プログラミング必修化

第4次産業革命に向けて

2015年3月7日のブログで.坂村 健氏の『プログラミング強国へ教育を』を紹介したついでに,「プログラミング教育」の必要性について触れた.「ゆとり教育」を見直す際に実現しなかったので諦めかけていたところ,最近になり小学校におけるプログラミング教育を必修化するということが話題になっている.

文科省が「情報教育」ではなく,わざわざ「プログラミング教育」と言い換えた背景には,世界的な広がりを見せている第4次産業革命において予想される IT人材の不足がある.経済産業省の調査によると2020年に37万人,2030年にはその二倍の79万人の IT人材が不足すると予測されている.

さらに,海外で加速する小学校からの情報教育に後れを取っている事実を突きつけられたためである.2016年オバマ大統領は,児童生徒全員(幼稚園ー高校)がコンピューターサイエンスのカリキュラムを確実に受けられるようにするための情報教育支援策を打ち出した.また,英国,フィンランド,イスラエル,エストニア.オーストラリア,韓国,シンガポールなど多くの国が,プログラミング教育に取り組んでいる.

文科省の調査結果(平成26年):初等教育段階(日本の小学校に相当)では、英国、ハンガリー、ロシアが必修科目として実施。前期中等教育段階(日本の中学校に相当)では、英国、ハンガリー、ロシア、香港が必修科目として、韓国、シンガポールが選択科目として実施。後期中等教育段階(日本の高等学校に相当)では、ロシア、上海、イスラエルが必修科目として、英国、フランス、イタリア、スウェーデン、ハンガリー、カナダ(オンタリオ州)、アルゼンチン、韓国、シンガポール、香港、台湾、インド、南アフリカが選択科目として実施している。なお、プログラミング教育で注目されているエストニアでは、全ての小学校から高等学校において選択科目とすることを目標に、2012 年に 20 の実験校でプログラミング教育の導入に関するプロジェクトが実施されたが、現状では、ナショナルカリキュラムとしてではなく、学校裁量という形での実施になっている。

文部科学省の有識者会議がまとめた案では,小学校段階では,プログラミング教育という新科目を設けてプログラミング技術を教えるわけでなく,既存の科目の中でプログラミングを活かした論理的な思考力を養うことが大事と述べている.

必修と言っても英会話授業のように一定の時間枠を確保して情報処理教育を行うことはできないらしい.その理由は「脱ゆとり教育」へ舵を切ったためである.その代わりに6年間を通して,いろいろな授業でプログラミングのアルゴリズム(計算や問題を解決するための手順)を用いて問題を解決する手法を教えなさいというわけである.やり方は学校の裁量に任せるというから.やらされる先生方は大変である.注)文科省の取り組みは,「ゆとり教育」,「脱ゆとり教育」,「英語教育」と変化してきた.英語教育を行うため総合学習の時間が削減された.

現場は大混乱必至

世界に先駆け,プログラミング教育を必修科目としたのは,イスラエルである.1995年,イスラエルのジュディス・ガル-エゼル(Judith Gal-Ezer)教授 が発表した論文,「中等教育でのコンピューター教育は,使い方よりも原理やプログラミングを教えるべきだ」に着目した政府は,2000年に「コンピューターサイエンス教師センター」を設立し,世界でいち早くプログラミング教育を高校(義務教育過程)の必修科目とした.そのおかげで,イスラエルは,小国にも関わらず,IT分野では世界の強国となった.ナスダックに上場した企業数は,アメリカに次いで多く,世界中の企業が,イスラエルからの技術導入を欲している有様である.我が国においても大手家電メーカー(日立)がイスラエルのサイバーセキュリティ大手CyberGym(サイバージム)社と提携するなどの動きが盛んである.

プログラミング教育先進国の一つである英国では,,プログラミング教育を小学校一年生(5歳)から必修として学ぶが,必修化する前に子どもたちを教える教員へのプログラミング教育をまず実施したという.

技術立国の座が揺らぐ前に早めに手を打たないと間に合わないのは明らかである.指導者のトレーニングが終わるのを待っていても始まらない.対応できる学校はどんどん手を挙げて課外活動などで対応してもらいたい.いきなり命令語を使ったプログラミングを実施する必要はない.子供向けに開発されたジグソーパズル的なモジュールを使ってゲーム感覚でプログラムを作り上げていく方式を採用すればよい.

追記

英語の時間には,コンピュータのメッセージ等が英語で表示されれば,IT原語の読解力の勉強になる.そのためにはOSを英語版に変更する必要があるが,一斉にOSを変更することは出来ないらしい.そのため,一台一台設定しなければならず,大変だという記事を読んだことがある.理科では観測値のプログラムによるグラフ化,図工ではコンピュータ描画や動画作成等をやることはパソコンに長けた先生なら簡単と思うが,マニュアル依存の先生が多い現状では,モデル教材の整備が必要と思われる.

資料

【正論】「プログラミング強国」へ教育を 東京大学教授・坂村健(2014.7.31 03:07の産経ニュース)

第4次産業革命がもたらす 変革 - 総務省

プログラミング教育

文部科学省:「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究」報告書(平成26年度)

子供が使える!ビジュアルプログラミングソフト5選

他教科の学習内容を活用した小学校英語活動案 - J-Stage

小学校でのプログラミング必修化,どの教科でどう教えるかは学校・教員の裁量,細部はこれから議論

産業革命について:第1次産業革命は18世紀に発明された蒸気機関による機械化,第2次は19世紀の電力の産業利用,第3次は20世紀後半に普及したインターネットの利用,第4次産業革命は人工知能,ロボット等によって,生産,販売,消費といった経済活動に加え,健康,医療,公共サービス等の幅広い分野や,人々の働き方,ライフスタイルにも影響を与える可能性がある.