🆕2026.4.5 Binary Sparks 作品公開
湿度を含んだ空気中にツンとした焦げ臭さと土埃が充満する。
サイレンの音が密集する場所から逃れるように施設の裏手にある林へ向かうとそこにはすでに先客がいた。数年前行動を共にしていた頃から変わり映えのない黒のニット帽は先ほどまでの惨事で少し綻びが目立っていて、そのすぐ下にある均整のとれた顔には強く殴られた痕や出血の跡が残っている。街灯は遠く、しっかりと認識することができなくとも先ほど自分が付けた傷跡を改めて目の当たりにすると少しの気まずさを感じ、目を背けようとするも一度捉えられてしまった緑色の視線からは逃れられなかった。
少しばかり無言の空間が広がると、目線の先の男は言葉にはしなかったものの自分についてくるよう態度で示した。赤井によって付けられた傷の痛みやここ数日の睡眠不足によって気付かぬうちに限界値が近づいていたのか、無視をして自分一人で帰るという選択肢は出てこず、そのまま大人しく後ろを着いていった。
「まだ僕に何か用でも?」
林の中に隠すように置かれた車は赤地に白のラインと緑の中に隠すのには不向きな色合いをしていた。隠しきれてないぞと心の中で悪態を吐きながら車に乗り込むと少し視界が冴え、この不思議な現状を把握することができる。不信感を隠さない態度を赤井は気にする様子はなく、顔をこちらへ向けると小さく口を動かす。
「君も俺も傷の手当てが必要だろ」
血の滲む左腕を掴まれ思わず顔を歪ませると赤井はフッと小さく笑いそのままエンジンをかけアクセルを踏む。
近くに部屋を取ってあるといった赤井の発言通り車を15分ほど走らせるとホテルが見えてくる。しかし、そのホテルは組織の任務でよく世話になっていたモーテルなどとは程遠く、傷の手当てをするには不釣り合いでどう見ても傷だらけの男二人が入るようなホテルではなかった。カーウィンドウから見えるロビーには幸せそうな家族や恋人たちがソファでくつろぎ談笑している。そんな光景を横目にそのまま車で通り過ぎると地下駐車場へと入っていった。
待ち構えていたホテルスタッフに案内され指定された区画へ車を停める。一体どんな手段を使ったのか車を降りるとロビーでチェックインをすることもなく地下からそのまま部屋へと案内された。その部屋はシンプルな無駄のない造りの部屋であったが一点だけ見逃せない違和感があった。
部屋の真ん中に鎮座するのがクイーンサイズのベッド1つなのである。
「この部屋しか空いてなかった」
我先にと言い訳をする赤井は次の瞬間には傷の手当てが目的だから問題ないだろうと開き直る。その太々しい態度が気に入らないんだと心の中で吐き捨てると適当に返事をしてベッドに腰をかけた。分かってはいたものの明るい部屋で改めて見ると自分たちの姿は酷い有様で、真っ白なベッドシーツを汚すのが申し訳なくなりすぐに腰を上げる。
「……まずはこの土埃だらけの体をどうにかした方がいいな」
シャワーを浴びるよう勧めてくる赤井に異を唱える必要はなく勧められるがままに浴室へ移動をする。細やかな水流が肌にあたると所々傷に染みるのが気になるもののそれ以上に気持ちよさが勝った。せっかくだからと髪の毛も洗うと自分でも思っていた以上に汚れていたらしくシャンプーを3回してようやく泡が立つ。束の間の小さな休息にホッと一息吐き、髪をざっと乾かし浴室の壁にかかっていたバスローブに着替え浴室を出る。
「あなたも早く入ってください。僕の服とまとめてクリーニングお願いしちゃいますから」
「そうか、頼む」
分かりやすいように一箇所にまとめておけと伝えたところ、その服の山の頂点には丁寧にニット帽が置いてありその姿勢のブレなさに少し笑いそうになる。
フロントへクリーニングを頼み赤井が浴室から出てくるまでの間は寝心地のよさそうなマットレスを楽しもうと大の字に寝転がるも背中の傷が痛みすぐに起き上がる。結局ベッドの隅で小さく横向きになることしかできない現状に無性に腹が立った。
「寝てるのか?」
浴室ドアの開いた音が聞こえたものの目を瞑り動かないままでいると背後から赤井の声が聞こえる。すぐそばでマットレスの沈む振動がして様子を伺っていると赤井の腕がこちらへ伸びてきて髪を静かになぞった。
「……起きてますよ」
手を払い起き上がると赤井はいつもより目を大きく見開きほんの一瞬ではあるが固まっていた。珍しい表情を見ることができ少し満足した気分になり思わず口角を上げてしまい慌てて口元を手で覆った。
今回の騒動での互いの傷は、足への擦り傷などはあるものの大半の怪我が上半身や顔を中心に広がっている。それは、観覧車崩壊の際に負ったものよりも赤井との殴り合いでできた傷がほとんどであることを示していた。互いにバスローブから腕を抜き上半身をさらけ出すと腹の傷や腕の傷など自分で対応できるものは各々手当を行う。しかし、額にできた傷を自分で髪を抑えながらガーゼを貼ることは中々難しく時間を要した。
「俺が貼ろう」
「……お願いします」
赤井に声をかけられ大人しく額を差し出す。テープでしっかりと貼られたことを確認し、手で押さえていた髪の毛を下ろすとふと赤井の口元が気になった。少し不健康な色をした薄い唇の端を親指でなぞる。
「あなたのその憎たらしい顔にいい傷をつけてあげたと思ったのに、こんな小さなかさぶたにしかならなかったんですね」
「フッ……あの一撃は痺れたよ」
手ごたえは感じていたものの数日もすれば消えてしまうであろう小さな瘡蓋に無性に苛立ちが募る。このまま頬を抓ってやろうかなど子どもじみたことを考えているとその手は赤井によって下ろされてしまう。
「背中の手当をしよう」
後ろを向いてくれと言う赤井の言葉に渋々ながら背を向ける。どこから用意したのかしっかりと冷やされた氷嚢を当てられると思わず体がビクリと反応してしまう。それでもひんやりとした冷たさは心地よくてそこでようやくそこが熱を帯びていたことに気が付く。塗り薬を塗り終えた赤井がキャップを閉め、手当てに使った薬やガーゼを片付ける音が聞こえた。
「これで一通り終わったかな」
「そうですね。ありがとうございます」
素直に感謝の意を伝えると赤井は面食らった顔をしていた。僕が礼を言うのがそんなにおかしいかと思いつつずっと感じていた疑問をぶつける。
「どうして僕に声をかけたんですか」
わざわざあんなところで待ち伏せをしてまで、そう付け加えると赤井は目を伏せ少し時間をおいてから答えた。
「――分からん。どうしてだろうな」
答えになっていない答えに呆れてため息が出る。
「……クリーニングまだ時間かかりそうですね」
「そうだな」
静かな部屋に更なる静寂が訪れる。居心地の悪さを誤魔化すように少し体を動かすたびにベッドが軋み、その小さな音は大きく部屋中に響いた。
今、一体何を考えているのだろうか。赤井の様子が気になり盗み見をしようとさりげなく横を向くとエバーグリーンの瞳と目線が合う。しまったと思った時にはその小さな光に捉えられていた。
――もう、逃げられない
スッと伸びてきた手に頬を優しくなぞられる。
「あ……」
何か気の紛れる話題をと声を出すもその続きは出てくることはなく、小さく開いた唇はそのまま塞がれてしまう。
唇の感触を確かめるような、啄むようなキスが数回。目をそっと開くと赤井の瞳が熱を帯びていることに気付いてしまう。つい数時間前にもっと危険な場所で殴り合いをしていた時には感じなかった小さな恐怖心が肌を冷たくなぞる。
「冗談が過ぎますよ」
そう言って距離を取ろうとする前に赤井の大きな手はそっと肩を押し、気が付くとベッドに沈み込んでいた。確かに少しの恐怖心はあるのに嫌悪感はなぜか感じることはなく、赤井から与えられる深いキスにそのまま体を委ねてしまう。
「ん……ふっ――ぅ」
「苦しいか」
「別に苦しくないっ」
変なところで負けず嫌いが出てしまい少し後悔するも赤井はそんなこと見透かしているようでキスとキスの間に呼吸をするタイミングを作ってくれたことが分かる。それは羞恥心を十分に煽り、恥ずかしくなり目線を下に向けるとそこには硬くなりくっきりと存在を主張する自分のペニスがあった。それに気付いた途端、自分に当たっている赤井の体の一部分が同様に硬く、熱くなっていることに気付き動揺が走る。その一方で赤井が自分と同じ人間であると認識し、その安堵で体の力が緩むのを感じた。そうすると与えられるキスもより気持ちよく感じて、舌の動きにあわせて自然と腰が揺れてしまう。もうどうにでもなれと赤井の太い首に腕を回すと赤井はフッと笑い口蓋をくすぐるように舌でなぞると手持無沙汰になり戸惑う舌を絡め取りさらに激しく嬲る。
言葉を交わすよりもこのまま熱を分かち合いたい。そんな感情に脳が支配され、静かな部屋にはベッドの軋む音と互いの吐息が響いた。
大きな掌が全身をまさぐるとバスローブの腰ひもは解け、生身の熱の塊がぶつかり合う。ここ数日、それどころか数週間以上放置していたそれはゴツゴツとした手で赤井のものと一緒に扱かれると一気に快感値が上昇する。
「あっ、ん……きもちいい――」
「っ、そうだな」
赤井に扱かれている自分のそれはこれ以上ないほど熱くなっているはずなのに、赤井のペニスはそれ以上に熱を帯びていることが直に伝わってくる。密着していることで赤井のものが自分のものよりひと回り大きいことが一目瞭然となったことは少し癪だがそれが持つ熱は赤井が自分以上に興奮していることを表していて何だか赤井に勝った気持ちになる。そんなことを考えているうちに熱源はビクビクと震えその限界が近いことを示しはじめた。
「あかいっ――も、もう」
いきそう、その言葉を出す前に2本の熱から同時に白濁が飛び散る。赤井も随分溜まっていたのかドロリと濃いその粘液は下側にいた自分の方に自然と飛び、傷だらけの褐色の肌を白く染めた。
「……すまん」
「いえ……」
赤井はバツの悪そうな顔で汚れた肌を丁寧に拭きとる。赤井の下から動こうとすると先ほど熱を発散したばかりの赤井の陰茎がまだ全く収まっていないことに気付く。それに気付いた瞬間、自分の中の何かがさらに狂った気がした。
「まだ収まってないじゃないですか。第二ラウンドといきましょうよ」
体を起こすとそのまま両手で赤井の肉の少ない頬を挟み込み自分の方へと引き寄せた。触れた肌や絡めた舌から熱を感じるごとに得体のしれない興奮が体を支配する。再び下腹部あたりがずしりと重くなったことを感じ思わず腰を捩らせると赤井の唇が離れそのまま首筋、鎖骨、そして臍のあたりと次々に軽いキスが落とされた。
「あっ!」
胸の尖りを強く吸われ、もう一方を指先でクルクルと遊ぶように転がされると思わず口から声が溢れる。ピンと張った性器の先からトロトロと体液が溢れ下腹部の茂みを濡らしていくのが分かる。
「お前のそれも、」
自分ばかりいいようにされているのが気にくわなくて赤井の動きを止め起き上がろうとすると、突き合せていた膝小僧を無理やり左右に割られそのまま膝裏に手を差し込み上へと持ち上げられる。今まで誰にも見せたことのない場所を赤井の眼前に晒していることに耐え切れない。しかし赤井によって体の動きはほぼ制限されどうしようもなく、思わず腕で顔を覆ってしまう。
「ちょっ、ま!そんなとこ!――ッ」
閉ざされたそこを優しく開くように舌先がチロチロと動き縁をなぞられる。そのまま慎重に舌を差し込まれると今まで感じたことのない感覚が体中を駆け巡り声にならない声が漏れる。赤井の興奮具合は膝裏を押さえている手の圧から十分に伝わってきてその力でベッドに深く沈められると、先ほど簡単に処置した背中の打撲痕が鈍く痛んだ。
「体勢を変えよう」
思わず顔を歪めると赤井はパッと手を離し起き上がらせるとうつ伏せになるよう指示を出した。
「そのまま腰を上げてくれ」
「えっ」
無意味に痛いのは嫌だったので大人しく仰向けになるとそれ以上の要求をされて固まる。戸惑っていると腰を掴まれそのままグイっと持ち上げられる。先ほどまでの体勢とは違いまるで自分の意志で臀部を赤井に差し出しているかのようなその体勢に顔が一気に熱くなった。近くにあった枕へ手を伸ばし顔を埋めると赤井はどこからか取り出したローションを手のひらに取り指先で温めている。
「っん――うぁ」
再び露わになったそこの縁をマッサージするように指先でなぞられゆっくりと中指が侵入してくる。それは気持ちよさよりも苦しさが勝っていて体の強張りを逃すように深く息を吐く。
「苦しくないか?」
「いいから、っそのまま続けてください」
中を広げるように指が動き、その感覚にも慣れ呼吸が楽になってくる。苦しさが少なくなり安堵していたところ、しこりのように固くなった腸壁の一部分に指先が触れた瞬間目の前に火花が散った。
「――ッ!?」
「ここか」
赤井はなぜだか楽しそうな口調で確認すると同じ場所を何度も指先で叩き、人差し指を追加で挿し入れると挟み込むように執拗に擦り上げる。膝がガクガク震え腰が落ちそうになると赤井は右手で下腹部を支えた。赤井の太い腕で抑え込まれると腸壁を蹂躙するその指先の動きがさらにハッキリと分かり頭がショートしそうになる。
「ひぅ!ま、まって、ぁあ!」
「どんどん柔らかくなってるぞ。すごいな」
開きっぱなしの口からは唾液がとめどなく溢れ枕を汚し、屹立したままの幹からは先走りがボトボトと落ちシーツに染みを作る。行為を止めてほしいくらいに恥ずかしいのにその快楽を拒むことができず、ねだるように腰を揺らしてしまう自分の卑しさに嫌気が差す。それでも、そんなことすらすぐにどうでもよくなるくらい赤井から与えられる快感は頭を真っ白に染め上げた。気が付くと指は三本に増えていて、十分ほぐれたはずなのに赤井はまだ執拗に手の動きを止めない。
「もう、はやくっ」
「早く……なんだ?」
ここから赤井の顔を見ることはできないがその声色から直接見なくとも容易にその表情が想像ができる。きっと揶揄うような意地の悪い、楽し気な笑みを浮かべているのだろう。
「早く挿れろって!」
「フッ、了解」
半ばやけくそに叫ぶと赤井は一気に手を抜きとる。すっかり広がってしまった穴に熱く昂ったその切先をあてがう。自分の意志とは関係なく縁は収縮して凶器のような太さのそれをズブズブと飲み込んでいった。
「はぁ……っ、あ、くぅ!」
「ハッ、熱いな」
熱塊を充分に飲み込むと赤井はゆっくりと腰を動かし始める。グリグリとなじませるように回すその腰の動きはすぐに速度を上げ、肉と肉がぶつかり合う破裂音が部屋中に広がった。
「ひッ、い、アっ、アァ!」
部屋に入った時には皺一つなくキッチリと敷かれていたシーツは今や跡形もなくグシャグシャになっていて、身を壊す程の快楽を少しでも逃そうと掴まれたシーツは汗ばんだ手のひらの中で皺を寄せている。うねる壁を往復し、段差のしっかりしたカリでしこりを何度も擦られると段々と体がゾクゾクと震えてくる。
「あかい、もう、イクっ」
「あぁ。好きにイけ」
赤井は耳元でそう囁くとぐっしょりと濡れて震えるペニスに手を伸ばしガシガシと上下に扱く。前と後ろの両方からの刺激に十秒も持たず体は大きく痙攣し声を上げる。
「やっ、イ、あァ――!」
「ハッ、すごいな」
「あ、う…んぁ……」
波が収まるのを待って再び腰を揺らす赤井にされるがままになっていると赤井は一度その肉竿を抜き取りシーツに沈み込んだ上半身を起こしてくる。体を回転させ向き合う形になり赤井の顔を目の当たりにすると、つい先ほどの予想は大きく外れていることが判明する。
揶揄うような楽し気な表情などそんな甘いものではなかった。瞳孔が開き妖しく光る瞳、その顔つきは大型肉食獣が好物の獲物を見つけたときのような捕食者の獰猛な顔つきだった。
「っ……あか、い」
思わず声を漏らし、名前を呼ぶとその小さく開いた唇の隙間から熱い舌が差しこまれ口内を犯される。赤井の鍛え上げられた太い太腿の上に乗せられた体は簡単に持ち上げられ、未だ硬いままの剛直を一気に挿入される。勢いで最奥まで届いたそれは体内でゴツゴツと鳴り響きその衝撃を感じるたびに意識が飛びそうになる。
「あ゙ぁ!ひっ、ァ――ッ!!」
何も刺激されていないペニスから透明な体液が勢いよく吹き出る。それが何かなど考える暇もないほどに挿入された熱竿は中を暴れ続ける。赤井の荒い息が耳を掠める。その吐息すら快感に置き換えられる事実に自分の体がこの短時間ですっかり作り変えられたことを実感する。
「も゙うむり、しぬ゙……っ!」
「あと少し耐えてくれ」
耐え切れず赤井の肩に顔を預けると赤井は露わになった首筋を無遠慮に噛みつけてくる。歯が当たり肌がピリっとするたびに敏感な体は震え、溢れる涙やら唾液やらで赤井の肩を濡らした。
「っ――!はやく、イけよ、くそ……ッ」
懇願するとそれに応えるように腰の動きが更に速くなる。両手で腰をしっかり掴まれてはいるものの振り落とされないようにほぼ力の入っていない腕で必死に首にしがみついた。
「ぁ……っぁ、ぁぅ……」
「クッ……安室君――」
脳みそが揺さぶられ声にならない声が絶え間なく漏れ続け半ば意識がない中、体の奥で赤井の熱が弾けたことを感じ取る。動きが止まり、熱が収まったにも関わらず質量のすごい肉棒が体内からズルリと抜けるとその反動からかくったりと果てた自分のペニスの先から液体がパタパタと零れ続けていることを遠くなった意識の隅で感じ、そのまま意識を手放した。
ずっしりと重い頭が段々と覚醒し目を開くと、様々な体液で確かにベトベトに汚れていたはずの体がさっぱりしていることに気が付く。窓際のソファにゆったりと座る赤井は、いつの間にクリーニングから戻ってきたのかいつもの服に身を包み優雅に一服していた。体を起こすと筋肉は悲鳴を上げ腰はひどくだる重い。目線の先にある鏡には昨日の傷に加えて首や肩のあたりに謎の噛み痕が複数ついている自分の姿が映っていた。
「ちょっと……ここに来る前より随分酷い状態になってるんですけど」
赤井へ苦情を伝えるその声も我ながら笑える程に掠れていた。
「……すまない」
目を逸らしながら謝る赤井の姿に思わず笑いそうになるも両手で顔を覆い髪をかきあげるとわざとらしく大きくため息を吐く。慎重に立ち上がりハンガーに掛かっていた服に着替えるとそのままドアの方へと向かった。
「送っていこう」
「結構です」
立ち上がる赤井を手で制し振り返らずに断りを入れる。重いドアノブ下げドアを少し押すとギィと小さな音が部屋に鳴り、その音が昨夜の行為を鮮明に思い出させ思わず両目をギュっと閉じる。
「次会う時は、俺が組織にお前を差し出す時だからな」
振り返ることなく冷たい声で言い放つ。
ドアが閉まる直前に赤井の言い放った「楽しみにしているよ」という言葉は嬉し気で、その声色は何故か昨夜のことを再び連想させた。心拍数を落ち着かせるように深呼吸をして、脳を侵す熱を振り払うように頭を左右に振り両頬を軽く叩きホテルを出る。外に出た瞬間に注がれる太陽の光はあまりにも眩しく、脳に大量の酸素が一気に送り込まれた気がした。
もう一度深く息を吸い込み吐き出す。冴えた頭で自分の使命を再確認し、一歩一歩地面の固さを確かめるように歩みを進めた。
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