ゼミ志望を考えている皆さんへ

はじめに

 私はデザインの力で自分たちが欲しい世界や未来をつくりたい!と本気で考えています。というのも,なぜ自分たちの暮らしや未来のことなのに,生まれたときから決まっている社会の仕組みやルール,大人の価値観に従って生きていくことが「素晴らしい!」とされているのか長らく理解できずにいました。だったら,自分たちが欲しい暮らしを自分たちでつくればいいんだ!と気づいてからは,生きていくことは楽しい!面白い!と思えるようになりました。世の中を動かしている大きな仕組みやルールをたったひとりで変えていくことは大変ですが,一人より二人,二人より四人,さらに多くの力が合わされば道を塞いでいる大きな岩を少しずつ動かしていくことができると強く信じています。

 だからといって,プレゼミや卒業研究において,何かとてつもなく大きなことを実現しなくてはいけない!ということではありません。大きな志を持ちつつ,その志を実現するために自分が何をすることができるのか?そのようなことを考え,そして小さなところからでも実践していくことが大事だと考えています.合言葉は"Think Globally, Act Locally" です。

 私が考える「人間空間」とは建築物のような物理的に存在しているものだけでなく,もっと広く人間社会そのものまで及びます。ですので,目に見えるモノのデザインだけでなく,人と人,人とコミュニティ,人と組織との関係といった直接目には見えないようなものを,この先どのように構築していくのか?ということもデザインが扱うことのできる対象だと考えています。そして,さらに大事なことはアドホック(その場限り)なデザインではなく,時間が流れていく中でも自分たちが望む状況を引き起こし続けることができるサステイナブル(持続可能)なデザインを実現することです。一瞬だけで満足するようなものは,すぐに大きな波に飲み込まれてなかったことにされてしまうことがよくあります。そのような意味において私は「ソーシャルデザイン」ではなく,環境に応じて変化する社会システムそのものまでをデザインすることまでを含めた「ソーシャル"システム"デザイン」という看板を研究室名として掲げることにしました。

 社会を変えるなんて,はっきり言って簡単ではないチャレンジですが,一筋縄ではいかないからこそのワクワクや面白さがあると思います(簡単なものほどすぐ飽きるというものです)。自分たちが欲しいものをボトムアップにつくることで地域社会が幸せになる活動に一緒に打ち込んでみませんか?大学生活で何か一生懸命やりきった!ということを胸を張って言いたい!という人をお待ちしています。私はこれからのデザイナーは,ある問題に対して根本の部分から考え,分析し,そして他者としっかり議論しながら解決方法を生み出していく能力が求められると考えています。皆さんが持っているスキルをさらに活かすために「モノやコトの見方や考え方,そして新しいものを生み出す力」を磨いて,一緒に楽しく研究できることを期待しています。

研究テーマについて

 自分自身の内側から湧き出てくるもの,つまり自分が心からやりたい!と強く想うものでなければ主体的に取り組むことはできません。ですので,私からテーマについて皆さんにこれをやってくださいと提案することはありません。だからといって,現時点でやりたいことが決まっていない人を排除するものではありません(むしろ決まっていない人のほうが向いているかもしれません)。皆さんの興味・関心について話し合う(時には雑談したり,フィールドワークしながら)ことで一緒に研究テーマについて考えていくつもりです。また作品制作をされたい方も歓迎いたします。

ゼミについて

 特定のデザインスキルの向上よりも,デザインプロセスにおけるモノやコトの見方や考え方,さらにそれらを言葉によって伝えられることを重視しています。デザインを専門としない多様な人たちと一緒にデザイン活動を行うためには,デザインプロセスをブラックボックス化せずに言葉で他者と共有することが必要不可欠になります。そのため,私はあらゆる場面において「なぜ」「どうして」という問いかけを行っていきます。こうした問いかけに答えられることは,皆さんが将来,様々なバックグラウンドを持つ人たちと一緒にデザイン活動をしていく中で役立つだけでなく,ものごとを俯瞰的に捉えることができる,自分の考えや行動を振り返る(内省)ことができるといったメタ認知能力を養うことにも繋がります。私はこうした能力は天賦の才ではなく,日頃の訓練によって身につけられると考えています。1年間,ないしは2年間のゼミ活動を通じて,じっくり培っていければと思っています。

 私が一方的にやるべきことを指示するような研究指導は一切ありません。どちらかというと私も皆さんの研究テーマについて勉強して一緒に考えていくという姿勢です。特に大学院生は研究者の卵ですので,共に研究を進める共同研究者のような立場で接します。当たり前ですが,大学院生は指導教員の研究を手伝う存在ではありません。共に良い研究を実践するためのパートナーかつサポーターとして修了まで伴走するつもりです。