広く優しい心で読んでね
🆕2025.9.21 Binary Sparks チュートリアル 作品公開
広く優しい心で読んでね
「バーボン、次の仕事はハニートラップよ」
めずらしく予定のない穏やかな日曜の午後、妖しく艶めく紫色の唇から突然出た知らせにバーボンはただ驚くしかなかった。
「あなたではなく、僕が…?」
「もちろん」
この子は何を言ってるのかしら、と不思議そうな顔で見つめてくるベルモットに対し、バーボンの隣に座っていたライは不機嫌を隠せていない。自分が任務にあたるというわけでもないのにその苛立ちは明らかで、ベルモットはそのライの反応を楽しんでいるように見えた。
「おい、何でバーボンなんだ」
いつも回る頭と口が混乱で全く動いていないバーボンの代わりにライが問いかけると、彼女はタブレットを机に置いて、頬杖をつき気怠そうに答えた。
「ターゲットが男色家だからに決まってるじゃない」
「それなら、お前がお得意の変装をすればいい」
「あら、ダメよ。」
ベルモットが楽しそうに笑いながら答えるのと反比例するようにライの顔はどんどんと険しくなっていく。あまり良いとは言えない空気が流れると、ここでやっとバーボンが口を開いた。
「そろそろ僕もこういう仕事に慣れないといけないんですね」
「……話が分かる子ね、バーボン」
僕は何をすればいいんですかという問いかけに彼女はタブレットのデータを開いて見せてきた。
「まず、明日は美容室に行ってきてちょうだい」
そこには、5日後の作戦決行日までのスケジュールが記されていて、美容室だのエステだの買い物だの、到底仕事とは思えない予定がびっしり詰まっていた。
「このスケジュールは必ず守ること、いいわね」
「……はい」
翌朝、美容師のされるままに手を加えられているバーボンがそこにはいた。そしてその傍らには仏頂面のライもいる。
「お客さま~!もうトリートメントなんて必要ないくらいツルツルですね~!」
「ありがとうございます」
「今日は、純潔と妖艶さを兼ね備えた感じってことでオーダーいただいているので♡そんな感じで仕上げていきますね~!」
「よ、よろしくお願いします……」
どんなオーダーだ、と感じたバーボンであったが、元々コミュニケーション能力の高い男である。終始テンションの高かった美容師につられたのか終わるころには上機嫌になっており、さらに艶の増した髪をライに見せびらかしていた。
「どうです?いい感じでしょう」
「そうだな……。変態ジジイに見せるのが惜しいくらいだ」
整えられた髪は、一見すると何も変わっていないように見えるが、確かに本来の髪型よりより大人っぽさが強調されるようになり、元々のベビーフェイスと見事に調和している。
しかし、さらに綺麗になったと感じつつ返事をしたライの顔はまるで、大切な美しい恋人を他所の男に見せるのが嫌だという風に苦い顔をしていた。ライには別に恋人がいるというのに、何てずるい男なのだろうか。勘違いしてしまいそうになる、そう感じたバーボンはライの表情に気付かないフリをして、ずっと思っていたある疑問を口にする。
「というか、あなた何故ここにいるんですか」
「あの女の命令で君の荷物持ちを仰せつかった」
いつもの恰好とは違い、今日のライはさながらボディーガードのような黒いスーツを着用している。上等な生地のスーツは鍛えられた体にピタっと添って男らしさを強調し、いつもはそのままの長い髪を結ぶことで上品さが加わり、今日のライはすれ違う女性誰もが振り返るようないい男になっていて、隣に立たせるには気分がいい。さらに上機嫌になったバーボンはハイペースでベルモットから指示された予定をこなしていった。
その日はブティックでスーツと香水を買い、次の日にはエステで全身を整えた。一通り終わったようだが、3日目は何をすればいいのかと思い、バーボンがスケジュールを見ると、そこには2日分の欄を使って『実践あるのみよ、バーボン』と書かれていた。
「実践って……ライ、ベルモットから何か聞いてますか」
本番前に別の誰かにハニートラップを仕掛けるのかと考え、ライに尋ねると彼は歯切れの悪い声で返事をした。
「……俺と君でセックスをするんだ」
「っはい!?」
遠回しに言っても気の毒なだけだと、分かりやすい単語を使って淡々と答えたライに対し、バーボンの反応は見るからに動揺していた。顔は首元や耳まで紅潮し、元々大きくて丸い目はさらに開かれている。ふざけた女からの言葉だが、指令には従わなくてはならない。困惑するバーボンの手をそっと引き、ライは自室にバーボンを連れ込んだ。
ベッドに腰を掛け、手を握ったままバーボンの太ももに乗せると、ようやく事態を飲み込んだのかどうか、バーボンは大きな瞳を少しだけうるませながらライの目をまっすぐに覗き込んだ。
「ほんとにあなたと……?」
こんな純粋無垢な子を本当にあの任務に行かせていいのだろうか。バーボンが探り屋として組織一の実力を持っているのは理解している。いや、だからこそそんな手段を使わなくても十分通用するはずだ。しかし、どうしてもやらないといけないんだったら、クソ野郎に汚される前に俺の手で彼を……。そう頭の中で悶々と考えた結果、ライはベルモットの指示に従うことにした。
「あぁ、経験のないまま行かせるのは危険だということだ」
「……でもあなた、彼女が」
「君はそんなこと気にしなくていい」
自分の手で丁寧に彼のカラダを紐解いていきたい。その気持ちが最上位に来た時、ライはバーボンに優しく口づけをした。
「んっ……」
「口を開けて」
「ん、あっ……あ、ん――」
軽いキスから徐々に濃厚なキスへと変わる。息をすることも忘れ、ライの厚い舌を受け止めるのに必死なバーボンの口からは涎が溢れているが、そんなことに気付くこともできないくらい、バーボンは自身のコントロールができなかった。ライは自分とのキスに精一杯なバーボンを優しく見つめ、口元を拭う。
「あ、すみません。僕……」
やっと自分の状態に気付いたのか生娘のように顔を赤らめて謝るバーボンに、ライの理性はもう限界だった。
「わっ!」
自分の半分くらいの華奢な手首を掴みベッドへ押し倒す。シャツのボタンをひとつひとつ丁寧に、しかしスピーディーに外しつつ、露わになったきめ細やか肌に次々と口づけを落とす。痕を付けてハニートラップができないようにしてやりたい。そう思い、強く口づけようとするが、バーボンに止められてしまう。
「だめ、痕はつけないで……」
「クソっ」
止められた鬱憤を晴らすかのように、バーボンのツンっと小さく主張する乳首に強く吸い付く。
「あっ!だめ、やっ」
寂しそうにしているもう片方の乳首を優しくつねって刺激すると、バーボンの可愛らしくあられもないさえずりはもう止まらなかった。
「このくらいでへばるなよ、バーボン」
自分の愛撫に素直に感じるバーボンに気をよくしたライは、滑らかな手つきでバーボンの鼠径部を撫でつける。
「んっ、ライ……」
「そう、そのままリラックスだ」
こんなにも敏感で大丈夫なのかと今後の任務についてさらに心配になるが、だったら自分が汚い奴らから守ればいい。バーボンのカラダを優しく、しかし激しく触れながらそう決心をする。
簡単な愛撫だったが、十分に緊張がほぐれたのを頃合いに、艶やかに光る唇に再びキスをしながら彼の陰茎と、そして未だかつて誰も触れたことのない秘密の場所に手を伸ばす。陰茎を優しくこすってやるとバーボンの喘ぎ声はさらに大きくなり、先端からはトロトロとした液体が溢れてくる。それを手に取り窄まりに触れると、バーボンはビクッと反応し体を緊張させた。
「やだっ……」
「大丈夫だ、リラックスしろ」
気を紛らわすように口づけをし、再びバーボンの薄くしなやかな舌を味わう。キスが気に入ったのだろうか、夢中になったことで少し緊張がほぐれたのを見計らい再び後孔に触れると先ほどとは違い柔らかく受け入れてくれるようになった。
「あっ、らいっ!指が……」
「ああ、俺の指が入ってるのが分かるか」
「んっ、あ、はぁ、あっ……」
「いい子だバーボン、気持ちよくなろうな」
そろそろいいだろうと1本だった指を2本に増やし、バーボンのいいトコロを探っていく。指の腹を上に向けると、他の部分とは違い固く盛り上がっている場所を見つけ、そこを優しく押してみる。
「あっ――!」
ここか、そう確信したライは射精を促すように前立腺を指の腹で執拗に、しかし優しく擦り、ほったらかしにしてしまい寂しそうにピクピクと震えている可愛らしいペニスも一緒に強く擦りあげる。
「だめぇ!いっしょやらっ……あっ、あ、あ――っ!」
ダメだ怖いなどと言いつつカラダを震わせながら果てたバーボンをそっとうつ伏せに寝かし、まるくふっくらした臀部を両手で割り開く。扱かずともすでにライのペニスは大きく勃ちあがり、バーボンのつつましやかなヒップには可哀想なくらいに怒張している。
「バーボン、挿れるぞ」
「んっ……」
半ば意識の飛んでいるバーボンに声をかけ、返事になっていない声を肯定の言葉とみなし、先ほどの絶頂でぽってりと弛んだ蕾に固くなった自身を擦りあてる。マーキングするかのように先端で入り口を数回撫でつけてから、バーボンの負担にならないようにゆっくりと押し挿れていく。
「あっ、ライ……」
「そのまま力を抜いていろ」
初めてながらもバーボンの中はゆっくりとライのそれを受け入れていく。ある程度まで納めたところでユサユサと腰を揺するとバーボンはあられもない声を出し、華奢なうなじから玉のような汗を流していた。ただの汗なのに甘美な液体のように彼は全身余すところなく美味しい。この美しい男を俺だけのものにしたい。ライのバーボンへの庇護欲と支配欲、その相反する感情はますます強くなっていく。その華奢な腰を強く掴み、声が出ないほど激しく突きたい気持ちを抑えながら、優しく肩に手を回し、バーボンの体をこちらに向けさせる。向き合った形になると、ライは涙の溢れる大きな瞳に慈しむように口づけをし、そのまま鼻、口へと愛情を落としていく。
「そうだ、えらいぞバーボン」
「あ、んっ……ぼく、ちゃんとできていますか……」
ライの二の腕をきゅっと握りながら問いかけるバーボンの顔はやはり幼さを少し残していて、この卑猥なカラダとのギャップに落ちない男はいないだろうと感じるくらい刺激的だった。
「あぁ、ほらこっちに手を回せ」
肩のあたりで縮こまっているしなやかな腕を自分の首に回し、二人の密着度はさらに増した。ライの無骨な手はバーボンの頭を優しく撫で、寂しいと主張する乳首に刺激を与える。そして、フィニッシュへ向けて穿つスピードを速めていった。
「あっ、あ、んっ――」
「もっと感じるんだ、ほらキスをしてくれ」
ライの言うとおりにと、精一杯首を伸ばしキスをするバーボンは雛鳥のようで、それを愛しいと思えば思うほど激しく腰を揺らしてしまう。ベッドもそれに合わせるように激しく軋み、これは下の階の住人から苦情がきても仕方ないな、などと熱くなった体とは反対に頭は冷静なことを考えてしまっていた。
「らいっ――!もう、あっ、だめっ!」
限界も近いのだろう、カラダを震わせながら必死にしがみつくバーボンをさらに愛しく感じつつ、ライはイかせてやろうと腰の動きに合わせ、ピクピクと震えるバーボンのペニスを激しく扱く。
「んっ…イッちゃう!らめぇ、あ、ぁあ――っ!!」
バーボンの後孔は締めつけを増し、激しく背中をのけぞらせながら達すると、ライもバーボンの中へ精液を流し込む。これでマーキングができたらどんなにいいだろうと蓋をするようにグリグリと押し込むと、バーボンは気を失ったのかベッドに倒れこんでいた。
「最高だったよバーボン、誰の所にも行かせたくないくらいに」
聞こえていないバーボンにそう呟き、最後に唇にそっとキスをするとライは汗やら体液やらで濡れたバーボンの体をあらかじめ用意しておいた濡れタオルで優しく拭いていった。
それは世界で一番愛しい恋人に触れるかのように繊細で穏やかな手つきだった。
「――ライ、その」
翌朝、全身の筋肉痛とともに目を覚ましたバーボンは恐る恐るライに昨日の結果を尋ねていた。
「現時点では、君にはまだ難しい。明日は体に触れさせないようにするんだな」
ライはバーボンを横目でちらっと見ると、淡々と答えていく。
「そもそも、君ほどの男が体を使う必要はない。他にも手があるはずだ」
「ですがっ!」
組織の命令に反したらどうなるか、そう強く主張するバーボンを宥めるようにライはバーボンの頭を優しく撫で、そっとキスを落とした。
「大丈夫だ。2人で考えよう」
安心させるような温かいまなざしと有無を言わさぬライの返答にバーボンはただ頷くことしかできなかった。
結果としては、FBIの突入によりバーボンがターゲットの男と一夜を共にすることはなかった。FBIが何故出てくるんだと怒るバーボンは、ハニートラップをさせないためにライが裏で必死に手を回していたことをまだ知らない。
時刻は午後1時45分。徹夜をした次の日に昼寝をするには最高であろう日差しと澄んだ空気の中、僕はとある個人宅の玄関に立っていた。
その家は洋風の大きな家で、少しでも手入れを怠ったら近所の小学生にお化け屋敷と恐れられそうな外観をしている。持ち主は世界的推理小説家工藤優作氏であり、数年前までは伝説的な元女優と若くして素晴らしい推理力を誇る高校生探偵の3人で暮らしていたそうだ。
ところが、今は謎の大学院生が一人で住んでいる。
そう、僕はその大学院生の正体を暴くためにここを訪れた。
――ピンポーン
「はい、どちら様でしょうか」
「こんにちは、沖矢さんにお届け物です!」
「……ちょっとお待ちください」
おどけた声で住人に用件を伝えると、少し時間をおいて重厚なドアがゆっくりと開いた。玄関には薄手のタートルネックのセーターを着た沖矢昴(自称27歳)がわざとらしい苦笑いをしながら待ち構えていた。
「おや、ポアロの店員さんじゃないですか」
「こんにちは、沖矢さん。今日は僕特製のケーキをお届けに来ました」
チラリと僕の手元を除くと、彼は呆れたように問いかけてくる。
「何も持っていないように見えますが」
そんなの当たり前である。僕特製のケーキなんて作ってないし、そもそもコイツにお裾分けするような仲でもない。今日の僕は、沖矢昴が赤井秀一である証拠を確実にするために訪れたのだから。
「車に置いてあるんです。今取ってきますね」
「……それでは、ありがたくいただきます」
食べ物のプレゼントなんて断られる可能性も考えていたが、この大学院生は予想に反してすんなりと受け入れてくれた。それでいいのかFBI。
兎にも角にもケーキなんぞ用意していないのだから、そろそろ仕掛けるしかない。
僕はドアに向かうために一歩足を下げるふりをして、タイルにつまずいてみせた。さて、お前はどう出るだろうか。
「ぅわっ!」
後ろに倒れこみそうになった瞬間、沖矢すぐに反応し、左手と左腕で僕の背中を軽やかに包み込む。僕の顔は彼の首元にあり、いわゆるゼロ距離となった。彼はまたしても呆れた顔をしている。お前、僕に対して呆れた顔をしすぎじゃないか。
「今日はドジっ子設定なんですか」
「……そんなこと言わないでください」
呆れた顔はされたとしても、近づくことには成功した。ドジっ子だなんて29歳の男に使う単語じゃないだろうとは思うが、僕渾身の上目遣いをお見舞いしてやる。そして、極めつけにと、彼の左手を取り僕の手と合わせ、そのまま指の間をするりと撫でる。
「沖矢さん、やっぱり左利きだったんですね」
少しだけ、赤井の目の奥が動揺した気がした。
「……さあ、どうでしょうか」
やはりこれだけじゃ足りないな、そう思い次の手を仕掛ける。握っていた指をそっとほどき、彼の目の下をやさしく撫でる。そこには赤井ほどではないが、薄くもない隈ができていた。コンシーラーをしっかり塗れ!FBI!
「少し隈がありますが、どうしたんですか」
「レポートをまとめていたら寝不足になってしまいまして」
「それは大変ですね」
本当に大学に行ってるのかよ、そう思いはしたが、頭を切り替え次の行動に出る。離れる雰囲気になったところで瞬時に顔を上げ、チュッと軽いキスを食らわせてやった。
あまりの脈絡のなさにさすがに動揺したのか、いつもはスッと細い涼し気な目は大きく見開いていて瞳の色もよく分かる。その瞳は薄いグレーの色をしていた。
「隈がありながら目を開くと面影がありますね」
そう声をかけると、冷静さを取り戻したのか、先ほどまで見開いていた目は元の沖矢よろしく細く思考を読ませない瞳に戻ってしまった。
「私が誰かに似ていると……?」
「えぇ、僕の想い人ですよ。殺したいほど強く想っている人です」
「それは妬けますね……」
怪訝そうな顔つきをしながら、今度は沖矢の方から僕に口づけをしてくる。それは本当に一瞬の軽いキスで、僅かに動揺しているとすぐに深く熱いキスが襲ってくる。僕のあごを軽く支えていた左手は、そのまま首に流れていき、次に胸、お腹と、触れるか触れないかを楽しむように撫でられていく。
「んっ」
脇腹を触れられたときに思わず快感を得てしまった僕を見て、沖矢は不敵ににやりと笑みを浮かべている。その瞳の奥は嫉妬と欲望に渦巻いた色をしていた。
やられっぱなしでは今日の目的が達成できない。幸い思ったよりも早く赤井はノッてきたのだから、僕からさらに追撃をしかけなければならない。そう決意し、顔と体を一瞬離し、首に巻きつくように手を伸ばす。今度は僕からかぶりつくような深いキスをお見舞いする。僕が舌を差し出すと、彼の厚く苦い舌はすぐに受け入れ、優しく僕の上顎を攻めてきた。
「ン、んぅ……ハッ、ア……」
工藤邸の広い玄関に唾液の混ざる音が厭らしく響く。
僕の身体はその音にすら快楽を感じ、筋肉質で逞しいその首に必死に縋らないと立っているのも辛くなってくる。
そんな必死で、かつ積極的な僕に気をよくしたのか、先ほどまで背中を撫でていたその左手はさらに下に降りていき、お尻を優しく撫でたかと思うと次第に強く揉みしだいてくる。その愛撫が激しくなるにつれ、僕の身体はさらに熱を帯びていった。
「ハァ、あっ、ア……まっ」
Tシャツの裾から沖矢の手が侵入してきて、性急に胸を揉まれてしまう。多少鍛えているとはいえ、別に触り心地の良くない男の胸なんて揉んで何が楽しいのか、なんて半ば蕩けた頭の少し残った理性で考えているとピンっと胸の頂を弾かれる。
「ふぁっ!」
突然のビリビリとした強い快感に思わず声がはじけてしまう。ジンジン熱くなる胸のふくらみに比例するように、触ってもいない僕の陰茎は辛くなるほどに勃ち上がっている。触ってもいないのにどうして……その事実を打ち消すように沖矢昴の唇を求め、思考を排除したいのに、その重いとは裏腹に唇はそっと離れてしまう。
「あっ、おきやさん……」
もっとキスしたい、そう伝えようとしたが沖矢の顔はどんどん下へ降りていき、ガチャガチャと僕のベルトを外す作業にかかっていた。よく手入れをされた長い指がするりとベルトを外し、ジッパーをおろす。ただそれだけ、まだ性器に触れられていないのに十分に張りつめていたペニスがさらに熱を帯びてくる。早くどうにかしてほしい。そればかりが頭の中を占めていて、無防備に頭を差し出されている好機にすら気が付かないほどに理性はどこかにいってしまっていた。
「んんっ……あっ、アアっ」
「もうトロトロですね……」
「ああっ、ンっ!あっ……アッだめぇ!」
厚い舌全体を使い裏筋を舐められたかと思うと、熱をもった口の中でじゅぽじゅぽと扱かれる。それでさえも耐えきれないのに鈴口を舌先でチロチロと刺激された時にはあまりの快感に、先ほどまで声を塞いでくれていたものがなくなり、声を抑えることはもうできなかった。気持ちいい、アツイ、もっと、もっと!! 頭の中では欲に負けた単純な思考ばかりがぐるぐると周り埋めつくす。いや、考えることはとっくに放棄している。もう欲望のままに蕩けることしか考えられない。元はといえば僕が仕掛けたのに――。
「博士、今日のおやつ何用意してくれってかな―!」
「元太君、図々しいですよ」
「もう!食べ物のことばっかり考えてるんだから~」
快楽に囚われている最中、玄関の外から聞き覚えのある少年たちの声が聞こえてきた。ギクリと体が硬直し、冷静さを取り戻したため口元を抑えようとするが、沖矢の手によってそれを阻止されてしまう。あろうことか僕の両手を胸のあたりで押さえつけながら、先ほどまでの愛撫を再開させてくる。
「ちょっ!ま、アっ、あんっ!」
「シー、聞こえちゃいますよ」
にやりと口角を上げ、左手の人差し指を唇にそっと当てると、そのまま人差し指と薬指を口の中でぐちゅぐちゅと掻き混ぜてくる。上顎をコリコリと的確に刺激され、また理性を失いそうになるが、僕は確かめないといけない。
「んっ、僕のいいとこ……よくご存じですね」
「恐縮です」
すっとぼけやがってと睨みを効かせると、余裕そうですねと陰茎をさらに強く吸い上げられてしまう。
「っあ、あ、アッ―――!!」
油断をしている最中の突然の強い刺激に驚くほどあっけなく果ててしまい、屈辱的な気持ちになるが、ひどい快楽から一気に解き放たれた反動か、または機能の徹夜の影響か、次第に眠気が襲ってくる。
ダメだ、力が入らない。ガクッと崩れ落ちた瞬間、体がフワリと持ち上がる。ただの大学院生とは思えないほどに鍛えられた体によって抱きかかえられているのだろうか。ほんのりと香ってくるこの香りを僕は確かに知っている。微かな煙草の匂いと官能的な深みのある男の香り。認めたいような認めたくないような、どこか安心した気持ちになる。やっぱりこの男は……。
―――ピッ
「第2ラウンドは、ベッドの中でといこうか」
ウトウトとまどろんでしまっている最中、機械の音と赤井秀一の声が聞こえてきたような気がした。お前……と思いつつも、僕の意識は限界を迎え眠りに落ちてしまったのであった。
昔の夢を見た。煙草の匂いと僕を諫めようとする低く色気のある声。何もかもが僕を挑発させるあの男と風が強く吹く観覧車の上でスリリングな逢瀬をした懐かしい夢。眠りにつく前にあいつの匂いを、声を、体温を感じた気がする。
赤井秀一、早くお前の仮の姿を暴いてやる。そう心に誓い、僕はまた深い眠りに堕ちた。
【あとがき】
以前、ハイシク(WEBオンリー)にて掲載したお話を再掲するにあたって、軽く読みなおしたら沖矢がグレーのカラコンをしていて若干昔の自分に解釈違いを起こしました。だけど、どこからどう直せばいいのか分からないからそのまま載せます。珍しく変装を頑張っているシュウということで、ここはひとつよろしくお願いします<(_ _)>
2023.8.26 塩村
「一週間くらいで片付くだろう。すぐに戻るよ」
そう言って赤井が日本を発ってから三か月が過ぎた。少し味気のない一人での夕食を済ませ、食器を洗っていると私用のスマートフォンが机の上で振動する。
「はい」
液晶画面に“赤井”と表示されているのを確認し、嬉しさと緊張で少し声が上ずりそうになるのを抑えながら通話ボタンをタップする。
「やあ降谷くん、今時間は大丈夫か」
「ええ、おつかれさまです。」
アメリカは朝の通勤時間帯だからだろうか、遠くで人が忙しなく行きかう音が微かに聞こえてくる。
「どうですか、捜査の方は落ち着きましたか」
「ああ、想定より難航してしまってな……なかなか帰れずにすまない」
「いえ、こちらのことは気にしないでください。それよりも赤井、ちゃんとご飯食べてるか?」
僕と付き合う前の赤井の食事は、お世辞にもバランスの良い食事とは言えなかった。目も当てられないほど不健康な食生活というわけではなかったし、いい大人なのだからそれほど心配する必要はないと分かってはいるが、それでも向こうの食事は日本よりもハイカロリーなものが多い。忙しさにかまけてデリバリーばかり注文していないか、酒とエナジーバーだけで済ましていないか、海の向こうでどんな生活をしているのかどうしても気になってしまう。
「…そうだな、君の手料理が恋しくて仕方ないが何とかしっかり食べているよ」
「そうですか。それならいいです」
ただの日常会話に甘い言葉をさりげなく入れられるのはいつまで経っても慣れない。ささいなことで動揺しているのを悟られるのは少し気恥ずかしく、何ともないフリをして返事をするが、意識をしすぎて僅かに声色が固くなってしまう。そんな僕の微妙な変化にフッと笑みをこぼしながら、赤井は話を続ける。
「ああ、それでだな。今日電話した件だが、実は」
赤井が本題を切り出そうと話はじめた瞬間、それを遮るようにチャイムが鳴った。モニターを確認するとどうやら宅配業者が荷物を届けにきたようだった。
「来客か?」
「宅配業者みたいです。すみません、今何か言いかけていましたよね」
幸い10階にあるこの部屋に業者がたどり着くには少し時間がある。一体何の話だったのか、もしかするとあと数か月はこちらに戻ってこれないという宣言だったのだろうか、それならば寂しい気持ちになる前にさらりと聞いてしまいたい。そんなことを考えながら何の話だったのか改めて聞く。
「いや、また後で言うよ。早く荷物を受け取るといい」
赤井なりに気を遣ってくれたのか、大した話ではなかったのか。そう言われるとこちらとしても改めて催促する必要はないので、その言葉に甘え、簡単な挨拶を交わし電話を切る。
久しぶりの電話は5分と話していなかったが、それでも声が聞けたことに喜びを覚えてしまう。その一方で向こうはやはり少し疲れが出ているのだろうか、先ほどの赤井の声は少し掠れていてそれが元の低い声をさらに引き立て耳の奥を刺激する。少しこそばゆいなと感じていると、先ほどの宅配業者がちょうど部屋の前に到着したようだった。荷物を受け取り、中身を確認するとそれは先週寂しさのあまり酒を煽りその勢いで購入した特大ディルドだった。
「あー……、そういえばこんなの買ったっけ」
赤井のペニスには到底及ばないが、カリ高に作られたそれを見ると、あの凶暴で自分のナカを作り変えてしまった巨塊を思い出してしまう。先ほどのむず痒さはハッキリとした性的欲求と昇華し、このまま何もせずに収めることはもうできなかった。
「最近処理してなかったし……」
そう自分に言い聞かせ、箱を持ったまま寝室に移動する。
寝室のドアを閉めるとすぐには使わない玩具は一度置いておき、少し速くなった鼓動を感じながらベッドボードに背中を預ける。ふぅ─っと息を吐き、白いスウェットのズボンと一緒に下着を脱ぐと足元に放る。すでにピクピクと反応している自身の陰茎を右手でそっと包み込み軽く揉みこみ、そのまま上下に扱く。左手ではTシャツの裾を捲りあげ、少し乾燥してしまった膨らみをカリカリと爪先で弾く。
「んっ……、ふっ」
乳首なんて最初はなにも感じなかったのに、赤井によってペニスと同時に刺激をすると何倍にも気持ちよくなると体が覚えてしまった。
「あ、あっ……はあ、んぅ」
目をつむり、赤井との情事を思い出しながらさらに強く刺激を与える。
「はぁ……は、あっ、あ、いい──」
親指と人差し指で固くなった乳頭をグリグリと潰すように摘まみ回し、部屋にはペニスを擦る音がグチュグチュと響く。
「んっ、ん……イク、イクっ!ああ─ッ」
空虚を突き上げるように腰が高く持ち上がり、つま先はぎゅっとシーツを掴みながら足腰はガクガクと震える。大きな射精の反動で胸の尖りをぎゅっと強く摘まんでしまい、自分でやっていることなのに予期せぬ刺激に思わずきれいとは言えない声が漏れ出てしまう。
しばらく性欲処理を怠っていたこともあり、臍のすぐ下まで飛び散るほどの精子が出たものの何故か体の疼きはまだ収まりそうにない。
これも赤井のせいだ。絶倫のあいつに付き合っているせいで僕の基準も壊れてしまった。
実際、赤井との関係が始まる前は数か月に一度、いたって事務的に処理をするだけだったのだ。それもムラムラするから、なんて理由でもなく数日寝ずに捜査に明け暮れた後だったり一晩中銃撃戦をした後だったり、いわゆる疲れマラ、なんて事象が起きたときに処理をする程度だったのに、赤井のせいでおかしくなってしまった。
ここにいない男への怒りで疼きを誤魔化そうとするが、そんな僕の気持ちはお構いなしに体は熱く火照り、早く刺激をくれと悲鳴を上げている。こんなところを自分でいじるはめになるなんて……自分の体なのに自分の思い通りにならないことに戸惑いを覚えるも観念してナイトテーブルの引き出しから個包装の包みを一つ取り出す。中身が飛びだしてしまわぬよう気を付けながら開封し、とろりと出てきた潤滑剤を指先で温め、そっと固く閉じた窄まりを丁寧にひらくようにやさしく撫でる。少し乾燥したソコをゆっくり指先でくるくるとマッサージし、少し柔らかくなったところでおそるおそる中指を中に挿入していく。
「っはあ、ん──」
この方が楽だろうかと枕に頭を預け、尻を高く上げ、さらに奥へと指を進めていく。自ら進んでこんな間抜けな恰好をしているなんて……誰にも見られたくない。赤井だとしてももしこんな姿見られでもしたら恥ずかしくて消えたくなってしまいそうだ。頭の片隅でそう思いながらも孔内はうねりを増し、快感を待ちわびるようにさらに奥へと誘ってくる。
赤井がアメリカへ発つ直前の、しばらく会えない分もといつもより時間をかけた濃密なあの情事を思い浮かべ、固く膨らんだ前立腺をトントンと押し込む。柔らかく蕩ける窄まりに薬指を増やし挿れ、突起を挟むように刺激をする。
「あ、赤井っ……もっと、あ、あっ」
刺激が足りないと主張する胸に左手を伸ばし、先ほど強く摘まんだことで赤くなってしまった胸先の突起に潤滑剤を塗り込むようにくるくると転がす。後ろの指を三本に増やし、あの固くて太い、体が壊れると錯覚するほどの怒張が自分に深く突き刺さっていると錯覚できるようにグチュグチュと強く早く指を抜き差しする。
「だめ……足りない、こんなんじゃ」
自分の指を三本も挿れることなんてしたことがないのに、少しでも赤井を感じたくてひたすらに欲に溺れているのに、それでも足りないことに虚しさを感じ、強くつむっていた目を開くと先ほど床に放置していた玩具が目に入ってくる。
そうだ、そのために買ったんじゃないかと、ぐっしょりベタベタになった陰部から指を抜き床に手を伸ばすもパクパクと大きく開かれた割れ口はあんなちんけな玩具じゃ満足できないと訴えてくる。
「余計むなしくなるだけだ、やめとこう」
もう一度目をつむり、今度は、先ほどから固く主張していた竿をシーツに擦り付けながら再び後孔に指を抜き差ししていく。
「んっ、んん、もっと奥にほしいよ……あかい、あかいっ」
名前を呼ぶたびに体がこれまでの行為を思い出し全身が熱く溶けていく。腰が段々と痙攣をはじめ脳があと少し、もっと刺激をと催促するようにピリピリと信号を送る。
「あ、あっ……イクっ、あかい、イっちゃう、ああ!イク──っ」
頭が真っ白になり、ビクビクと全身が痙攣すると同時に突然寝室のドアがガチャリと開いた。そこにはまだアメリカにいるはずの赤井が立っていた。
「ただいま、零」
「え、えっ!?」
ついさっき絶頂を迎えたばかりの体は全身がフワフワして脳みそがまだ回っていないのに赤井がいるという衝撃でさらに真っ白になってしまう。
そして、5秒ほどフリーズした後に、自分が今大股を開き、色々な液体物でドロドロになった臀部を見せつけていることにようやく気が付く。赤井は少ない荷物を足元に置き、なぜか笑顔でこちらに近づいてくる。咄嗟に足元でくしゃりと丸まっているシーツを手に取り、頭からつま先まで覆うようにシーツの中に隠れた。
なぜ、なんでいるんだ!さっきのでんわは、いつから?見られた聞かれた?なんて言うどうしようひさしぶりにあえた恥ずかしい、というかなんでいる⁉──羞恥屈辱歓喜立腹、色々な感情が台風となって頭の中をぐちゃぐちゃ搔き乱していく。気持ちを落ち着かせようと大きく深呼吸をして、もう開き直った方がいいのかなんて考えていると先に赤井が口を開いた。
「あー、すまない。さっきの電話で言おうと思っていたんだが、実は捜査の目途があらかたついたから帰国していて……あの電話は日本の空港からかけていたんだ」
「戻れると分かったのも急で、早く君に会いたい一心でそのまま飛行機に乗ってしまったから……ちゃんと伝えずに悪かった」
シーツ越しから赤井が申し訳なさそうに頭を搔きながら言葉を選ぶ様子が伺える。
「……そうでしたか」
一緒に暮らすようになってから報告・連絡・相談の重要性をチクチクと言い続け、これまでよりはだいぶマシになったと思っていたのにまさかこうなるとは……それでも僕に早く会いたいという気持ちで飛行機に飛び乗ってくれたことにときめいてしまい、何も強く言うことができない。
「零、会いたかったよ」
「……そりゃ僕もですけど」
機械を通さない生の赤井の声は何だか穏やかに感じ心が少し落ち着く。それでもさっきの痴態を見られた恥ずかしさが消えるわけもなくシーツから出て顔を合わせることは到底できない。
「さっきのは俺を思い浮かべながらしてくれたのか?」
先ほどの申し訳なさそうな姿はどこへいったのか、人の羞恥心を慮ろうとせず赤井はなぜか堂々と問いかけてくる。絶対に何も答えてやるものか、そう決心し沈黙を貫いているもそんなことはお構いなしに赤井はどんどんこちらに近づいてくる。ベッド横にしゃがむとシーツ越しに僕の頬に軽く口づけをし、耳元で囁く。
「ほら、顔を見せて。おかえりのキスをしてくれないか」
少し寂しそうで優しい声に油断したその一瞬のうちに赤井の手によってシーツは奪われ、途端に僕の緊張と困惑で乾いた唇にキスの雨が降り落ちる。いつから見ていたんだとかデリカシーがなさすぎるとか言いたいことはたくさんあるのに会えなかった時間を埋めるようなキスの波に溺れ何も言えなくなってしまう。
触れるだけのキスは段々と深くなっていき、下唇を甘噛みされたと思ったら隙間から舌を挿し込まれる。赤井の少し厚い舌がツンツンと僕の舌先をノックし、そのまま絡めとられじゅるりと吸われ、互いの唾液でぐちゃぐちゃになった咥内をさらに堪能するように歯列をねっとりとなぞられる。息が苦しくなりはふはふと必死に呼吸をしながら、ストップの意をこめて赤井の逞しい胸を叩く。
「ま、まて!」
中断されたのがそんなに嫌だったのか、いかにもおもしろくないといった表情でじっと見つめてくる赤井をなだめるように優しい声で提案し、かつこれ以上ドロドロにされてたまるかと、赤井の胸元に置いた手をピンと張り距離を取る。
「長時間のフライトで疲れてるだろうしまずお風呂に入ったらどうですか」
一旦この全ての流れをリセットしてやる。
「それもそうだな。じゃあ君も一緒に入ろう」
確かにいい提案だと先ほどとは違う明るい表情で提案を返され、そういうことじゃないと必死にかぶりを振る。それでも引かない赤井は僕のぐっしょり濡れた哀れな姿を改めて見つめ、そのままだと風邪をひくだろうと返してくる。実際体は少し冷えてしまったし、何だかんだいって僕は赤井の提案を断ることができないのだ。
「お風呂では何もしませんからね」
そう念押しし、服の代わりにシーツに身をくるみ浴室へ向かっていった。
久しぶりに見る赤井の体は、渡米前と比べても特段大きな傷もなく危険な現場ではなかったことが伺え安心する。不摂生な食生活を送って痩せたんじゃないかなんて心配も少しはあったが、それもどうやら杞憂のようだった。お互いこのような職業だ。いつ何が起きてもおかしくないし怪我をしないに越したことはないが、いかなる時も職務を優先する覚悟はとうにできている。だけど赤井と付き合うようになって信頼できる人間がそばにいて自分と同じ気持ちでいてくれることの心地よさを知ると、どうか何事もなく無事でいてほしい、そう願わずにはいられなくなってしまった。これが自分の弱さなのかこれから強みになるのか今は分からないけど、この人間らしい気持ちを大切にしよう。そんなことをぼーっと考えているともこもこに泡立てたボディタオルを持った赤井の手が背中に触れる。
「ちょっと、なんですか?」
「なに背中を流そうと思ってな」
いやらしいことはしないと忠告はしたが、せっかく久しぶりの二人時間だ。そのくらいは許してやるかとその言葉に甘え背中を預ける。なめらかな泡をふんだんに使い、大きな掌で丁寧に撫でられることはとても心地がよくとろけてしまいそうになる。なかなかやるなと感心していたのも束の間、赤井の手は背中から腹部に移動し、下腹から上に向かってツツーっと指先でなぞるとなぜか胸を下から持ち上げるように揉みしだいてくる。
「ちょっと!何もしないって言ったでしょ!」
「だから君の体を洗っているだけじゃないか」
何が悪いのかといったふてぶてしい態度をした赤井は、ついでに軽くコリをほぐしているだけだろなどとかの連邦捜査局特別捜査官とは思えないほどの雑な言い訳をしてくる。
「っ、だとしたら、あっ、んそんな近づく必要ないですし、ん、あっ……もう!そんなガチガチになったチンコを体に押し付けてこない!」
やわやわと肉の感触を確かめるように揉みこまれ、持ち上げては落とされを繰り返されると段々と気持ちよくなってきてしまう。それでも気を強く持ってやめろ言うが赤井は聞く気がないのかさらに一歩分近づき熱く膨張した肉塊をより強く腰に押し付けてくる。
「生理現象さ、許してくれ」
すっとぼけた声色で言いながら、胸をまさぐっていた手は段々と下に降りていき、腹をくるくると回すようにボディーソープを塗り込んでくる。
「っ、ふ……、んぅ──」
自然と漏れ出る息を押し殺し耐えていると、そんな僕に気をよくした赤井は図々しくも鼠径部をすりすりと擦り、尻の割れ目に奴の剛直を擦り付けてくる。
「ちょっと…!あ、あっ」
声を押し殺すこともできず、はあはあと息が上がる。
「だめ、ダメだから……っんん──」
「本当にダメか?」
こんなに何回もダメだと言っているのに赤井は本当か?と疑うように耳元で囁いてくる。それもそのはずだ。嫌だと拒否しておきながら僕の陰茎はすでにしっかり勃ちあがりさみしいと泣くようにふるりと震えている。赤井の硬茎が後孔をズルズル摩るたび、肉縁はそれを中へ誘うようにヒクついている。こんな発情した姿を見たらそう思われても仕方ないだろう。
「零、本当に?」
甘えるように首に顔を埋め、甘噛みをしながら聞いてくる。そんな仕草に胸がキュっと締め付けられ思わず許してしまいそうになるが、それでも、これだけは譲ることはできない。だって、だって!
「久しぶりなんだから、するならちゃんとベッドでしたい……です」
あまりの恥ずかしさに顔から火が吹き出そうだし、何なら声が少し震えてしまったのも情けなくて仕方ないが赤井を納得させるためにも今の気持ちを頑張って伝えるしかなかった。
赤井は数秒固まった後に僕の骨を折る気か?と思うほど強く抱きしめ、先ほどから強く噛みしめるしかなかった僕の唇に軽いキスを落とし、ものの数秒で互いの泡を流し終える。
久々にこんなに表情筋が動いているのを見たなと思うほどに嬉しそうな、いやどちらかというと楽しそうな笑顔で自分と僕の身体をざっと拭き、手を引いてずんずんと寝室へ向かう。
赤井は僕をベッドに寝かせると僕の髪を指で梳かしながら覆いかぶさってきた。ちゃんと拭いていない髪からは雫がポタポタと落ち、その刺激が僕の緊張を誘発する。今更ながらも久方ぶりの逢瀬を堪能するように互いの顔をじっと見つめ、そしてゆっくりとキスをした。
そっと唇が離れると赤井は寝室の隅に目をやり、何かを確認すると意地の悪い表情でじっと見つめてくる。
「あそこに転がっている玩具は俺の代わりを務められたのか?」
代わりになれたかどうかなんて聞かずとも分かっているくせに、赤井は時々、子どものように意地悪なふるまいをしてくる。そんな姿にも心揺さぶられてしまうのだから僕はもう末期なんだろう。僕は悪い男に掴まってしまったなとつくづく思う。
「……使おうと思ったけど、お前以外のもの入れたくなくて使わなかったですよ」
目は見れなかったが、極めて端的に事実を伝える。
「ありがとう、そうしてくれて嬉しいよ」
先ほどの悪ガキのような表情からは一転、今度は慈愛に満ちた大人の男の笑みを浮かべた赤井にそっとおでこに唇を落とされた。
実は表情筋豊かな男だよな──、色々な赤井を知るたびに赤井のことを知っていると感じるたびにどんどん心の奥底でお日様のように温かく、業火に焼かれるほど熱い感情が積み重なっていく。
「久しぶりだから、優しくしろよ」
好きだな、そう思った時にはすでに赤井の首に手を回し、自分からキスをしてギュッと抱き着いていた。
感情のままに行動することはやっぱり恥ずかしくて赤井の顔を見ることは到底できなかったけど、きっと今僕が感じているように赤井も僕のことを愛おしいと思ってくれているのだろう。
「もちろんそのつもりだよ」
やっぱりその通りだ。深く甘く、慈しむような声で赤井は僕に応えてくれた。
穏やかな気持ちで赤井を見つめ、再び唇が触れ合う。
「んっ、んぅ……あかい、赤井っ──あ、っは……あんっ」
息ができないほどの深い口づけを交わしベッドに沈み、激しくも心地よい快楽に身を任せた。。
「僕、優しくしろって言いましたよね⁉」
朝の時間はとうに過ぎ、日が高く昇った頃にようやく深い眠りから目が覚めると体に全く力が入らず起き上がることもできなくなっていた。そんな僕の姿を見て嬉しそうに朝食を運んでくる赤井の姿を見て、今後あいつには加減というものを覚えてもらわないと僕の体は壊れてしまう、そう強く確信することとなった。
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街中が美しいチョコレートと色とりどりのラッピングで賑わうこの時期は、行き交う人々皆どこか浮き足立っている。
そんな中、町の小さなスーパーマーケットに他の利用客とは一線を画すモデルのようなスタイルをしたミルクティーブロンドの髪の青年がある商品棚の前で立ち尽くしていた。
「こんなにはいらないんだよな……」
他の客には聞こえないほどの小さな声量でそっと呟き、顎に指先を添えて悩む美しい男、安室透は一緒に暮らして3年になるパートナーへたまには季節ならではのプレゼントでも贈るかと思いつき材料を買いにきていた。棚に積まれている1キロサイズの袋は恋人へ作るだけでは到底消費できない量らしく、別の店を見るかどうか悩んでいるようだった。
「何かお困りですか」
突然降ってきた声に驚き横を向くとそこには眼鏡をかけた茶髪の男が立っている。優し気な声と顔立ちとは真逆の服の上からでも分かるしっかりと鍛えられた体格をした男は、話しかけた相手が自分を少し見上げたまま固まっているのを見て申し訳なさそうな笑顔を見せた。
「申し訳ありません。驚かせてしまいましたね」
再び声をかけられた安室はパッと目を反らすとほんの一瞬の間をおいて人当たりのよさそうな笑顔で対応する。
「こちらこそすみません……ちょっと考え事をしていたもので」
「それ、買わないんですか」
「あ、ずっと棚の前にいて邪魔でしたよね。すみません」
安室がすぐ移動しようとするとそんなことないとその動きを制し言葉を続ける。
「いえいえ、そういうことではなく……もしかしたら私と同じような理由で悩まれてらっしゃるのかと思いましてね」
そう言って製菓用チョコがぎっしり詰まった袋を片手で持ち上げ表記をじっと見つめると、この半分の量でいいんですが、と困った表情している。
「……!僕も同じことで悩んでたんです。あの……もしよかったら分け合いませんか?」
安室の爽やかな弾んだ声でもたらされる提案に男は快く承諾した。
安室が会計を済ませ店の外に出ると沖矢と名乗ったその男は吸い始めたばかりなのだろうか、まだ長さの残る煙草をすぐに揉み消した。
「すみません。少し口寂しくなってしまって」
「フフッ、僕のパートナーもよく煙草吸うんです」
だから気にしないで、そう言って楽しそうに笑う安室の目はどことなく寂しそうに見えた。
すぐ近くにあるという安室の住まいで精算とチョコの分配をすることにした二人は、スーパーから横に伸びる道路を長い脚でリズムよく歩いていく。途中簡単な自己紹介をしながら5分ほど歩くと大きな公園が見えてくとその奥にある建物が安室とその恋人が暮らす都営住宅団地、杯戸四丁目住宅であった。三号棟まである中の二号棟に進んでいくと昭和に建てられた建物のようではあるがメンテナンスはしっかりされているようで所々古く感じる箇所はあるものの清潔感のある明るい玄関部となっていた。
「部屋が4階なんですけどエレベーターがなくて」
「体力には自信があるので大丈夫です」
そんな会話をしながら階段を登りきるとそのまま右に曲がり、425号室と表示された扉の前で止まる。安室が鞄の中から鍵を探していると後ろから登ってきた男が二人の横を通り過ぎた。
「こんにちは」
鍵を見つけた安室がそれを鍵穴に差し込みながら挨拶をすると、無精ひげにスウェットといっただらしない恰好をした男は安室と沖矢のことを見て少し驚いた顔をした。
「――ッス」
ハリのない声で返事をしつつ沖矢の顔を盗み見するも他に言葉を交わすこともなくそのまま部屋に入っていく。
「お隣さんですか」
「ええ、山代さんって方なんですがあまり話したことはないんですよね」
「ホー……」
少し重さのある鉄製の扉を開けると、大人二人が立つと少し狭さを感じる玄関、そしてその奥に清潔感のある部屋が現れた。
「誰もいないのでくつろいでください。今お茶いれますね」
「ありがとうございます」
4人がけのダイニングテーブルに座り、安室が手際よく淹れたコーヒーをブラックで味わう。スーパーで売っているようなよくあるドリップコーヒーのはずなのに、それは芳醇な香りと奥に少し甘さのある品のあるコーヒーであった。
自分の分を淹れ終わった安室が沖矢の対面に座ると二人は雑談を楽しみ始めた。
「今日買ったそれでパートナーの方にバレンタインチョコでも作るんですか?」
「はは、まあ作ってもバレンタイン当日には渡せないんですけどね」
「それはどうして」
「今、海外に長期出張に行っているんです。来週には帰ってくるけど……もう1か月になるかな」
「それは寂しいでしょう」
微かに揺れる瞳と沈んだ声、そんな姿を見た沖矢は柔らかな声色で安室を励ました。そんな沖矢の姿を見て安室は感謝の意を表すように沖矢をじっと見つめ微笑み返す。
「ええ、恥ずかしながら夫がいないこの部屋で過ごすのは少し寂しくて」
言葉を詰まらせる安室に沖矢は心配そうな表情をする。しかし、次の瞬間安室はマグカップに手を添えている沖矢の少し節くれだった指に自身の細くしなやかな指をそっと交わらせた。先ほどまでの寂しそうな表情とは明らかに違う熱を持て余した淫らな色を見せ言葉を紡ぐ。
「……だから、今日沖矢さんとお話できて嬉しいんです」
突然の出来事に困惑する沖矢の首筋からは一筋の汗が流れる。ストーブが効きすぎているせいか、はたまた安室のじっとりとした視線のせいだろうか自身の体温もじんわりと上がってきているように感じた。
「チョコレート、冷蔵庫にしまわないと溶けちゃいますよ」
「そうですね、沖矢さんの分も冷蔵庫に入れるので……」
安室はさらに身を乗り出し、もう片方の手を伸ばす。沖矢の大きな手をぎゅっと握りしめるとそのまま中指を腕の方に向かって滑らせた。
「そっちのソファーでもう少しお話しませんか」
「こっちに移動すると日当たりがさらによくていいですね」
先ほどの妙な湿った空気を払拭しようとさっぱりとした態度で距離を取る沖矢。しかしそんな思惑などおかまいなしに安室は腰をしならせその太く逞しい首に腕を回すと同意を得ることもなく深く口づけをした。
「んっ……」
「ちょっと、安室さん」
程よくついた筋肉とそれを包むやわい脂肪で構成されたなめらかな肩に手を置き引き離そうとするも安室のしなやかな腕はしっかりと組み合わされ離れようとしない。一度唇を離すも沖矢の首筋にスッと筋の通った鼻を埋め深く息を吸い満足そうに笑っている。
「沖矢さんって赤井と同じ匂いがするんです……ね、いいでしょ」
そういってまたキスを仕掛けるとそのまま沖矢をソファーに押し倒し、ふっくらと硬さを増した自身の中心をグリグリと押し付け息を漏らした。
「んっ……ん、ふっ――あんっ」
再度離れようと安室の揺れる腰に手を当てると、その単純な刺激さえも快楽に変換した安室は小さく啼く。
夫がいるというにも関わらず、今日初めて会った自分に淫らな姿をさらけ出し続ける安室に沖矢の頭の中で一本の糸が切れた。こめかみにうっすらと青筋を浮かべた沖矢は一人で勝手に気持ちよくなっている安室の肩に両手を置きそのまま一気に体勢を入れ替える。
「……旦那さんにバレても知りませんよ」
少し呼吸の浅くなった安室は待ってましたとばかりに満足げな表情をして沖矢のセーターの裾に手を入れた。
「沖矢さんって東都大学の院生でしたっけ?随分と鍛えているんですね」
しっかりと凹凸の出た腹筋を愛おしそうに撫でながら、安室は嬉しそうに声を弾ませる。
「僕も仕事柄鍛えてるんですよ。見ますか?」
そう言って、沖矢が返事をする前に自ら着ていた白いニットを脱ぎ捨てる。そこには確かに丁寧に計算し作られたなめらかで美しい筋肉があった。
「確かに美しい体ですね。何のお仕事なんですか?」
「んっ……、秘密です」
腹筋の溝を指先でツゥ―となぞると薄い腹はピクリと震え再び甘い声を出す。安室が挑発的な目で沖矢を見つめると男は困ったような笑みを浮かべた。
「そんなに見つめられると照れますね」
そう言って安室が身に着けている薄花色のジーンズを脱がせようと手をかけると、体の下で物欲しそうに膝をすり合わせている安室はその手を制した。
「待って、僕からやりますから」
そう言って沖矢をソファーに座らせ床に正座をした安室はこげ茶色のスラックスを押さえるベルトに手を伸ばし、ガチャガチャと音を立てながら外していく。前立てはすっかり膨らんでいて、安室は待ちきれないのかジッパーを下げるとそのまますぐに下着のゴムに手をかけ一気に下ろした。ブルンっと勢いよく出てきたそれは安室の鼻先を掠め存在を主張していた。
「あっ……すごい……」
喉をゴクリと鳴らすと太いカリのその先に軽くキスを落とす。長大なそれはさらに硬度と膨らみを増し安室のピンク色のふっくらした唇に先端を遠慮なく押し付けてくる。素直な反応をする自分の顔程の大きさの太茎に夢中になっている安室はそのままゆっくりと熱い口の中に迎え入れ、顔を上下に動かし口淫を始める。口に収めることのできない竿の根本を右手でゆっくりと擦り、客人である沖矢をもてなした。
「んっ、ん……ぅく――」
「慣れてらっしゃるんですね。とても気持ちいいです」
ねっとりとした舌づかいを堪能する沖矢は手持ち無沙汰であったのか、安室の耳穴の縁に指を添えるとクルクルとマッサージをするように指を動かす。耳がポカポカと熱くなってきたのを確認するとそのまま中に指を入れ、耳壁を擦る。指を上下に動かし刺激をすればするほど安室の喉は締まり、口内を満たしている肉竿に更なる刺激を与えた。
「あ……ぅ、んゥッ……」
竿にまとわりつく唾液の量が一層増え、動きもスムーズになってくると安室の腰がわずかに揺れ始めていることに気付く。その様子をじっと見ると、安室は無意識のうちに正座している自分の踵で会陰、そして後孔のあたりにグリグリと押し付け自ら刺激を与えていた。
「フッ……安室さん、それ無意識ですか」
「……え?」
「本当に淫乱な方だ」
沖矢は楽しげな表情を浮かべると肉竿から未だ口を離さない安室のなめらかなフェイスラインに手を添え、口を離させると脇に手を入れその場に立たせた。そして、そのままジーンズの中心部をそっと撫でる。
「自分で踵に押し当てて……知らない男の性器を口に入れているのにこんなに濡らしているんですね」
そう言ってグリっと親指を押し付けたそこにはすっかり濃いシミができていた。
「あ、これは……」
先ほどまで一切の恥じらいを見せなかった安室だが、頬を紅潮させ沖矢から目を反らす。安室が狼狽えている隙に、今度は沖矢がすっかり色の変わったジーンズとグレーのボクサーパンツを手早く脱がせた。プルンと艶のある果実が跳ね上がって出てくると沖矢は大きな掌でそれを包み込んだ。そのまま一気に扱きあげると右の手のひらでは鈴口を擦り刺激を与える。
「あ!まって、それは、ダメ……ッ」
足を大きく開き膝を外に向けた状態で立ち、刺激に耐える安室は甘い声を上げた数秒後には部屋に声を響かせ全身を痙攣させた。強い絶頂感に膝の力が抜け、床に座り込んだ安室のペニスを見ると、絶頂したはずなのにその先端からは男特有の白濁は一滴も放たれておらず、初めから多量に出ていた透明な愛液が竿を宝石のように光らせるだけであった。
「なんて厭らしい人だ」
未だ体に力が入らない安室を抱きかかえると再びソファーに寝かせる。じんわりと汗をかいている膝裏に手を差し込むと一気に上に押し上げる。先ほどまで隠れていた秘められた蕾は紅潮し花開き、口をパクパクさせながら肥料が与えられるのを待ち構えていた。
「随分と使い込んでるんですね」
「ちがっ、この体勢やめましょ、ね、沖矢さ――ッん゙⁉」
必死に足を下ろそうと身を悶えさせていることなどお構いなしに沖矢は大きく口開く花弁のナカに長い指を三本一気に挿し込んだ。
「あッ!あ、そんな、急に――ッ」
「でもすんなりと受け入れましたよ」
「ちがッ、や、あぅ……はげ、しッ」
三本の指を絶え間なく出し入れするたびに、今はくったりと休んでいるペニスの先から指を包み込む花弁に零れ落ちた多量の愛液がグチュグチュと卑猥な音を出しながら泡を立てている。手による支えのなくなった左足は沖矢の肩にのしかかり愛撫にあわせ踵で背中を叩いていた。
「自分で持っていられますか」
ソファーにぐったりと投げ出された腕を掴むとそのまま膝裏に回し、自分で足を押さえるよう指示を出す。
「ほら、ちゃんと持ってくれないと危ないですよ」
「あ゙ッ――あう、ひど、い」
「あなたから始めたことでしょう」
弱気になる安室を叱るように声をかけると体をピクリと震わせる。形のいいブラウンの眉がすっかり八の字になってしまったのを見ると、困った人だ、と呟きそっとキスを落とす。抜き差しを繰り返していた指を一気に引き抜くと足を支えさせていた手を解放させ楽にさせる。腰にクッションを差し込み今度は沖矢の手で再び足を持ち上げた。
「あっ、ああ……っ!」
シワを一つ一つ確かめるように沖矢の厚い舌が孔のふちをなぞるとその熱い舌はそのまま中に侵入していく。常人よりも長いように感じるそれは壁を丁寧に撫で、舌先でツンツンと中の固いふくらみを刺激する。
「んぅ……あ、それ好き……ッ」
「そうですか?先ほどの方が感じていたように見えますが」
そう言って早々に舌を抜くと右手を会陰に押し当てながら左指を再びテラテラと光る壺穴に挿し込んだ。
「あ――ッ、あ、あぁっ!」
「ほら、やっぱり指で刺激してる方が中のうねりが増してる」
本当は激しくされる方が好きなんでしょう、そう言ってじっと見つめてくる沖矢にまたしても羞恥心を搔き立てられた安室はさらに顔を赤く染めながら否定するもその執拗な指遣いにひたすら喘ぐことしかできなくなっていた。
「安室さん、気持ちいいですか?」
「んぅ、ア、あぅ……あ、ア……ッ」
「言葉にしてくれないと分かりません。もしお嫌でしたらやめますよ」
「あ!ヤダぁ!、きもち、気持ちいいからァ!」
やめないで、甘く切ない声で必死に訴えかけてくる安室の様子に沖矢は心の奥に加虐心のような何かが沸き上がるのを感じた。安室の懇願を聞き、さらにスピードをあげ中のしこりを執拗に擦り上げるとソファーでグチャグチャになっている美しい裸体は段々と体を震えさせる。
「も、イッちゃ――あ、ダメっ」
目をギュッと閉じ、ひたすらに与えられる強い快楽からいよいよ解放されようとする男を見て、沖矢は耳元で囁いた。
「ちゃんと目を開けて。自分がどんな卑猥な姿をしてるのか見ておきなさい」
初対面の男相手に理性を忘れて乱されている姿など見たくないのに、何故かその言葉通りにそっと目を開けると目の前には大きく足を開いて沖矢の指を喜んで咥えている自身の姿が映った。
――知らない男の指でイカされる
そう強く自覚した安室の体には激しい電流が走り全身を駆け巡る快楽に耐えられず腰を大きく反らせた。
「ヤダ、ヤダぁ!イク!あ!ア゙――――ッ!」
大きく全身を痙攣させるとぐったりとそのままソファーに沈んでいく。ゼェハァと苦しそうに肩を上下させる安室を見て沖矢は満足したように涙の溜まる目尻にキスを落とした。
「満足しましたか?」
持っていたハンカチで安室の汗を拭き、身だしなみを整えようとすると安室は震える手を持ち上げて沖矢の首に手を回す。グイっと自分の方に引き寄せたかと思うとそのまま沖矢の薄く形のいい唇を割って舌を挿しいれた。
「まだ、足りません……沖矢さんのおっきいこれ、挿れて……」
すでに2回もイっているはずなのにまだ満足できないのか、沖矢の漲りを上下にさすりねっとりとした視線を沖矢に送る。
「ですが旦那さんがいるんですよね?最後までやってしまったら本当に取り返しのつかないことになりますよ」
「そんなのいいから、早く挿れて……ッ」
引き離そうとする沖矢を抱え込むようにさらに体を近づけると目を潤ませながら必死に懇願する。その表情は色欲に溺れた淫らな娼婦のようであった。
「……どうなっても知りませんよ」
正常位での行為を期待する安室を無視して体を抱き寄せるとそのまま自分の足の上に後ろ向きで座らせ、すでに張り詰めているそれを一気に挿し込む。
「んあ――ッ!」
雷に撃たれたかのような強い刺激に安室の目には一瞬の閃光が走り、そのまま体をビクビクと痙攣させる。
「挿れただけでイッたんですか」
「かはっ!あ゙、まって、イッたばっかだから――ッ」
そんなことはお構いなしというように赤胴色の剛直は勢いを落とすことなく奥の扉をゴツゴツと叩き続ける。その刺激を一心に受けた安室が大きく口を開き絶え間なく嬌声を出し続けていると隣の部屋からガタンっと大きな物音がした。
「おや、ここは壁が薄いみたいですね。安室さんのその大きな声だと丸聞こえでしょうか」
「ヤダぁ、あ゙、ん……、ダメ――ッ」
「ほら、声を抑えて。もしかしたら旦那さんにばらされちゃうかもしれませんね」
困りましたね、そう言って笑いながらも沖矢は声を抑えようとする安室の口に指を入れてその溢れ出る声の出処を閉じさせようとしない。声を漏らすその穴からはダラダラと涎が溢れ、ミルクチョコ色の肌をコーティングしていた。
「ダメっ……声出ちゃっ、あッ、あぁ……ッ!」
「声を我慢することもできないなんて……本当に仕方のない人ですね」
「だって、むり……ムリだからぁ……!」
剛直が中を穿つたびに安室のペニスはフルフルと前後に揺れる。その鈴口からは透明で粘度のある液体がトロトロと溢れ出ていて揺れるたびにカーペットや机にポタポタと雫を落としていた。
「じゃあ早く終わらせた方がいいでしょうか」
そう言うと逞しい腰の動きはさらに力強くなり、肉と肉のぶつかる音が一層部屋に響き渡る。揺れるばかりであった果実を大きな掌で包み込むと硬さを取り戻させるように一気に扱き上げる。一気に攻め立ててくる前後の刺激に耐えられなくなった安室は隣人に聞かれているかもしれないことなどすっかり忘れて欲望のままに嬌声を上げる。
「あぁッ!アッ――、いっしょ、ダメ……!でちゃう、出ちゃうからッ!」
「一度も射精してないですしむしろ出した方がいいんじゃないですか」
自分をひどく虐める逞しい手を必死に止めようとするも快楽を受け入れ力の入らなくなった今の安室には到底どうすることもできなかった。安室が嫌だと言えば言うほど沖矢の行為は執拗に、そして速くなっていく。空いた右手でふっくらとして会陰をグリグリと押し込むと安室の声は一層余裕のないものに変化した。
「ヤダぁ!ちがうからッ!おさないで、あ、あぁッ」
「私もそろそろ限界ですから……あなたも好きなだけイッていいですよ」
そう言うと破裂しそうなほど膨れ上がった赤黒い怒張を限界まで引き出し、そのまま勢いをつけて一気に最奥を穿つ。奥の扉にゴツンとぶつかった瞬間、これまでで一番の、頭のてっぺんまで突き抜けるような電流に安室の脳はスパークし欲望のままに声を上げた。
「あ、ア、アぁぁぁぁ――――ッ!!!!」
「……ッ!」
安室の子宮めがけ放たれた大量の白濁は到底収まりきらず、泡立った結合部を覆うようにドロドロと溢れ出る。剥き出しの美しい果実からは無色透明の水のようなものが一直線上に噴き出し、カーペットや机、テレビボードに飾られていた安室と夫の微笑ましいツーショット写真までをもビショビショに濡らしていた。安室自身は絶頂を迎えた瞬間力尽き、気を失ってしまったため、この惨状はまだ沖矢の目にしか映っていない。
「これは……後が大変そうだ」
そんな沖矢の困惑を露知らず、安室は沖矢の鍛えられた体にぐったりと頭を預け寝息を立てていた。
10分後に安室が目を覚ました時、沖矢はすっかりスーパーで会った時のように服をきっちりと着ていた。それだけでなくどこから引っ張り出したのであろうか床に放置されグッショリと濡れていた安室の服も新しいシャツとデニムに変えられ着替えさせられていた。
「目が覚めましたか」
「は、はい……」
先ほどまで何があったのかを全く感じさせない沖矢の優しく穏やかな声はさっぱりとしていて、安室の頭を混乱させる。
「今日は色々とお世話になりました。明日までに仕上げないといけないレポートがあるのでそろそろ帰りますね」
何事もなかったかのように接してくる沖矢に少しの寂しさを覚えつつ、安室は冷蔵庫からクーベルチョコレートを取り出し手渡した。そのまま玄関に向かい、靴を履き終えた沖矢がドアノブに手をかけるとスッと振り向き安室の耳元で囁く。
「旦那さんにバレないよう後始末頑張ってくださいね」
「……!」
最後の最後に爆弾を落とし出ていった沖矢を玄関の外に出て見送り部屋に戻ろうとするとギィっと隣の玄関が開く。そこには隣人の男、山代がニタニタと下品な笑みを浮かべながら安室を厭らしい目でじっと見つめていた。
「ヘ、ヘヘッ……随分お楽しみだったみたいですね」
興味ありげな様子で声をかけてくる山代に安室はフッと、どこか不敵な笑みを浮かべる。
「山代さんも今度時間があったらお茶しに来てください。待ってますから……ね」
淫らな人妻の匂いを醸し出す安室を見てフヒ、と気味悪く笑った山代はそのまま満足そうに部屋に戻っていった。
すっかり汚れどうしようもなくなってしまった部屋を片付けているとガチャリと玄関の鍵が開く音がする。そこには出張中でまだ帰ってくるはずのないパートナー、赤井秀一が立っていた。
「全く……いくら捜査のためとはいえ隣の男と接点を作るためだけにこんなことする必要あったのか。なあ降谷君」
「お疲れ様です赤井。成果は上々ですよ」
わざとらしくため息をついた赤井は、先ほどまで部屋にいた大学院生と全く同じ格好をしている。自分が着ている服装も気に入らないのだろうか濃茶のジャケットを脱ぎ居心地悪そうにしている。
「別に沖矢の姿じゃなくてもよかっただろ」
「これでいいんですよ。これで山代は僕が欲に溺れる考えなしの人間だとガードを緩めて近づいてくるでしょうから」
作戦の成功を説明する降谷に納得のいってない赤井は言葉少なくムッとした顔で恋人を見つめている。そんな様子に苦笑いをしながら降谷は赤井からジャケットを受け取り、言葉を続ける。
「せっかく隣の部屋に住めたのにこれまで大きな動きがなかったんですよ」
あなたも分かっているでしょ、そう降谷が問うと赤井はまだ納得のいかない表情をしていた。仕事中の姿からは想像つかない大人げない恋人の様子を見て降谷はふっと頬を緩めた。
「ほら、いつまでもそんなところにいないで早く上がってきてください。片付けはまだ終わってませんよ」
そう言って背を向けて歩き出す降谷のしなやかな腰をグイっと掴み引き寄せ、赤井は首筋に軽くキスを落としボソッと耳元で囁く。
「あれからまだシャワー浴びてないだろ。まずは一緒に入ろうか」
赤井の仕返しにさっきまではつらつと話していた降谷の声は一気に細くなりミルクチョコ色の形のいい耳に紅を浮かべる。
「……あなたがそうしたいなら構いませんよ」
気恥ずかしく思いながらも満更でもない表情を浮かべた降谷とその様子に機嫌のなおった赤井は二人バスルームに消えていった。
【あとがき】
バレンタイン併せ沖安webオンリーにて掲載した団地妻沖安でした!茶番!ずっとサイトに載せるの忘れてたのですが思い出したのでこのタイミングで載せます💦
楽しんでいただけると嬉しいです!
2025.4.13 塩村
バレンタイン・フェアで埋め尽くされ、浮足立った街中を一週間駆け回り情報収集をしていると、日頃バレンタインという行事にさほど興味のない僕でも、さすがに世間のムードに呑まれてしまう。
誰にあげるでもない、自分が食べたくなったからだ。そう強く言い聞かせ、ライとスコッチと共有しているセーフハウスのキッチンで1枚110円の板チョコレートを刻み始める。今日も一日しっかりと働いた。時計の針はすでに21時を指しているし、今からちゃんとしたチョコを作る気にはさすがになれない。
さて、勢いに任せて刻み始めたこれをどうやって食べようか。そう思い、冷蔵庫を開けると少し茶色くなったバナナと昨日スコッチが買ってきた苺が入っている。
「そういえば、好きに食べていいよって言ってたな」
ヒロの好意に甘え、溶かしたチョコにディップして食べることに決めた僕は、さっそく刻んだチョコレートと生クリームを溶かし始めた。
そろそろ良い頃合いかな、そう思っているとガタンっと玄関のドアを開ける音がした。
「この乱暴な開け方はライだな……」
古いアパートなんだからもっと優しく開閉しろと常日頃から言っているのに、あいつはいつまでたっても直そうとしない。気に障る奴だ。それに、ただいまなり帰ったなり何か一言くらい言ったらどうなんだ――と、思っても仕方のないことをついつい考えてしまう。
積もりに積もった文句を脳内で消化しながら作業を続けていると、ようやく、いい感じに溶け合ったチョコソースが完成した。少し深い形状の白いお皿に移し、適温になるまでもう少しだけ掻き混ぜる。
「ホー……、チョコレートか」
雑念を消すようにひたすら混ぜ続け、そろそろ食べようかな何て思っていると、腰に響くような低く落ち着いた声とともに背後からスッと左手が伸びてきた。あまりにも気配がなかったため内心驚いていると、声の主は何も気にしていないようで、そのまま皿の中のチョコを指に絡めとり、ペロリと舐め、味わっている。
「甘いな……」
「甘いな、じゃありません。人のものを勝手に取るなと教わりませんでしたか」
「ケチケチするな、バーボン」
何なんだコイツ、と思いながらさらに小言を言ってやるために後ろを振り返ると、あと数センチで触れ合ってしまう位の距離にライの顔があった。
こいつ、いつも不摂生な生活をしてるのにちっとも肌が荒れてないのか。全くいちいち気に障る奴だな、なんてくだらないことにまで腹を立てていると、ちょうど目の前に見えるライの口元にさっきのチョコの残りが少しだけ付いていることに気が付く。
無愛想でカッコつけのライが口元に――そう思うと、先ほどまでのムカつきは収まり、途端に愉快な気持ちになる。それと同時にある一つの好奇心が沸々と湧き上がってくる。
今、突然ライにキスをしてみたら、一体どんな顔をするんだろう。
そう思うと同時にカラダは自然と動いていた。
――チュッ
一瞬触れただけの軽いキス。たったそれだけだが不意打ちのこの行為、さすがのアイツも驚いただろう。ライの表情を見るために離れようとしたその瞬間、僕よりも一回り太くがっしりとした腕に力強く引き寄せられ、腰と頭を絡めとられてしまう。それだけでも混乱してしまうのに、さらに深くて苦い、だけど少し甘いキスをたっぷりと施されてしまっていた。
「……ん、ンゥ、っあ――」
息がもたない、舌が融けてしまいそう。腰の力が、抜けちゃう……
そんなことで頭がいっぱいになっていると、気が済んだのか、ライはそっと腕の力を緩め一歩離れていく。お互いの唾液が混じりあってベトベトになった僕の口元をわざとらしくゆっくり拭うと戸惑う僕をじっと見つめ、珍しく口角を上げ不敵な笑みを浮かべている。
「慣れないことはするもんじゃない、バーボン」
そう言って、ポンポンと僕の頭を軽く叩くと、シャワーを浴びてくると言ってキッチンから離れていった。
「何なんだよ……」
顔は燃えるように熱く、心臓は耳を塞ぎたくなるほどに五月蠅い。自分でも気付かないうちにひどく緊張していたのだろう。ライの姿が見えなくなったことでドッと緊張の糸が解けた僕はその場でぺたりと座り込むことしかできなかった。
ライが何であんな仕返しをしてきたのかは分からない。でも僕は――、僕がライにキスをした理由はただの好奇心。そう強く自分に言い聞かせた。
「あなたって意外と見えるところに痕つけませんよね」
青空に映える褐色の肌とキラキラと輝くミルクティー色の髪をしたその青年は、窓際で洗濯物を畳みながら唐突に疑問を口にした。
「キスマークのことか?」
ベランダで煙草を吸いながら、突然の問いにさして動揺もせず答えるその男は、金髪の青年と真逆の太陽が似合わなそうな肌色と少し癖のついたブルネットの髪色をしている。
降谷零曰く、赤井秀一はクールで人に興味がなさそうな見た目とは裏腹に独占欲が強い。にもかかわらず、恋人である降谷の肌には、決して人から見えそうな鎖骨や首元、耳の後ろにキスマークをつけようとしない。もちろんひとつも付けていないわけではない。その証拠に下着を脱がないと分からないであろう太ももの付け根や腰のあたりには、性行為の度に花を散りばめるようにキスマークが付けられる。赤井は降谷が同性の部下と2人で雑談をしているだけで遠くから牽制してこようとするほど独占欲が強いのに、なぜ明らかな牽制行為であるキスマークは見えないところにしか付けないのか。赤井と交際を始めて2年、降谷は長年疑問であったその事柄をついに本人に聞いてみた。
「そう、キスマーク。何で見えるところには付けないのかなって」
「ホー……、見えるところがお望みだったとは申し訳ないことをしたな」
「何言ってるんだ。そんな訳ないだろ」
まともに取り合う気がないな、そう判断した降谷はベランダに背を向けて、残り数枚となったタオルを畳む。すると、赤井はまだ半分以上残っている煙草を携帯灰皿にもみ消し、部屋の中に戻ってきた。そして、戻ってくるなり背後から降谷のことを優しく抱きしめる。
「他の奴らが君のことを性的な目で見るのは耐え難いからな」
「え?」
「さっきの答えさ」
ちらりと後ろを振り向き、ほんの少し頬を赤らめ、照れくさそうに話すその顔を見ると、降谷は胸の奥が締め付けられるような愛しさを感じた。いつもかっこつけていて、クールなこの男が自分のことになるとここまで心が狭くなるのか、そう感じた降谷はもういてもたってもいられなかった。
「……ふふ、かわいいところあるじゃないですか」
「こんなガキみたいなこと言いたくなかったんだが」
降谷は赤井の丹精に鍛えられた厚い胸板に手を伸ばし、誘うように枝垂れかかる。
澄んだアクアマリンの瞳は、少し上の方にある深いペリドットの瞳をじっと見つめ、そして口づけを贈る。それは子どもには真似できないような熱をもった深いキスであった。
「君からのお誘いは珍しいな」
「別に……したくなければいいです」
赤井に抱いてほしい、そんな思いを見透かされはっきりと口に出された降谷は恥ずかしさから顔を背けてしまう。もう何度もSEXをして、人には言えないようなプレイだってしているのにいまだに恥を捨てきれていない。赤井はそんな彼を愛しく思いながら、「こっちを向いてくれ」と顎をそっと掴み、口づけを再開する。
「ん、んっ……ぁ、まって―」
「またない」
「ちょっと……」
シンプルだが質のいいベージュ色のラグに押し倒し、服をどんどんと脱がせてくる赤井を降谷は手で制し、動きを止めさせる。何で止めるんだと少しムッとした恋人の髪をそっと撫でつけ、降谷は耳元で囁く。
「明後日まで休みだから……全身に付けて」
それは、家から出ないから好きにしていいとの降谷からの許可であった。
「煽った君が悪いぞ」
いつもは軽くキスをするだけの首元も今日は強く肌を吸い上げ、これは自分のものだと紅い印をつける。次はどこに付けようかと舐めるように見つめてくるその視線だけで、降谷は全身を愛撫されているような感じがして、実際は触られていない性器は痛いほどに張りつめ、腹の奥もムズムズし始める。
赤井も自分も隠し切れないほどたまらなく興奮しているという事実がさらにスパイスとなり、もう止められない。こんなキスマークごときで興奮するなんて子どもみたいだ、そう思いながら体中に降り注ぐ赤井からの愛を幸せいっぱいに受け止めた。
次の日の朝、外は太陽が降り注ぎ心地よい風も吹くさわやかな陽気をしていた。しかし、いつも早起きの降谷はベッドから出てこない。
「いくら僕から誘ったとはいえ、加減ってもんがあるだろ」
「……すまない。だが、」
シーツに丸まった降谷の眉毛はいつもよりも吊り上がり、眉間にしわを寄せている。一方赤井は申し訳なさそうな顔をしつつも何か言いたそうにしながらベッドシーツにタオルにラグに……大量の洗濯物を腕に抱えている。
「だが、なんですか?」
「……なんでもない」
「分かったのなら早く洗濯」
昨夜の甘い空気はどこへやら、今の二人は軽いキスを交わしそうな気配もないが、それでも、その部屋は幸せな空気で満ち足りていた。