LV2 SC01
ラヴクラフトヴァリアント2シナリオ 『家のなかの、また異なる絵』
ラヴクラフトヴァリアント2シナリオ 『家のなかの、また異なる絵』
・LV2用のコンパクトなテストプレイ用シナリオです。ここの判定やそれによって起こることは指定してありません。経験者向けのシナリオソースとなります。難易度などをニーズに合わせて変更してください。
・1930年代のフィラデルフィア近郊をイメージしていますが、別の時代、別の場所に設定してプレイすることもできます。
■廃屋からの回収
PCは実業家のジョン・スミスの依頼を受けます。彼はデラウェア川東岸カムデンに放棄された古い廃屋を購入し、工場用地としての再整備を考えています。
家を取り壊す前に、そこにある古い家財を売りに出そうと考えています。彼は多忙であり、家財の目利きにも自信がないため、現地にいって価値のあるものを回収してくれる助けを必要としています。
■サンダーヒル
・目的となる建物は、ごく低い丘の上にある古い邸宅です。ここは独立戦争期に羊を飼う小農園として用いられた後、事業終了と共に放棄されたままになっています。デラウェア河に面した河岸は湿地であり、船着き場が作りにくくて土地の価値が低いとされてきましたが、それは昨今の造成技術でなんとかなるでしょう。
・邸宅の周囲は杉の防風林となっていますが、落雷による火災があった痕が見られます。手入れはされておらず、周囲は荒れています。邸宅は半ば蔦に覆われており、むしろそれによって崩壊を免れているのではないかとも見えます。
・建物に近づくと、ここに人が住んでいるのではないか、と感じられる痕跡があります。戸口の周辺の草は払われ、踏み固められた小道となっています。しかし時間を問わず、建物の中に光が灯ることはなく、煙突が煙を出すこともありません。
・建物は二階建ての上に、屋根裏部屋を持った高い屋根があり、その先端には鐘楼があります。建築様式は強いて言えば北欧風のニュアンスを感じますが、特定はできず、むしろ奇妙なアンバランスさがあります。鐘楼は宗教的な装飾はなく、灯台にも通じる実用性を感じます。
・建物の隣には大きな納屋があったようですが、朽ちてつぶれてしまっています。
・同様に、放牧地、耕作地、家畜舎の形跡がありますが、廃墟となっています。
■呪われた稀覯書
・正面から屋敷に入ると広いリビングになっています。客を迎え、会議をしたり、サロンとして解放することのできる作りとなっています。
・中央のテーブルの上に古い本が置かれているのがまず目に入ります。本の周りは片づけられており、最近に誰かがそれを閲覧したことが判ります。
・本は「Tabula affinitatum animalium」という題でラテン語とフランス語が併記されており、フランスの革命戦争期の博物学者ヨハン・ヘルマン(1738-1800)の編著となっていますが、内容は一般的に知られている内容とまったく異なった奇怪なものであり、真偽はおおいに疑われるところです。
・本を開いた時点で1LvのES判定を行なってください。
・本を開くと判りやすい挿絵で、一人の乙女が囚われ、拷問を受け、刺青を施され、やがて解体されてしまう、という残酷な内容が淡々と図説されています。最後のほうのページは血液のようなものが染み込んで固まってしまい、開いて読むのには手がかかる状態になっており、乙女の運命はすぐには読み取れません。
・INT判定に1回成功するごとに、次の情報が判ります。1Lv判定から始めて、より詳しい情報を知るためにはレベルを上げてゆきます。1時間かけてゆっくり読めば、難易度を1Lv下げられます。しかし知ったことによって、またES判定を行わなければなりません。この書籍を解明することによって、EKDを1個獲得します。
1:この一連の儀式は、人間に「ヘルマンの蛆虫」と名付けられた異生物の幼生を寄生させ、成長させ、それを取り出す儀式を示している。この本の皮の装丁は犠牲者の皮膚であり、同じ刺青がある。儀式は簡単ではなく、幼生は母体ごと死んでしまうこともある。
2:寄生させる卵は、長く植物生物の体内で養育された後に、寄生体の体内でその絶望と恐怖を吸って育つ。そこから取り出されてもはまだサナギの状態であるが、そこから羽化して「シャッガイの昆虫生物」になる。
3:羽化に助力した者は脱皮殻を食べることで永遠の命や超常の力を得ることができる。
■その他の価値あるもの
・稀覯書のほかに、次のようなものが見つかります。
アンティークな食器セット 100ポンド
歴史的に価値がつくかもしれない絵画 50ポンド
アフリカ土産らしい彫刻 10ポンド
まだ払い戻せるかもしれない古い鉄道債券 300ポンド
ネイティブアメリカンの祈祷具 5ポンド
木彫りの熊 1ポンド
血液の染みがついたもう一冊の古い書籍 価値不明
■館の他の場所
1F
・台所:せまい使用人の寝床がついている古めかしい台所。奴隷時代の気配がある。長く使われていない様子であり、台所のなかにある井戸の中は泥だらけになっている。
・客室:整頓されたまま、ずっと出入りがない様子の客室。布団は虫に食われている。
・シャワールーム:狭く簡素なシャワールーム。バスタブはない。排泄用の便器もあるが、使われた形跡がないので、人が住んでいるとは感じられない。
2F
・主人の書斎と寝室:続きになっている書斎と寝室。農場というより貿易商だったのでは、と思わせる物品が多い。様々な書籍がある。熱心なクリスチャンであったのか、聖母像が飾られていたようだが、それが床に放り出されている。家の主人はノデリックという名前だったことが判る。
・ノデリックが怪物と戦おうとしていたということ、鐘を鳴らして助けを求める、という記述などを見つける。
・客室:客室の床に、朽ちた亡骸がある。腐った肉は土のようになっており、骨がバラバラになって散らばっている。死んでから十年以上は経っているようだ。解体に使われたらしい刃物やハサミが生々しく放り出されている。
・客室2:前の客室と同じような状態になっているが、こちらはより古く数十年たっているように見える。
3F
・3Fから鐘楼に上る梯子:金属で補強されている梯子だが、いまにも崩れそうだ。
・屋根裏収納庫1:ここはシャッガイの昆虫種族の住処となっており、幸運度判定で失敗すると昆虫種族がいる。いる場合、中からゴソゴソとなにかがはい回る音がする。シャッガイの昆虫種族は、この屋敷を監視するためにときおり戻ってきている(後述)。外への壁は破れており、昆虫種族はいつでも出入りすることができる。またここから逃げたいときは外へ飛び降りて逃げることもできる(負傷の危険高い)。
・屋根裏収納2:様々な荷物がある。吟味するのには時間がかかる。
4F
・鐘楼:かつて帆船時代に吊るされていた鐘がぶらさげられている。鐘の横には海の神(ノーデンス)のレリーフがある。実はこの鐘は鳴らすと落雷が落ちるというアーティファクトであり、書籍の前の持ち主が昆虫種族を迎撃するために用いたものだった。
■謎の住人ジョルン
・PCが本を見た後、外から帰ってくる人の気配があります。
・帰ってきたのはこの家の住人であるジョルンです。古く汚れた服を着た白髭の老人であり、入ってくると「誰かお客さんがきたようですな。気になさらないでいい、お顔を見せてくだされ」と穏やかな声で語りかけます。
・ジョルンはこの家で、百年ほど密かに暮らしています。『ヘルマンの蛆虫』の恩恵によって食事をする必要も眠る必要もありませんが、ときおり、外に出かけることがあります。彼の中に残った人間らしさが、人恋しさとなり、人間の社会を見物に行くのです。
・しかしジョルンはすでにすっかり狂気に汚染されており、人間の価値観のうちにありません。彼の行動方針は次のようなものです。
1:PCと友好的な会話をし、外の社会がどうなったかを聞きたい。特に応援していたリンカーン大統領がどうなったのかを知りたい。
2:PCに幼体を寄生させたいが、その方法は難しそうだと思う。PCにこの説明をして、協力者になってもらうように誘惑したいと考える。自分も食べた脱皮殻をまだ少し残しており、PCに分け与えることもする。
3:PCが断固として断り、この屋敷と平穏な生活に害を及ぼす存在であれば、取り除かなければならないと判断する。
・ジョルンはノルウェイ出身の水夫で、博識そうにふるまいますが、実際には無学な人間です。自分ではフランス語もラテン語も読むことができません。この本の元の持ち主ノデリックの従者として儀式を手伝ったことがありますが、その成果を横取りして主を殺してしまいました。主人殺しは彼が絶対に秘めたい秘密であり、自分がノデリックであると嘘をつくことも厭いません(ばれやすい嘘です)。
・本をより解読することに協力してくれる人物と出会いたいと思ってきました。そのために内心を隠し、善良な人間であるふりをして接近します。
・ジョルンはMR30の敵として運用します。使用するのはそこらへんにある火かき棒、鍋、杖といった日用品です。ただし後述する脱皮殻の力を持っています。
・ジョルンが「これでもくらえ」を使ったときの威力は6しかありません。これによってジョルンが知的ではないこと、あるいは衰退していることが判ります。
■脱皮殻の力
・脱皮殻を食べることによって、次のような力が授かります。一かけら食べるたびに、ダイスを振ってその能力が一時的に身に付きます(1時間ほど、その力を発揮できます)。二回目に同じ能力が出たとき、それは永続的な力となります。三回目に同じ能力が出たときは、その能力に伴う変異が発生し、外見が変わったり、正気を失ったりします。ジョルンはこの力のすべてを2段階まで持っています。
1d6
1 不老となる。
2 不死となる(疾病や毒に対する耐性を得る)。
3 再生能力を得る。1ラウンドにCONが3d6回復。
4 魔力「これでもくらえ」の力を得る。自分の知性度の点数のダメージを敵に与える。体力度など消費することはない。1ラウンドに1回使用可能。
5 浮遊。歩くくらいの速度で空中を移動できる。きわめて薄い羽根が高速で羽ばたいており、虫の飛ぶときの音のような高音を発する。
6 「不穏な音波」を発して、相手の正気を奪う。Lv2のES判定を強いる。
■生きている蔦
・屋敷を覆っている蔦は地球のものではありませんが、うまく擬態しているために植物の専門知識がなければ見分けることができません。この蔦は惑星ザイクロトル産の植物生物の変異種です。屋敷に注ぐ宇宙的エネルギーで生命を保っており、屋敷の破壊や放火に対して抵抗します。
・株全体ではMR100の戦闘能力を持ちますが、個々のつるの活動力はMR20です。また屋敷から500mの範囲で感知力を持った地下茎を張り巡らしており、屋敷に来る者を攻撃したり、去る者を捕えたりすることもできます。
・地中にある株のなかに、シャッガイの昆虫種族の卵を多数抱卵しています。
■不気味な羽虫
・大きなゴキブリのような羽虫が、屋敷のあちこちに巣くっています。驚かせるための演出や、ちょっとした戦闘シーンを入れたいときに使用してください。羽虫はMR10のごく弱い敵ですが、命中させるためには器用度でLv1の判定に成功しないと戦闘力を適用できません。これは通常のゴキブリが昆虫生物やザイクロトランの影響によって変異したものです。
■シャッガイの昆虫生物
・シャッガイの昆虫生物は知的な存在です。目立って行動したくない、と考えています。
・その目的は、ここにある卵をすべて孵化させることであり、そのために人間を利用しています。本来、シャッガイの昆虫生物が幼生から生体になるには長い年月がかかるのですが、人間に寄生させてその恐怖を吸うことによって成長エネルギーを得ることができるのです。館の前の主人ノデリックはクリスチャン三世の秘密結社の流れを組むルター派エクソシストであり、シャッガイの昆虫生物を招き寄せて利用・殲滅を図っていましたが、それに気づいた昆虫はジョルンの野心を刺激して彼を殺させました。
・昆虫生物はジョルンも邪魔だと思っており、代わりになる人間がいればいい、と思っています。しかし、そのために積極的に行動することは優先順位が高くはなく、卵が焼かれるほどの事態が急迫しないことを願っています。
・昆虫生物はMR50で、「不穏な音波」を使用できます。より細やかなアプローチとしては、夢を見せたり、精神を操ったり、人間に寄生するといった行動をとることも可能です。
■プレイガイダンス
作者は次のような物語の展開を想定しています。
ただし、「物語を体験させる」よりも「なんか怖いところに行って怖い目にあった」ということを重視したいという考えが根底にあります。ですから「なんかヤバいと思ったので帰る!」で帰ってしまってもかまいません。
また、説明しきれなくても、「なんか意味があるらしい」「なんかあったらしい」みたいなニュアンスが少し出るぐらいでいいと思います。
やっぱり気になるのでまた来る、でもいいですし、あの館に雷が落ちてみんな燃えたんだって、というニュースを聞くというエンディングになってもOK。
・依頼を受けて館に来る(周辺調査は省略)
・館に忍び込む判定、館がどのようなものか推測する判定。
・リビングで本を発見する。これが重要なものだとすぐにわかる。すぐに調べる場合は、調べた後にジョルンとの遭遇を。
・本を回避して館内を調べようとする場合は、羽虫との遭遇などを繰り返した後、そろそろ本を調べようか、と思っていただく。
・怖いから早く帰る、という場合は蔦を使って妨害。蔦につかまったところをジョルンに助けてもらう、というのもいい。
・ジョルンと出会い、友好的な会話をしているうちに、ジョルンからともに昆虫の養育者になろうと誘われる。ジョルンの狂気を感じる。
・ジョルンと戦闘(エンディングA)。
・ジョルンを手伝う、とした場合、ジョルンはより欲を出して、昆虫種族の力をより得ようとすることを図る(昆虫を幼生のまま食べてしまおうか、と考える、など)。昆虫種族はジョルンを排除しようと動き出し、みつどもえの戦い(エンディングB)。