水面上に風が吹くと波が発生し、そのときの波を風波といいます。風波の発生の機構を明らかにしようとする試みは古くから行われており、まずヘルムホルツは空気と水という密度の異なる層に不安定な条件が生じるためと主張し、次式を提示しました。また、ケルビンは表面張力が重要な役割を果たすと考えて、ヘルムホルツの式を修正しました。
このとき、Kは表面張力 [N/m] です。
では海水が静止している場合を考えます。ケルビンの式に以下の値を代入すると、風速6.4 [m/s] 風が吹かないと風波は発生しない計算となります。しかし、実際は0.4 [m/s] 位の風でも風波は発生します。そのため、風波の発生メカニズムを正確に表現できていないといえます。
「水面上に風が吹くと波が発生し、風が強いほど波は大きくなり、あるところで粘性や砕波によるエネルギー損失の方が大きくなり、波の成長はストップする」、このような過程は誰もがある程度は理解していますが、今もその正確なメカニズムは完全には分かっていません。
現在、風波のメカニズムを表した主要な理論としては、フィリップスの共振理論とマイルズの相互作用理論が挙げられます。共振理論は、風によって海面に働く圧力には様々な周波数のものが含まれており、その周波数に対応した微小な波が発生し、微小な波同士の速度が等しいときに共振作用によって波が大きくなる(形成される)という理論です。一方、相互作用理論は、波面の風上側は速度が速いため圧力は低く、風下側は速度が遅いため圧力は高く、結果として波面に圧力差が生じており、この圧力差によるエネルギーが波を形成しているという理論です。
どちらにしても、風波において重要なのは風速と吹送時間または吹送距離です。風によるエネルギー供給によって波が形成されるまでの時間を吹送時間、波が形成されるまでに進行した海域の長さを吹送距離といいます。また、波が形成されるまでの最小時間を最小吹送時間といい、最小吹送時間を超えて風が吹く場合は吹送距離で波が決定し、最小吹送時間を超えない場合は吹送時間で波が決定します。
風波を発生される風の種類としては、地衡風、傾度風、海上風、台風が挙げられます。
①地衡風
地衡風は気圧傾度力と転向力(コリオリ力)が釣り合ったときに発生する風であり、等圧線に対して平行に吹くことになります。摩擦力は考慮していないため、摩擦力の働かない上層における風を表しています。気圧傾度力は気圧差によって生じる力のことであり、その向きは気圧の高い方から低い方へ等圧線に直角に働きます。また、転向力は北半球では風の進行方向に対して右向きに、南半球では風の進行方向に対して左向きに働きます。そのため、北半球で地衡風が生じるときは必ず気圧の高い方が右側、低い方が左側となります。この地衡風は次式によって表されます。
このとき、Ugsは地衡風速 [m/s]、φは緯度です。
②傾度風
傾度風は気圧傾度力、転向力、遠心力が釣り合ったときに発生する風であり、等圧線が曲線の場合に発生します。そのため、傾度風は等圧線に沿って吹くことになり、次式よって求めることができます。
このとき、Ugrは傾度風速 [m/s]、rは等圧線の曲率半径 [m]であり、符号は低気圧の場合は正、高気圧の場合は負となります。
③海上風
地衡風や傾度風は海面での摩擦を考慮していません。しかし、実際の風は海面での摩擦によって風速が減少します。このように摩擦を考慮した風を海上風といいます。北半球での低気圧における海上風は等圧線の接線から角度αだけ偏って中心へと吹き込み、その方向は反時計回りとなります。この角度αは緯度によって異なるのですが、海面から10 [m] 地点での海上風と傾度風は下表のような関係にあるとされています。
④台風
台風は熱帯低気圧が発達し、最大風速が17.2 [m] 以上になったものをいいます。台風の特徴は気圧の著しい低下と強い風であり、等圧線はほぼ同心円状となります。台風によって発生する風は気圧傾度による傾度風が主体であり、その気圧分布は次式によって表されます。
このとき、pは距離rの地点の気圧 [hPa]、pcは台風の中心気圧 [hPa]、⊿pはある地点の気圧と中心気圧の差 [hPa]、r0は台風の中心から最大風速地点までの距離 [m]、rは台風の中心からの距離 [m] です。
現在はメイヤーの式がよく利用されています。また、メイヤーの式の両辺を対数にとり、半対数紙にプロットすると、切片から⊿pの値が得られます。
また、メイヤーの式を傾度風速に代入すると、台風の傾度風速が求まります。
しかし、傾度風は摩擦力を考慮していません。そこで、摩擦力を考慮し、かつ台風が静止または移動している状態での風速は次式によって表されます。
このとき、U1は台風静止時の風速 [m/s]、Cは摩擦を考慮した定数、Fは距離rの地点の速度 [m/s]、Uは台風移動時の風速 [m/s]、Vは台風中心の速度 [m/s]、F0は距離r0の地点の速度 [m/s] です。
ちなみに、台風の風速における角度αは30°が一般的に使用されています。また、台風の左側は海上風と台風の進行が同じ方向になるため、風速と波高は大きくなります。一方、台風の右側は海上風と台風の進行が逆になるため、風速と波高は小さくなります。このことから、台風の右側は危険半円、左側は可航半円と呼ばれています。
まとめとして、水面上に風が吹いたときに発生する波を風波といい、その発生メカニズムは正確に解明されていません。風波は風速と吹送時間または吹送距離が重要であり、波が形成されるまでの最小時間を最小吹送時間といいます。最小吹送時間を超えて風が吹く場合は吹送距離で波が決定し、最小吹送時間を超えない場合は吹送時間で波が決定します。また、風波を発生される風の種類としては、地衡風、傾度風、海上風、台風が挙げられます。