このワークショップは,大阪大学の人社系部局に属する研究者,特にデータ・統計分析を使って研究しているメンバーの交流の場を設けることを目的として開催しています。第1回は人文学研究科で,第2回は今年1月に国際公共政策研究科で開催しました。今回は人間科学研究科で開催します。発表者が普段どのような研究を行っているか、その際にどのような統計手法を使っているのかに興味のある方のご参加をお待ちしております。
15:00-16:00 郷原皓彦さん(人科・基礎心理学・助教) Researchmap
実験心理学によるオノマトペ研究
「きらきら」などのオノマトペ (擬音語・擬態語の総称) は漫画や広告などさまざまな場面で用いられ,私たちにとって身近な存在である。近年,オノマトペは言語学のみならず心理学や脳科学など実証研究を主とする分野においても研究対象として注目されている。発表者はこれまで実験心理学の手法を用いて,オノマトペの認知処理過程とはどのようなものか,オノマトペの認知処理情報は他の知覚や認知にどのような影響を及ぼすのかを調べてきた。本発表では発表者が行ってきたオノマトペ研究について,その実験手続きや分析手法にも触れつつ紹介する。
16:10-16:50 三浦麻子 リスト実験を用いたセンシティビティバイアスの検出における直接質問形式の影響
センシティブな内容について尋ねる調査では、回答者が態度や行動を偽って報告することでセンシティビティバイアス(SB)が生じうる。これを回避するためによく用いられるのがリスト実験で、センシティブな内容を直接質問(DQ)によってではなく、複数の項目の中から賛成や該当する項目の数を尋ねる。リスト実験とDQの推定値の差分としてSBを定義すれば、その有無や大きさを評価できる。リスト実験の方法論については豊富な研究の蓄積がある一方で、DQの形式については十分に検討されていない。本発表では、a) DQを複数回答で測定する場合には単一回答で測定する場合よりもセンシティブ項目の選択率が有意に低くなるが、b) 単独の単一回答と複数の単一回答の違いは大きくないという知見を得た3つの実験を紹介して、社会心理学者の「問い方へのこだわり」の一端をご紹介する。
16:50-17:30 山田彬尭 敬語の変化と状態空間モデル
言葉の使用に関して、特に敬語の使用に関して、なにか違和感を覚えたり(例:あの人の敬語の使い方は『間違っている』!)、自分自身の言語使用がこれでいいのかと戸惑ったり(例:社会人になるから『正しい』敬語を学ばないと!)したことはないだろうか。このような不安を代弁するかのように敬語に関するマナー本は毎年のように出版されてこそいるのだが、その当時「間違っている」とされていたものが、後の時代の「スタンダード」になるということは言語の歴史で幾度となく繰り返された出来事で、そのたびごとに当時の人々が「言語の乱れ」を憂いてきたにもかかわらず、言葉は特に何の支障もなく機能し続けている。むしろ、「間違った」敬語に批判が数多く寄せられているということは、そこに言語変化が生じていることを意味しているのだと、つまり、そこに未来の言語が形成されつつあるのだと捉え、どのように、そして、なぜ言語が変化するのかを問い、研究するのが言語学である。この視点に立ち、この発表では、状態空間モデルを使いながら、20~21世紀の丁寧語に生じた言語変化の相貌を通時的なコーパスを用いて分析し、言語変化について時系列分析の最前線をご紹介したい。