①錆の原理
錆とは金属が酸化することで、金属から他の物質へ電子やイオンが移動することによって起こります。そのため、表面に電解質である水溶液がないと鉄は錆びることはありません。鉄の表面に結露したり、雨水が付着することによって錆びが発生します。鉄が錆びる上で、水のほかのもうひとつの要素は、酸素です。酸素がないと鉄は錆びることはありません。また、水に強電解質である塩(塩基)が加わると、錆の発生が促進されます。
具体例としては、海の近くで自動車を使い続けると、錆が進行しやすいです。これは海水に塩分が含まれるためです。また、雪国等でよく見る融雪剤にも塩分が含まれるため、錆を促進してしまいます。
②錆を段階的に見ていく
<第一段階>
表面が錆びている状態です。まだ処置は可能です。
<第二段階>
黒皮が残っている状態です。まだ処置は可能です。
<第三段階>
黒皮が取れて錆が進行している状態です。
処置は可能ですが、錆転換剤を使用して早急に錆の進行を止める必要があります。ここが処置可能なギリギリの限界点と言えます。
<第四段階>
錆が進行し、もはや処置は不可能となりました。こうなる前に処置を施し、錆の進行を止めるようにしましょう。ここまで錆が進行すると、部品としては強度が著しく損なわれているため、使用は基本的には出来ないと考えて良いと思います。
③錆の種類三態
金属の表面は酸化物超薄膜と呼ばれる酸化皮膜に覆われています。
そしてこの酸化皮膜に水が付着すると、各々の金属の種類によって3種類の化合物に変質します。
・ステンレス、チタン、アルミ、炭素
1つは、水酸化物を含んだ不活性皮膜と呼ばれるもので、ステンレスやチタン、アルミ、炭素などの金属の表面に生成されます。これらの金属は、この皮膜に覆われることで保護されるので腐食しにくくなります。
・銅、亜鉛、ニッケル
2つ目は、化成皮膜と呼ばれる塩基性の錆で、銅や亜鉛、ニッケルなどに生成されます。銅の錆として知られる緑青などはこのなかに分類されます。
・鉄
そして3つ目が、よく目にする鉄の赤錆です。
これは、水酸化物がコロイド状に錆びついたもので、鉄に発生する赤錆は、表面に付着しているだけなので、衝撃や摩擦で簡単に剥げ落ちてしまいます。また、水にも溶けやすいため、再びその部分に新たな水酸化物が生成され、これを繰り返すことで鉄は次第に劣化していきます。
一般に、こうした水酸化物や水酸化物の皮膜のことを、錆と呼んでいます。
イオン化傾向からすると、アルミは鉄に比べ活性であり、はるかに錆びやすいはずなのですが、常温の大気中では錆(酸化皮膜)によって保護されているため、錆は発生しにくいということになります。
④錆の防ぎ方
錆の防ぎ方はとても面白いので、ここを重点的に読んで頂けると良いと思います。
錆を防ぐ方法として現在主流なのは、表面処理剤です。表面処理剤とは、金属の表面に人工的に錆被膜を生じさせ、それによって錆の進行を防ごうというものです。まさに「毒を以て毒を制す」ですね。この表面処理剤は、総称ではウォッシュプライマーもしくはエッチングプライマーと呼ぶもので、ほとんどの製品がリン酸を主体としたものです。リン酸に他の酸や有機溶剤、界面活性剤などを混合したものが製品化されています。
酸は酸化皮膜を作るのと同時に、すでに発生している錆を落とす効果もあわせもっています。
錆の除去能力だけから言うと、実際には、リン酸よりも塩酸や硫酸のほうが強いのですが、リン酸は鉄と反応し、薄いリン酸第二鉄の皮膜を形成します。この皮膜は水に溶けないので、処理後水洗いが可能であり、洗浄後、空気や湿気にさらされても錆が発生しにくくなります。
ところで、鉄は酸と反応し酸化鉄を作る際に水素を発生します。そして、発生した水素の一部が鉄に吸収されると水素脆性という現象を引き起こします。鉄の組織内に原子状水素を取り込んでしまうことにより、鉄がもろくなってしまうのです。しかも、この現象は強度がある高張力鋼板や炭素鋼板ほど起こりやすいです。塩酸や硫酸などの強い酸を使用する場合には、この点に注意が必要です。また、メッキを行う際にも酸洗いを行いますから、この場合にも水素脆性は起こります。メッキしたスプリングやシャフトが折れやすいのはこのためです。
また、発生した水素はリン酸塩皮膜の表面にも小さな穴をあけます。さらに、リン酸塩の結晶は鉄鋼の表面で結晶核となって、それが成長し皮膜となり、皮膜表面には微細な凹凸ができるため、密着力が上がります。これがリン酸被膜の下処理の原理です。 注意としては、この状態で長く放置すると、水素ガスが抜けた穴から酸素や水が供給され錆が発生するため、短時間(1hr.)の後に、中塗りをオーバーコートする必要があります。塗装方法は厚付けせずに薄く塗ることがポイント。また、アルコール系溶剤を含むため、水分をよびやすい(かぶったように白くなる)ので、梅雨時や湿度の高いときは注意が必要です。また、旧塗膜の上にはウォッシュプライマーは効果はありません。ほかに、リン酸被膜の上にダイレクトにはポリエステルパテは使えません。必ずウレタン系プラサフなどの塗装をお勧めします。
防錆塗料がサビを防ぐ仕組みは、大きく分けて2つあります。ひとつは、塗料の中の顔料として、防錆効果の期待できる物質を含有するもの。そしてもうひとつは、錆発生の必須要素である水や酸素を強い塗膜によって遮断することを目的としたものです。
塗料の主成分は「顔料」、「樹脂」、「溶剤」で構成されている。樹脂というのは、塗料の中で接着剤のような役目を果たすもので、別名バインダー(ビヒクル)とも呼びます。着色を主目的とした上塗り塗料では、顔料(粉末状)で色をつけます。一方、防錆下地塗料では、顔料に防錆効果を持ったものを使用することで、塗料に防錆効果を持たせています。
そして、この防錆顔料も、いくつかに分類することができます。アルカリ性の塗膜を作ることで、腐食反応を止める働きを持つのが、俗に鉛系塗料と呼ばれる防錆塗料です。顔料としては主に、鉛丹(ph8.3)を使用しています。鉛系防錆塗料は鉄鋼などに塗布される赤錆色の防錆塗料として普及しましたが、環境問題で脱鉛が叫ばれるなか、近年は減少しています。 ほかに、同じ赤錆色のペイントでもベンガラを顔料としたものもあります。こちらは酸性塗膜です。ベンガラは対紫外線性に優れ、これによって樹脂を保護することで塗膜の性能を上げています。といっても上塗りを前提としている下塗りでは、これもあまり意味がありませんが・・・。
⑤錆取りと錆転換剤
特に鉄の錆処理の一般的な方法は、サンドペーパーやワイヤーブラシ、サンドブラストなど物理的な方法で錆を取り除き、露出した金属表面が酸素と化合して再び錆に戻らないように、防錆塗料を塗布することです。しかし、錆を完全に除去するのは、たいへんな労力がかかります。鉄構造物などの塗り替えを経験した人なら、わかると思いますが、高速道路や橋梁、プラントなどのケレン作業というのはとてつもない作業になります。また、表面が均一に錆びているのではなく、錆が進行している場合は深い部分を取り除くうちに、鋼鈑に穴が開いてしまうこともあります。結局、塗装を行う上で最も手間がかかる作業は、塗装の下地処理です。
そこで、錆を取り除かずに、錆の上から塗るだけで錆の発生を抑える塗料が待たれていました。重防食の分野でも、構造物の補修塗料として、錆そのものを別な物質に変換して、食い止める塗料が研究開発されるようになったのが、以下の錆転換剤です。
★お勧めの錆転換剤
(1)P3ペイント 水性1液架橋型錆転換剤 ニューサビコンバータ
赤錆を黒錆に変換し、これ以上の錆の進行を食い止める防錆剤です。使い勝手も良いので、一般の方からプロの方まで幅広くお使い頂けます。
⑥錆と劣化した旧塗膜を固めて、酸素を遮断する防錆剤
錆の上から塗れるという塗料の場合、顔料に防錆顔料を使うのではなく、塗料の塗膜剛性によって水や酸素を遮断し、サビの進行を抑え、さらに錆と強固に結合する密着力で、錆の進行を抑えるという塗料です。
また、水と酸素では遮断しやすさに違いがあります。普通は、酸素よりも水のほうが遮断しやすいように思えますが、実際には、水は塗膜を透過してしまい、塗膜の中に入り込んだ水は下にある錆を包み込みます。また、水が塗膜を透して入り込まなくても、錆はすでにかなりの割合で水を含んでおり、塗膜の気孔をなくして酸素を遮断しない限りは、錆の再生を完全に食い止めることはできません。
塗膜で酸素を遮断するには、塗膜の強度や無気孔性もさることながら、最も確実で簡単な方法は膜厚を厚く塗ることです。暴露テストの結果、上塗りまで含めた合計膜厚で250ミクロンを超えると、錆の発生は極端に少なくなります。これは、一般に防錆塗料は厚塗りをベースに考えられていることとも一致します。これらは400ミクロン程度に厚塗りしても大丈夫なように設計されています。 これらの製品は鉄面の新設はもとより、錆面、亜鉛メッキ面、非鉄金属面、旧塗膜に密着し、重防食塗膜を造ります。また、上塗りの塗料の種類を選ばず、幅広い選択が可能です。鉛顔料を含みません。ぜひ、環境面で問題のある鉛は含まない製品をお選びください。
★お勧めの防錆剤
(2)ENDOX エンドックス 耐熱防錆スプレー 400mL
こちらは錆転換剤ではなく、防錆剤のエアゾールです。しかも耐熱800度まで耐えることが出来、用途が広いのが特徴です。また、非常に硬い塗膜を形成するため、摩擦や衝撃に強くなっています。
⑦迷ったらこれ!錆対策の決定版!
錆びた金属部にニューサビコンバータを塗布し、赤錆を黒錆に変換します。その上からパワーバインドを塗布していきます。今回リンクでご紹介したのは、刷毛とローラー用ですが、スプレーガンやエアブラシ等のスプレーで吹くことも可能です。ガンで吹く際は専用のシンナーで希釈してご使用下さい。
○ダイレクトに塗れる素材
アルミ、ステンレス、亜鉛メッキ鋼板、鋳物、ブリキ、黒皮鋼板、アルミダイキャスト、SPCC鋼板、亜鉛ダイキャストです。
○上塗りに塗ることが出来る塗料
焼付けアクリル、2液ウレタン、エポキシ、メラミン、フタル酸、焼付けウレタン、ラッカーです。
○乾燥性
上塗りの塗り重ね時間は、指触後(5分~10分)、すぐに塗れます。
○塗装方法
エアスプレー、エアレス、刷毛塗りいずれもOK。シンナーは刷毛塗り用、スプレー用があり、スプレー用には季節があります。
○色
白、黒、ライトグレー(N7.5)があり、容量は各々 4kgと16kgがあります。
錆と防錆は深い深い世界ですが、基本的には全て金属表面の化学変化です。過度に恐れず正しく理解することで、錆を効果的に防ぎましょう。錆を知り、防錆を知らば百戦危うからず!?