LV2 SC02
ラヴクラフトヴァリアント2シナリオ 『深き夜の足音』
ラヴクラフトヴァリアント2シナリオ 『深き夜の足音』
・LV2用のストーリーモチーフとなります。ナラティブよりのTRPGとしてのLV2の使い勝手を試すために作成しました。
・1930年代のフィラデルフィア近郊をイメージしていますが、別の時代、別の場所に設定してプレイすることもできます。
■ボロアパートの苦情
PCは住んでいる古いアパートの隣室のエミー・カーンに相談を受けます。彼女はドイツから移住してきたばかりの貧しいユダヤ人で、ミュージカル女優を目指しています。彼女が深夜に仕事から帰ってきて寝ようとする時間に、廊下をはいずるようにして歩く気持ち悪い物音がする、というのです。そのため、怖くて眠りにつけない、変質者がいるのではないか、自分に執着する何者かがいるのではないか、守ってほしい、と一方的に訴えます。
エミーは20歳になったばかりの可愛らしい女性で、たしかに魅力的ではありますが人気が出ているというわけではありません。訴えには、なかなか人気もでないストレスから、自分が重要人物であると訴えたい、という面や、PCを頼れる存在として接近したい、という意図も見え隠れします。
■最もつらい仕事
・指定の時間に見張りをすると、「変質者」の正体が判ります。下水道がまだ旧式なこのアパートは排泄物を専用缶に貯めて回収する仕組みになっているのですが、深夜にそれを回収してまわる労働者の姿だったのです。彼はアーティフという青年で、脚の変形でひどいO脚になっており、脚をひきずるようにして排泄物の缶を運んでいます。
・しかし、スカーフに隠している彼の顔をみると、その醜さにぎょっとします(ES判定)。目は魚のように離れ、大きな口からはギザギザの歯が生えています。彼は深き者どもの血をひいていますが、そのことにはまったく知識がないまま、徐々に変化が進行していっています。
・話を聞くなら、エジプト出身、正確にはパレスティナ出身である、と語ります。貧しい村が第一次世界大戦で戦火にのまれ、仕事を求めてここまで流れてきたというわけです。以前は他の仕事もしていましたが、現在、この容貌と脚の変形によって、一目につかない夜の仕事をしているとのことです。
・彼はふるさとのことを懐かしく語ります。紅海に大きなハンプバック(ザトウクジラ)が来るのは、そこが平和な海だから、という知識を披露し、小さいころにペリシテの古い神事で、海に黄金のネックレスを投げると、大きく美しい女神が現れたのを見たことがある、と語ります。もちろんそれは科学的ではないと判っていて、小さいころの幻だったのでしょう、と懐かしそうに微笑みます。
■エミーの謝罪
・報告を聞くと、エミーは納得し、詫びます。そして調査の礼として、自分の出演しているナイトクラブのチケットをPCにくれます。彼女は「その人も連れてきてもいいわよ」と言いますが、目的はPCと近しくなることで、アーティフのことはどうでもいいと思っています。
・アーティフにこの件を伝えるか、チケットをアーティフに渡すか否かはPCの自由です。自分の仕事はここまで、と終了にすることもできます。
■リンチの夜
・いずれの場合であれ、エミーのステージのある夜、街で小さな騒動が起きています。アーティフが群衆にリンチを受けているのです。荒くれ者や殺伐とした群衆が、大恐慌は移民のせいだ、と叫びたてて、「臭くて汚い」と罵ってアーティフを引きずりまわしています。
・ことに体が大きい白人の男が、アーティフの体を吊り上げ、その胸に黄金のネックレスがあるのを発見します。「この野郎、こんなものをもってやがった」と見せつけて、すでに意識のない彼からそれをひきちぎり、デラウェア河に投げ捨てようとします。
・黄金のネックレスを海に投げると、大きく美しい女神が現れる、という逸話をPCは思いだされます。ネックレスを取り戻す、海に落ちる前に拾う、などの試みをすることができます。しかし、なんらかの状況によって黄金のネックレスが海に落ちたとき、災厄が訪れます(このときの判定でエルドリッチナレッジダイスを獲得します)。
■ハイドラの怒り
・大きな地震が起こります。それに続き、デラウェア河が逆流し、そのなかにたくさんの魚の姿が見えます。大きな魚影は魚人であり、河から上がると驚く人間たちを次々と河に落とし、水のなかに引きずり込んでゆきます。
・河口デラウェア湾のケープ・メイでは、すでに大西洋から上陸を図ろうとするハイドラが確認され、フィラデルフィア海軍工廠からは戦艦BB1インディアナが緊急出航の準備を開始します(米軍上層部はすでにハイドラの実在を把握しており、警戒態勢や対応シナリオを準備しています)。
・混乱のなかで、白服の男がPCに接触してきます。ホワイトメンと名乗る彼はフリーメーソンのエージェントで、事態を把握しようとしています。
・ホワイトメンの助言による解決の一つは黄金のネックレスを回収してハイドラに返すことで、ハイドラの鎮静を図ることができるかもしれません。負傷したアーティフを治療して一緒に返す、ということもできます。
・もう一つはあくまで闘争的にハイドラを退去させることです。軍事兵器に加え、フィラデルフィア・アカデミーが開発した新しい電磁兵器「フランクリンポッド(高圧電流を封じ込めたボトルを、凧からぶらさげてぶつける装置)」を用いたり、シナゴーグに保管されている「デーヴィットスリング(ゴリアテを倒したダビデ王の投石器という由来を持つスリング。現在は石弓状の兵器としてある)」の封印を解くか、という案を提案します。
・エミー・カーンはユダヤ人ですが、とくにフリーメーソンの保護対象ではないので慌てる傍観者としてだけ存在します。PCと一緒に、とにかく海から離れて逃げよう、わたしたち悪くないもの、と叫びます。
■プレイガイダンス
スラップスティックなストーリー仕立てのシナリオアイディアです。即興物語をプレイヤーと一緒につくるように、ナラティブに、大風呂敷を広げてください。適切に判定を組み込みながら物語分岐を演出してゆくことになると思います。
とにかくドラマティックに、シネマティックに、PCが「怪獣映画の主役」としてどのように行動するのか、そのアイディアを大切にしながらのびのびとプレイしてみてください。
話はちゃんと終わっても、終わらなくてもOKです。