本論文では、アフリカの飢餓問題に対してNGOを始めとする開発援助機関のあり方を把握し、今後より盛んになるだろう対アフリカ援助の概念の中でどう位置付けられていくべきかを考えることが目的である。また、その際開発援助機関が権利の保障を求めて相手国政府に働きかける権利ベースアプローチという概念を一つの主軸とし、本論文において求められる権利は「食料主権」、「食料への権利」といった食べ物に関する基本的人権である。
飢餓問題を考えたとき、人権という観点から言えば人間の基本的人権が侵害された状態だということができる。アフリカの飢餓問題を歴史的に概観した時、植民地主義・ポスト植民地主義に始まる多元的かつマクロな政治経済要因を読み解くことができる。つまり、国際政治間の圧力やアフリカ政府内部の脆弱性によってアフリカにおいては人権が侵害された状態が深刻であったのである。飢餓問題は歴史的に長く、援助の対象となってきた。対アフリカ援助のレジームの中で飢餓問題はどのように扱われていったのだろうか。独立後のアフリカの独特な経済構造に始まる多くの阻害要因によってアフリカに多額に投入された援助資金は、アフリカの飢餓問題を大きく改善することにつながらなかった。援助の過熱、氾濫、援助疲れという援助レジームの変遷を経て、対アフリカ援助におけるドナー側のあり方や変遷が盛んに議論されている。
そこで筆者は権利ベースアプローチという概念に注目して援助機関のあり方を考えることにした。実際に、筆者が広報としてインターンを務めたNGOでも権利ベースアプローチが行われていたことから携わっている職員へのインタビュー調査を通して、職員のミクロな視点を描いている。インタビューで得られたものは、権利ベースアプローチ自体に対する職員の視点というよりも、権利ベースアプローチが権利という言葉で相手に履行責任を負わせ、主体的に活動をしてもらうことを目的としているとき、このアプローチを行うにあたって「相手国政府の主体性を引き出す関与とは一体何か」「そもそも援助機関が主張する主体性とは何を指すのか」「主体性をひきだす裏に職員のどんな配慮や遠慮があるのか」といった非常に内面的な見解だった。またそれに伴い、開発援助機関が求める姿と実際のNGO職員の視点にズレがあるのではないかという見解も得ることができた。
権利ベースアプローチという比較的新たな開発援助におけるアプローチのあり方が今後どうなっていくかはわからないが、援助レジームの変遷の中で新たに出てきた概念が今後アフリカの飢餓問題に対して新たな方向性を示すものになるのではないだろうか。また、そんなアプローチに携わる職員の視点をミクロに描くことでアフリカの飢餓問題を考える一般市民やNGOの支援者・寄付者にとって新たな視点を提供できるのではないだろうか。
キーワード:権利ベースアプローチ、食料への権利、飢餓、政策提言、国際協力NGO