雨奇晴好も水の泡 紗
現パロ。満員電車でおさわりしちゃう大青。1ミリも脱ぎませんが官能要素(脳イキ)はあります。
雨奇晴好も水の泡 紗
現パロ。満員電車でおさわりしちゃう大青。1ミリも脱ぎませんが官能要素(脳イキ)はあります。
(……参ったな)
休日の午前ともあって元より多少の混雑は予想していたが、ここまですし詰め状態になるとは。どうやら前の電車が遅延して、行き場を失った行楽人達が凝集されてしまったらしい。誰も彼もが自分の居場所を主張して、押しては押されての不毛な相撲をとっている。醸成された重たい空気は人の不機嫌そのものだ。目の前の青海さんだけがそんなことをものともせずに涼しい顔をしていた。
「苦しくないですか」
「はい。大崎さんの方こそお辛くはないですか」
自分は青海さんを守るべく、肉の盾となってどうにかスペースを作っていた。力のある青海さんといえど自分に潰されては辛かろうという気遣い、そして、デートでいいところを見せたいという健気なアピール。恥ずかしながらどちらもあっさりと看破されていたらしい。
隙間を作ったといっても肘を壁につけて突っ張っている状態であるから、すぐそばに青海さんの端正な顔がある。少し顔をうつむけるだけで唇が触れてしまいそうな距離。……一瞬、よこしまな心が通りすぎていった。
「っ!」
列車がカーブに差し掛かり、人の波が大きく揺れる。防波堤となった背中で見知らぬ男が苦しげに喘ぐ声が聞こえた。自分の腕には血管が浮き出るほどに力がこもっている。潰さないようにと心を砕いたつもりだったが、余波をくらった青海さんが自分の肩に埋もれていた。
「縋りついてもらって大丈夫です。頭を打つといけませんから。自分に寄りかかっていてください」
「……はい」
表情は窺えないものの、おずおずと青海さんは頷いた。そして控えめに服を掴まれる。そんな掴まり方では安定しないと思うのだが……。恥ずかしいのだろうか。
「みんな自分のことで必死です。どうぞ遠慮せず腕を回してください」
「……」
判断を迷う青海さん。そこへ、またカーブした線路に入ろうとしているのだろう、甲高い音が聞こえたような気がして、咄嗟に片手を彼の頭の後ろに差し込んだ。案の定甚だしく揺れた列車は再び大きな人のうねりを引き起こして、自分の手の甲が固い壁へゴチンとぶつかった。
「ほら、危ないですよ」
「すみません」
論より早い実例にようやく観念して腰へ腕を回してくれた。自分の体にぴったり添う形で胸が寄って、彼の頭を抱え込んだ体勢から、場所が場所でなければこれから睦事が始まりそうな鼓動の高鳴りがあった。人混みで交感神経が昂っているだけだと、取り繕う言い訳があって助かったと思う。手のひらに感じる頭の重み、丸み。指に絡まる髪に誘惑されて、いつの間にか彼の頭を撫でるように触っていた。
満員電車は好ましくないが、腕で囲った狭い檻の中でただ自分だけを見つめてもらえるのは悪くない気分だった。こんな風に公共の場で公然と好きな人と抱き合うこともできてしまうのだから。
指が滑ってうなじにたどり着くと、青海さんはぴくりと震えた。その反応に、昨夜のことを思い出す。
——後ろから覆い被さって、うなじを噛んでしゃぶり尽くした。シャンプーの香りと汗の匂い、それから青海さん本人の香りが混ざりあって、すっかりその媚毒にあてられてしまった自分は彼を押し潰してしまうくらいに必死で求めた。枕に縋りつく手をほどかせて、自分の手で縫い止めて。驚いた拍子に枕から零れた声はなんともそそる甘やかさで。その声を聞きたくてあらゆる手をつくしたものだ。そう。彼の嫌がる——本当は興奮しているのを知っている——卑猥な言葉を吹き込んで、ふやけるまで耳を舐めしゃぶって、それから身も動かせぬほどに全身を押し潰して、しまいには枕を取り上げて無理な体勢でキスをねだった。口の外で舌を絡ませるキスはピクニックキスと呼ばれるのだそうだ。最近読んだ雑誌で知った。快感だけではなく圧迫感からくる苦しげな喘ぎと、しかしそれでも懸命に舌を絡ませる姿、そして、繋ぎ止めた両手が示す僅かな抵抗がまた自分を余計に駆り立たせて……。
「……大崎さん」
呼ばれてはっとする。青海さんがこちらを見上げていた。なぜか困惑した表情を浮かべている。
「どうしましたか」
「…………。あたっています」
「……」
何が、と口に出す前に理解することができた。
——イチモツが勃起している、
「……何故」
戸惑うのも無理はなかった。こんな場所で、昨夜の情事を事細かに思い出して、あまつさえ勃起までしてしまっているなんてこと、頭に浮かぶ可能性はあっても実際に認められるかは別だろう。
「すみません……」
彼は眼鏡を押し上げようと腕を浮かせかけた。だが、この密着状態では迂闊に動くこともできないと思い出したらしく、瞳に動揺を溜めたまま自分に抱きついていた。……申し訳ないと思うと同時に。困惑と動揺、そして僅かな恥じらいの浮かぶ彼の仕草を見つめて、嗜虐欲という低劣な欲望に火がついてしまった。
「あの。……何故また……」
自分は少し背を屈め、もはやこの口で彼の耳を塞いでしまうくらいにぴったりと唇を寄せて「楓さん」と一言囁いた。
「!」
青海さんは今、自分にすっぽりと覆われている。壁と自分に挟まれて、何が起こっても誰にも見つけてもらえない。倫理の天秤はぐらついて、これは良くないと片側にいる自分が叫んでいるが、妙な興奮を抑えることができなかった。
「本当にダメなら、足を踏みつけてください」
カタン、と非常に軽い音で天秤の皿が底を打った。
◆◆◆
青海さんの耳が赤く色づいている。その他の点では何の異常もない風に平静を装っている。拒絶の意思表示は今のところない。不埒な男に尻を撫でられているというのに。
ふっくらとした尻たぶはデニムのジーンズに包まれて少し窮屈そうだ。硬い果皮に包まれた芳醇な果実を思わせる。今ここで剥くことはできないが、じっくりと記憶の中の感触を思い出すことは容易だった。彼もまた、自分と同じように思い出しているんだろう。この指が、誰のどこに入ってどんな風に犯しつくしていったのかを。
「楓さんも、たってしまいましたね」
外聞を憚ってぽそぽそと紡いだ言葉。誰にも聞かせない。聞かせられない。その秘密が自分の意識を、どこか現実から浮遊した熱の中へと飛ばしていた。
指摘されて強張った体を優しく撫でる。自分のものと擦り合わせるように軽く腰を揺すると、彼は縋る力を強めた。逃げ場などない。自分に縋るしかない。
「っ……」
「あなたのことを考えていたらこうなってしまったんです。場所も選ばずよだれを垂らしてしまうくらい、あなたのことになると我慢が利きません」
「やめてください……」
青海さんの耳はとうとう全部が真っ赤に染まっていた。きっと、理性的な彼は自分のこの行いを叱ろうと思っているはずだ。でも、押し込めるように低く掠れた囁き声に嫌でも昨日のことを思い出して、残り火が内側からじくじくと侵食していくのを止められない……そんな自身を自覚しているんだ。自分を棚に上げて叱ることをしないのはこの人の誠実な部分だけれど、悪い男に付け込まれる隙にもなるのだから気をつけてほしいものだと思った。
「楓さん、ここ、いれてください」
カリカリ、と指の先で突っ張ったジーンズを引っ掻く。双丘に引き伸ばされた生地は少しばかり浮いていて、直接その場所に刺激が届いたとは思えないけれど。執拗に、執念深く、開けろと念じて指を擦り続ける。青海さんはふるふると小刻みに首を振って、この危険な戯れから逃れようとしていた。
これ以上はまずいかもしれないと、頭の片隅では警鐘がなっている。わかっている。ここではいけない。
「いれてください」
これだけ周りに人がいて。
「思い出してください」
いつ気付かれるともしれぬのに。
「ここに」
バレてはいけないのに。
「何があったのか」
青海さんは震えていた。
自分の肩に額を押し付け、指は皺ができそうなほど強く服を掴んでいる。肩に吹き掛けられる息が、火傷しそうなほどに熱くて、今この人の中に巡る行き場のない熱を感じることができた。
「イって」
もう、指の動きは止めていた。
崩れそうになった腰を抱き留めて、過密を装って押し潰す。ここに至ってもなお、自分のことだけを感じてほしいという底なしの欲望からの行為だった。自分の声を反芻して、自分の匂いで鼻腔を満たして、自分の体温を灯して、そして頭の中を自分のことで塗り潰す。
『次は××~、次は××~、本日は列車の遅延にて誠にご迷惑を——』
このアナウンスもきっと彼の耳には届いていない。満足だ。ただ一つだけ。今この瞬間、彼がどんな顔をしているのか見られないのだけが、本当に残念だった。
◆◆◆
呆気なく扉は開いた。
一塊となって吐き出された群衆の中、自分たちは異様な熱を持って見つめあっていた。潤んでいて焦点の合わないぼんやりとした目と、瞳孔の開いたケダモノの目。自分は心に従って彼の手をとった。
濁った空気から解放されていくらか頭が冴えてくる。夢をみていたかのような浮遊感が遠ざかっていく。しかし、このまま冷ましてしまうのは惜しすぎた。
「これから雨が降ると思いませんか」
「……」
「雨宿りをしましょう、楓さん」
念の為、注釈を加えておこう。
本日の気温は22℃、降水確率は10%。
誰が見たって文句は無しの、行楽日和。見事なほどの大快晴であった。
紗(X:@sa_ssszcoc)(スペース:花‐あ5)
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