海外の大学と日本の大学の違い

私は日本と北米(カナダ)両方の国の大学学部教育を経験し、

というふたつの学位を取得することができました(私の経歴については私の本業である理工学系英語翻訳通訳業のサイト内経歴ページをご覧ください)。


大学教育は、日本か北米かどちらか片方、あるいは、日本の学部をメインにして、学部在学中に短期間だけ北米に交換留学、または、学部は日本で、大学院で北米、というのが一般的なパターンと思われます。学部教育をふたつの国で最初から最後までやりきるというのは比較的希少な例だと思われます。


一方で、入学前に日本の大学と海外の大学を並列で比較検討される方は、今後も増加していく傾向にあるのではないかと思われます。そういう方々にとっては、学部教育をふたつの国で受けた私のような人間の情報が参考になるかもしれません。私も留学前にはネット上のいろいろな情報を参考にさせていただいたという経験がありますので、私の情報も見知らぬ誰かの役に立つかもしれないと考え文章として残しておこうと思いました。


注意事項:

等々の要因で、厳密な意味での客観的比較は困難だと思います。ただ、材料は多いほど、個々の意見のバイアスは希釈化すると思われますので、判断される方々が利用する多くの材料の一部になればと思って書いていきます。尚、東京外国語大学在籍はかなり昔の話ですが、ダルハウジー大学在籍は2003年9月から2007年5月までの話です。在学中から為替レートはかなり変動しましたが、本質的な話はそれほど変わってはいないと思います。

ワークロード

北米(アメリカ・カナダ)の大学の一番の特徴は、なんといっても、厳しさだと思います。私は日本の大学通学時は、真剣な学生ではありませんでしたので、日本の大学の厳しさを知っているとは言いがたい部分はありますが、その辺を割り引いても、日本の大学と北米の大学(アメリカ・カナダ各州のトップスクールレベル)を同じ土俵で比較するには、北米の大学に失礼な気がします。


北米では、よく『大学時代は人生で一番忙しい時期』と言われています。もちろん、勉強に追いまくられて、という意味です。そういう環境で勉強した後に、日本のテレビ等で、『時間のある大学時代にもっと〇〇やっておけば良かった』とか、『学生時代を楽しんで』とか、いう発言を聞くと非常に違和感を覚えます。なぜなら、北米の大学では、学期中は自由になる時間など殆ど無いからです。


例えば、理系であれば、朝8時半から14時くらいまでは講義と演習(大学によって、tutorial チュートリアルとか、recitationとか名称は異なりますが、主に大学院生・postdoc等のteaching assistantによる例題演習です)でおおよそ埋まり、14時~17時はlabとよばれる実習です。Labは週2程度で履修計画を組むのが普通で、週3はちょっと冒険的で処理能力によってはGPAを下げかねないので要注意。週4はクレイジー。

ちなみに、わたしは1年目はbio/chem/physicsで週3 labs、2年目はphysical chem/organic chem/inorganic chem(ほぼ毎週) + cell bio/genetics(隔週入れ替わり)で週4 labsをやりました。特に2年目はteaching assistantsの大学院生にはカナダの大学をなめた取り方と言われて、実際lab準備で忙しすぎて、テストの勉強ができないという事態になってしまい、GPAを下げてしまったので後期で減らしました。これに、毎週各講義課目ごとにassignmentと呼ばれる宿題・課題がたっぷりあり、各labごとにprelabという実習前課題とlab reportという実験後のレポートがあります。それら毎週のroutinesに加え、各講義ごとにmidtermと呼ばれる学期中の中間テストが9-12月学期・1-4学期のそれぞれの学期中に1-2回はあります。Essayまたはformal paperは講義またはlabの範囲で各講義1回程度。


こんなワークロードなので、平日は夜中まで勉強、土日ももちろん1日中勉強、というのが普通です。図書館はそういう学生の需要に答えるべく、夜中の12時閉館。自習のできるコンピュータ・サイエンスのビルディングは24時間開放。図書館は地元の人にも開放しているため、24時間開放にすると、ホームレスが入り込んでしまうため、12時で閉めざるを得ないらしいですが、コンピュータ・サイエンス・ビルディングは学生のみIDで出入り管理可能なので、24時間開館可能というわけです。

学期中はテレビ等は見る暇は全くないので、買うのは無駄です。私は暇なときにフランス語放送を聞いてフランス語用の耳を作ろうかなと思って通常のインターネットに加えてケーブルテレビも契約してテレビは買ったのですが、ほとんど見ることなく(学期中トータルでおそらく半日も見ていないと思います)学期終了後に大家さんに売却しました。金曜日となると、翌日講義がないので、思う存分assignmentができるということで、夜遅くまでやっていました。クラスメイトと3時過ぎまでやったことも何度か。


こんな生活ですので、日本の大学生がやる飲み会という行事は学期中はありません。パーティーはあっても、final exam終了後。文系はlabがない分、学期中でもたまには街に出れると聞いたことはあります。あと日本の学生がよくやるアルバイトを学期中にやっている学生も非常に少ないと思います。特にhonorsと呼ばれる優等課程では、ワークロードからいって、アルバイトをやっていたら確実に成績を落としてしまうので、アルバイトをしている学生はほぼ皆無だと思います。そんな暇あったら勉強しろよという空気満々です。優等課程ではなくても、留学生でアルバイトをやっているような学生は、より簡単な学部へ、あるいは、より簡単な大学へ、とドロップアウトしていくケースが多いと思います。

向うは9月新学期なので、第1週は皆綺麗に日焼けしたり顔色もいいのですが、2-3週間経つと寝不足で、皆一気に顔色が悪くなって、髪ボサほったらかし、になるところは、ちょっと笑えます。日本のオシャレな女子大生とは異次元の身なりです。とにかく、学期始まったら、オチオチ風邪も引けません。


ちなみに、私は、入学時点で、英検1級、TOEFL270(≒ TOEIC 980)でしたし、社会人経験済み、それもかなり仕事量的には厳しいと言われる総合商社で海外駐在を経ての学生でしたので、事務処理能力は入学したての平均的カナダ人の学生以上だったと思います。それでも、学期末には処理能力目一杯まで上げないと無理でした。私は商社勤務時代でもっとも忙しかったのは、ノルウェー駐在時、Nor-Shippingという海運業界の国際展示会の幹事商社として、期間中に日常業務と幹事商社業務の両方を捌かなければいけなかったときでしたが、その当時は頭も身体も動かすのに忙しかったという感じで、ダルハウジーでは頭を動かすだけでそれを上回るくらいの忙しさでした。