コロネン
有機鉱物
有機鉱物
コロネンは6個のベンゼンが環状に縮合した,7個のベンゼン環を有する芳香族炭化水素である.非常に安定な化合物であり,ウクライナでカルパチア石 (Karpatite) と称する有機鉱物として産出する.CCDCの単結晶X線解析データベースで調べてみると,種々の結晶包接体形成が報告されている.単体の場合,π-π,CH-π相互作用によるスタッキング,TCNQとはドナー分子としてπ-π型結晶複合体を形成する.二次元材料として,電界効果トランジスタ (FET)など,多くの潜在的用途があると言われているが,最近その安定性に注目した意外な用途があることが判明した.簡単に言えば,コロネンは森林火災の温度程度では生成せず,その濃集ともなれば大規模火山噴火時のマグマ高温によるものであるという.そのため,古い地層の火山噴火指標として使用できるというわけである.以下に東北大学の研究紹介(プレスリリース)を紹介した.
コロネンの構造
CH-π相互作用
TCNQとの複合体
ペルム紀の大量絶滅に続きデボン紀の大量絶滅も大規模火山活動が原因
初めての陸上植生崩壊と大規模火山活動の同時性を実証
【発表のポイント】
●動植物の陸上進出が起きた後期デボン紀の大量絶滅の原因は、大規模火山噴火であることを明らかにした。
●水銀の濃集と同時に見つかった炭化水素の高温燃焼の証拠が決め手。
●大量絶滅を構成する大中小の絶滅事件の絶滅規模と火山活動規模が一致した。
●マグマの温度が高いほど絶滅規模が大きいことが判明。
【概要】
後期デボン紀(石炭紀の前,約4億1600万年前から約3億5920万年)に、植物、節足動物、脊椎動物が陸上に出揃った後初めての大量絶滅が起きました。史上2回目の大量絶滅にあたります。最近、その地層中に水銀の濃集が発見され、大規模火山噴火がその原因として提案されました。しかし、 陸上植生が崩壊し土壌流出が起きると植物起源の水銀が海や湖に堆積するので、 その水銀が火山起源とは限りません。東北大学の海保邦夫教授(現:名誉教授)らの研究グループは、有機物高温燃焼で生成 される有機分子コロネン(注1)と水銀との同時濃集を指標に、後期デボン紀の大量絶滅を構成する大中小3回の絶滅事件時に浅海で堆積した地層の岩石を分析しま した。その結果、高温の火山活動で生成されるコロネンの濃集が水銀濃集と絶滅 と同時に起きていたことを世界で初めて発見し、後期デボン紀の大量絶滅の原因は大規模火山噴火であると結論づけました。また、絶滅規模が大きい事件ほど、 火山活動規模が大きいことを初めて明らかにしました。本研究の成果は、国際誌 「Global and Planetary Change」に掲載されるのに先立ち、2月20日付電子版に掲載されました
【用語の説明】
(注1) コロネン 普通の堆積岩に含まれる割合はわずかである。生成に高温が必要なため、平均的 な森林火災の温度より高い温度(>1200 °C)が必要。
(注2) 堆積有機分子 生物が死後に堆積物中に残す有機分子と燃焼と熟成により生成する芳香族炭化水 素の総称。前者は、安定な形に変化して保存されることが多い。粉末化した堆積 岩から有機溶媒で抽出し、質量分析器で分子レベルで定量できる。
資料には,以下の図が掲載されている.詳細はPDFをダウンロードして拡大して見てほしい.
図には以下のキーワードが小さく記されている.
太陽光反射(黄色) 地上生態系崩壊 二酸化硫黄ガス(SO2)→硫黄エアロゾル(H2SO4) 二酸化炭素 寒冷化→温暖化 火山指標 土壌流出 富栄養→貧酸素 寒冷化→温暖化→無酸素
地球が誕生して,これまでに5回生物の大量絶滅が起こっているという.約4億4500万〜4億4300万年前,約3億8000万〜3億6000万年前,約2億5000万年前,約2億年前,6000万年前である.そのうち最も新しい6600万年前の恐竜絶滅が天体の衝突による以外はすべて火山噴火によるとのことである.火山噴火に関しては,水銀とコロネンの指標で証明できたと記されている.
さらに,今年はじめに,以下の論文がプレスリリースされている.
火山活動による地球寒冷化が恐竜の繁栄を導いた? 三畳紀末の大量絶滅の実態を解明, 東北大学, (2022年1月13日)
【発表のポイント】
● 大規模火山活動による堆積岩の加熱温度の変化が気候変動に影響したこ とを明らかにした。 ● 低温加熱による多量の二酸化硫黄ガス放出が、成層圏の硫酸エアロゾル を増加させ、太陽光を反射して、寒冷化を引き起こした。
● 寒冷化が三畳紀に繁栄したワニの先祖を絶滅させ、ジュラ紀以降の恐竜 の大繁栄の引き金となった
本論文ではコロネンの生成温度より低い温度で生成する芳香族炭化水素の存在を明らかにしている(追記図).
生物を構成する有機物質は,マグマに晒されると最終的には炭酸ガス,亜硫酸ガス,二酸化窒素,水などに変化すると思っていたが,それに到達する前に芳香族性を獲得し多環状芳香族炭化水素へ変化しながら安定な有機鉱物になって地中に保存されているということらしい.生物絶滅とコロネン生成のメカニズム解明の更なる進展を期待したい.
( 追記)ベンゾ e-ピレン, ベンゾ ghi-ペリレン: コロネンより低い温度で生成する.
参考資料
・ “史上最大の生物の大量絶滅の原因を特定 地下の炭化水素の高温燃焼が気候変動を起し大量絶滅を起こした” (プレスリリース), 東北大学, (2020年11月9日)
・“ペルム紀の大量絶滅に続きデボン紀の大量絶滅も大規模火山活動が原因 初めての陸上植生崩壊と大規模火山活動の同時性を実証” (プレスリリース), 東北大学, (2021年2月22日)
・火山活動による地球寒冷化が恐竜の繁栄を導いた? 三畳紀末の大量絶滅の実態を解明, 東北大学, (2022年1月13日)
・デボン紀後期の大量絶滅は数十光年先で起きた超新星爆発が原因かもしれない (イリノイ大学)(2020年8月).
一方, Brian Fields氏(イリノイ大学)らの研究グループは、古生代デボン紀と石炭紀の境界にあたる約3億5900万年前に起きた大量絶滅が、地球から比較的近い場所で発生した超新星爆発によって引き起こされた可能性があるとする研究成果を発表した(2020年8月)。
■複数の超新星爆発が地球のオゾン層を長期間に渡り破壊した可能性 (折りたたみ文章)
■複数の超新星爆発が地球のオゾン層を長期間に渡り破壊した可能性
デボン紀後期に起きた大量絶滅では、海洋生物を中心におよそ8割の生物が絶滅したとされています。
研究グループによると、この時代の地層からは何世代にも渡り紫外線の影響を受け続けたとみられる植物の胞子の化石が見つかっており、何らかの原因によりオゾン層が破壊された証拠とみられているといいます。
研究グループがオゾン層を破壊し得る天文学的な原因を検討したところ、地球から20パーセク(約65光年)先という比較的近くで超新星爆発が起きた場合、爆発時に放射された紫外線、X線、ガンマ線だけでなく超新星に加速された宇宙線が地球に飛来することで、地球は最長で10万年続くダメージを負う可能性が示されたといいます。
太陽系に到達した超新星爆発の衝撃波が地球の生物圏に大きな被害をもたらす可能性は低いとされていますが、超新星残骸から飛来する宇宙線の強さは地球規模でオゾン層を破壊するのに十分とみられており、オゾン層の破壊に誘発されたUV-B(紫外線B波)による遺伝子損傷に加えて、宇宙線が大気分子と衝突することで生じるミューオン(ミュー粒子、ミュオン)を介した損傷の可能性にも研究グループは言及しています。
HOMO‐LUMOエネルギー(π系の広さを反映してHOMO-LUMOの差が小さくなる)
ベンゼン HOMO LUMO ENERGIES (EV) = -9.638 0.382
アントラセン HOMO LUMO ENERGIES (EV) = -8.765 -0.528
コロネン HOMO LUMO ENERGIES (EV) = -8.320 -1.057
(2022.7.27)