前半からの続き
リンドルーン・パス内部へ足を踏み入れた4人は、西へと果てしなく伸びる巨大な坑道を発見します。
どうやらこの坑道が、山脈を越えた向こう側の土地へと続く道のようです。
坑道は地下であるにもかかわらず、かすかな空気の流れが発生していることに気付きます。
ハーフリングのルルンが先行して坑道に進み出たところ、何者かの力によって元の場所に戻されました。
まるで大きな空気の塊に掴まれ、運ばれたような具合です。
辺りの部屋を探索すると、坑道の東の端に大きな部屋があり、魔法の儀式を行う祭壇が据え付けられていました。
パリューンが調べた結果、エレメンタル(精霊)を使った魔法がかかっており、この坑道全体が高速の転送装置のようなものであることを知ります。
4人はひっくり返ってかき乱された祭壇の近くから、魔法の活性化に必要な「蝋燭」と「杯」を見つけ、祭壇に供えます。
すると、壁に描かれた巨大な魔法陣が光を放ち始め、坑道にかけられた魔法が再び活性化したことを示し始めました。
パリューンが魔法陣に触れると、その体は一瞬にしてガス状になり、坑道内のエア・エレメンタル(空気の精霊)の力で一気に吹き飛ばされていきました。
残った3人も恐る恐る魔法陣に触れ、西へと向かう果てしない坑道を途轍もないスピードで飛んでいきました。
気が付くと4人は、坑道を抜けて見知らぬ土地へとやってきていました。
空気が湿っていて暖かく、見慣れない植物が生えている緑の多い土地です。
これからどこに向かうべきか思案していたところ、眼前に古さびた塔が見えてきました。
もしかするとジャヤドラン族のものかもしれないと考えた4人は、手がかりを求めて塔の中へと入って行きました。
塔の中に住人はおらず、かなり昔に打ち捨てられたもののようです。
少し調べると、古い魔法の巻物がいくつか見つかりました。かつてエルフが居住していた塔であることは間違いなさそうです。
塔の屋上まで出ると、いきなり巨大な飛竜に襲われます。
飛竜の正体は「サンダーヘッド」。強力な電撃を放つ危険な存在です。
敵の電撃攻撃によりルルンが気絶して戦線から離脱するものの、何とか撃退することに成功します。
その後、塔から貴重な魔法の品をいくつも発見します。
ロッド・オブ・イナーシア(慣性のロッド)、魔法のクロスボウ、魔法のランプ…
この魔法のランプは実は「ハリケーン・ランプ」(暴風雨の灯)だったのですが、うっかりランプの覆いを取ってしまいます。
おかげで4人は風に吹き飛ばされ、雨でずぶ濡れになって、ぶつぶつ文句を言いながら塔の中で休息をとることになりました。
塔の屋上から周りを調べた4人は、近くに人の生活している集落を発見します。
早速その場所に行ってみると、村人たちは珍しい旅人の到来に驚きつつ、快く歓待してくれました。
村の長は4人に食事を振る舞い、この場所にやってきた理由について尋ねます。
しかしエルフのジャヤドラン族を探していると伝えられると、村長の顔色がさっと変わります。
「まさか、あの方々の…これは失礼しました。私どもは何も知らなかったものですから…」
丁寧な言葉ですが、村人達の態度からは恐怖が見て取れます。
その後4人は、妙に余所余所しくなった村人達から、やんわりと追い出されるかたちで村を後にしました。
村人たちの態度を不審に感じつつ、4人は村から少し離れた場所で野宿をすることにしました。
夜の間は交代で見張りに立ち、辺りを警戒しながら休息をとることにします。
その夜遅く、ハーフリングのルルンが見張りに立っていた時のこと。
近くを流れる川の音に混じって人の声のようなものを聞いたルルンは、明かりを手に川辺へと出て行きました。
小川を挟んで向こう側、月明かりに照らされた人影が見えます。そこにはまだ若い、12、3歳の少女が一人しゃがみこんでいました。
少女はルルンの姿をみとめると、悲しそうな表情で問いかけます。
「あなたは騎士様?助けに来てくれたの?」
ルルンが返答に窮していると、少女は「怖ろしいこと」が起ころうとしているので一緒に来て欲しいと懇願します。
尋常ならざる雰囲気にためらいながらも、好奇心と正義感に背中を押されて、ルルンは少女と共に歩き出します。
川辺から少し離れた場所に、大きな古い屋敷が現れます。
少女はルルンの手を引き、屋敷の中へと案内します。
やがて食堂までやって来ると、そこには客人を迎えるかのような食事の準備がされていました。
少女はルルンとともにテーブルの下に潜り込み、そこでじっとしたまま動かなくなりました。
テーブルの下から見えるのは、館の主人と思しき男性の足、彼の家族の足、警備兵の足…
やがて食堂の扉が開くと、3人分の足がテーブルに向かって歩いてきました。
一つはほっそりとした男性の足、美しい装飾のついたゲートルが巻かれています。
もう一つは素足にサンダルの女性の足、最後は子供の足でした。
館の主人と思しき男性は、客人の到着を喜び、挨拶をしたあと席を勧めます。
客側の男性は、手土産としてワインを主人らに振るまい、その場の全員の手に杯が行き渡りました。
「偉大なるジャヤンドラン族の帰還を祝して。」
乾杯を告げる声のあと、程なくしてグラスの割れる音が響き渡ります。
砕け散ったガラスが床に飛び散り、椅子から転げ落ちた館の主人がどさりと倒れこみます。
その場の全員がうめき声とともに床に突っ伏し、苦しみに体をよじり、やがて動かなくなりました。
客としてやってきた3人を除いては。
「愚かな連中だ。これからは永遠に我らのために働いてもらうぞ。」
そしてテーブルクロスがめくり上げられ、「もう一人残っていたのか。」という声。
異様な形の手が、少女を掴んで外へ引っ張り…
ルルンが目を覚ますと、他の3人は既に朝の支度にとりかかっていました。
ルルンは気がかりな夢のことを3人に話し、夢で見た館がある場所に行ってみようと主張します。
4人は川を越え、ルルンの案内通りに歩いていくと、そこには古い館が建っていました。
館に入って行くと、黴と埃の臭いに混じって異様な臭いが漂ってきます。
館の奥から恐ろしげなうめき声とともに、十数体のグールが4人に向かって襲いかかってきます。
グールはウォラスのターン・アンデッドで次々に破壊されていきますが、グールの中でも強力な「アガラット」に苦戦します。
襲いかかるアンデッドたちを全て破壊した後、4人は館の奥の部屋へと進んでいきます。
奥の部屋では死霊術の祭壇がしつらえられており、そこにはルルンが夢の中で見た少女がスペクターとして呪縛されていました。
スペクターとレイスという強力なアンデッドを相手に厳しい戦いとなりますが、パリューンの攻撃呪文やウォラスの補助呪文を総動員して勝利しました。
館のアンデッドを全て滅ぼし、死霊術の祭壇を破壊すると、館は元の静寂を取り戻しました。
この館はこの辺りの土地を治める「ショカ王」とよばれる領主のものでした。
彼とその家族、部下たちを殺害し、アンデッドにしてしまった犯人が何者なのか手がかりはありません。
しかしルルンの夢の中では、ジャヤンドランのエルフがこの蛮行に関わっていました。
4人は村人からジャヤンドラン族の棲家について聞き出し、真相を知るために出発しました。
ジャヤンドラン族の棲家は「月の家」と呼ばれる、巨大な建物です。
月の家に辿り着いた4人が目にしたのは、黒い髪の美しいエルフの男女、そして子供の3人組でした。
彼らは突然の訪問者に驚きながらも、友好的に歓迎し、月の家へ招き入れました。
男性の名はダヤラン、女性の名はカイラシュ、子供の名前はクム。ジャヤンドラン族の最後の生き残りだといいます。
ルルンは彼らが夢の中に出てきた3人の客人だったという気がしますが、記憶が曖昧で確信が持てません。
その夜、食事のあとでダヤランが4人に告げます。
「申し訳ありませんが、今夜は我ら氏族の大切な儀式があります故、留守にさせていただきます。
館の中はご自由に出入りされてかまいませんが、一番北の奥の部屋だけは立ち入らないようにしていただきたいのです。
我らの神が祀られております神聖な部屋ですので…」
4人は承諾し、家の主たちが出かけるのを待ってから行動を開始しました。
奥の部屋に何か重大な秘密があると考えた4人は、敢えて秘密の部屋に踏み込んでみるという選択をしました。
鍵を破壊して侵入すると、大きな部屋がいくつかの区画に区切られていました。
一つ一つの区画を確認していくと、そこには死霊術に関する儀式の準備や、祭壇が並べられていました。
更に奥の部屋まで行くと、ひときわ大きな祭壇の上に、大きな黒い箱が置かれています。
4人が箱を開けると、そこにはエルフの女性の首が入っていました。
唖然とする彼らのすぐそばに、亡霊のような姿が現れ始めます。
亡霊の顔は紛れも無く、箱に収められている生首の女性です。
彼女は姿をあらわすと一言「逃げろ」と4人に告げます。
次の瞬間、亡霊が耳をつんざく絶叫をあげました。
亡霊の正体は「バンシー」で、その絶叫に耐えられなかった者は全て死に至るという怖ろしいアンデッドです。
ここでは全員がセービングスローに成功し、なんとか危機を脱しました。
その後もバンシーの強力な攻撃に苦しめられますが、無事に勝利を収めることができました。
忌まわしい祭壇を完全に破壊し、4人は家の主人たちが帰るのを待ち構えます。
明け方、「月の家」の主人達が帰ってきます。
4人は彼らに、死霊術の祭壇のこと、エルフの生首のことを問いただしました。
ダヤランは凶悪な笑いを口の端に浮かべて答えます。
「たった一人生き残ったエルフの婆さんだよ…思った以上に手強くてな…3人がかりでようやく殺せたのさ。」
手袋を外した彼らの手は、掌と甲が逆になっていました。
ダヤランの姿がほっそりしたエルフの男性から、虎の頭部を持つ大柄な姿にみるみる変わっていきます。
彼らの正体は「ラークシャサ」。異世界よりやって来た邪悪の権化です。
4人が戦闘体制に入ると同時に、ラークシャサの一人、カイラシュからファイヤーボールの呪文が飛び出します。
4人は大ダメージを受け、初っ端から大ピンチを迎えてしまいます。
ラークシャサは素早く、アーマークラスが非常に低いため、なかなか有効打をあたえることができません。
しかしあの古い塔で見つけた、魔法のクロスボウは特別なものでした。
この祝福されたクロスボウはラークシャサの弱点であり、命中すれば彼らは即死します。
飛び道具の得意なハーフリング達がクロスボウを扱い、パリューンとウォラスは呪文やポーション、巻物をフル活用して援護します。
ルルンが瀕死の重傷を負って戦闘から離脱し、あわや全滅かと思われたところで、クロスボウの矢が3匹のラークシャサを全て葬り去りました。
長い間3匹のラークシャサによって奴隷同然に扱われていた人々は開放され、4人は英雄として感謝されます。
4人は戦いの傷が癒えるまで、「月の家」に滞在することにしました。
結局、ジャヤンドラン族の生き残りに会うことはできず、4人は失意のうちに帰還することになります。
キーナとルルンは、ラークシャサたちに殺されたあのエルフ、ジャヤンドラン族の最後の生き残りを埋葬した墓に立ち寄りました。
キーナとルルンは、墓の側であのエルフの女性が立っている姿を目にします。
彼女は驚く2人に対し小さな袋を託すと、霧のように消えてしまいました。
我に返ったハーフリングたちは、その手に残った小袋をそっと開けてみました。
袋の中に入っていたのは、黄金色に輝く小麦の種子でした。
(終)