最近,メールを使用しなくなった友人が増えた.年をとったせいかと思ったが,迷惑メールのためらしい.なりすましメールは日毎に巧妙になり,本物か偽物か区別がつかないものが多いのは事実である.パソコンが普及する過程でメールは重要なコミュニケーションの手段であった.それが現在は人を騙したり,金銭を騙し取るツールになってしまった.
このような現象は,俗世だけの話ではない.詐欺メール等とは一見無縁に見える大学研究者の世界でも似たようなことが起こっているという.新聞紙上で最初に問題になったのは2018年頃であった.国内の一流大学の研究者が軒並み「ハゲタカジャーナル,偽学術誌,粗悪学術誌」に投稿し(資料1),研究業績をあげるのに利用していることが明らかになった.不名誉な大学ランキング(資料2,毎日新聞を引用)の上位を旧制大学が占めている.その後の動向については,学外者には分かりにくいが,事態を深刻に受け止め対策を練っている様子が各大学のホームページから伝わってくる(資料3, 4, 5,6,8).
以下は慶應義塾大学メディアセンター(資料3)の記事である.
ハゲタカジャーナル
オープンアクセスの出版モデルを悪用して、著者から論文投稿料を得ることを目的とし、適切な査読を行わない粗悪な学術誌のことです。ハゲタカジャーナルに投稿した場合、研究者はもちろん所属するコミュニティの研究業績評価を著しく貶めることにつながります。
ハゲタカ出版社
ハゲタカジャーナルを出版する出版社です。有名雑誌を模倣したロゴや誌名を使用し、高名な専門家を無断で編集者にリストしたり、偽のインパクトファクターをWebサイトに掲載し、研究者を安心させ、審査前に料金を請求します。
ハゲタカ学会
研究者からの料金徴収をビジネスモデルとして、時には急に中止になるようなずさんな学会運営を行います。中には、ハゲタカジャーナルの出版元となる場合もあります。
ハゲタカジャーナル・出版社・学会に関与することは、研究者のキャリアにとってマイナスでしかありません。自分自身だけでなく、所属するコミュニティの研究業績評価を著しく貶めることにつながります。特にCorresponding Author等で連絡先を公開する必要がある研究者は、ハゲタカ出版社・学会の誘惑から自衛する必要があります。下記の情報源やチェックリスト等を用いて、文献を引用・発表・投稿する段階から、粗悪な雑誌・出版社・学会を見分け、質が高い雑誌や論文を選択する習慣を身につけましょう。
現役研究者等の情報を総合すると,論文が外国雑誌に掲載されると連絡先(住所,代表者のメールアドレス)が公開されることもあり,メールによる投稿の勧誘があるとのことである.実際に粗悪学術誌に投稿してしまった研究者の後日談もウエブ上で見ることができる.初めから計画的に手抜き投稿を狙ったわけではなく,後で粗悪学術誌であることに気付いたケースもあるようである.査読で追加実験を要求されたが物理的に不可能なため,粗悪学術誌に頼ってしまった.科研費の応募のための実績作りのために利用した等など,粗悪学術誌利用の理由も様々である.高額の投稿料を支払わされたのに,スペルチェックも実施されないままの論文がオープンアクセスで公開されているというからびっくり仰天である(具体例を指摘 資料5).毎日新聞によると,粗悪学術誌の4割が別の論文に参考論文として引用されているという.引用された回数は影響力のある論文として評価され,引用回数は研究者の業績を測る指標の一つとされている.社会問題になるまでにそれなりの時間が経過しているので,研究内容,研究者評価の歪みが連鎖しながら推移した可能性は否定できない.
コロナ禍の影響であろうか,ハゲタカ学会も存在するらしい.シンポジウム等はリモートで実施しても違和感は感じなくなった.そこをうまく利用して金儲けしようというわけである.大学での昇進には,査読論文数が規定通りであれば,論文数が物を言う.そのような状況につけ込んだ投稿勧誘に乗ってしまわないように研究者の情報倫理教育が必要である.
追記
健康食品等の宣伝に「・・・・機能を有することが報告されています」というニュアンスの記載があるが,粗悪学術誌でないことを確認する必要がある.
追記
毎日新聞(2019/4/29)の記事:粗悪学術誌の論文 4割が別論文の参考文献に 研究ゆがむ可能性
ずさんな審査で論文を載せ、掲載料を得るインターネット専用の粗悪学術誌「ハゲタカジャーナル」が増えている問題で、ハゲタカ誌の論文の4割が別の論文に参考文献として引用されていることが、カナダ・クイーンズ大の研究チームの調査で判明した。チームは「ハゲタカ誌に掲載された欠陥論文によって、将来の研究が汚されていく可能性がある」と警告している。
科学論文は、先行研究の論文を多く引用する。その研究分野の現状など研究の経緯や実験方法、結論を導くための他の研究成果などを示すためだ。別の論文に引用された回数が多いほど「影響力のある論文」と評価され、引用回数は研究者の業績を測る指標の一つとされる。
資料
粗悪学術誌啓発リーフレット「粗悪学術誌に関わらないために」(Eng. ver.)(京都大学図書館機構作成 2022.03)
メガジャーナルに関する諸問題 - 九州大学学術情報リポジトリ
(2022.9.29)