「冷えると痛む」症状が、
必死に温めても治らない理由
真冬の季節、気温が氷点下になる日も珍しくありません。
慢性的に不具合を感じる部位や、以前痛めたところが再び痛み出すことはないでしょうか。
「冷えると痛むから、とにかく温める」
実はこの取り組みが、本当の回復を後回しにしているケースが見られます。
足湯、ホッカイロ、ホットパック、温感ジェル、防寒サポーター。
できることはすべてやっている、という方も少なくないでしょう。
しかし現実はどうでしょうか。
一時的に和らいだように感じても、負荷をかければ元に戻る。
むしろ、日を追うごとに少しずつ悪くなっていく。
冷えは「最後の引き金」にすぎない
多くの場合、冷えが痛みを引き起こしていると考えがちです。
しかし実際は「すでに傷んだ部位」が冷えの影響を受けている、というのが正確な見方です。
一例として、体が負荷を許容できる上限(痛みや故障の発生点)を100とした場合、
① 体の状態:30(新たに負荷をかけなくても、これまでの蓄積により傷んでいる状態)
② 生活負荷:20(仕事、学業、生活環境、睡眠、栄養の過不足など)
③ 競技負荷:40(トレーニング負荷、レース、連戦など)
(ここまででは、ギリギリ発症しない)
そこに
④ 冷え:10
が加わると、痛み・故障の発生(30+20+40+10=100)という構図になります。
温めて反応するのは「正常な組織」だけ
簡単に購入できる物だけでなく、近年は「深部温熱効果」をうたう遠赤外線治療器や超音波治療器などを、多くのチームが導入しているようです。
それでも、温めることで実際に反応が起こるのは「正常な組織」だけだということをご存知でしょうか。
これが、どれだけ温めても、高価な器具を使っても改善しない理由です。
慢性的に痛みが出たり、消えたりを繰り返している部位は、すでに正常とは言えません。
では、温めても変化が起こらない組織は、どのようにして形成されるのでしょうか。
「組織変性」はどのようにして起こるのか
特に中長距離走の負荷は「蓄積型」と言われます。
中強度 × 長時間 × 反復性
この負荷が日々積み重なります。
第一段階:回復不十分
第二段階:慢性的な筋収縮
第三段階:組織の圧迫と血流低下+酸素不足
第四段階:組織変性
・硬結:筋肉が局所的に塊状・板状に硬くなった状態
・癒着:組織同士が貼りつき、滑走性が失われた状態
・肥厚:組織が太くなり、周囲と摩擦を引き起こす
・鬱血:古い血液が滞留し、循環と修復が阻害される
・線維化:伸縮性を失い、線状に硬く変質した状態
第五段階:(年単位に続くと)再生能力が著しく低下した組織が固定化される
・重症化するまで異変に気づかない
・鍼を刺しても感覚がない …など
(イメージとしては)長期的に酸素不足が続き、局所的な窒息状態に近づき、壊死しかけているような状態です。
温めることで血流が促進され、症状が改善するのは第三段階までです。
第四段階以降になると、いくら温め続けても体は反応しなくなります。
故障は複合要因の総計で発生する
ここで、最初に一例として出した式を整理します。
例えば、体が負荷を許容できる上限(痛みや故障の発生点)を100とした場合、
① 体の状態:30
② 生活負荷:20
③ 競技負荷:40
(ここまででは、ギリギリ発症しない)
④ 冷え:10
→ 痛み・故障の発生(30+20+40+10=100)
しかし、これはあくまで一例です。
例えば、競技歴が長く、故障を治しきれないまま無理を重ねてきた場合や、
痛み止めを服用して痛みを抑え込んできた場合などは、
①だけで50~80を占めていることもあります。
その状態は、「高負荷をかけなくても常に発症寸前」ということです。
続いて、睡眠不足や飲食の不摂生、激務の仕事や生活の乱れが慢性化している場合は、
②だけでも50~80に達していることもあります。
④についても、冷え対策を怠れば数値が大きくなることもありますが、多くの場合は最後の引き金にすぎません。
その状態で冷え対策だけを続けても、体にかかる負荷の総量はほとんど下がらないのです。
結局、何をすれば良いのか
①に対しては、徹底的な治療。
→安易なものではなく、変性した組織を再生させるために的確な刺激を入れることが不可欠です。
②に対しては、養生。
→睡眠、栄養、生活面の立て直しです。
特にフルタイムで働きながら競技をしている方は、生活負荷が非常に高いため、この部分のテコ入れが(トレーニング以上に)効果的な場合があります。
③に対しては、負荷の調整。
→どれだけ①②④を徹底していても、中長距離走の反復負荷を考えれば常に油断はできません。
④に対しては、冷え対策。
→最後の一押しにすぎませんが、悪化要素の一因を減らすという意味で大切です。
よく、「あなたの故障の根本原因は○○だ」と、一部分だけを切り取って強調する情報を耳にします。
しかし、故障は複合要因の総計という事実に目を向ければ、そんなに単純に言えるはずがありません。
最後に
春になれば気温が上がり、冷えると痛む症状は多少楽になることもあるでしょう。
しかし、それを「良し」と判断すれば、きっと来期も同じ症状に悩まされることになります。
それが、これまで何度も見てきた現実です。
中長距離走を極めることは、時間をかけて「特殊能力」を開発する行為とも言えます。
目指すレベルが高くなるほど、必然的に故障やトラブルの発生リスクも高くなります。
だからこそ、そのリスクと正しく向き合い、管理することが必要です。
日々行っている対策が、本当に今の状態に適していることなのか。
今一度、シビアに見直してみてはいかがでしょうか。