カレン・ストーンズ
成功を夢見る女性シンガーなんて掃いて捨てるほどいる。だからカレンが死んでも新聞にも載らなかったんだ。だって夢やぶれた女性シンガーも掃いて捨てるほどいるもんな。死因は睡眠薬とアルコールの併用による急性中毒。自殺に限りなく近い事故死だとか訳知り顔がいうけれど、カレンの歌への情熱は本物だったみたい。その証がこれだ。自殺の真相は彼女に直接聞いてくれるかな。
生前:歌手
死亡理由:睡眠薬とアルコールの併用による副作用。
主な感情:ノエル(バンド仲間)、ディレン(恋人)への愛情。歌手としての成功。
主な束縛:ノエル、ディレン、デモテープ。
プレイヤー:リサ
シャドウ:ニードル/中毒者
暗い感情:仲間、同業歌手への嫉妬。ドラッグへの依存。
シャドウ担当:コニタン
イアン・チェスターフィールド
リングの上で真っ白に燃え尽きるのがチャンプ・イアンの夢だったんだ。しかし現実は、路地裏の血塗れ姿で幕を閉じた。チンピラに刺されたんだと。後ろからぶっすり。このあっけない物語にイアンは怒りを感じた。(だれだってそうだ? 本当に?) 運命は戦って切り開くもの、そして自分に一番ふさわしいのは勝利だと彼は考えている。だからイアンはグローブが外せない。彼は運命にリターンマッチを挑んでいるんだ。イカスだろ?
生前:プロボクサー
死亡理由:刺殺。
主な感情:チャンピオンになりたい。殺人犯の発見。家族への愛。
主な束縛:家族(妻、マーシー。娘、ランシング)。
プレイヤー:コニタン
シャドウ:修行僧/完璧主義
主な暗い感情:無差別な暴力。成功者への嫉妬。
主なソーン:呪われた刻印(グローブが外せない)
シャドウ担当:チャッピー
トーマス・ノート
“お前が死んだとき泣いてくれる友をつくれ”ってことわざ知ってるかな? トーマスはそんな言葉を地で行く男だった。正義感に強く、ハンサムで礼儀正しい好青年弁護士。彼は、親戚の葬式の帰りに出会い頭の交通事故で死んだ。雪の降る寒い12月の物語。
だからこの悪質な運命のジョークに笑えるやつは1人もいなかったんだ。みんなが涙を流し、トーマスは天国に昇ったと話した…。彼の“今”を知ったら人は驚くだろうか? その“理由”を知ったとき人は驚くだろうか?
生前:弁護士
死亡理由:交通事故
感情:若い頃手がけた冤罪事件(敗訴)の解決。不正をなくす。
束縛:家族(妻、キャサリン)、後輩弁護士(ジャン)、ノートパソコン。
プレイヤー:チャッピー
シャドウ:ママ/過保護
主な暗い感情:犯罪への加担。あきらめ、怠惰を促す。
シャドウ担当:リサ
ストーリーテラー(ST)、リプレイ執筆:ナッキー
実はこのリプレイは2回目のレイスセッションをもとに書きおこしています。1回目のプレイではレイスのシナリオは“普通のやり方”では面白くないことを痛感しました。それで、つくってみたのがこのシナリオです。(ぶっちゃけた話、深淵のマスター経験が役立ちましたね)しかし、2度目がない手法だけに次回作が悩み。
プレイ日時:1998年11月14日(土曜日)午後4時30分~午後6時30分
思い浮かべてくれ。ハイウェイをひた走る夜行バスを。どっかの「街」発、どっかの「都市」行きのバス。緑の多い場所。ヘッドライトに浮かび上がるセンターラインが飛ぶように流れ去る。バスの乗客は3人だけ、男1人に女が2人、あぁ、それに亡霊が3人…・。
ST:トーマスから始めよう。君は妻の運転する車に乗っています、後部座席にはジョンがノートパソコンを開き座っている。
トーマス:ジャンの隣でパソコンをのぞき込んどこう。
ST:ジャンは夜行バスに乗り、出張でニューヨークへ向かいます。二人が話しています。「本当は私が一緒に行ければいいのだけど。」「事務所が忙しいのにそんなわけにいきませんよ。」「それでもレンタカーを借りるくらいの手配はしたのに。」「急な依頼ですし、それに徹夜で車を運転することを考えれば夜行バスのほうが楽なんです。その間、書類にも目を通せますから。あ、先輩のパソコンお借りしてよかったんですか?」「ええ、もちろんよ。初仕事のお守りにでもなるかしら。ジャン、緊張せずにがんばってね。」 やがて、バスターミナルに到着しました。ジョンが車を降ります。「行ってきます」と。
トーマス:弁護の初仕事なの? 心配だ、ついて行くぞ。
ST:ジャンはコーヒーを買い、ベンチでまたパソコンに向かう。
トーマス:僕もコーヒーをって無理か…、時刻表でも見ておこう。
ST:では、カレン。
カレン:はい。
ST:同じくバスターミナルに向かう道をノエルとディレンが歩いています。ノエルはリュックを背中にギターケースを抱えディレンの一つ前を歩いています。彼女はとあるオーディションを受けるためNYに出ていきます。
カレン:バンドやめちゃうの?
ST:彼女がいうには、「せっかくの友達の紹介だし、オーディションだって受かると決まったわけでもないから、2、3日観光がてらに行ってくるわ」だそうです。けど、ディレンは賛成しかねている様子ですね。っていうか、君が死んだあとバンドの新ボーカルの募集もやってるんだけど、何かとディレンがOKを出さない、その辺なかなか決まらなくて活動も再開しないしモメてるんですよ。
カレン:泣ける。
ST:ノエルが、「そんなに心配なら一緒に来る?」っていうけど、ディレンは「いや…気をつけてな」とターミナル前で別れます。
カレン:私が一緒に行こう。
ST:はい。
イアン:はい。
ST:昨日の夜、娘と奥さんが喧嘩してました。
イアン:娘って何歳だろう?
ST:ランシングは16だ。
イアン:ありゃありゃ。
ST:子供の成長は早いなぁ。喧嘩の理由はですね、彼女がNYに行きたいと言い出したのですよ。彼女の親友がNYに住んでいてね、アパートのルームメイトをさがしているらしい。
イアン:ちゃんと学校は卒業したのかなぁ。
ST:さあねぇ。(笑) で、ランシングは昔から舞台女優とかブロードウェイのダンサーとかに憧れていたのです。それで、NYで働きながら修行を積みたいと。当然、おかんはけんもほろろに怒り出すし娘は泣いて部屋に閉じこもるわで、も~大変。「お父さんも反対するに違いありません」みたいな。(笑)
トーマス:ガタガタガタ。(←ポルターガイスト現象らしい)
ST:「ほら、お父さんが怒っているわ」(笑)
カレン:こわいにゃ~。(笑)
ST:霊媒家族。(笑) アダムに名字変えよう!
イアン:もうええっちゅ~ねん。
ST:でもね、次の日の朝早くに置き手紙してランシングは荷物まとめて出ていきました。
イアン:はわぁ、どうすればいいのじゃろう。ワシはこの先どうすれば。拳で語り合うしかワシにはないのじゃよ。
修行僧:シャドウ・ダイス貸そうか?(笑)
カレン:大変! パニック!(笑)
イアン:っていうか着いていく。(笑)
ST:そういう訳で、それぞれの思いを乗せて夜行バスは走るのです。乗客は3人だけです。あと幽霊3人。
カレン:レイスって頻繁に出会うものなんでしょ?
トーマス:お仲間ってすぐわかる?
ST:はい。
トーマス:寄ってって話し掛けるわ。「ご旅行ですか?」
カレン:誰に?(笑)
ST:小柄な二十歳過ぎの女性と、ボクサーパンツにグローブの…(笑)
カレン:にゃ~っ、そんな時に殺されたの? 大変なの。(笑)
イアン:普通の格好してるって! グローブ着けてるだけで。(笑)
トーマス:そんな奴に話しかけれんよ、彼女にしとこう。
カレン:「こんにちは」
トーマス:「ご旅行ですか?」
カレン:「まあ、そんなところ。あなたは?」
トーマス:「弁護士をしていまして、後輩の付き添いでNYまで」
カレン:へぇ、弁護士? いいスーツとか着てるんだ。
トーマス:事故のせいで顔半分が壊れてるけどな。(笑) 一応、こっちにもふっとくか。(←偉そう) 「娘さんの付き添いですか?」とか。
イアン:「ちょっと用がありまして」
トーマス:睨まれた。(笑)
ST:自己紹介も済んで退屈な時間が過ぎていきます。ジャンは熱心にパソコンと向かい合っている。ノエルはファッション誌を読んでいる。ランシングはウォークマンを聞いています。日も暮れてだいぶたった頃、バスはいったん道を外れ田舎の町にある停留所に停車します。
カレン:トイレ休憩。
トーマス:トイレは関係ないし、ジュースも買えんしなぁ、ほんま暇やな。
ST:で、休憩も終わりバスが出発しようとしたとき、女性…二十歳後半か三十歳、両手にカバン、ジャケットにジーンズ、髪を簡単にまとめた…がやってきます。運ちゃんに「NY行きのバスでしょ? 乗るわ」と言い、乗り込んできます。
カレン:レイスの付き添いはいる?(笑)
ST:見えませんね。(笑) 彼女は一番後ろの席に座ります。バスが発車しました。ハイウェイに戻ります。ハイウェイって聞くと西部の乾燥した場所が思い浮かびそうだけど、ここは緑の多い地方なんですよ。寒々しい林を通る道を想像してください。突然ですが、警戒+知覚を判定、難易度5。
トーマス&イアン:1個成功。
カレン:なしです。
ST:バスの後方からヘッドライトがぐんぐん近づいてきてぴたりと後ろにつけました。赤い車です。
トーマス:走り屋か? 見てよう。
ST:途中乗車の女性が荷物をごそごそやっていた後、立ち上がってランシングの側に来ます。「あの、電池持ってないかしら? ウォークマンのバッテリーが切れてしまったの。よかったら貰えないかしら? 後で買って返すから」と言います。ランシングが顔を上げ「いいわ、ちょっとまって」と。電池を受け取りながら自己紹介します。「私はサラ。」
ランシングが「お返しはいいわ、あとでテープを貸してくれない?」と言います。サラが「古い曲ばかりだけどいいかしら。」と。そんな会話がありました。
トーマス:サラな。(←メモる) 車はどうなった?
ST:しばらくついてきていたけど、急にグォンと加速します。追い抜くみたい。
トーマス:運転手の顔とか見えんのかな。
ST:よく見えません。車はちょっと古い感じのスポーツタイプです。警戒+機知で難易度7をどうぞ。
トーマス:2個。
ST:赤い車がバスのバックミラーに写っていません。
トーマス:あれっ?
ST:バスの横に並びます。前方に対向車のライトが現れましたが、かまわず加速し続けます。で、正面衝突!…せずにすり抜けました。そのまま走り去ります。
トーマス:おおっ、レイスの車か!? すぐに皆に話し掛ける、「今の見ましたか!?」
カレン:「何?」
イアン:「見ました。幽霊車だったのか?」
ST:たぶん、こんなのは初めてでしょう。
イアン:ナイト2000ですねあれは。(←なぜ?)
ST:当然、車内に気づいた人はいません。運ちゃんがあくびをしてからダッシュボードからガムを取り出た。少しして、ぱっとヘッドライトがバスの真正面に現れました。
トーマス:オッオー。ぶつける気?
ST:ぐんぐん近づいてくるぞ。運ちゃんは気づいた様子がありませんでしたが、ぶつかる手前で、「うわあっ!!」と悲鳴をあげた。
トーマス:見えたんか!?
ST:ハンドルを切り、フルブレーキをかけます。
トーマス:キキキキーーッ!
ST:バスは横向きになり、つんのめって横倒し。
トーマス:ガシャーン!
イアン:ははははは。
ST:で、道路を飛びだし、谷を滑り落ちます。
イアン:ぎゃわ!
ST:暗転です。
ST:バスは谷のきつい斜面の途中で止まっています。カラカラとホイルの鳴る音、乗客のうめき声がします。
トーマス:いやいや、たいへんなめにあったな。
イアン:そんな悠長な。
トーマス:はっ、ジョンは無事か!?
ST:まず、みなさんはコープスを1低下させてください。で、それぞれの人間なんですが、ダイス6個で難易度6判定してください。成功1につき負傷1です。ソーク無し。
カレン:5個も!。なんでこんなときにこんなイイ目が。
トーマス:3個。
イアン:3個。
ST:全治2カ月の重傷と全治1週間ぐらいかな。あっ! どうしょう?
トーマス:なにが?
ST:パソコン。(笑)
トーマス:あ゛~っ、僕の束縛がぁ!
イアン:絶対めげとるな。
ST:チェックどうするかなぁ。
イアン:めげんのがおかしいし。
トーマス:ジョン、手放すな! 身を挺せ。
イアン:ベットの高さから落ちてもあかんのに。
トーマス:うっせーなぁ!(笑)
ST:う~っ、意志力1ポイント消費でいいや。
トーマス:するする。
ST:ジョンが、「大丈夫か!?」と鼻血のランシングを抱き起こしている。ノエルは動かない。血が出ている。
トーマス:他の人は? 女の人は?
ST:運転手は足を折って呻いています。女性は車外に投げ出されたな。
トーマス:あちゃ、生きてるのか?
ST:「助けなくっちゃ!」と、ランシングがバスから這い出て、女性の側へ向かう。
イアン:はわ。
リズ:父親似の正義感?(笑)
ST:「誰か手をかして!」とランシングが叫んでいます。サラは重傷ですね。出血もひどい。なんとかみんなの状況確認は取れたみたいですが、ジャンが血の気の失せた表情で、「道まで登れそうもないぞ…・」とつぶやきます。しかも夜は冷え込んできています。
カレン:ここってどの辺なの?
ST:あの停留所のあった町から1、2時間程度ですね。
トーマス:みんな集まれ、レイスの会議だ。(笑)
カレン:どうしよう、町の警察に助けを呼びに行くとしても…。
イアン:助けるもなにも、わしら幽霊だしな。
トーマス:アルゴス使えば道までは連れて登れるけど。唇を噛む。
カレン:エンボディとキーニングでメッセージをどうにか伝えられないかな。
イアン:アウトレイジでぐぁーと吊り上げる。(←考えていない)
カレン:ちょっと、みんな何ができるの?
トーマス:移動能力、これで飛べる。あと夢の操作。
イアン:アウトレイジとパペットリー。
カレン:パペットリーって…。
イアン:ざんねーん、2ドットなんですねぇ、へへへへ。
カレン:うふふふ、この役立たず。(←即死級)
トーマス:「とにかく、町まで行ってみましょう。それからだ」
イアン:「つ、つれていってくれ!」しがみつく、混乱してる。(笑)
ST:いいでしょう、なんとか町までたどり着きました。どうしましょう?
トーマス:時間はかかるけど、良いアイデアがある。警察署をさがそう。
ST:保安官事務所があります。中では若い保安官がコーヒーを飲みながらパソコンに向かっている。眠たそうだね。
トーマス:《睡眠》で彼を眠らせる。その後、《夢歩き》で彼の魂を連れ出して事故現場を見せよう。これでいいよね、みんな?
◆注:ルール間違い。トーマスの使用した《睡眠 Dream of Sleep》はレイスにしか効果がない。もちろん、保安官が“うとうと”していたから比較的問題のないシチュエーションではある。
ST:よろしい。判定どうぞ。
トーマス:一応、成功しています。「急がないと彼らの命が危ない」と。
ST:で、はっと我に返るとモニターの前だったと。若い保安官はちょっと思案げだったけど無線に向かった。パトロールカーに連絡を入れている。「56号線の方にまわってくれないか」と言っています。少したって、「救急車を大至急向かわせてくれ!」と連絡が来ました。
一同:うわ~い、大成功じゃよ!
ST:おめでとう、シナリオ完了。(笑)
一同:うそ~っ。(笑)
イアン:経験点くれ。(←強者)
ST:病院です。ジャン、ノエル、ランシング、運転手、サラの五人は医者の治療を受け、今はそれぞれベットの上です。ロビーには保安官たちと救出に駆けつけてくれた町の人たちが集まり騒然となっています。「またあそこで事故か…」「見通しが悪いわけでもないのに…」「サラ・ハモンドがバスに乗ってたらしいぞ…」なんて話している声が聞こえます。あの若い保安官が同僚相手に、「死んだ俺の婆ちゃんから聞いたことがあったけど、まさか不思議なこともあるもんだなぁ」とか言っています。
イアン:テレビ出れるな。(笑)
ST:もちろんだろ、再現フィルム「本人」とかだろ。(笑)
トーマス:視聴率高い。(笑)
ST:さて、みんなはそれぞれ大切な人の側にいる。ジャンは事務所に電話したがっていたけど、とにかく安静にしろと医者に言われ寝かされている。ランシングは緊張がほぐれたのか少し泣きだしました。ノエルは点滴を受けながら眠っている、絶対安静だね。
トーマス:誰も、命に別状はないんだね。
ST:サラが危篤状態です。保安官が話しています。「サラの乗ったバスが事故に遭うなんて皮肉な話だ」 老夫婦が駆けつけて、サラの病室の前で途方にくれています。
「あぁ、神様!」「先生、娘は助かるのですか!?」なんて声が聞こえます。
イアン:はぁ、うちの奥さんにも連絡とかは?
ST:警察がするでしょう。けど、ここまで来るのは時間がね。
カレン:事故の話が気になるな。
ST:たくさんの人が病室前の廊下を行き来しています。ひとり、なんか場違いな雰囲気の老人が車椅子で移動しながら君たちの部屋を覗いてまわっている。
トーマス:レイス!?
ST:トーマスと目があった。話し掛けられます。「兄さん、交通事故かね?」
トーマス:「いいえ。いや、はい」
ST:「そりゃお気の毒に。まぁ、幸い元気そうで、死んでる以外は」
トーマス:「あの、事故に巻き込まれたのは友人でして。けど僕も交通事故でこうなったんですけど」
ST:「そうかい、そうかい。わしはボブじゃ、よろしく」
カレン:ボケは死んでも治らないものなの?
トーマス:「そうだ。ボブさん、ここは長いのですか?」
ST/ボブ:「もちろん」
トーマス:「実はハイウェイで妙なものを見たのですが…」、赤い車の話をする。
ST/ボブ:「車の幽霊? あいにくわしは病院暮らしが長くての、外のことはさっぱりだの」
イアン:サラの話をしてみましょう。彼女について何か知っていないかな?
トーマス:「彼女もバスに乗っていました。誰かがサラの事故を皮肉なことだと言っていましたが?」
ST/ボブ:少し考えてから、「サラ・ハモンド? 町のもんだったかな? あの子も事故に遭ったか…」
イアン:この病院に入院したことがあるとか?
ST/ボブ:「…思い出した。サラは事故に遭った、交通事故じゃった。友達か誰か一緒に乗っていたもんは亡くなったんじゃ」
トーマス:ほほぉ。「亡くなった人の名前とか憶えていませんか?」
ST/ボブ:「うむ、忘れてしもうたの。」
カレン:しっかりしろ。
ST/ボブ:「詳しいことは、あの子の友達に聞くといい」
トーマス:あぁ、そうか。「この町に住んでいるのですか?」
ST:「ベントリー家のお屋敷だよ」
トーマス:詳しい場所を聞きます。
ST:はい。
トーマス:みんなを集めて話をしよう。「あのような危険な車をそのままにしておいてはまた私たちの友人に危害を加えるかも知れません。どうでしょう、すこしこの事件に関して調べてみるというのは」
カレン:うん。っていうか単純にムカツクしね。
ST:レイスの掟ではクイック(現実世界の住人)への干渉は厳しく禁止されていますし、束縛を危険にさらされたってことは怒るには充分な理由ですよ。
トーマス:どうやらサラの友人はレイスになったらしいので、会いに行って話を聞く(←実は勘違い)
ST:はい。立派なお屋敷の前です、壁が蔦に覆われた築後100年は経った感じの屋敷で、人の住んでいる気配はありません。
トーマス:一応、ごめんくださいと言ってから入る。
ST:進みます。暖炉のある部屋で、ソファに腰掛けた青年と老婦人に出会います。男は20代、金髪、青白い顔、黒いハイネックセータと黒いスラックス姿、本を読んでいる。婦人はブラウスにスカート、ショールを膝にかけ編み物をしています。
カレン:二人ともレイスだよね。話し掛けよう。
ST:青年が顔を上げます、「誰?」
カレン:自己紹介をします。「ベントリィさん? こんばんは。あなたにお聞きしたいことがあって来ました」
トーマス:事故の顛末を話そう。
ST:彼は、「それはお気の毒に」と。
カレン:何かご存じではありませんか?
ST:「そうだね、むこうで話そうか。」 彼は婦人に向かって「母さん、お客さんと話があるから」と言って立ち上がります。けど彼女はまったく反応せずに編み物を続けています。案内されたのは彼の自室みたいですが、壁紙が子供部屋のままです。
「サラ・ハモンドだね、彼女のことは知っているよ、こんな田舎町には不似合いな感じのあかぬけた子だったね。事故は…10数年ほど前のことだ、女友達とドライブ中に起こった、原因はスピードの出し過ぎらしい。運転していた女の子、キャロル・ジャクソンが車外に投げ出され死亡した、サラは大怪我をおったけど幸か不幸か命に別状はなかったんだ」
カレン:その事故を起こした車は赤いスポーツカーだったの?
ST:「そうだ。あれはジョセフの車だったんだ。ジョセフはキャロルの恋人でね、仲のいい3人組ってやつだよ」
カレン:「けど事故の時乗ってたのはサラとキャロルだけなんだ」
ST:「事故の後、サラは長い間ふさぎ込んでいたよ。ジョセフは町を出た」
トーマス:事故の現場ってバスの事故った所と同じなん?
カレン:聞いてみましょう。
ST:だいたい同じだと思います。
トーマス:「キャロルには今も会える?」
ST:「彼女の家の住所を教えようか?」
カレン:「お願いします」 早速向かおう。礼を言って家を出る。
ST:教えられた場所は町から少し離れたところです。はい、着きました。ガラスとか割れた普通の民家です。
カレン:入ってみましょう。
トーマス:あれ、あの男って誰だったんだ?(←間違いに気づいた)
カレン:友達でしょ、名前も聞いていないけど。
ST:家には誰もいません。ぼろぼろで長い間だれも住んでいないみたいです。
カレン:どうする? 他をあたる?
ST:向こうに廃車を積んだジャンクヤードが見えます。
一同:は~ん。
トーマス:そっちに行ってみよう。
ST:ガラクタの奥に車庫が見えます。
カレン:シャコ貝?
ST:車庫。ガレージ。
イアン:入ってみましょう。
ST:赤い車がとめてありますよ。
イアン:例の車ですか? 壊れてる?
ST:例の車です、車は新品同様です。実物が破壊された後でシャドウランドに現れたレイスにしか触れることのできないレリックのスポーツカーです。
ST:声がする、「探し物は見つかりました?」
イアン:だれだれだれ。
ST:さっきの青年がシャッターを通り抜けて入ってきた。
トーマス:「一緒に来てくれるのなら、そう言ってくれれば良かったのに」
ST:「ちょっと気になったんだよ。この場所が分かりにくかったかも知れないから」
カレン:「それはご丁寧に」
ST:「どういたしまして。」 彼は車に触れながら廻りを一周します、「良い車だろう? こんな手触りは滅多に味わえるもんじゃない、ことさらこの世界では」
イアン:「聞きたい、あんたはサラとキャロルとどんな関係があるんだ?」
ST:「友達だよ。」そう言いながら髪を撫でます。知覚+警戒、難易度6。
カレン:2個。
ST:その右手の手首がざっくりと裂けています。
トーマス:自殺か。
ST:「昔からの知り合いだ、知りすぎているくらいに…」 知覚+警戒、難易度8。
カレン:3個。
ST:彼が君たちの足下を見てニヤリとした。
カレン:なに?
ST:血が、たぶん手首からの血が、君たちの足下に線を描き滴っています。
カレン:腕を広げてみんなを下がらす。
ST:「残念、手遅れだよ。」 そう言って腕を押し出す仕草をします。地面が無くなります。
トーマス:ニ、ニヒル!?
ST:落ちた。君たちは果てしなく落下します、風が耳元で轟々と唸りをあげます。
カレン:あにゃにゃ、陰謀なのじゃよ。
ST:風が去り、気がつくと濡れた薮の中に立っていました。
カレン:彼は何者だったの?
トーマス:スペクターかも…。
イアン:ドッペルゲンガーか。
ST:薮からの前には土手があります、それを登るとアスファルトで舗装された道路に出ます。
トーマス:あの場所なのか?
カレン:似ているけど別の場所なのでは?
ST:エンジン音が聞こえてきます、振り向くとヘッドライトが近づいてきています。
カレン:赤い車?
ST:そうです。ぐんぐん近づいてきて、避けるよね、走り去ります。車内が見えました、運転席にはキャロル、助手席にはサラが乗っていました。
トーマス:死んだのか、彼女!?
カレン:追いかけれる?
イアン:無理なのでは…。
カレン:それでも、やらなくちゃ。
ST:そう思ったとたん、君たちは車の助手席にいた。
トーマス:ああ? それぞれが助手席にいるわけか?
ST/キャロル:運転席のキャロルが君に、「ねえサラ、どうゆうつもりなの?」と言う。
カレン:「なんのこと?」
ST/キャロル:「とぼけないで! 彼を誘惑してるでしょ!」
トーマス:これって事故直前の車中なのか…?
カレン:3角関係、よくある話ね。
トーマス:「気のせいだろ? それに、それは君がしっかりしていれば心配ないはずだ」
カレン:「けど、人の気持ちは変わるものよ、仕方がないこともあるわ」
ST/キャロル:「なんて言いぐさ! 私たちの仲をめちゃくちゃにしておいて!」 彼女は怒りにまかせてアクセルを踏み込みます、ぐんと車が加速します。
トーマス:謝ろうか?(笑)
イアン:急にいい人かよ。(笑)
ST/キャロル:「どうして…信じていたのに…。」 泣き声に近いつぶやきです。
そして、突然、道路に何か黒い影が飛び出しました。動物かもっと別のものなのかはわかりません。ハンドルを切り、急ブレーキ、そして車は崖を飛び出します。
真っ暗になります。気がつくとあなたは車外で倒れています、車は崖の途中で木に引っかかりかろうじて持ちこたえている。
トーマス:起きる、車に近づきます。「キャロル? 返事してくれ!」
ST:歪んだ車体の中からうめき声がします。「痛い…足が」
トーマス:助け出そうとするけど。
ST:「足が抜けないの!」 がりがりと軋む音がして車が滑る。
トーマス:何かテコになるものは?
カレン:「がんばって、動かしてみて!」
ST:「だめ、だめなのっ!!」 ボキンと木の折れる音がしました、車が落ちます。
トーマス:「手を!」
ST:果てしない闇の中に吸い込まれるように車が消えていきます。キャロルの絶望と恐怖に満ちた表情が目に焼き付きます。そして、場面が変わります。
ST:すさまじい歓声とまばゆい照明です。リングの上にイアンはいる。
イアン:はわ。
ST:向かい、赤コーナーには君の娘ランシングが縛られています。対戦相手は君を刺したあの男です。セコンドから修行僧の声がする。
修行僧:「復讐だ! 今こそ復讐の時だ!」
ST:客席の声が唱和する、「復讐だ!」 対戦者はパンチを繰り出してくる。
イアン:ステップ、ガード!
ST:相手のパンチが命中するぞ。そこが切れ、血が飛びます。
イアン:反撃する、ボディ、ボディ。
ST:男は吹っ飛ばされて倒れます。その途端、彼のグローブが消え、手にしていたナイフが君の足下に落ちる。
修行僧:「ナイフを拾え!」
ST/観客:「ナイフを拾え!」
イアン:グローブを外してナイフを拾います。
ST:はい。
イアン:男に近づいていきましょう。
修行僧:「殺せ!」
ST/観客:「殺せ! 殺せ!」
イアン:ナイフを振り上げ…リングに突き刺す、バキッと折る。
ST:おお、ゴングが鳴る。
ST:カレンは気分がすぐれません。理由はたくさんあります、バンドのこと、恋人ディレンのこと、親友ノエルのこと…。最近いろんなことがうまく行かず、憂鬱な毎日が続いています。
カレン:ここは自分の部屋?
ST:たぶん、練習もそこそこに帰ってきたんだろう。
カレン:お風呂でも入ろうか。
ST:バスルームの鏡に写る君の姿がニードルに変わる。「最低な一日だったね」と話し掛ける。
カレン:「まったく、あなたの顔を見るとこさら不機嫌になるわ」
ST:にっこりして、「とりあえずシャワーでも浴びたら?」
カレン:「そうね、そうするわ」
ST:サービスショット?
カレン:サービスショット(笑)
ST:シャワーの後、ビール片手の君にニードルが、「あれを忘れちゃいないかい?」
カレン:ドラッグのこと?
ニードル:「他に何がある? これは嫌なことを忘れる特効薬だ」
カレン:机から取り出してもてあます。
ニードル:「明日も明後日も今日と変わりない日々が続くんだ、最悪な毎日に唯一の慰めがあるとしたら、それを選ばない手はない。そうじゃないか?」
カレン:「まあね…」
ニードル:「あんな連中とつき合うんだ、こっちが大人にならなくちゃ」
カレン:「でも、ドラッグで現実が変わるわけじゃないのよ」
ニードル:「本気でそう思ってる?」
カレン:「それに…みんなのこと嫌いなわけじゃないの」 そうだ、ディレンに電話を掛けてみよう。
ST/ディレン:出ます、「ああ、カレン? いま昔の友達と集まってるんだ」
ニードル:横から電話を切る、「ほら、奴だってよろしくやってるんだよ」
カレン:ふう、まあいいや、音楽でも聴こう。
ST:いくらか気分が良くなるかも。
カレン:「一晩、じっくり考えさせてもらうわ」
ニードル:「は、忘れるな! 明日も同じ日だ、明日もな」
ST:「では弁護人」
トーマス:は?
ST:「君はあくまでも、被告人サラ・ハモンドの無罪を主張するのかね?」
トーマス:「は、はい」
ST:「彼女が友人の恋人を奪い、事故現場で友人を救わなかったことを無罪だと?」
ここは法廷です。原告人は血塗れ姿のキャロル、あなたが弁護するのはサラ・ハモンドです。裁判官席には屋敷で見た青年がついています。検事が、「我々はサラの殺意さえ疑っているのだよ」と言います。
トーマス:「事故は完全な偶然です、事故現場では彼女はできるかぎりのことをしました」
ST/検事:「しかしキャロルは死にサラは生き残った、サラに本当の良心の呵責があったのなら、あの現場で一緒に死んだってよかったはずだ」
トーマス:それは…、「それは誤りです」
ST/検事:「なぜ?」
トーマス:「彼女は一生懸命やったから」
ST:なにそれ?(笑)
トーマス:う~ん、難しいよぉ。(←へにゃへにゃ)
ST:傍聴席から声がする、「もうやめてしまえばいいのに」
トーマス:誰?
ST:顔のない人たち。
トーマス:く~っ、ジャン、助けて。(笑)
ST:裁判官の顔が変わり声を掛けてきます、「諦めてもいいのよ」
トーマス:「ママ?」
ママ:「もういいのよ」
トーマス:「ママ、みんなが僕のことを…」
ママ:「諦めなさい、もう充分よ、あなたの力ではどうにもならないことなのよ」
トーマス:「けれど…僕は」、うぁ~んこんなのインチキだぁ!(←崩壊寸前)
イアン:1人帰ってこないぞ。(笑)
カレン:大変、テンペストに置き去り?(笑)
ST:頑張るんだ。
トーマス:よし。「裁判官! か、彼女は無実です。一緒に死ぬのが友情じゃないし、死ぬのは解決方法じゃないと思います。サラはあそこではやれることはやった。もし彼女に償いがあるとしたらそれは生きることです、キャロルのぶんも生きる権利、いや義務があると私は思います。以上」
ST:やがて「判決を」と、裁判官の声が響きます。「サラ・ハモンドを有罪とする!」
トーマス:「裁判官。な、納得いきません!」
ST:閉廷です、辺りが暗闇になりざわざわと人々が立ち去る音だけがします。
トーマス:「裁判官!」
イアン:上告だ! 最高裁までいくぞ。(←無邪気)
ST:誰がトーマスの手を握ります、見るとサラがいました、「ありがとう、あなたは頑張った」
トーマス:「でも、きみを救えなかった…」
ST:「いいえ、あなたは私を救ってくれた。あなたが私を救ってくれたの」
ST:風のうなり声がして体が引きあげられます。気がつくとそこは病院で、それぞれ病室にいます。夜が明けて少したったころ。
トーマス:サラは? 彼女の病室に行く。
ST:いますよ、眠っているみたいです。
トーマス:生きてる? のぞきこむけど。
ST:ゆっくり目を開きます。
トーマス:よかった、その場に座り込むわ、ほんとうによかった。
ST:看護婦がきて意識の戻った彼女を見てあわてて先生を呼びに出ていきます。イアンの奥さんが病院に到着しました。ディレンもトーマスの奥さんも到着しました。
カレン:よかった。
イアン:あの男ってなんだったのじゃろ。
ST:たぶん、邪悪な力あるスペクター、この田舎町の不幸の支配者みたいなもん。気の毒なキャロルの魂を虜にして歪めたのは彼です。キャロルの個人的な復讐劇も彼が手を貸してました。もちろん君たちの登場は予定外だけどな。君たちテンペストどころかラビリンスまで落とされたんだぜ、集団ハロウィングやで。
イアン:へえ。
カレン:けど、もう大丈夫?
ST:町を離れれば問題ない。奴らは失敗を嫌う、罠から逃げても追いかけてきたりはしません。
イアン:じゃあ、さっさと町を出よう。
ST:大切な人を連れてね。
レイス(Wraith):死にきれない魂。いわゆる成仏できない幽霊。
スペクター(Spectres):オブリヴィオン(虚無)との戦いに敗れ、身も心も歪められ虚無に奉仕することになったレイスの総称。レイスの敵。
ドッペルゲンガー(Doppelgangers):現世に束縛を保ち、普通のレイスとは判別しにくいスペクター。
テンペスト(Tempest):天国でも地獄でもない死者の国。死にきれない魂(レイス)が住まう異世界。現世とはニヒルを通じて行き来できる。
ニヒル(Nihil):テンペストへつづく抜け穴。
ラビリンス(Labyrinth):テンペストにある虚無の支配する土地。
ハロウィング(Harrowing):肉体をもたないレイスは強い感情と物への依存、愛着をよりどころに己の存在(霊体)を確固なものとする。もしそのいずれかが失われそうな(失われた)場合、レイスは存在の危機にさらされる。これがハロウィングである。今回のプレイではスペクター(もしくはST)の能力により強制的にこの状況を発生させた。