実効再生産数
新型コロナ収束の時期評価
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年 5 月 1 日) の中に,全国における実効再生産数と東京都における実効再生産数が掲載されていた.
横軸は推定感染時刻,黄色が推定感染者数,青が実効再生産数(青い影が 95%信頼区間)である.なお,潜伏期間 と発病から報告までの遅れのため,直近 20 日間は推定感染者数と実効再生産数を過小評価する 可能性があるため,データを省略したと記載されている.
提言に記載されている両図の説明の部分を引用させてもらった.
全国における推定感染時刻を踏まえた実効再生産数を見ると, 3 月 25 日は 2.0 であったが, その後, 新規感染者数は減少傾向に転じ たことにより, 4 月 10 日の実効再生産数は 0.7となり, 1 を下回った. しかし, 後述する東京都ほどには下がっていなかった.
東京都においては, 感染者数が増加しはじめた 3 月 14 日における実効再生産数は 2.6であった. 3 月 25 日の東京都知事による外出自粛 の呼びかけの前後から. 新規感染者数の増加が次第に鈍化し, その後, 新規感染者数は減少傾向に転じた. この結果, 4 月 1 日時点での直近 7 日間における東京都の 倍加時間(感染者が2倍となる日数)は 2.3 日であったが. 5 月 1 日時点での直近 7 日間の倍加時間は3.8 日となった.また. 4 月 10 日の 実効再生産数は 0.5 に低下し, 1 を下回った.
再生算数 (R) は以下のように考えると分かりやすい.
Rはある種のウイルスを1人の感染者が何人に感染させるかを示す値である.1人が2人に感染させる場合の再生産数は2である.このペースで感染が続き,1→2→4→8・・・・と 拡大していくと10回で感染者は1000人を超える.
一方,再生産数が1の場合は,新規感染者数が増えも減りもしない状態ということになる.
適当な対策によって再生産数が1を切れば,流行が収束に向かっていること示す.R=0.5の場合の図を見てほしい.
実効再生産数が重要な指標であるにもかかわらず,東京都は3月21~30日の数値「1.7」を公表した後は,一度も発表していなかった.実効再生産数の速報値を毎日発表しているドイツは,3月上旬には「3」以上であったが,4月30日は「0.76」まで落ち,一部経済活動を再開した,
新型コロナウイルスの感染対策で,政府が国民に「3つの密」の回避を中心とした行動変容や自宅待機を求めているが,R値はその緩和を探る上での重要な指標になっているとのことである.
今回の提言では,「4 月 10 日 時点のみならず,引き続き,実効再生産数の水準がこのまま維持されるかを注視し ていく必要がある」と述べている.新規感染者数が減少傾向にあるとの指摘を受けて,経済再開の可能性の議論が進み始めたが,感染者数(潜在的な感染者が考慮されていない)の適切な把握なしでは出口戦略を描けないのは明白である.緊急事態宣言が今月末まで延長されたのは,それを確認するための期間と言えそうである.
追記
PCR 検査数が外国と比べ少ないのに,感染者数が減少しているとなぜ判断できるのかとの疑問に対しては,以下のような見解を示している.
・これに関しては、医師が必要と判断した場合及び 濃厚接触者を中心に PCR 等検査を実施してきたため、感染者の全てが把握されている わけではない。しかし、検査件数が徐々に増加している中で、陽性件数は全国的に 減少傾向にあること、また、東京などで倍加時間が伸びていることなどから、新規 感染者数が減少の傾向にあることは間違いないと判断される。