「ワーウルフ・ジ・アポカリプス」は日本では2001年に出版された会話型ロールプレイングゲームです。
「ヴァンパイア・ザ・マスカレード」などと同じ「ワールド・オブ・ダークネス」シリーズの代表作品となります。
そのタイトルの通り、プレイヤーは自らを”ガルゥ”と呼ぶ人狼を演じ、怪物と戦ったり、難事件を秘密裏に解決したりします。
※このゲームでは現実の国や都市をモデルにしていますが、(言うまでもなく)全てフィクションです。
※従って、特定の社会・人物・団体・事件などには一切関係がありません。
・”不滅の狼”アンリ … 人腹(人間生まれ)/半月生まれ(調停者)/シルバー・ファング族
アンリはパック(チーム)のリーダーである。彼の部族は「シルバー・ファング」。ガルゥ社会のエリートだ。
名門貴族の出身である彼は生まれつき人を惹きつける力を持ち、交渉役やチームのまとめ役として力を発揮する。
柔らかい物腰とは裏腹に、人狼であるときの彼は恐るべき戦士でもある。
プレイヤー:ナッキー
・”忍者殺し”ケンジ … 忌腹(ガルゥ生まれ・禁じられた出生)/半月生まれ(調停者)/チルドレン・オブ・ガイア族
ケンジは日本人の血を引くガルゥだ。しかし彼の両親はともにガルゥであり、彼は両親の顔すら知らない。
ガルゥ同士がつがうことは掟で禁じられているのだ。禁忌を破った両親は彼が生まれて間もなくガルゥ社会から追放された。
彼が人狼の姿であるとき、鼻の頭から奇妙な一本の角が生えてくる。
これは彼が忌腹の生まれであることの証であり、遺伝的に受け継ぐ奇形でもある。
プレイヤー:きたちゃん
・”嵐を追う者”ティフォナス … 人腹(人間生まれ)/満月生まれ(戦士)/ゲット・オブ・フェンリス族
ティフォナスはその美しい名とは裏腹に、大柄な身体と強靭な筋肉を備えた女性だ。
その正体はガルゥの中でも勇猛果敢な戦士の部族で知られるゲット・オブ・フェンリス族の一員である。
満月の夜に生を受けた彼女はまさしく戦士中の戦士であり、パック(チーム)を守る盾でもある。
プレイヤー:あゆみん
・ジェラルド・エドワーズ … ベーカーズシティ現市長。環境保護に熱心。謎の自殺を遂げる。
・エルビラ・コックス … エドワーズ市長宅の家政婦。市長が自殺した夜は不在であった。
・チャド・カーター … 診療所の院長。ジェラルド市長の主治医。
・ライナス・ヒル … エドワーズ市長と意見を対立させることの多かった市議。エンドロン石油のベーカーズシティへの誘致推進派。
アメリカ合衆国。カリフォルニア州ベーカーズフィールド…にそっくりな架空の都市。ベーカーズシティ。
豊かな自然の国立公園に隣接し、農業と石油化学が主要産業の都市。
セコイヤの巨木がある国立公園の奥地で、プレイヤー・キャラクター達の衛族(セプト。ガルゥ社会の一単位)が暮らしている。
この衛族を治めている部族はチルドレン・オブ・ガイア族。ガルゥ社会の良心、平和主義者、歓迎されざる者の拠り所として知られている。
そこに各地から若いガルゥ達が集まり、様々な仕事をこなしながらガルゥ社会での名声を手に入れようと躍起になっている。
プロローグ:スイサイド・イズ・ペインレス
夜半過ぎ。ベーカーズシティ市長、ジェラルド・エドワーズの自室。
机の上に散らかった書類を脇に避け、ひとつ深い溜息をつく。
深い皺の刻まれた顔は、仕事からくる心労と思わしくない体調のせいで実際より年老いて見える。
引き出しの中から紙袋に入った錠剤を2,3取り出し、水と一緒に流しこむと、椅子の背もたれに体を預けて静かに目をつぶった。
このところ市長を悩ませている問題が二つあった。
ひとつは持病の胃痛がひどいということ。
もうひとつは、ベーカーズシティに石油精製工場の建設許可を求めているエンドロン石油の問題だ。
近くに油田を持つこの街の主要産業のひとつに、この石油精製がある。
エドワーズ市長は自然保護に熱心な政治家の一人であり、この街の工場に対しても環境に対する取り組みを厳しく求めている。
新しく参入する企業に関しても、その企業が自然保護に対してどのような態度であるのかを独自に調査してきた。
「エンドロン石油」は米国内でも屈指の大企業であり、その企業姿勢も全く問題がないと思われている。少なくとも表向きは。
しかし長年企業の不正に目を光らせてきた市長は、エンドロン石油の環境への取り組みが見せ掛けのものではないかと疑っていた。
慎重な姿勢の市長に対し、市民の雇用創出や景気回復のために今すぐにでも誘致せよ、と主張する議員も出てきている。
近いうちに難しい判断を迫られるだろう。目をつぶったまま大きく一つ息を吐いた。
部屋の外、廊下の向こうから足音がする。二人分。
今夜は使用人のエルビラが屋敷に居るはずだ。しかしこんな夜中に訪問者を屋敷に入れるだろうか?
息子はサマーキャンプの真っ最中だし、妻はボランティアとして同伴している。
引き出しの中からそっと拳銃を取り出し、足音のする廊下の方を窺う。
やがて足あとは部屋の扉の前で止まり、しばらくしてから低く暗い男の声がした。
「胃の具合はどうですかな?エドワーズ市長。」
意外な訪問者に、市長の表情が険しくなる。
「先生?なぜこのような時間に?どこからお入りになったのです?」
部屋の扉がゆっくり開き、暗闇の向こうからうっすらと初老の男の顔が浮かび上がる。
「なに、友人を紹介しようと思ったのでね。それよりも、処方した薬は効いておるかな?」
そう言えば今日はやけに喉が渇く。胃の痛みは無いが、頭がぼうっとする。眠気、ではない。
「元気そうでなにより。君に紹介する友人だがね…君とはもう面識があるようだったよ。」
暗闇から滲み出るように、長身の男が姿を表した。整えた髪の毛は真っ黒で、陶器のように白い顔の男。
「お前は…!」
胃の辺りから熱いものがこみ上げてくる。視界がぼんやりとしてきた。
眠っては駄目だ…いやそうではない、眠くはない。拳銃を握った手にひとりでに力が入る。
何者かが頭に手を突っ込んで掻き回しているような、強烈な不快感。
声が遠くで聞こえる。「…そのままだ。そのまま指に力を…」
銃声。
机に広げられた書類に飛び散る血痕。
錠剤のパッケージには、「マガドン製薬」の文字があった。
シーン1:導入
セコイヤの大木が林立する国立公園の奥深く、プレイヤーキャラクター達の衛族が暮らしている。
衛族長である、”白い月”サディアスから招集の命を受けたアンリ、ケンジ、ティフォナスの三人は、その日の正午近くに衛族のもとへやって来た。
サディアスはパックの面々に、ベーカーズシティ市長・ジェラルド・エドワーズが昨夜自殺したと伝える。
「あれはガルゥでもキンフォーク(血縁者)でもないが、ガイアのこころを知る良い指導者だった。」
警察の捜査は既に行われており、状況から拳銃自殺で間違いないとのことだった。
しかし目に見えるものだけがガルゥの知る現実ではない。
今朝早く市長の屋敷に赴いたサイレント・ストライダーの衛族のひとりは、かすかに残るワームのにおいを嗅ぎとった。
「衛族の長として三人に命ずる。市長の死について調べ、ワームの手がかりが見つかれば報告するように。必要であれば敵を殲滅するのだ。」
シーン2:現場検証
三人は相談の末、市長が自殺したとされる屋敷の自室を調べることにした。
既に現場から遺体は運び去られ警察も中には居ないが、建物は封鎖されており、入り口から堂々と入ることはできない。
そこで一旦「影界」へと渡り、屋敷の中で物質界へと戻ることにした。
ガルゥはガイアから授かった霊力により、「影界」という精霊界の一部に一時的に移動できる。これが「界渡り」という能力である。
そこは影のように物質界(=現実の世界)と対応しているため、「界渡り」を利用して物質界の特定の場所へ出てくることも可能なのだ。
ここでは「界渡り」の得意なケンジが残りの二人を導く形で、影界へと渡ることに成功する。
難なく現場に忍び込んだ三人は、市長の私物から事件の手がかりを見つけようとした。
市長の手帳(予定表)とラップトップPCを手に入れ、現場を去ろうとしたものの、市長の私物は影界には持っていけない。
仕方なくティフォナスが市長の私物をこっそり持ち出すことになる。
ストーリーテラーは「隠密」技能+「敏捷」能力で見つからずに出てこられたか判定が必要だと告げる。
ティフォナスは少しでも「敏捷」の高いルーパス形態(狼形態)で脱出することに。
背中にコンピュータを背負った狼が街で見つかれば大騒ぎになりそうだが、ティフォナスはこの判定を難なくクリアする。
その後コンピュータの内容や市長の手帳、現場周辺の聞き込みなどで分かったことは以下のとおり。
相談の結果、まずは使用人のエルビラを探すことになる。
シーン3:白昼の戦い
三人はエルビラ・コックスの自宅を訪ねるが、彼女の母親によると帰ってはいないという。
会話の中で母親の嘘を見ぬいたアンリは、自身の交渉技能の高さを利用して何とかエルビラに話を聞きたいと粘る。
押し問答の途中、ティフォナスはコックス家の周りを黒いセダンがゆっくりと走っているのを見つけた。
市長宅周辺の聞き込みで知った、真夜中に現れたという車の特徴にそっくりだ。
迷うことなく車の方へ向かうティフォナス。車はスピードをあげてコックス家に接近していく。
次の瞬間、車の窓から伸びた腕とその先の銃口から家の窓へ向けて銃弾が発射された。消音器を使っているのか、銃声はしない。
玄関で話していた母親は、奥の部屋で窓の割れる音と女性の小さな悲鳴を耳にし、「エルビラ!」と思わず声を挙げてしまった。
アンリとティフォナスはすぐに車を追い、ケンジは家の中へ。
車に追いついたティフォナスは、戦いに備えるために変身したいと考えたが、白昼の街なかでクリノス形態(半狼半人形態)になるのはまずいと判断する。
そこで変身をグラブロ形態(身体の大きな人間形態)にとどめ、上昇した筋力と格闘だけで戦うことにした。アンリも同様だ。
まずは車のドアを強制的に開け、乗っている者を引きずり出すと宣言する。
ストーリーテラーはその行為には高い成功数が必要だと判断し、高難易度の筋力判定を要求するが、あっさりとクリア。
車から落ちた者は持っていた銃で応戦するも、ティフォナスの格闘であっさりと蹴散らされてしまった。
車に乗っていたのはもう一人。どちらも「フォモーリ」と呼ばれるワームの眷属(ガルゥの宿敵)であった。
武器はなく、ハンディキャップの多い戦いだったが、アンリ、ティフォナス共に素手でフォモーリの息の根を止めることに成功した。
家の中では肩を撃たれた若い女性、エルビラ・コックスが自室でうずくまっていた。
ケンジは「共感」技能と「魅力」の高さを活かしてエルビラを落ち着かせ、「医学」技能で怪我の処置をしていく。
外での戦いが終わる頃には、エルビラはことの顛末を全てケンジに話してしまっていた。
アンリは手持ちのスマートフォンで地元ニュースサイトからライナス・ヒル議員の顔写真を見つけ、エルビラに見せる。
するとエルビラは、真夜中の訪問者のうちの一人だと答えた。
さらに襲撃者の車が、以前チャド・カーターの診療所で見かけたものだと言う。
カーター医師がワームの勢力とつながっているのは確実であり、どうやらライナス・ヒル議員もその仲間であるようだ。
三人はエルビラの家を後にし、チャド・カーター医師の診療所へ向かうことにした。戦いは避けられない。
シーン4:夜襲
三人が診療所へ来た時には日が落ちてしまっていた。
かまわず影界から診療所へ侵入し、チャド・カーターを探す。
診療所の奥にある院長室へ踏み込んだとき、三人は既にクリノス形態になっていた。
カーター医師がこの姿を見れば、恐怖のあまり気絶したり記憶を無くしたりするはずだ。もし彼が普通の人間であれば。
しかし医師は落ち着きはらっていた。彼自身もワームの手先たるフォモーリだったのだ。
戦いが始まるかという次の瞬間、影界から物質界へ背の高い男性が渡ってきた。現れたのはライナス・ヒル議員である。
彼らは最初から結託してジェラルド・エドワーズ市長の殺害を計画していたのだった。
それも市長自身の手で自殺させて、である。
クリノス形態の三人を見たライナス・ヒル議員は、自身も変身をして対抗を図った。
身体を覆う漆黒の毛皮、長く禍々しい形の鉤爪、ザラザラの舌とノコギリ状の牙…
これこそガルゥの裏切り者にしてワームの手に落ちた悲劇の部族、ブラック・スパイラル・ダンサー族である。
ガルゥ同士の戦いということで、総力を挙げて戦いに挑む三人。
「業怒」(ガルゥの力の源となる怒りの力)のパワーを開放し、一瞬で何度もの攻撃を加えていく。
戦いはすぐに決着が付いた。
アンリの授け(精霊から教わる技)「ハヤブサの掌握」がダンサー族にきまり、身動きが取れなくなったところでティフォナスの鉤爪によって引き裂かれたのだ。
かつてカーター医師であったフォモーリは、ケンジの手にある霊宝「牙の短剣」によって突き刺され切り裂かれてしまった。
真夜中の診療所で悲鳴もなく二人の怪物が滅ぼされた瞬間だった。
エピローグ:武勲の証
ベーカーズシティでは市長の自殺に続き、政敵であるライナス・ヒル議員の行方不明事件で騒然としている。
三人は衛族の元へ戻ると、衛族長サディアスへブラック・スパイラル・ダンサー族の首を持参した。
”白い月”はダンサー族の首を見ても驚きはしなかった。今やワームの手先であるこのガルゥは、どの部族よりも大勢力となっている。
これから先も度々戦うことになるだろう。しかしまずはベーカーズシティを救った勇敢なパックを讃えなければいけない。
「武勲の証、しかと見届けた。そなたたちの武勇は衛族の間に広く知られることになるだろう。ご苦労であった。」
ストーリーテラーおよびプレイレポート執筆:コニタン