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『猫の女王の冒険』シナリオソース 蛇神の鼓動
『猫の女王の冒険』シナリオソース 蛇神の鼓動
・M!M!TRPG用のシナリオです。
・使用する戦闘データなどに関しては参加者や戦力によってその場で決めていますので、これは物語のみの「シナリオソース」とします。
■APPの謎
エヂプトに密かな悪意が蔓延している。
強力な神々が顕現して華やかな都市が栄える一方で、その神々によって冥界に追いやられた邪神が復権を狙っている……あるいは、そんな暗き神々の仮面をかぶり、盲目な信者をもあざ笑う魔界の勢力が跋扈しているのだ。
かつて太陽神と対立し、冥界に捕えられた夜の大蛇アぺプが復活するのか。
そんな噂に、ある者たちは恐れ、ある者たちは期待した。
闇と破壊、邪悪と憎悪。
暗い衝動は、生命のさがなのだろうか。
このシナリオソースでは「猫の女神の冒険」に見え隠れする対立をより印象的なものとして描き、この世界の危険と冒険への意欲を高めてゆきます。
■トゥー=エバンの緊張
砂漠のなかに捨てられた都市、トゥー=エバンでセクメトによる探索が行われたことは人々に知られるところとなっている。ウアジェトのピラミッドに眠る水晶髑髏の探索だった、というのはすでに多くの者たちに知られる。
トゥー=エバンの者たちはこの情報を複雑な気分で受け取った。
もとよりこの地はコブラ頭の女神ウアジェト神の信奉者がひそやかに守ってきた地であったが、昨今はより純蛇主義者のリレッキたちがリレク神を崇め、ときに過激思想に走る傾向にある。例えばリレッキたちはウアジェト神のピラミッドで凄惨な生贄の儀式を行い、蛇神の血に飢えた側面を復活させようとしているのだ。
セクメト女神が治安維持のために兵を派遣するのではという噂もある。そうしたら純蛇主義者との対立は明確なものとなるだろう。
■ヒライアカルの惨劇
そんな緊張のなかで事件は起こった。
早朝にウアジェトのピラミッドに集合し、崇拝の儀式を行おうとした穏健派のリレッキたちが、生贄をささげようとする過激派集団であるとの密告を受け、セク=アテムの傭兵集団に襲撃されたのである。
この襲撃に穏健派も怒りの声を上げることとなったが、虚実入り組んだ問題で、この密告は対立激化を目論む過激派集団「APP」によるものであった。
平和維持を旨とするマアアト教団は中立的立場であるPC達にこの交渉を依頼する。
■講和の可能性
襲撃を行った傭兵集団の隊長を務めていたのはタイゲリアンのアルシザーである。
密告により、早朝、二十人のウアジェト教徒を待ち伏せして射撃し、その運搬していた樽のなかにいる生贄を救出しようとしたのだ。ウアジェト教徒のうち五名が死亡、五名が負傷したその場で動けなくなり、他五名が負傷しながらも残り五名と共に逃げて行った。
捕虜や持ちものを調査した後、密告の過激派ではないとは判ったが、怒るウアジェト教徒からののしられたことにより、敵対的集団である、として捕縛している。
タイゲリアン連隊は空き家となった兵舎を拠点としている。
トゥーエバンの民衆は、タイゲリアン連隊への敵愾心を抱きながら、とにかくウアジェト教徒を解放するようにと要求しているが、アルシザーは十分な尋問が終わるまでは解放できないとつっぱね、兵舎の周りに歩哨を置いて暴動を警戒している。
アルシザーは密告者はリレッキだった、というぐらいで、その密告者がどこの誰であったかを答えることはできない。彼自身はリレッキの個体の区別もつかないぐらいである。
PCが説き伏せれば、アルシザーは自分たちが騙されて襲撃を行ったことをしぶしぶ認める。そして過ちに対し、謝罪や賠償を行うことも承知するが、「それによって騒動が決着する」見込みがある場合のみで、無駄な謝罪になるぐらいであれば、敵対関係のままこの廃墟都市を離れればいいだけだ、とも思っている。
タイゲリアン連隊に解放と保証を求める民衆側はまだ怒りに満ちており、捕虜の即刻の解放と、殺害を行った傭兵の公開断首を求めている。これにはアルシザーも含まれており、もちろんアルシザーは自分の死を受け入れてまで講和するつもりはない。
セクメト女神の介入を求めた場合、苛烈な女神は「両成敗」でとにかく騒動を納めてしまうかもしれない、という可能性がある。
解決手段の正道は、アルシザーに密告を行ったリレッキを探すこととなる。
■街にひそむ過激派
商人や職人の居住区においては、中立的な立場にある住人と会話することができる。
もしラットリングのスクウィー=スクウィーと面識があるのであれば、彼女はリレッキのなかでも穏健派と過激派がおり、そのなかでもAPPと呼ばれる小集団が対立を激化させようとしていることを指摘する。
そして、誰がAPPであるか判らないから慎重に行動しないとならない、と助言する。親切な商人がAPPであるかもしれないし、食堂の女給がAPPであるかもしれない。
話していると「こんなとこでチョロチョロしてんじゃないよ、泥棒ネズミ!」とののしる声を掛けられる。彼女は、妖艶な体にコブラの頭が乗った蛇人間ウアジーの水商人、シェイキーである。
スクウィー=スクウィーは慌てて逃げるが、シェイキーは「あいつは油断ならない密告ネズミで、あることないこと言っている。なにか吹き込まれなかったか?」と怒りの表情で尋ねる。シェイキーはラットリングが過激派について危機感を抱いていることを知っており、それが気に入らないのだ。
シェイキーは鉄火肌の女商人で、湧き水を質良く管理して販売している。汲んだ水を特別な陶器で濾すことによって味が良くなるので、富裕層の商隊はこの都市で補給を行うときは彼女から水を買うようにしている。
シェイキーには幼馴染で恋人でリレッキのネイクに儲けた金を預け、さらにそれはセク=アテムの両替屋に預けて投資にあてられているので、両都市の平和的発展を願っている。しかしネイクこそAPPの一員であり、彼女の財産はAPPの活動資金として浪費されていることを知らない。
この線を追ってゆくと、ネイクの正体を知ることになる。
アルシザーに偽情報を伝えたのはネイクであり、彼自身はそれを自分の手柄だと思っていて誇ることもする(ちなみにそのうえでも、リレッキの見分けがつかないアルシザーはネイクが密告者であると確信を持つことはできず、逆にネイクを怒らせることにもなる)。
ネイクは自分の上の連絡先については白状しようとしない。もし白状したとしても、それは活動員の一人であり、APPの首謀者ではない。APPは思想と衝動を絆とする入り組んだ組織であり、それを辿ってゆくのは容易なことではない。
■穏健派の願い
過激集団が暗躍する一方で、ウアジェト穏健派も決断を迫られている。
ウアジェト神殿の司祭であるリレッキのソアテム師は、セクメトが姿を現したように、ウアジェト女神本尊の降臨が成し遂げられれば、すべての信徒は迷うことなく幸福な日々を送ることができることになるだろう、と考えている。
しかしウアジェト女神はもはや「滅びている」か「この世界から去っている」であろうとのあきらめは信徒にもはびこっており、せめてリレク神のほうが顕現の可能性がある、と考えるものたちが日々増えている。
PC達がソアテム師と接触するなら、この緊張を解決する条件として、ウアジェト女神の降臨にセクメト女神が協力してくれるよう、陳情を手伝って欲しい、と頼まれる。
助力を約束するなら、ソアテム師は味方として力を貸してくれる。
しかし、実際にセクメト女神がウアジェト女神の問題に力を貸すことはないであろうとも思われる。セクメト女神の他の関心事に比べて些末なことであるからだ。
ソアテム師は聡明な人物であり、アルシザーがAPPに騙された、ということを語れば、その証拠を準備していなくても、それはありうることだ、と沈鬱に同意する。謝罪と遺族への賠償をもって講和に合意することもできるが、それと共に、共に対立をあおる過激派に対処してゆくことも条件として求められる。
■APPのアクションA
交渉によってこの問題を解決してゆき、PCがソアテム師の信頼を得、アルシザーが謝罪を行ったのであれば、タイゲリアン連隊は謝罪の姿勢をもってピラミッド警備を行い、ウアジェト女神への崇拝儀式に参列することとなる。
この和解はAPPにとっては致命的な展開であり、断固として妨害しようとする。
リレッキのネイクのような末端構成員は、住民の怒りを煽ろうと、虐殺を忘れるな、とのキャンペーンを開始し、その反駁は不自然に熱狂的であるように見える。女商人シェイキーも、そんなに過激派寄りだったのか、との疑いを持つようになるだろう。
詰問されたネイクが金の行き先を問われれば、熱狂と共に自分からそれを組織に提供したと自供することとなり、シェイキーとの仲たがいが決定的なものとなる。
■APPのアクションB
APPは砂漠にいるモンスターを街に呼び込む準備を進めており、それをタイゲリアン連隊や穏健派にけしかけることを行う。
ことにアルシザーを殺害することは、APPにとって大きな勝利となる。アルシザーは実際にはセクメト女神に高く評価されているわけではないのだが、女神の宮殿に自由に出入りできるタイゲリアンとして知られているからだ。
空中から怪物が飛来してきたり、届いた荷物に怪物が入っていたり、とアルシザーとPCはあからさまに不自然な襲撃を受けることになる。
■APPとの決着
このシナリオにおいて、APPはその全貌を表さない。
ネイクがAPPとして成敗もしくは捕縛されること、あるいはモンスターを操っていた存在が討伐されることをもって、一連の対立にいったんの終結が訪れる。暗い予感を背負ったまま、物語は続く。