風速と吹送距離または吹送時間から風波の波高や周期を求める方法としては、SMB法とPNJ法があります。
SMB法は有義波を求める代表的な方法であり、スベルドラップとムンクが最初に発展させ、ブレットシュナイダーによって補正されました。その名前の頭文字をとってSMB法と呼んでいます。この方法はもともと深海において一定の風が吹く場合を想定したものだったのですが、現在は様々な人に改良され、最も実用的に用いられており、有義波の波高と周期は次式によって表されます。ちなみに、SMB法は第二次大戦の末期に初めて実用化された波浪推算法であり、ノルマンディー上陸作戦を成功させた一因とされています。
下図は上式に基づいて、風速と吹送距離または吹送時間から有義波の波高や周期が求められる図であり、風波を簡単に推定することができます。
一方、PNJ法は波のエネルギースペクトルの発達過程を追って波を推算しようとする方法であり、原理的にはSMB法よりも優れています。その理由としては風波とうねりを連続したものと仮定して取り扱えることが挙げられます。また、PNJ法はピアソン、ノイマン、ジェームズの頭文字をとっています。
風域内で発生した風波は風域外に進行するとエネルギー供給がなくなるために、エネルギー密度が低下し、波高は減少、周期は増加するようになります。このような波をうねりといい、風波とうねりを総称して波浪といいます。うねりの推定はブレットシュナイダーが次の推定式を提案しています。
このとき、HDは海岸到達地点での波高 [m/s]、TDは海岸到達地点での周期 [s]、HFは風域終端での波高 [m/s]、TFは風域終端での周期 [s]、Fminは風域の最小吹送距離 [km]、Dは風域終端から海岸到達地点までの距離 [km]、tDはうねりの到達時間 [s] です。
では、例題を3問解いていきます。
例題1:吹送距離200 [km]、風速10 [m/s] が5時間吹いた。この風域終端での波高と周期をSMB法を用いて求めよ。
まずは、図を使って吹送距離と風速から最小吹送時間を求めていきます。吹送時間が最小吹送時間より短い場合は吹送時間、最小吹送時間より長い場合は吹送距離によって決まるのですが、これは有義波の波高と周期が小さい値の方を取れば成立することが下図より分かります。
上図より吹送時間の方が有義波の波高や周期の値が小さくなることが分かります。また、最小吹送時間は16.1 [h] であり、最小吹送時間より吹送時間が短いため、吹送時間と風速から有義波の波高や周期が求められます。従って、有義波の波高(緑)は1.2 [m]、有義波の周期(紫)は3.9 [s] となります。
例題2:吹送距離100 [km]、風速10 [m/s] が10時間吹いた後、吹送距離200 [km]、風速20 [m/s] の風に変化し5時間吹き続けた。この風が吹き始めてから15時間後の風域終端の波高と周期を求めよ。
まずは、吹送距離と風速、吹送時間と風速から有義波の波高と周期の値を求めていきます。このとき、僅差ではありますが吹総距離の方が波高と周期の値が小さくなることが分かります。また、最小吹送時間は9.9 [h]であり、最小吹送時間より吹送時間が長いため、吹送距離と風速から有義波の波高と周期が求められます。従って、有義波の波高(緑)は1.5 [m]、有義波の周期(紫)は4.8 [s] となります。
次に、風速10 [m/s] が10 [h] 吹いたときのエネルギーと風速20 [m/s] がt時間吹いたときのエネルギーを等しくしていきます。
上図より吹送時間は1.8 [h] 程度であることが分かります。この時間は最初から風速20 [m/s] が吹いていると仮定したときの最小吹送時間であり、風速10 [m/s] が10 [h] 吹いたときと風速20 [m/s] が1.8 [h] 吹いたときのエネルギー量が同じであることを表しています。従って、風速20 [m] の有効吹送時間は1.8 [h] と5.0 [h] を足した値6.8 [h] となります。では、有義波の波高と周期を求めていきます。
上図より吹送時間の方が有義波の波高や周期の値が小さくなることが分かります。従って、有義波の波高(緑)は3.6 [m]、有義波の周期(紫)は6.8 [s] となります。
例題3:吹送距離300 [km]、吹送時間18 [h]、風速20 [m/s] の風域を離れた風波が、風の影響を受けずに500 [km] 伝搬したときのうねりの波高、周期、到達時間を求めよ。
まずは、吹送距離と風速、吹送時間と風速から有義波の波高と周期の値を求めていきます。
上図より吹送距離の方が有義波の波高や周期の値が小さくなることが分かります。従って、有義波の波高(緑)は5.4 [m]、有義波の周期(紫)は9.0 [s] となります。この値を使ってブレットシュナイダーの推定式からうねりの波高、周期、到達時間を計算していきます。
まとめとして、波浪を推算する方法としてはSMB法とPNJ法があります。SMB法は有義波を求める代表的な方法であり、スベルドラップ、ムンク、ブレットシュナイダーの頭文字をとってSMB法と呼んでいます。一方、PNJ法は波のエネルギースペクトルの発達過程を追って波浪を推算する方法であり、ピアソン、ノイマン、ジェームズの頭文字をとってPNJ法と呼んでいます。