オンラインジャーナルの多くは,海外の学術雑誌出版社のサイトから提供され,購読するには高額のライセンス契約料が必要である.最大手のエルゼビア社(オランダ)の Science Directの売上は3,800億円に達するという.日本国内の国公私立大学および研究機関がScience Directに支払っている金額は100億円を超えているとのことである.2017年に入って,ドイツの研究者たちが,複数のオンライン学術ジャーナルにアクセスできなくなる事態が生じた.それらのサイトとオランダの大手学術出版社エルゼビアとの2017年度のライセンス契約交渉が決裂,無契約状態になったため,エルゼビア社の管理する数千のジャーナルへのアクセスが遮断されてしまった.ドイツ科学機構連合は,エルゼビア社の提案を拒否し契約を解消した理由として,エルゼビア社がオープンアクセス(OA)の原則に準拠しておらず,現在40%の利益率があるのに,さらに値上げをしようとしたことを挙げている.同様なことが台湾やペルーでも起きているとのことである.
オープンアクセス(OA)
オープンアクセスとは,インターネット上で学術情報を無償で自由に利用できるようにすることである.1990年以降,大手出版社による学術雑誌市場の寡占と価格高騰が続き,対応に苦慮している研究機関が続出している.このような状況に対抗して,学術情報の自由な共有を目指す動きが現れ,2002年にはBudapest Open Access Initiative (BOAI) によって,その理念および運動が方向づけられた.
そのような動きに呼応して.オープンアクセスを推進する動きが拡大し,無料で閲覧できるオープンアクセスジャーナルと呼ばれるものが増加し始めている.欧州委員会は欧州のすべての科学記事を2020年までに無料でアクセス可能とし,さらに公的に支援された研究で得られたデータを公開・共有することで再利用を可能とすべきとの合意に達している.欧州委員会が助成した研究者が欧州内でオープンアクセス出版に移行するのを加速するとの見方がある.このような動きにおいて,査読の簡素化に問題があると指摘されているものもあるが,ひとつの流れとして歓迎すべき存在になってきている.
日本では,学術雑誌は学会が発行しているため,欧米のような商業出版社がビジネスとして行っているものとは,その性質が異なっている.学会活動の一環のため,編集専門スタッフが不足し,電子ジャーナル化の面で欧米に遅れをとってしまい,欧米に依存する形となってしまった.日本のオープンアクセスとしては,科学技術振興機構が運営している J-STAGE があり,国内で発行される学術雑誌をオープン誌化している.J-STAGEは,電子ジャーナルの利用が日本語圏で遅れているという危機感から公開をサポートする目的で,1998年に文部科学省所管の独立行政法人、科学技術振興機構によって始められた.J-STAGEは,学会や協会に対し,電子ジャーナルを公開するためのノウハウとシステムを提供している.インターネット上での著作権の取り扱いや,ウェブプログラミングなどの知識に疎い学会や協会の運営者に対し,そうしたノウハウとシステムを提供することで,インターネットで電子ジャーナルを発行していけるようにしている.J-STAGE では,ブラウザで登録された学会誌を検索し閲覧が行えるほか,引用している論文および引用されている論文に関してもその抄録や本文が読める機能を備えている.
私が所属していた日本薬学会,日本化学会(前身誌を含めて)の雑誌は過去の分を含めて無料でPDFを読むことができる.ただし,古いものはスキャナ画像をPDF(文字コードを含まない)化してあるため,ファイルのサイズが大きく,テキストとして認識することはできない.ちなみに,Chem. Pharm. Bull.の場合は2001年から文字として認識できる.
無料公開については国民の税金によって成し遂げられた研究成果を国民に公開するのは当たり前との意見があることを紹介しておきたい.
追記
日本化学会の英文誌(Bulletin of the Chemical Society of Japan)の最新号の論文にアクセスしてみたが,一般家庭のネット環境から快適に無料で検索,閲覧できる.一昔前,光回線の敷設されている大学図書館に出向いていたことが嘘のような時代になった.なお,インターネットが利用できない人のためには複写,FAXのサービスが行われている.
参考資料
平成28年度「学術情報基盤実態調査」について(概要) (PDF:2259KB)
Journal@rchive 科学技術振興機構が運営,2012年5月1日にJ-STAGEに統合され、Journal@rchiveという名称のサイトは消滅した