何ということはない、日曜の昼下がり。1人留守番をしている潤に昼食を作るため、食品類を買い込んだ。今はその帰り道で、荷物を持って電車に乗り込み、上機嫌で耳にワイヤレスイヤホンをつけた。覚醒世界に来た当初はこういった機械類はどうも苦手だったが、潤に使い方を教えてもらうと案外すんなり使いこなすことができるようになった。こんなものがなくとも生活はできるんじゃないかと不思議に思った時期もあったが、最近は有意義な利用方法を思いついたのでこういった技術も捨てたものではないな、と考えを改めた。
スマホを起動し、アプリの再生ボタンを押下すれば、イヤホンから聞こえるのは、少し耳を傾けるだけで口角が上がってしまうほど、甘やかで可愛らしい囀り。
『ん゛ッ……あぁ、ひぐ、あ゛っ……あんっ……ひう゛ぅ゛ッ……』
ヴヴヴヴという武骨な機械音と、愛らしいその声のコントラストに、眩暈のようなものを感じながら。ああ、早く帰って沢山腕の中で甘やかしてどろどろにしてやらなきゃな、と嬉々としてその音色に酔いしれていると、不意に潤が一際大きく声を上げた。
『ッひ、や、あ、ああ゛あ゛あ゛あ゛ッ……!』
電車が自宅最寄りの駅に着いたのか、音を立てて扉が開く。人の波に紛れながら、その場を後にする。その時の俺の顔は、周囲からしたら場にそぐわず獰猛に瞳孔が開いていたかもしれなかったが、そんなことはどうでもいいだろう。
足早に自宅まで歩き、施錠を外し、玄関をガチャリと開ける。すると奥の部屋から、機械越しに聞こえていた可愛らしい喘ぎ。機械音。淫靡な水音が静かな室内に鳴り響いていた。廊下を進み、リビングの方へ向かえば、そこには奇怪な形をした施術台に顔を埋め、手足を黒いベルトで固定された愛らしい青年の姿があった。頭にはヘッドホンと目隠しが付けられ、唇からはだらだらと唾液が零れているのか、施術台の下は小さな水たまりのようになっている。小さく震える身体は、下半身の衣服はズボンだけを取り払われ、屹立には可愛らしい黄色のリボンが括りつけられている。臀部の方からは内部を蹂躙するモーター音。不規則なリズムを刻むそれに翻弄されているのか、その音に合わせてびくりびくりと痙攣する身体が可哀そうで、愛おしい。
「潤。」
一通り買い込んだものを冷蔵庫に入れ、ヘッドホンを外してやる。すると生の声に驚いたのか、それだけで軽く達してしまったのか。潤はギシギシと施術台を揺らし、声を漏らした。
「あ、あぅッ……!ひ、ぴー…たぁ?ん、んぅ……あ゛っ、ひううッ」
「ああ、そうだぜ。……ああこら、駄目だろ無理に施術台から降りようとしたら。固定されてて危ないからな。」
「ん、ん、だってえ……ぴ、たぁに、ひぐッ、抱きしめて、ほし……あ゛ッ!?」
愛らしくおねだりする潤に、つい加虐心がそそられ、ポケットに入ったバイブのコントローラーに手を伸ばす。出力を一気に最大まで引き上げると、目の前の獲物は面白いほど跳ね、ペニスからはぴゅ、ぴゅと小さく先走りが吐き出された。
「はは、可愛いな潤……。けど甘える前に、まずはちゃんと報告しないとな?さ、今日は何回イッたんだ?」
脳に直接言葉を書き込み、指令を出すように。耳元で低く囁く。すると、潤は小さく「ぁ…」と幸せそうに声を漏らし、は、は、と仔犬のように熱い吐息を吐いた。
「ひ、ぁ、あ゛ッ!あ……さ、さんかい、さんかい、んう、きもちよく、なっちゃ、ひ、ごめ、ごめん、なさい、ぴーたー、ん、んぁ゛あ゛、ーーッ……!」
報告を聞きながら、懸命に勃ち上がり存在を主張する潤自身に手袋のまま指を絡め、上下に扱き上げる。時折亀頭を親指でぐりぐりと押し込むと、愛らしい喉を晒し、仰け反った。
「へえ……三回?ああ……確かに床がどろどろだもんな。ちゃんと聞いてたぜ。この張り型を締め付けて、可愛い声を上げてイってたの。けど俺以外のモノで勝手にイッたら駄目って約束だったよな?覚えてるか?」
「ぁ、ぁ、ぉぼえ、てう、んぁ、れも、ぴーたーの、声、ずっと、聞こえてて、おなか、きゅうってしちゃって…ぁ……。」
かちり、とバイブの振動を止め、軽く潤の腰を浮かさせる。そして怪我をしないようにゆっくりと、奥まで侵入した玩具を抜き取った。すると、蕾は一瞬きゅう、とそれを締め付けると、はくはくと伸縮を繰り返し、ぽっかりと口を広げる。突然刺激を取り上げられ、切なげに声を上げた潤にずくりと下半身に熱が集まるのを感じた。
いじらしく震えるそれを焦らすように人差し指で先端へ向かってなぞり、ぽたぽたと溢れる先走りを掬う。ぴくん、と可愛らしく身体を揺らす潤に口角を上げながらも、掬ったものを物欲しげに収縮を繰り返す入口に軽く塗りつけ、つぷん……と内部へ差し込んだ。再び与えられた異物に歓喜するように指に食いつくそこは、出会った当初からは考えられないほど貪欲で、与えられる幸せを決して手放そうとしなかった。貪婪な秘部の具合を確認するように、指で蜜壺を弄び、耳に舌を捻じ込む。
耳を食む合間に、時折「可愛い」と囁けば、それだけで軽く達してしまったのかびくびくと身体を震わせ、譫言のように俺の名前を呼んだ。
新しい言葉を覚えたての子供のように「ぴーたー、ぴーたー」と同じ言の葉を紡ぐその姿は、純粋でいて、どこかひな鳥が親を探しているようにも見えた。ちゃんとここにいることを教えてやるために、まずは目隠しを外す。目線を合わせるため顎を掴んで此方を向かせると、一瞬眩しさに目を細めた後、ぱちぱちと大きな瞳を瞬かせた。そして、俺のことを視認すると、花が色づき、朝を迎えて光を求める朝顔のように愛らしく笑った。
その表情の幼稚さと淫靡に色づく肢体のギャップにくらりと眩暈がする。
……ああ、すっかり俺に与えられる快楽とこの行為を純粋な「愛」と信じ込み、無垢にエメラルドを揺らすこの生き物が。頭から指の先に至るまで俺好みに作り変えられてしまった身体が。弱みに付け込まれ、哀れにも歪められた独占欲の檻に捉えられた繊細な心が。甘くて、愛おしくて、堪らない。
手足の拘束を外し、ぐったりとした身体をそっと抱き上げてやると、潤は残った力をふり絞るようにぎゅっと首に手を回して抱き着いてくる。
「……えへへ、ぴーたー、ぴーたーだぁ……。」
俺の首元に鼻を擦りつけ幸せそうに甘える潤の額に口付け、一度自身の膝の上に向かい合わせになるよう座らせる。そして先程店で買ってきたミネラルウォーターを口に含み、潤の唇に口付けた。咳込まないように、潤の口内へとゆっくりと。慎重に流し込むと、喉仏が上下にこくりと動くのが分かった。何度かそれを繰り返すと、ペットボトルの中身が半分程度まで減ったのが分かった。
冷水でひんやりと冷えた口内に、今度は熱を分け与えるように舌で潤の口腔を味わう。すると、懸命に応えようとしているのか潤も舌を絡めてきたので、柔いそれをぢゅ、と音を立てて吸い上げると、腰がビクリと震えるのが分かった。
…どれだけそうしていたか。
充分にぬるりとした口内と肉の感触を堪能した後、そっと唇を離す。すると潤は酸欠のせいか、与えられた愛に酔ってしまったのか。すっかりとろんとした表情で脱力していた。そんな潤の身体を自分に寄りかからせるようにして抱きとめ、頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ちゃんと最後まで留守番もできて、水も零さずに飲めたな。偉いぞ。」
「……っぁ、うん。えへへ、あり、がと。ピーター。」
潤はぎゅっと俺の背中に手をやり、甘えてくる。背中を擦り、暫く潤の好きなようにさせていると、今度は目線を左右に揺らしながらもじもじと身を捩り始めた。ああ。そういえば……。ふと思い立って潤のモノに視線を向ければ、そこは黄色のリボンを結びつけられたまま、透明な粘液を溢れさせ、必死に主張するように震えていた。
「……潤、してほしいことがあるならおねだり。できるな?」
「ぁ……。」
意地悪く微笑みながら、潤の唇を親指でなぞる。すると、潤は小さくこくりと頷き、熱に浮かされたような表情のまま、甘えた声でこう強請った。
「ぴーたー、ピーターので、オレの中いっぱい、突いて、イかせてほしい……!オレ、さっきの玩具じゃなくて、ぴーたーのが好き、ピーターのが、いい……!」
「このリボンはこのままでいいのか?」
「ぁ…っ、外して、くれるの?で、も、折角ピーターに付けて貰ったのに……んっ。可愛いって、言ってくれた、のに…ぁぅっ。」
胸の飾りを悪戯に指で転がしながら、ぐっしょりと濡れたリボンの上から屹立を撫でる。こぷ、先端からと吐き出される涙。びくりと踊る肢体。
淫美に身を晒し、潤は幸せそうに声を漏らした。俺から与えられるものは、どんなものでも嬉しくて仕方ないといった顔。蕩けたようにはくはくと口を開閉させるその姿は、どこまでも純粋で、盲目的で。……歪なほど俺に従順で、可愛らしい。
「はは、確かにこのリボンを着けた潤は可愛いな。……けど、これをつけたままだと、繋がった時俺と一緒に達せないだろ?いいのか、それで?」
「ぁ、や、やだ……!ピーターと一緒がいい……!」
潤はぶんぶんと頭を振り、ぎゅう、と俺の頭を抱えて縋り付く。押し付けられた首筋から、汗と清潔な石鹸のような匂いが香る。どこか懐かしいようなその香りに感じる安堵感。不思議なその感覚に酔いしれる。
「そうだな、一緒がいいよな?……安心していいぜ。俺が満足する頃になったら、ちゃんと外してやるから。な?」
駄々を捏ねる潤の背中をぽんぽんと撫でてやり、安心させるように優しく囁く。すると小さく「うん…。」と頷き、潤の身体が脱力し、身を委ねてくる。触れ合う体温が温かくて、心地いい。
……不意に幼い頃。まだ誰の温もりを知らない頃。初めて与えられた人肌の、むず痒いような感覚を思い出す。当時は良く理解できていなかったが、あの時、そして今感じているこの感覚が人間で言う「愛慕」で、無意識下でずっと渇望していたものなのだろう。
俺が望めば簡単に、脆く泡のように弾けてしまうであろう腕の中の生き物が愛おしい。壊れないように丁寧に、丁寧に潤を抱きしめる手を強めれば、潤はより一層幸せそうに擦り寄る。
「潤。……愛してる。」
「ぁ……えへへ、オレも。オレもあいしてるよ、ピーター。」
自身を潤の蕾にあてがい潤の体重を利用して、ずぷん、と一気に貫く。その刺激に、愛情に、歓喜の嬌声を上げた潤に、笑みを深くしながら。俺はただただ欲に身を任せ、目の前の獲物を貪った。
泡沫
いつか目の前の愛する人を壊してしまうとしても。独占欲を、愛欲を、幸せを。……決して手放すことはできない。