予兆学研究会
創る予兆学—AI・自然・人間が織りなす可能性空間の動的進化
次回のイベント:予兆学シンポジウム2026(12月11日(金))
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2019年に発足した「予兆学」は,人々の意識の外にある「弱い信号」を捉え,過去の延長線上にはない未来を描くための枠組みを探求してきました.生物や自然,社会や人間の心理に現れる微細な変化,そしてAIが膨大なデータや生成の過程で見出す未知のパターンを,私たちは未来のサインとして読み解きます. 小さな兆しは,誰かに気づかれ,意味を与えられ,他者へ共有されて初めて「予兆」としての力を持ちます.つまり予兆とは,ただ訪れるのを待つものではなく,人間とAIの協働によって解釈の視点を多様化させ,その伝わり方に働きかけることで,自ら手繰り寄せ,育てていけるものだと考えます.
「創る予兆学」が目指すのは,私たちが生きる「可能性空間」を拡げることです.拡げ育てる対象は多岐にわたります.たとえば,個人が思い描く「選択肢の幅」(AIによる想像力の拡張),集団が共有する「価値や規範」(人間と機械の新たな共生),生物・自然と技術・社会が織りなす「環境そのもの」(AIを介した自然との新たな結びつき)などです.
どのような条件が揃えば,この可能性空間は拡がっていくのか.これが本研究会の中心的な問いです. 可能性を切り拓く営みは,生命が進化の過程で絶えず行ってきたことであり,社会の変容や人工知能の自律的な学習・進化もそれと地続きの現象です.そこで本研究会では,次の異なるレベルから分野横断的にアプローチします:個体(人間と機械)の感知と認識, AIを交えた対話や場の設計 ・集団と情報環境, 人間と自然・生物,そして知能化された環境との関わりです.
これらの探求を通じて,本研究会それ自体が,新たな予兆を創り育てる実践の場となることを目指します.
予兆学は,意識の外にある「弱い信号」を技術・社会・心理の微細な変化として読み取り,過去の延長線上にない未来を捉える枠組みを考えてきました.その射程は危険の察知にとどまらず,可能性を拡げる変化を能動的に手繰り寄せ,育てる側面にまで広がっています.
しかし,兆しは誰か一人が感じて終わるものではありません.弱いシグナルが予兆としての役割を果たすには,それが集団の中に浸透していく必要があります.価値観や目的が人によって異なり,何が望ましいかの合意がそもそも成り立たない社会において,それはいかにして可能なのでしょうか.
本シンポジウムでは,集団学習・文化進化の理論と実験から,多様な他者のあいだで学習がどう成立するかを扱う豊川航先生と,政治コミュニケーションの実証から,分断された情報環境で何が見え何が埋もれるかを扱う小林哲郎先生をお招きします.それぞれのご研究をご紹介いただいたうえで,予兆の観点から,集団の中で可能性が拡がる条件を考えたいと思います.
豊川 航 先生(理化学研究所 脳神経科学研究センター)
「集合知と集合愚を予測する独立性と相互依存性のバランス」
不確実な環境下で繰り返し意思決定をしなければならない動物は、情報の探索(exploration)と知識利用(exploitation)とをバランスさせる課題に直面している。集団意思決定状況では、個人の探索‐知識利用バランスだけでなく、社会的影響からの独立性(independence)と社会的学習(interdependence)とのバランスもパフォーマンスの重大な規定要因である。ヒトは、その2つの種類のバランスをどのように調整するのだろうか。またその結果は、ヒトの集団行動パターンをどのように規定するのだろうか。多本腕バンディット問題は、探索と知識利用とのトレードオフを捉える単純な模型の一つで、機械学習や認知科学、経済学などの領域で広く用いられてきた。これをマルチエージェントのシステム、すなわち社会的学習が可能な状況へと拡張することで、集団意思決定の研究へつなげることができる。
この発表では、この文脈で演者らが過去に行なった集合知の研究を概観した上で、最近の研究および現在進行中の研究について紹介する。1つ目の話題は、ヒトの集団およびLLMエージェント集団を対象とした行動実験により、集団の多数派へ同調する程度がどのように集合知を生み出すか調べたもの。2つ目の話題は、集団メンバーの社会的ネットワーク構造を陽に取り入れた場合についての結果について報告する。いずれも、多本腕バンディット問題へ関心を絞ることで、計算論的モデルのシミュレーションや実験データの定量的分析が容易になる。この方法論的強みと、その限界について、集団行動学・文化進化研究の広い文脈に照らして議論できれば幸いである。
小林 哲郎 先生(早稲田大学 政治経済学術院)
「日本の民主主義のストレステスト:後退の予兆はあるのか?」
民主主義の第三の波は2006年頃にピークを迎え、それ以降、世界各地で「民主主義の後退」が観察されている。本発表では、発表者が過去3年余りにわたって取り組んできた、日本の民主主義の頑健性に関する一連の世論研究を紹介し、その頑健性と脆弱性について多角的に検討する。前半では、民主主義に対する「外側からの脅威」として、権威主義国によるシャープパワーの行使に着目し、それに対する日本の世論の反応を分析する。後半では、民主主義に対する「内側からの脅威」に焦点を移し、民主的規範からの逸脱に対して有権者がどの程度の政治的ペナルティを科すのかを検証することで、日本の民主主義が自己維持的なシステムとして機能しているのかを考察する。さらに、各国における民主主義の後退と密接に関連する反エスタブリッシュメント志向が、従来のイデオロギー的対立とは独立した次元で日本の政治的亀裂を形成しつつあることを示し、日本の民主主義の今後の展望について議論する。
2026年12月11日(金)15:00–17:40
名古屋大学東山キャンパス・TOIC NAGOYA(対面)
アクセス:https://toic-n.aip.thers.ac.jp/access/
参加無料・事前申込制(申込はこちら)申し込み期限:2026年12月4日(金)
趣旨説明10分/各講師講演40分+質疑10分/総合討論40分
※ 終了後に研究情報交換会を予定しております
主催:名古屋大学 大学院情報学研究科
後援:名古屋大学未来社会創造機構オープンイノベーション推進室/株式会社TOKAI INNOVATION INSTITUTE
お問い合わせ:名古屋大学⼤学院情報学研究科 鈴⽊麗璽(reiji [at] nagoya-u.jp)[at]を@に変更してください