日本学術会議法案の廃案を求める声明
問題のあらましと私たちが考えていること
私たち、国立女性教育会館の研修棟・宿泊棟の存続を求める市民ネットワークは、石破政権に対して、長期政権の悪弊として繰り返される「理念なき改革」を断ち切り、現在、参議院で審議入りされようとしている日本学術会議法案を廃案とすることを求めます。また、そのことと共に、2020年10月、菅政権において、会員としての任命を拒否された6名の任命とその名誉の回復をも求めます。
日本学術会議法案は、国家から独立したナショナルアカデミーを「機能強化」の名の下に、国家に従属するものに改組して、科学の普遍性を毀損しようとしています。独立行政法人男女共同参画機構法案もまた、ー今国会で日本学術会議法案に続いて審議されるものですが ―「女性教育」のナショナルセンターとして日本で唯一の施設である国立女性教育会館を、同じく「機能強化」の名の下に、内閣府に従属するものに改組して、社会教育施設としての本質的価値を奪おうとしています。
国の異なる組織の問題とはいえ、私たちは、人間の権利としての教育権に関わる問題としては、とりわけ、真理探究の自由に基づく市民の学習権を侵害する問題としては、同根の問題として、日本学術会議法案に対する反対を表明します。学問・教育を国家に従属させる民主主義破壊の政策として、その本質が国民の前に糾され、廃案となることを強く求めるものであります。
日本学術会議法案にあっては、そもそも立法事実がありません。 事の発端は、学問の自由、大学の自治を奪い、戦争をできる国にするために、学問を国家に従属させ、軍・産・学の複合体に組み込む体制づくりの流れにあります。その中で、2020年10月に起きた6名の会員任命拒否という、時の政権による違法な決定を糊塗するものとして法案が準備されてきたことは明らかです。
その決定の内容と手続きの違法性が裁判で問われている中で、法案が閣議決定され、裁判日程が明らかであったにもかかわらず、政権与党は衆議院で採決を強行しました。その直後に、東京地裁で重要な進展があり、手続きの不透明性が一層疑われ、まず一刻も早く関連公文書を開示することが問題をひもとく筋道であることが明らかにされました。この理路を晦まし、参議院審議入りが強行されるならば、その事態そのものが、立憲主義の理性を踏みにじることであり、道徳的に危殆に瀕する政治状況を招くと言わざるを得ません。
私たちが反対している国立女性教育会館の問題でも、行政の決定の恣意性と不透明性は、学術会議会員任命拒否問題とも相似するものであります。国立女性教育会館関係法案にあっては、施設の見直しであった議論が、社会教育の本質的機能である対話、談論、会食、休息・回復を担う宿泊・研修棟、体育施設の取壊しへと転換され、法案提出段階では、施設設置を前提としない機構に改組する至っています。
また、法案策定を動機づける有識者会議という会議体そのものが当事者の批判に開かれていないままに、政府がその報告書を法案提出の正当化に用いている点でも、日本学術会議法案の問題は、国立女性教育会館、宿泊棟、研修棟等取り壊し決定の問題と同じ病根から出てきていると映ります。
いずれの法案提出においても、当事者の声を聴かず、不透明な決定過程で、公共的価値を毀損することは、民主主義の破壊として看過できないものです。
日本学術会議は第2次世界大戦において科学者が戦争に加担することに追いこまれた事態に対する深刻な反省から、第2次世界大戦後、日本国憲法と一体になって、生まれてきたものです。
社会教育の理念も、特に、女性教育の理念も、<人間の権利>の侵害に対する反省から、当事者たちの不断の努力から前進してきているものです。
時の政権の意向で、経済的に稼げる女性づくりのために、女性が主体的に自律的につどい、人間の権利を学び、経済的な不平等を生み出している社会労働・家族・教育政策を自ら批判して変えていく主体として生きる場所が奪われてはなりません。このことは、時の政権の意向で、大学を稼げる大学に仕立ててはならないことと、また、日本の科学者アカデミーが制度そのものにおいて時の政権の意向に従属する可能性が組み込まれていてはならないことと、同じ系列の問題であると、私たちは考えます。
私たち、国立女性教育会館の研修棟・宿泊棟の存続を求める市民ネットワークは、日本学術会議が、学問の自由の理念のもとに、これまで同様に、時の政権の意向から独立した存在であり続けることが、立憲民主主義の根幹の一つであることを、改めてここに明らかにし、科学が人類の福祉と平和に貢献する場であり続けることを強く願うものです。
石破政権には、日本国憲法の保障する「学問の自由」の本義に立って、アカデミーには安定した財政基盤を確保し、その運営の独立性を尊重する成熟した政府としての品格に立ち返って、本法案を廃案とすることを求めます。
(以上)
【ヌエネットスタッフ】
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