「意見書」の公開について

お詫びと意見書の公表について

6月に前橋市に送った私の「意見書」を公開することにしました。

意見書は前橋市に対して作成したものですし、とくに行政との対立構造をメディアなどが煽り立てるのは、アーツ前橋の現場にとって望ましくないと思っていました。ですが、私が沈黙を保ってきたので、批判を容認していると考えていた人もいると聞いたので公表することにしました。意見書に対する前橋市からの返信は受理確認だけです。

一読してお分かりいただけるように、これは作品所有者への謝罪と私たちがどのような考えと行動をとったかを詳らかにし、それから前橋市が作成した報告書の問題点を指摘しています。改めて、ここでも作品紛失について、作者のご遺族の皆様、アーツ前橋の活動を応援してくださっている皆様、市⺠の皆様、美術関係者の皆様に対し、深くお詫びを申し上げます。

2021.09.01 住友文彦

前橋市宛の意見書


前橋市_意見書.pdf

これまでの経緯と事実誤認について

4月以降は私が在任時に知らなかった情報が寄せられ、また行政が作成した文書がどれだけ有利であるかを確認したこともあり、思いがけず私の精神状態が不安定になり、しばらく自分のケアを優先せざるを得ない状態でした。

ただ、問題の所在を明確にすることはきっと今後の役に立つと考え、法律上の助言や支えてくれる人たちの助けを借りて意見書を作成しました。いっぽうで、すべての情報が開示されていないため、あるいは個人の問題に関わるため、ここに含めることができなかったことも数多くあります。

主要な要因のひとつには、問題解決のために関係者が協力できなかったことを挙げられると思います。一部で強く非難されているように、作品よりも美術館を擁護しているといわれる私の発言も、この相互不信の軋みが要因になっています。また、私たちが該当作品を軽視していたという批判についてもそうでないことは意見書で理解いただけるはずです。また、調査委員会の資料のなかには公開を前提としているにも関わらず非公開とされた資料があるなどの著しい意図的選択がされていることも指摘しておきます。

(前橋市の報告書:https://www.city.maebashi.gunma.jp/material/files/group/10/hodo20210324_7.pdf

それから、作品を預かる場所が館外にある場合、管理上のリスクを認識し、館内収蔵庫とは異なるチェック体制を敷くべきでした。施設管理体制が縦割りになっていたとしても、作品管理の安全性や手続きについてもっと細かく確認するべきだったと反省しています。

また前述したように、通常よりも在籍期間が長くなった行政職員と学芸員との間の意思疎通に溝があったときに、それを埋めておくことは問題解決に長い時間を要せず済ませるために必要なことでした。開館時に新しい組織体制を整えていったときは不平や不満も協力して前向きに対応することができましたが、それとは異なる構造的な問題に気づいて行政の担当部署と相談しておくべきだったと反省しています。それとも関連して、他の美術館と異なる個性の強い事業を選択してきた点について、それをよく理解している職員と理解していない職員の間に認識の差が生じていたと思います。このことは私がもっと多くの説明や発信を繰り返すべきでした。

ほか、いくつかの誤認されている点についてはまとめて以下に事実を列挙します。

・私の館長退任は調査委員会設置以前から予定しており、複数の要因によって決断している。

・作品所有者への謝罪は調査結果の確認後2020年7月におこない、賠償も含めて全面的な過失をお伝えしている。11月以降の面会は前橋市によって拒絶されているが、これらについては調査委員会の報告書に記載がない。

・館長の権限については、本件と関わる施設運営や人事及び他の部署や調査対応において限定的なものであった。意見書の記述の一部が伝聞や推測になっているのはそのためである。

・前橋市は、すでに昨年度末に私を含めた関係職員への処分を決定している。

・「アーツ前橋を応援する会」の設立を促したり、次期館長職に関する要望書を出すように働きかけたことはない。

・美術評論家連盟は抗議のために退任している。*退会理由を記した会長宛手紙を以下に記載。私信だが組織長宛なので公表する。

・ウェブ版美術手帖の白坂記事において、私の「独壇場」だったとする記述は間違っている。ほか、労務関連の記載にも間違いがあり、記事が作成された経緯に問題があったと感じる。これらについては元同僚やアーティストからの反論証言が即座に準備された。

・Art Asia Pacificの記事において、私に連絡したが返信がないというのは誤謬である。

因果応報という言葉がありますが、アーツ前橋の10年間は逆水行舟と言ってもいいようなものだったので、長い人生においてその報いを受けるのは致し方ないことかもしれません。正直言って、あまり水の流れを読むのが得意でないのは認めます...でも、どんな舟だったのか詳しく知っている人たちがいるかぎり、漕ぎ手が変わっても舟はきっと進むと信じたいと思います。

いま一番望んでいるのは、私や同じようにこの件で傷ついた人たちの精神面の回復と、あり方検討委員会が美術館の未来を透明な議論によって切り開くことです。

2021.09.02 住友文彦


美術評論家連盟退会の理由

AICA退会の理由.pdf


あり方検討委員会/被害届の提出/その他の経緯について


アーツ前橋あり方検討委員会が10月に終了し、12月21日には前橋市が2年近く経ってようやく警察に被害届を出したと発表しました。

以下に私の見解を追記します。


・調査報告書は、作品が学校備品の撤去時に一緒に破棄された可能性を重視したことで、盗難の可能性をきちんと調査しませんでした。そのことは私の意見書でも指摘しています。作品が見つからない時点で想定できた可能性は確実に複数あったはずでした。それにもかかわらず当初から作品と備品の仕分け作業を担当した職員が過失を懸念したことで、施設管理担当の教育委員会との捜索協力体制がとられず非常に苦慮しました。これが作品の所在調査が進まなかった原因だったと考えていますなぜ、調査委員会は盗難の可能性をきちんと調べなかったのかと疑問をおぼえます。


・調査委員会は、このこと以外にも委員に提供した資料や、私も含めた複数名に対して公開を前提としたヒアリングを非公開扱いにするなど、著しい偏りがあります。美術評論家連盟をはじめ、このように問題が多い調査委員会の報告を肯定する意見には大きな問題があると考えます


・Webサイト『美術⼿帖』(6月10日)の記事についてライターの白坂由里氏に対して、反論証言をもとに修正もしくは撤回を要望する連絡をいれましたが、現在のところ何も対応はありません。ジャーナリズムに対しては、物事を多面的に取材することで正確な情報が伝わることを強く要望します。


あり方検討委員会の議事進行は、本来求められている美術館の役割や方向性と関係ない点も多く残念でしたが、本来の役割に相応しい提言がでることを期待しています。

ちなみに私の館長就任の経緯を記しておくと、前市長の美術館案に反対していた山本市長によって当初の人事案が進められなくなる問題が発生しました。それでも開設は決まり、開館が迫るなか関係者が苦慮の末、すでに在籍していた私に打診がありました。当時41歳でその役割は務まらないと考え一旦固辞しましたが、他に策はなく最終的に引き受けました。

前橋市は、あり方検討委員会の外部委員から出された意見を誠実に受け止め、新館長を一刻でも早く任命していただきたいと思います。

2021.12.24 住友文彦