過去のセッションで使ったキャラをレベルアップして使用しました。
アストリット :人間の学生→医者
カルグン :ドワーフの遺跡荒らし→盾砕き
という二人パーティでした。
学生のプレイヤーは、以前のセッションでヴァンパイアと出会ったことをヒントにして、ヴァンパイアの部下として活動する医者という設定を思いつきました。
今後、医者から密偵に成長する予定だそうです。遺跡荒らしのプレイヤーは戦闘に強いキャラが好みなので、順当に盾砕きに転職しました。
今回のセッションは、即興のマスタリングで行いました。
まず、プレイヤーとGMはPCの背景や経歴について話し合います。
こうして決まった設定は以下のようになりました。
アストリットは医者でありながら、ヴォルシュターという名前のヴァンパイアの協力者でもあります。
彼女はヴァンパイアの後援を受けながら、医者の立場を利用して主人の命令に従い便宜を行なっていたのですが、いつしか司法当局から疑いの目を向けられるようになり、しかたなく開業していた町から夜逃げすることになりました。
カルグンは、売剣の仕事を求めて旅の途中、アストリットと出会い、行動を共にするようになりました。
カルグンはアストリットの暗い秘密に薄々と気づいていますが、彼の面倒見の良い性格も手伝って、不釣り合いな二人組は旅を続けているのです。
カルグンのプレイヤーに、アストリットと出会った日のことを考えてもらいました。
それは、ある街道の宿屋で、賞金稼ぎに捕まった彼女をカルグンが救出した、というものでした。
「危うく賞金稼ぎに連れ去られそうになるところを、俺が助けたのさ」と話しました。
GMは、その話を気に入り、その場面をプレイすることに決めました。
このセッションは、ゲーム内の時間を、現在と過去で行ったり来たりしながら進行します。
シーンは宿屋で幕開けます。アストリットとカルグンは大雪のせいで宿屋に足止めされています。
その夜の晩餐のあと、宿泊客たちはホールに集まり、退屈しのぎに面白い話をしようじゃないかということになりました。
医者は眠気を理由にこの申し出を辞退し、独り部屋に帰ってしまいました。
ドワーフはこの余興に加わることに決めました。やがてドワーフの語る番になりました。
このシーンも宿屋で始まりました。
逃避行中のアストリットが宿屋にたどりつき、一晩の宿を頼みますが、あいにく部屋は満室らしく、子連れの女性と相部屋になります。
一方カルグンは、街道で賞金稼ぎたちと出会い、彼らがアストリットという名の女医を追っていることを知ります。
カルグンは、賞金稼ぎから質問を受けますが、愛想よく振る舞ったおかげで、馬に同乗させてもらうことになりました。
アストリットは、宿屋の主人に部屋の変更を頼んだところ、いまは使っていない使用人部屋でよければ、ということで承諾してもらいました。
そうするうちに、賞金稼ぎたち(とドワーフ)が宿屋に到着します。
高圧的な態度で宿屋を捜索する賞金稼ぎたちですが、彼らが目をつけたのは旅行中の子連れの女でした……。
非常に興味深いことですが、この場面でドワーフはほとんど活躍できず、賞金稼ぎたちもアストリットの言い逃れに騙され、彼女を見逃してしまいます。
相部屋になった子連れの女は、いわゆる『シナリオの引き』だったのですが、危険な状況におびえた医者は、賞金稼ぎたちが女を連行しようとしても、いっさいの『お節介』を拒否しました。
GMは、アストリットとカルグンが宿屋を離れた時点で、時間を現在に戻します。
ドワーフは、やや盛りあがりの欠ける話をしたことで、聴衆から微妙な反応を返され顔を赤らめます。
「いやはや、もっとおおごとになるかとヒヤヒヤしたが、なんとか上手く切り抜けた。人違いなんぞ迷惑な連中だよ、シグマ―の狂信者どもは!」
夜も更けてきました。ガルグンは、もっと面白い話はないのかと酒場の客にせがまれます。
プレイヤーは、ヴァンパイアがらみのびっくりエピソードを披露したいとGMに提案しました。
GMは、話のアンカーとなる品物はないだろうか、と、質問します。
プレイヤーは、『首飾り』を思いつきました。
そして続けます、「ヴァンパイアに依頼されて仕事をこなした話だよ、首飾りを盗んでこいとか、そのような話」。
GMは要望にこたえ、即興で短い『クエスト』を用意しました。
シーンは半年前のナルンで始まります。
またしても宿屋に宿泊した二人ですが、アストリットは、疲れたからと言って、さっさと部屋に引きこもってしまいました。
ベッドでごろごろしていると、窓をノックする音。
開けてみると、カバンをたすき掛けにした大きなコウモリが窓枠にとまっています。
ヴォルシュターの使いであることを理解したアストリットはコウモリを部屋に招き入れます。
コウモリの運んできたカバンの中身は、書簡と首飾りでした。
このとき、カルグンが部屋の前にやってきて、一緒に酒を飲もうとかなんとか口実をつけてシーンに登場しようと試みますが、部屋に入れてもらえませんでした。
書簡には短くこう書かれていました。
「ブントン伯爵夫人の首飾りを、この首飾りとすり替えなさい」。
翌日、アストリットは祭りで大賑わいの街にでて、ブントン伯爵夫人について情報を集めます。
カルグンのプレイヤーは、好奇心丸出しの丁寧なロールプレイを絡めながら聞き込みに参加しようとしますが、用心深いアストリットがはぐらかし続けたので、結局、つきまとっただけで終わります。
アストリットの情報収集はたいへんうまくいき、明日の夜、ブントン伯爵夫人がほかの貴族たちと共に花火見物に現れることを知ります。
アストリットは、一計を案じます。
そしてGMに、「ハンス君(コウモリの名前)をブントン伯爵夫人に突撃させ、伯爵夫人が卒倒するか取り乱したら、わたしが通りがかりの医者として颯爽と現れ、診察するふりをして首飾りをすり替える」という計画を提案します。
計画に自分が入っていないことを知って、ドワーフのプレイヤーは激しく動揺しますが、GMはこれを段階による技能判定で進めることにしました。
決行の夜になりました。花火の見物客でライク河沿いの広場はごった返しています。
まず、アストリットは遠目に観察して伯爵夫人が身に着けている首飾りを確認しました。
すぐさま、コウモリ君にゴーサインを出します。
コウモリ君の〈威圧〉判定は成功、貴族たちの観客席で悲鳴が上がります。
時を同じくして、アストリットのことを心配したカルグンがもしもの事態に備えて完全武装をマントで隠しながらこっそり医者を尾行したのですが、技能判定に失敗、警備兵に職質されてメタゲーム的なプレイ批判を叫びながら事務所に連行されていきました。
続いて、倒れた伯爵夫人のところへアストリットが登場して〈魅惑〉判定を成功させ、彼女をてきとうな天幕へと運び込みます。
若い男性貴族の取り巻きたちが心配顔で付き添いを申し出ますが、ご婦人の前ですから退出するようにとやんわりたしなめて〈魅惑〉判定成功、二人きりの場面で首飾りのすり替えにみごと成功したのでした。
意識の戻った伯爵夫人をその場に残して、そそくさと立ち去るアストリット。仕上げに、本物の首飾りをコウモリ君に渡して任務完了です。
ドワーフがビールのジョッキを逆さにし、エール酒の最後の一滴を舌に滴らせたとき、広間のほかの客たちはテーブルに突っ伏していびきをかいていました。
アストリットが広間への階段を下りてきて「雪はやんだようです、そろそろ出発しましょう。あら、もしかして徹夜?」と言いました。
気がつけばもう夜明けでした。「ふん、こうしてここで待っておったのだ。寝坊助が。」 ドワーフが不機嫌そうに答えました。
宿屋の客たちが目を覚ましたとき、雪の上に残った宿屋から遠ざかる二人の足跡は、冬の弱い太陽に照らされて、はやくも消えかかっていたのでした。
ゲームマスターおよびプレイレポート執筆: ナッキー