処方箋の付け替え

企業不祥事に隠れた詐欺事件

今年は我が国の有名企業の不祥事が大きな話題になった.

東芝の利益水増し不正会計の後も,日産の無資格検査員の最終検査,神戸製鋼と三菱マテリアルの検査データ改ざん,東レ子会社のデータ改ざん,三菱自動車による燃費試験のデータ改ざん,スバルの無資格検査員による検査などがマスコミで取り上げられ,国内のみならず世界へも影響を与えている.

連日テレビで報道されたこれらの事件は,まだ氷山の一角との見方が強い.このような大型不祥事の影に隠れて目立たなかった不祥事が医療分野でも起きていた.「処方箋付け替え」として毎日新聞や業界紙に取り上げられた.

「処方箋の付け替え」は,下記の三条件を満たすと調剤基本料が下がるのを防ぐために行われた詐欺行為である.

三条件の詳細については,次表の②をみてほしい.

イ)1カ月に受ける処方箋の枚数が4000枚を超えていて,ひとつの医療機関からの集中率が70%を超える.

ロ)1カ月に受ける処方箋の枚数が2000枚を超えていて,ひとつの医療機関からの集中率が90%を超えている.

ハ)特定の保険医療機関から1カ月に受ける処方箋の枚数が4000枚を超えている.

表の①は調剤基本料,③は特別調剤基本料である.

イ)〜ハ)のいずれかの条件を満たすと,調剤基本料として処方箋1枚に付く点数が41点(1点は10円)から25点に減らされる.

大きな調剤薬局は複数のチェーン薬局を持っているため,薬局間で月の処方箋の集中率を調整して三条件に抵触しないように処方箋数を操作したという.

厚労省は,医療機関からの薬局の独立性を担保しながら,患者との対話を通して重複投薬防止などに取り組む「かかりつけ薬剤師」の普及を推進してきた.そのため病院外の薬局で調剤する「院外処方」の報酬を,「院内処方」の約3倍と手厚くした.その結果,病院前で営業し,その病院からの処方箋がほとんどを占める門前薬局が増加してしまった.そこには病院帰りの患者が訪れることが多く,薬の飲み残しの管理などの「かかりつけ機能」が十分できていないことが判明した.2016年度の報酬改定で処方箋の受け付け数で報酬を下げる対応を実施したが,依然多店舗を有する薬局グループほど高利益率であることが判明,他の病院の処方箋を付け替え請求して報酬減を免れる不正行為が明らかになった.

呆れて物が言えない.日本中が金儲けのためなら何をやってもよいという風潮に染まっている.政治がわるいのか,教育が間違っているのか,宗教が機能していないのか,何が問題か定かではない.もともと人間というものはそういうものなのかもしれないと,後期高齢者になって思わざるをえないのは残念である.大企業の指導層は「嘘をついたら罰が当たる」と親から聞かされ育った世代ではないようである.

薬学6年制教育では,平成14年に策定された「薬学教育モデル・コアカリキュラム」に基づいて倫理教育が開始されている.保険調剤制度を金儲けのチャンスと捉えた経営者に雇われた弱い立場とは思うが,不正行為に加担した薬剤師は許されるものではない.

日本薬剤師会の見解は以下の通りである.

保険薬局における不正請求事案について(見解)

平成29年4月14日付けの業界紙において、調剤薬局チェーンのクオール株式会社が開設する「クオール薬局秋田飯島店」(秋田県秋田市)において、保険調剤に関する不正行為が行われたとの報道がありました。

報道によれば、同薬局では昨年4月に改定された調剤報酬の調剤基本料について不正に高い点数を算定するため、点数表の要件に定められた処方せんの集中率を意図的に低い割合とするよう、同一グループ内の他の薬局で受け付けた処方せんを秋田飯島店で受け付けたものとして保険請求する、いわゆる付け替え請求を行っていたとされています。

また、こうした報道に対して、当該薬局を監督する同社のブロック長並びに本社はその事実を認めており、本会としては事実関係を直接確認すべく同社に説明を求めていたところですが、残念ながら未だ説明責任は果たされていない状態です。

今回の事案は、調剤報酬の詐取を目的とした意図的な行為であり、健康保険の健全な運営を著しく損なうだけでなく、薬剤師として調剤実体のない薬局から保険請求を行うという、薬剤師倫理にも悖る許しがたい行為です。さらに、当該薬局や同社に勤務する薬剤師、開設者への批判にとどまらず、多くの善良な薬剤師、薬局が長年にわたり築き上げた信頼を、一瞬にして貶める行為で、百万言を費やしても申し開きのできない事実と考えます。

本会会員のみならず、すべての薬剤師が高い倫理観と専門職としての矜持を持ち、社会から信頼される医療人として、日々の業務に取り組むよう、強く求めるものであります。

この事案に関わった薬局に勤務する薬剤師が本会の会員か否かを問わず、職能団体を代表する者として、国民・患者並びに医療等関係者の方々に、衷心よりお詫びを申し上げます。そして、二度とこうした不心得な薬剤師が現場に立つことのないよう、改めて会員に注意を喚起する所存です。

平成29年4月17日

日本薬剤師会

会長 山本 信夫


追記 その後,複数の大手調剤チェーンで付け替え請求が発覚した.