクロレベルで接触面を見ると表面に細かい凹凸があるためにみかけの接触面積になっていないからだと考えられています。しかし、理論式は上式で正しいのでそのまま覚えてもらえれば大丈夫です。
もう一つの摩擦力として動摩擦力があります。動摩擦力は運動している物体に働く摩擦力のことであり、動摩擦力も垂直抗力(重力)に比例します。
このとき、F'は動摩擦力 [N]、μ'は動摩擦係数 [単位なし] です。
動摩擦係数は静止摩擦係数より必ず小さい値をとります。従って、動摩擦力も最大静止摩擦力より小さくなります。静止している物体より動いている物体のほうが力を入れずに動かせることは感覚的、経験的に理解していると思います。また、動摩擦力も最大静止摩擦力と同様に、理論的には接触面積に依存しません。さらには、動いている物体の速度にも依存しません。これらの法則はクーロンの摩擦法則と呼ばれ、まとめると以下のようになります。
①摩擦力は見かけの接触面積に依存しない。
②摩擦力は重力に比例する。
③最大静止摩擦力は動摩擦力より大きい。
④動摩擦力は速度に依存せず、一定である。
シャルル・ド・クーロンはフランスの物理学者、土木技術者であり、電磁気学の基本式の一つであるクーロンの法則を発見したことで有名です。
では、例題を1問解いて終わりとしましょう。
例題:下図のように、質量mの物体を傾角θの斜面にのせた。傾角を少しずつ大きくしたところθ=θ0で物体は滑り出した。このとき静止摩擦係数を求めよ。
まずは、斜面に平行に作用する力を使って釣り合いの式を立てます。
次に、最大静止摩擦力F0について式変形をした後、静止摩擦係数を求めていきます。
物体が動き出すときの角度θ0は摩擦角と呼ばれます。また、静止摩擦係数は摩擦角を測定すれば求めることができます。