そのアイシング、本当に必要?
いまだに根強い「痛みが出たらアイシング」という考え方。
その常識が、故障からの回復を妨げている可能性があることをご存知でしょうか。
まずはアイシングが広まった背景を知り、今の自分に本当に必要か、考え直すきっかけにしていただければと思います。
「アイシングの歴史」
今から約50年前、アメリカの整形外科医が提唱したのがアイシング(及びRICE処置)です。
当時は「炎症=悪」という考え方が主流で、冷やして炎症を抑えることが回復を早めると信じられていました。
この考えが広まり、スポーツの現場でも「怪我をしたらアイシング」が常識になったようです。
脚が痛いと訴えると「とりあえず冷やしておけ」と言われたことが、一度はあるのではないでしょうか。
しかし、不快な炎症反応にも意味があり、壊れた組織の修復に欠かせないプロセスであることも事実。
鍼治療でつけるキズ、灸治療の火傷(やけど)も、意図的に炎症反応を起こして再生を促していることも、鍼灸治療を受ける上で必ず知っておきたいポイントです。
(そのため故障の治療においては、施術後に良い感覚が得られるまでに数日必要なわけです。)
あまり知られていませんが、実は約10年前、RICEを提唱した医師本人も、RICE処置の推奨を撤回しているそうです。
「炎症を抑えることで、逆に治癒を妨げることがある。」
炎症反応により免疫細胞が集まり、壊死した組織を片付け、成長因子を放出する。そこから初めて修復が始まるのです。
冷やしすぎれば血流は低下し、必要な酸素も栄養も届きにくくなります。
一方、アイシングをすれば痛みが軽減する感覚があるのはなぜでしょうか?
それは血管が収縮し、血流が低下すれば腫れは「一時的に」抑えられ、組織の圧迫が減ることで「一時的に」痛みが軽減されるからです。
要は一時的に痛みをごまかすことはできるが、治癒そのものを遅らせている可能性があるということです。
※もちろん、炎症にも程度があり、日常生活に支障が出るレベルの腫れなどは、一時的に冷やすことが必要な場合もあります。
早く治すために… 自分でできることは何か?
よく選手から「自分でできることはありませんか」と聞かれます。
気持ちは痛いほどわかるのですが、これをやれば良い、あれをやれば良い… という、安易な情報や道具で溢れていることが一番の問題だと感じています。
まず大切なことは、良かれと思って、回復の妨げになっていることはないか、一つひとつ見直すことではないでしょうか。
アイシングも「今の状態で本当に必要?」と考えた上で、するかしないかを決めてみてはいかがでしょうか。
【補足】
① 炎天下の運動では「冷却は必須」
これまで書いたことは「故障に対するアイシング」であり、「体温調節のための冷却」と混同してはいけません。
・故障からの修復を促すために冷やす → ほとんどの場合不要、逆効果のことが多い
・炎天下での体温上昇を抑えるために冷やす → 必須
当然ながら、厳しい暑さでの運動時は、首、脇、股間(鼡径部)などの太い血管を冷やすこと、または冷水で全身を冷やすことを勧めます。
これは組織修復のためではなく、体温を下げるための処置なので別物です。
② 温冷交代浴について
冷却による血管収縮と、温熱による血管拡張を繰り返すことで、疲労物質や老廃物を除去する効果はあると考えます。
(ただし運動直後~翌日ぐらいまでの急性疲労に限る)
故障の場合は局所的、かつ長期的に血行不良が続いている可能性が高いため、温冷交代浴はほとんど意味がありません。
③ ラグビー、サッカー、格闘技などのコンタクトスポーツでアイシングするのはなぜか
打撲などの急性外傷への対応のため、まずは腫脹と出血を抑えるのが最優先であること、一旦痛みを抑えて次に備える(試合を続ける)ための措置と考えられます。
中長距離選手の故障とは、全く性質が異なることがわかります。