プラスチック製買い物袋(レジ袋)が有料化された.なぜその必要があるのかをうまく説明するのは容易ではない.プラスチック自身が毒性を有しているわけではない.プラスチックには軟化させるための可塑剤,,安定剤,酸化防止剤,帯電防止 剤,紫外線吸収剤,着色剤,難燃剤などの添加剤が含まれている.自然界に廃棄されたプラスチックは紫外線などにより分解劣化,微小化し,添加剤は最終的には環境中に放出または生物に移行する.一部の添加剤は,生物に対して内分泌撹乱物質(環境ホルモン)※として作用したり,発がん性があるといわれている(参考資料1,2).さらに, 5mm以下のマイクロプラスチックが海水中のPCBsやDDTなどの疎水性有機汚染物質を吸着することが問題になっている.プランクトンに取り込まれた化学物質は生態系の食物連鎖で生物濃縮が起きるため、生態系の上位ほど高濃度の化 学物質を蓄積する。プランクトン → 小さな魚 → 大きな魚と移行していく過程で,280万倍に濃縮される.
プラスチックは熱や圧力で,思うとおりの形に作れる素材として日用品の製造には欠かせないものである.プラスチックの生産量が少ない時期は,地球環境に及ぼす影響について問題視されることはなかった.ところが,最近は深海魚の胃袋からプラスチックごみが発見される事態になってしまった.人類がこれまでに合成したプラスチックの生産量.廃棄量,リサイクル状況を調べるため,ウエブ検索したらGeyer等の論文に掲載されているデータが数多く引用されていることがわかった.本ブログでもGeyer等の原報の図(ダウンロード可能)を引用させてもらった(参考資料3).
実線
黒 生産量
赤 廃棄量
黄 焼却量
青 リサイクル量
破線
予測量
図1 プラスチック廃棄物の累積発生量と廃棄量(単位 100万トン).
実線は、1950年から2015年までのデータを示す.破線は、2050年までの予測量を示す.
Geyer等によると
1) 1950年代から生産されたプラスチック総量:83億トン(8300 million metric tons (Mt) )
2)人類が捨てたプラスチック総量:63億トン (6300 million metric tons (Mt) )
リサイクルされた割合:9%
焼却された割合:12%
破棄(埋め立てまたは自然環境に蓄積)された割合:60%
3)現在も利用中のプラスチック総量:30%
主要なプラスチック生産データは,その歴史全体を通じて着実な伸びを示しているとして,この曲線に沿って生産が継続される場合,人類は2050年末までに26,000 Mt(260億トン)の樹脂、6000 Mt(60億トン)のPP&Aファイバー(polyester, polyamide, and acrylic (PP&A) fibers),および2000 Mt(20億トン)の添加剤を生産することになると予想している.また,9000 Mt(90億トン)のプラスチック廃棄物がリサイクルされ,12,000(120億トン) Mtが焼却され、12,000 Mt(120億トン)が埋め立て地または自然環境で廃棄されると予測している(図1).
2050年までのプラスチック予想生産量を247億トンとした海洋研究開発機構の資料では以下のような考察を行っている(参考資料5). これまでの生産量83億トンを加えると,330億トンに達する.海に漏れ出る率を3%とすると,10億トン(330億トン×3%)になる. 一方,海産魚の総重量は8億トンと言われているので.2050年には海洋プラスチックの量が魚の量を超えるということになる.
この考察には複数の推定値が用いられているが,ウエブ上では支持する意見が多い.2016年にスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラムの資料に「2050年には、世界の海を漂うプラスチックは重量換算で、魚の量を上回る」というデータが記載されてぃることを紹介しているサイトも見受けられる.
プラスチック生産量の国別の割合を見ると,国際的な取り組みが必要であることは明白である.領海争いを行っている場合ではない.
参考資料
3)Production, use, and fate of all plastics ever made | Science ...
Roland Geyer, Jenna R. Jambeck2 and Kara Lavender Law3
Science Advances 19 Jul 2017: Vol. 3, no. 7, e1700782. DOI: 10.1126/sciadv.1700782
4)世界と主要国のプラスチック生産量 - 日本プラスチック工業連盟
日本は3位で,アメリカ(1位),中国(2位)の五分の1.
5)JAMSTECにおける 海洋プラスチックに係る取り組み ... - 文部科学省
6)世界経済フォーラム資料 The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics
14ページに以下の記載がある.
Without significant action, there may be more plastic than fish in the ocean, by weight, by 2050.
それなりに真剣な対策が講じられなければ,2050年までに,海にいる魚よりもプラスチックの方が重量が増える可能性がある.
追加資料
プラスチックの2012年国別生産量(折りたたみ文章)
2012年
アメリカ 48,057
中国 52,133
日本 10,520
韓国 13,355
台湾 5,880
ドイツ ベネルックス フランス イタリア 英国 スペイン 49,000
その他 109,055
合計 288,000