ゴシック建築やバロック建築といった様式を軸とした時代区分や芸術作品の整理は高度に洗練されてきており、研究蓄積も膨大にある。しかし、その様式に当てはまらないものは忘却されうるもの、その時代の性格を示さないものなのであろうか。むしろ、そうした周縁的なものや忘れ去られたものの中にこそ、時代の本質が現れてくる可能性がある。まさに「家を建てる者の捨てた石が、隅の親石となった」(詩編)あるいは「神は細部に宿る」(ミース・ファンデルローエ)といった言葉が思い起こされる。19世紀以降の近代的な知の枠組みが見直されている現在、改めてこの問題に向かい合う必要があるのではないだろうか。
この研究会では、「宗教モニュメント」を対象とする。宗教建築ではなく宗教モニュメントを看板として掲げているのは、そこに、物質による構造体のみならず、人々の想念(信仰・追悼・記憶など)を孕む空間として、その全体を長期的な時間軸の中で研究対象としていきたいからである。ところで、「モニュメント」は通常単体でその特徴を考えがちであるが、ここでは周辺環境との関係性の中で考察していきたいと考えている。
本研究会は、日仏会館・日仏学術研究助成2022年度「パリの歴史的建造物の建築再生ー日仏交流の視点からー」(研究代表者:中島智章、共同研究者:加藤耕一・嶋﨑礼・川瀬さゆり・坂野正則)、日本カトリック大学・短期大学連盟カトリック学術奨励金「研究助成金」2022年度「「遺産」から読み解くカトリックの信仰と空間に関する学術研究プラットフォームの構築」(研究代表者:坂野正則、共同研究者:坂田奈々絵・阿部善彦・原敬子)、上智大学学術研究特別推進費 「自由課題研究」 2024~2026年度「歴史的ヨーロッパの宗教モニュメントに関するアーカイブズの構築 と世界遺産オーセンティシティの再考 」(研究代表者:坂野正則、研究分担者:原敬子・高橋暁生・赤松加寿江)の共同研究プロジェクトと連携しながら運営されている。