2023年度 (第30回) 整数論サマースクール
「概均質ベクトル空間論の発展」

開催日時:2023 年 9 月 4 日 (月) - 9 月 8 日 (金) (*4日は14時より、8日は12時半まで)

会場:神戸大学農学研究科C棟・C101大講義室(六甲台第2キャンパス内)
  *一時期ご案内していた深江キャンパスから変更になりました。

世話人:谷口隆(神戸大)、杉山和成(千葉工大)、石塚裕大(九州大 IMI)

プログラムPDF)

報告集   (2024/2/15 公開)

テーマと目的

概均質ベクトル空間の概念は1960年代に佐藤幹夫により提唱されました。1970年代前半に佐藤幹夫と新谷卓郎により、関数等式をみたすゼータ関数が各々の空間に伴っていることが発見されてから、概均質ベクトル空間は整数論における基本的な研究対象の一つとなりました。以来ゼータ関数についての数多くの知見を含む、多様な成果、応用が得られています。また21世紀に入ってからBhargavaの研究により、概均質ベクトル空間の整数軌道に豊富な数論的構造が宿っていることが明らかになり、さらなる展望が開かれました。現在も、さまざまな問題意識に基づいて、活発な研究が行われています。

概均質ベクトル空間をテーマとする整数論サマースクールは2002年にも開催されています(そのページ)。二度目となる今回は、基礎理論を手短に復習したのち、前回のサマースクール以降に進展のあった話題に比較的重点を置いて、それらの入門的解説を行います。

概均質ベクトル空間については整数論的な視点に限ってもさまざまな話題があり、網羅することはできませんが、概均質ベクトル空間について学び、研究の現状を知る一助としていただけたらと思っています。同時にこのサマースクールが、参加者どうしの交流の場としても有意義になるようにしたいと思います。皆様のご参加をお待ちしております。

講演者(敬称略)


講演タイトルと概要(講演順)

基礎理論

概均質ベクトル空間の基本的な例をとりあげ、各空間の相対不変式や基本的な性質を説明する。

佐藤幹夫・新谷卓郎(1974)による、1変数の概均質ゼータ関数の理論について概観を述べる。すでにすぐれた成書や解説が数多くあるので、本講演では、なるべく予備知識を仮定せずに、後の講演で現れる具体的な例を通じて、概均質ゼータ関数の定義と基本的性質(関数等式など)について簡単に紹介する。

後の講演で必要となる予備知識のうち、重要なものとして、ガロアコホモロジー、アデール、篩について、簡単に基本事項をまとめる。

射影空間と平面二次曲線について復習し、その観点から三元二次形式のペアがなす概均質ベクトル空間について概説する。

いくつかの概均質ベクトル空間について、体上の軌道および整数環上での軌道の解釈を紹介する。後者は、高次合成則と呼ばれる理論の一部である。

本論

ゼータ関数は関数等式を満たす形でさまざまに一般化されている。それは、概均質ベクトル空間のゼータ関数についても同じである。この講演では、一般化として、多変数ゼータ関数、Dirichlet 型の L 関数、調和多項式付ゼータ関数、保形形式の周期を係数とするゼータ関数について解説する。 

新谷の2重ゼータ関数をアデールを使って代数体上に一般化した論文

H. Kim, M. Tsuzuki, S.Wakatsuki, The Shintani double ze-ta functions, Forum Math. 34 no.2 (2022)

の内容について解説する。時間の都合上、2次指標のヘッケL関数の母関数表示とそれから生じる関数等式を中心に解説を行う。

From analytic properties of zeta functions, we can effectively count integral orbits of prehomogneous vector spaces via Landau's theorem. As a typical example, I will explain how to count cubic fields by their discriminants, using the zeta functions for the space of binary cubic forms studied by Shintani. In particular, I will

種々の数論的対象と概均質ベクトル空間の整数軌道の間の対応を使えば, 整数軌道の数え上げによって, 数論的対象の統計を行える. この講演では, 数の幾何を用いて整数軌道を数え上げる方法を解説する. 特に, 数え上げる範囲が非有界な場合には根本的な困難が生じるが, これを乗り越えるBhargavaの平均法について解説する. 

私の観点から概均質ベクトル空間を巡る数学について、1980年代以降に日本の研究者の考えていたことを文献案内を込めて総合的に振り返る。証明は述べずに、何がどういう発想で考えられていたか、などを歴史を振り返りながら駆け足でまとめてみたい。たとえば、次元公式からの動機、周回積分、ヘッケの問題と有限群の表現、概均質ベクトル空間のゼータ関数の明示公式、Koecher-Maass級数の関数等式と明示公式、やさしいゼータ関数、2次形式についてのジーゲル公式、Tube domain の保型形式の次元公式、ゼータ 関数の特殊値、低いウェイトの保型形式、指数和の公式の進展開、などを振り返り、さらには数多くの未解決問題などについて述べる。

(関連する数学者名は、森田康夫、山崎正、新谷卓郎、橋本喜一朗、対馬龍司、佐武一郎、尾形庄悦、栗原章、荒川恒雄、齋藤裕、吉田敬之、大野泰生、中川仁、桂田英典、若槻聡、束野仁政、Erich Hecke, Carl Ludwig Siegel, Ulrich Chiristian, Lee and Weintraub,  Lynne Walling, Brad Isaacson など)

2元3次形式の空間と, 2次正方行列の対の空間を例に, 保型形式つきの概均質ゼータ関数の解析的性質と、その数論的応用について解説する.

概均質ベクトル空間を一般化した、余正則空間という概念がある。余正則空間の中には、その有理軌道が楕円曲線のSelmer群の元と自然に対応するものがあることが知られており、Bhargava-Shankerはこの対応を通して数え上げを行うことで、Selmer群の平均位数に関する結果を得ている。本講演では、この対応についての解説を行う。

二元三次形式の空間に付随するゼータ関数における大野・中川の定理について,ガロアコホモロジーのPoitou-Tate双対性を使うO'Dorneyの証明法を解説する.

予稿や講演スライド・ノート(順次掲載中)

谷口隆(1):例で学ぶ概均質ベクトル空間 板書ノート

杉山和成:概均質ゼータ関数の定義と基本的性質(1変数の場合) 講演スライド

谷口隆(2):本論のための準備 板書ノート

石塚裕大(1):三元二次形式のペアと射影空間の幾何

石塚裕大(2):有理軌道、整軌道の解釈

佐藤文広:概均質ゼータ関数の関数等式の一般化

      (1) — 多変数ゼータ関数— 講演スライド

      (2) — L 関数,表現付きゼータ関数,非概均質への一般化— 講演スライド

都築正男:新谷二重ゼータ関数 講演スライド

鈴木雄太:整数軌道の数え上げ:数の幾何と平均法

伊吹山知義:概均質ベクトル空間:Retrospective account

       その要約

鈴木美裕:保型形式つき概均質ゼータ関数

佐野薫:余正則空間と楕円曲線のSelmer群

山本修司:大野・中川型鏡映定理とPoitou-Tate 双対性

参加について

会場アクセス・宿泊・懇親会などの情報

JRの六甲道駅、阪急電車の六甲駅、阪神電車の御影駅から、神戸市バス36系統に乗ります。「神大文理農学部前」のバス停で降りてください。(徒歩の場合、阪急六甲駅からは15分、JR六甲道駅からは25分程度です。)