私たちは、海底堆積物に記録された過去の気候変動を解読する古環境復元研究を行っています。過去80万年間の地球の気候は、地球の軌道要素の周期的な変動によって大陸氷床が拡大・縮小を繰り返す氷期‐間氷期サイクルによって特徴づけられます。現在よりも温暖だったり寒冷だったりした時代、そして急激な温暖化が起こった氷期から間氷期への移行期を研究対象にしています。
長い時間をかけて降り積もった海底堆積物は、過去の地球環境変動を記録する天然のレコーダーです。堆積物中には、微化石と呼ばれる肉眼では観察できないほどの小さなプランクトンの化石が豊富に含まれています。これら微化石を顕微鏡下で分類し、群集組成変化を調べたり化学分析を行ったりすることで、彼らが棲息していた当時の環境や気候の変動史を解読する手がかりが得られます。
図1. 過去80万年間の氷期‐間氷期サイクル(Lisiecki and Raymo, 2005, Paleoceanography)。10万年周期で北半球大陸氷床が拡大する氷期が繰り返されてきた。
研究室選びは、大学生活における最も重要な選択です。
■指導教員および研究室メンバーとの相性
人間には相性があります。研究を進めるために長時間研究室で過ごすことになりますので、自分にとって居心地の良い研究室かどうかは大きなポイントとなります。こればかりは直接顔を合わせてみないとわかりませんので、研究室訪問をして指導教員と研究室メンバーと話をしてください。
■研究内容
古環境復元研究の長所を3つ挙げます。
(A) 努力が認められやすい
状況証拠を積み上げて、より確からしい過去の地球環境を復元するには、適切な方法で分析・解析したデータをたくさん出さないといけません。研究に打ち込んだ時間と労力が報われやすい研究分野です。
(B) 答えが一つではない
古海洋環境を復元するには、海底堆積物中のさまざまなプロキシ(過去の環境を間接的に記録しているもの)を利用します。しかし、海底堆積物中のプロキシからは、当時の海洋環境の情報を断片的にしか引き出せません。プロキシデータの信頼度に見合った議論を展開し結論を導くことは古海洋環境復元研究の面白い点です。
(C) 専門や所属の異なる人たちとの共同研究
古海洋環境復元研究では、様々な分野の専門家が集まり、持てる知識と技術を動員して、より確からしい過去の地球の姿の復元を目指します。研究航海では、文字通り寝食を共にしながら良い試料を採取するため力を合わせて作業をします。航海後も、各自の専門に応じて分析や解析を分担しチームとして研究を実施します。このような共同研究は、新たな知識の獲得だけでなく人間性の幅を拡げる機会となります。
上記の長所は、短所ともなります。データをたくさん出すには、単調なルーチンワークを含め長い時間を費やす必要があります。共同研究は自分だけのペースで進みません。研究チームの一員として期限を守らなければなりません。一言でいうとコスパが悪い研究分野です。スマートに時間を掛けずに研究したい、きっちりとした答えがでる研究をしたい、他人に干渉されずに自分のペースで研究したい、という方は、本研究室と合わないかもしれません。
■最近の修士論文研究成果
以下の論文は本研究室の修士論文の成果です。3年間研究に打ち込むと国際的な学術誌に掲載される水準に達します。いずれもOpen Accessなのでご覧ください。
Kasuya, T., Y. Okazaki, S. Iwasaki, K. Nagashima, K. Kimoto, F. Lamy, J.R. Hagemann, L. Lembke-Jene, H.W. Arz, M. Murayama, C.B. Lange, and N. Harada, 2024. Orbital timescale CaCO3 burial and dissolution changes off the Chilean margin in the subantarctic Pacific over the past 140 kyr, Progress in Earth and Planetary Science 11, 56. (LINK)
Shirota, K., Y. Okazaki. S. Konno, Y. Miyairi, Y. Yokoyama, and Y. Kubota, Changes in surface water masses in the northern East China Sea since the Last Glacial Maximum based on diatom assemblages, Progress in Earth and Planetary Science 8, 1-17, 2021. (LINK)
Nakamura, H., Y. Okazaki. S. Konno, and T. Nakatsuka, An assessment of diatom assemblages in the Sea of Okhotsk as a proxy for sea-ice cover, Journal of Micropalaeontology 39, 77-2, 2020. (LINK)
■古気候・古環境研究についてのおすすめの本
・大河内直彦著, チェンジングブルー 気候変動の謎に迫る, 岩波書店
・チャールズ・H・ラングミューアー、ウォリー・ブロッカー著/宗林由樹訳, 生命の惑星, 京都大学学術出版会
・William Ruddiman, Earth's Climate Past and Future, 3rd Edition, WH Freeman
■当研究室に興味をお持ちの方へ
■研究室の見学を随時受け付けています。
■大学院入試情報はこちらをご覧ください(受験前に必ず岡崎と相談してください)
〒819-0395 福岡市西区元岡744 九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門 古環境学研究分野